■再審事件に携わる弁護士・佐藤辰弥さん(62)

 38条は、国家権力の乱用から市民を守る「憲法の象徴」のような条文です。私には捜査機関がこの条文を軽視してきたとしか思えません。

 福井市で28年前に女子中学生を殺害したとして実刑判決を受け、再審を求めている男性(48)の弁護をしています。警察は無実を訴える男性に自白を迫り、裁判所は矛盾する複数の関係者の証言を根拠に有罪を言い渡しました。3月に再審決定が出た「袴田事件」を含め、冤罪(えんざい)事件は後を絶ちません。なぜでしょうか。

 一つは制度の問題です。容疑者や被告が捜査官に話した内容を全て録音・録画し、捜査機関に都合の悪い証拠も全部出させるべきです。もう一つ、大事なことがあります。社会全体で憲法をもっと知り、先入観にとらわれずに逮捕・起訴された人の声に耳を傾ける。一人一人にこうした姿勢を持ち続けてほしいですね。

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 《38条》 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。