マイナーへ逆戻りとなった川��宗則
「鶏口となるも牛後となるなかれ」
これは、大きな集団の尻にいて使われるよりは小さな集団であっても長であるほうが良い、という意味の中国のことわざだ。今の川��宗則にはこの言葉を送りたいと思う。
4月15日に今季初昇格を果たした川��は、3試合に出場しただけでマイナーへ逆戻りとなった。故障者リスト入りしていた正遊撃手のホセ・レイエスの復帰が決まったからだ。もともと昇格したのも、3Aでの活躍が評価されたというよりは、正二塁手のメイサー・イズタリスが故障したためだ。また、川��の昇格時点でレイエスは復帰近しと報じられていた。残念だが、「予定通り」の降格ということだろう。川��自身は「野球選手であることに変わりはない」と気丈に振る舞っていたらしいが、正直やるせない。これは昨季繰り返されたパターンであり、今後も同様と思えるからだ。
私は日本やアメリカ、そしてカナダの多くのファン同様に川��が好きだ。特に彼の語学力に拠らず積極的にコミュニケーションをとる姿勢は多くの日本人ビジネスマンも見習うべきだと思っている。そのことはとても立派なのだけれど、彼は野球選手だ。何よりもプレーヤーとしての実力が評価対象であるべきだ。川��のメジャーでの出場は通算160試合に達したが、OPSは．584に過ぎずマイナーでも通算．625でしかない。彼が貴重なバックアップ要員ではあっても、メジャーでレギュラーを張れる器ではないことは残念ながら露呈している。日本でトップクラスのスターであった彼が、マイナー契約で都合の良いときだけメジャーにお呼びが掛かる、そんな境遇に甘んじていいのかと言いたい。
川��に関する日本メディアの報道に私は疑問を禁じえない。「愛されキャラ」の部分を持ち上げるのがほとんどで、メジャーリーガーとして否定のしようがない限界については触れようとしない。職業選択の自由は、誰も犯すことができない基本的人権のひとつだ。したがって、川��がどのような選択をしようともそれは彼の自由だ。しかし、今後もレギュラー獲得は限りなく困難で、今なら日本で再びスターとして再出発できる32歳という年齢を考えれば、「川��帰るべし」という意見も出てくるべきだと思う。選手の力のいたらなさを気付きながら指摘しないのは、川��自身に対してもファンに対してもフェアではない。しかし、私の知る限りそれをハッキリ主張しているのは張本勲だけだ。
その先に何が待ち受けていようと臆することなく旅立つ価値観を尊重する私は、安住の地に留まらず高給も捨てさり海を渡った川��を尊敬している。私が学生時代を過ごした昭和の終盤には「帰ってこいよ」という人気歌謡曲があった。故郷を去った大事な人に対し回帰を求めるこの曲は、観念的には好きになれなかった。したがって、メジャーとマイナーの往復と言う野球人生に真摯に向き合う彼の選択を否定したくはない。しかし、彼を囲む状況を踏まえてなお、帰国を促す主張が専門家から出てこないことは健全な状態とは思えない。だから、冒頭のことわざを彼に送るとともに来季は「帰って来いよ」と言いたい。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小
学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー！MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside（内角球でケムに巻いてやれ！）』も配信中。Facebook：shotaro.toyora@facebook.com
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