【社説】テキサス州に逃げるトヨタ

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 今年の施政方針演説で回復を高らかに宣言し、各地を遊説していた同州のブラウン知事は、先週トヨタ自動車が北米販売の拠点を同州トーランスからテキサス州ダラス近郊のプレイノに移転させると発表したことで冷や水を浴びせられた。トヨタの決断は、米南部の州が商工業面でカリフォルニアを追い越しつつあることを物語っている。

 トヨタは販売の拠点に加え、3000人分の専門職をダラス郊外に移転させ、業務の集約と効率化を図る計画だ。トヨタが1957年に最初の事務所をロサンゼルスに開設したのは、そこがカリフォルニア州南部の主要港に近かったからだ。だが現在、トヨタが米国で販売している車両のほとんどは北米、特に南部で生産されているため、港への距離はあまり重要ではなくなった。

 日産自動車は2006年にトーランスの北にあるガーデナからテネシー州フランクリンへ拠点を移転した。カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)はテネシー州のコストの安さをその理由に挙げている。テキサス州はトヨタに移転費用の補助として4000万ドル(約41億円)を約束しているが、北米事業を統括するジム・レンツ氏は補助金が動機になったわけではないと強調している。同氏はテキサス州を選んだ理由として、法人に優しいビジネス環境、トヨタの他の事業拠点から近いこと、2つの大きな空港、それに手頃な住宅価格や個人の所得税がかからないことなど生活面での利点を挙げている。

 俯瞰(ふかん)的に見れば、テキサスの経済的な競争力が高まった一方で、カリフォルニアの競争力が落ちてきた構図が浮かび上がる。とりわけエネルギー関連や労働集約型の産業でその傾向が強い。

 まず、米南部の州では労働組合の組成が法律により制限されてきたため、労働コストが安い。テキサスでは労働者のわずか4.8%、テネシーでは6.1%しか労働組合に加入していない。一方、カリフォルニアでは16.4%だ。また南部の不動産価格は安い。土地の開発や利用が制限された規制区域や環境規定が少なく、税率も低い。シンクタンクのタックス・ファンデーションによると、カリフォルニアで課せられる税金は、個人所得税を課さないテネシーやテキサスより50%強多い。カリフォルニアの累進課税の最高税率13.3%は米国で最も高い。

 電気料金も再生可能エネルギーの買い取りを義務化しているカリフォルニアの方が南部よりも約50%高い。ガスについてもガロン当たり70〜80セント、カリフォルニアの方が高い。税率と調合要件が異なるためだ。

 化石燃料への抵抗感を背景に、カリフォルニアの石油生産高は1985年にピーク時の半分に落ちた。一方、テキサスの石油生産高はこの3年で2倍になり、収入が増えた。米商務省経済分析局(BEA)によると、最も個人所得の伸びが大きい都市圏のランキングで、テキサス州ミッドランドが3年連続で首位となっている。隣接するオデッサは2年連続で次点だ。2008年から12年の間の個人所得の伸びは、ミッドランドが8.05%、オデッサが6.98%だった。一方、カリフォルニア州サンノゼは4.48%で、ロサンゼルスは1.81%だ。オデッサの3月の失業率は3.2%だったが、サンノゼは6.8%、ロサンゼルスは9.7%だった。

 カリフォルニアの停滞が最も典型的に表れている都市はロサンゼルスだ。冷戦後に航空産業が段階的に縮小されてきた同市はいまだにその落ち込みから回復していない。1990年代以降、労働人口は3.1%減少したが、これはミシガン州デトロイトの2.8%減を上回る。一方でテキサスのダラスやヒューストン、サンアントニオでは同じ期間に50%を上回る伸びを記録した。

 ロサンゼルスの独立系のシンクタンク「ロサンゼルス2020委員会」が昨年発表した報告書によると、1980年から2010年の間に住民数は100万人増えたが、雇用は16万5000件減少した。同委員会はミッキー・カンター氏やグレイ・デービス氏、ヒルダ・ソリス氏など、民主党の重鎮たちが名を連ねている。同市の貧困率は17.6%で、米国のどの主要都市よりも高い。報告書は、同市では「(ブラジルの)サンパウロのような典型的な発展途上の街」でみられる「バーベル」経済が発展した指摘した。つまり、「所得階層の一番上と一番下が成長し、中間層が年々縮小する」状況だ。

 これは中間層の雇用を生み続ける産業基盤が崩壊したことによる結果だ。2011年に防衛大手ノースロップ・グラマンは同市のセンチュリーシティからバージニア州ウエストフォールズチャーチへ拠点を移転した。軍需大手レイセオンもエルセグンドからテキサス州マッキニーへ宇宙航空事業を移転したばかりだ。

 2011年以降、タイタン・ラボラトリーズやゼリス・ファーマシューティカルズ、スーパーコンダクター・テクノロジーズ、パシフィック・ユニオン・フィナンシャル、メドロジックスを含む二十数社がテキサス州へ移転した。ロクやパンドラ、オラクルといった十数社はテキサス州で事業を拡大した。テクノロジー関連の業界団体が運営する非営利のテクアメリカ・ファンデーションによると、2012年にテキサスから輸出されたハイテク関連製品の輸出高はカリフォルニアのそれを上回った。パナマ運河の拡張が来年完了すれば、カリフォルニアにまだ残っている競争力が一段と低下することになろう。

 シリコンバレーは活況を呈していると指摘する人もいるだろう。確かにその通りだが、成長に沸き立っているわけではない。セントラルバレーでは失業率が13%を超え、南カリフォルニアのインランド・エンパイアでは9.4%、さらにウエストサイドの粋な地区とオレンジ郡を含むロサンゼルス大都市圏では8%だ。一方、テネシー州ナッシュビルの失業率は5.4%で、ダラスは5.3%だ。

 再選を狙っているカリフォルニアのブラウン知事は、同州の中間層の雇用を生み出す企業が逃げ出していることをさほど気にしていないように見える。知事は4月28日、「(同州には)いくつか問題があり、ちょっとした負担や規則、税金が多い」とした上で、「だが、賢明な人間はうまくやっている」と述べた。カリフォルニアの問題はその賢明な人間が、よそに出た方がもっと、うまくやれると判断しているところにある。 

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