男女の愛と性を赤裸々に描いた「失楽園」「愛の流刑地」などのベストセラーで知られる作家の渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち)さんが4月30日午後11時42分、前立腺がんのため東京都内の自宅で死去した。80歳だった。葬儀は近親者で営んだ。喪主は妻敏子さん。後日、お別れの会を開く。

 1933年、北海道生まれ。札幌医科大の講師(整形外科)を務めながら小説を発表した。69年に同医大の和田心臓移植事件を題材に「小説・心臓移植」を発表し、医師の倫理をめぐり話題となったが、学内の反発が強く辞職。上京して専業作家となった。

 医師としての体験を生かし生と死をみつめた医学小説から、しだいに伝記や歴史ものにも領域を広げ、70年には西南の役で負傷した2人の軍人のその後を描いた「光と影」で直木賞、80年には「遠き落日」「長崎ロシア遊女館」で吉川英治文学賞を受けた。

 その後は「ひとひらの雪」「うたかた」など、男と女の性愛の世界を描き、ベストセラーを連発した。激しい不倫愛を描いた97年の「失楽園」、2006年の「愛の流刑地」は映画化、テレビドラマ化されて大ヒットした。「失楽園」は中国でも翻訳出版されて、人気作家になっている。

 エッセーでのベストセラーも多く、07年の「鈍感力」は流行語になったほか、恋愛論を説いた「欲情の作法」などがある。

 10年の「孤舟」は定年後の男の孤独を、13年の「愛ふたたび」は高齢者の性を描き、晩年は老いがテーマだった。03年に菊池寛賞。84年から30年間、直木賞の選考委員を務め、エンターテインメント小説界を支えた。