なぜこんなに急ぐのか。

 品川―名古屋間で2027年の開業を目指すリニア中央新幹線の環境影響評価(アセスメント)について、JR東海が最終段階の評価書を国に提出した。

 前段階の準備書に対し、沿線7都県知事の意見を受けてからわずか1カ月足らずという、異例の早さである。

 柘植康英(つげこうえい)社長は「拙速とは考えていない」と語るが、率直に言って評価書は疑問だらけだ。

 土木工事で出る膨大な残土の処理法については、「自社で再利用」としたぐらいで、ほとんどゼロ回答だった。「置き場が崩落する恐れ」を懸念した静岡県からの変更要請も、「安全性は十分」と一蹴した。

 長野県は安全上の懸念から、大鹿村の橋梁(きょうりょう)部をトンネルに変えるよう求めたが、「工期が延び、残土も増える」と拒んだ。

 一部の野生動物への影響を追加調査するとしたり、名古屋までの開業時点での温室効果ガス排出増加の見通しを初めて出したりと、前進した点もある。だが全体として、準備書で出しておくべき情報が今になって出てきただけ、との感は否めない。

 環境アセスの制度上、自治体が正式に意見を出す機会はもうない。今後、評価書を審査する国土交通省と環境省の責任は重い。厳しい点検を求めたい。

 柘植社長は、27年開業に向け、今年秋にも着工したいとの考えを示した。日本経済の起爆剤として、リニアの早期開業への期待もある。9兆円超の事業費を全額負担する以上、開業が延び、経費が膨らむのを避けたいのもJR側の本音であろう。

 ただ、東京五輪に間に合わせる必要があった東海道新幹線と違い、27年という目標に、社会的合理性があるわけではない。他方、建設で大小の影響を被る沿線住民の理解は不可欠である。このためにかける時間を惜しんではならない。

 リニア計画は都心部の大深度地下や、隆起が続く南アルプスで、過去に例のない長大トンネル建設に挑む。予想外の事態で計画の練り直しを迫られる展開もありえよう。時期にこだわらず、早めにブレーキをかけて、計画を再点検することの大切さを忘れないでもらいたい。

 「大阪までの一括開業を」と主張する自民党は、国に3兆6千億円の建設費を無利子融資させ、工事を急がせる案をまとめた。しかし、名古屋―大阪間の環境アセスにかかる時間だけ考えても、技術的に無理だろう。

 大事業であればこそ、慎重な計画づくりを促す。それが政治の果たすべき役割である。