憲法をめぐる議論で、しばしば使われるのが「立憲主義」という言葉だ。ふだんはあまり耳にしないが、憲法のもつ意義や価値を考えるうえで欠かせない考え方だ。立憲主義とは何か。一から考える。

■どんな考え方?

 まず手始めに、何でも思うままに決められる王様のような権力者を想像してみよう。権力者が自分に都合のいい法律をつくって国を治め、裁判の判決も左右できてしまうなら、国民は身の安全すら守れない。

 そこで、国のあり方を定める憲法をつくり、権力者にそのルールに従って国を治めさせるのが立憲主義の基本的な考え方だ=イラスト①。この「憲法で国家権力を縛る」という考え方を土台にして、時代とともに人々の権利を守る仕組みが付け加えられていった。

 例えば、日本国憲法にも定められている「権力(三権)の分立」。権力を行政(政府)、司法(裁判所)、立法(議会)の三つに分けて国家権力を集中させないようにし、だれもが持っている権利「基本的人権」を守る仕組みだ=イラスト②。「立憲主義には、こうした人権を守る要素が欠かせない」と、辻村みよ子・明治大教授(比較憲法学)は話す。

 でも、例えば今の日本は王様や独裁者が治めているわけではなく、国民が選んだ議員のリーダーが政府を代表する、議会制民主主義の国だ。多数派を代表するリーダーでも憲法で縛る必要はあるのだろうか。

 立憲主義はその必要があるという考え方に立つ。国民の過半数が支持しているからといって、どの宗教を信じるかを個人に強制したり、違う意見を持つ人の人権を制限したりしたら、安心して暮らせる社会ではなくなってしまうからだ。

 多数決を原則にものごとを決める民主主義だけでは人権が守れないとして、多数決で決めてはいけないことをあらかじめ憲法というルールで明記しておくのが立憲主義の考えだ。

 たとえると、憲法は、多数派が数の力で少数派の意見を無視したり、追い詰めたりしようとするのを防ぐルール=イラスト③=とも言える。もし個人の人権や思想・信条の自由などが侵害されたら、サッカー選手の反則に対して笛を吹く審判のように、裁判所がストップをかける。過半数の賛成を得てつくられた法律でも、憲法に反していると判断されれば無効にできる制度で「違憲審査制」と呼ばれる。日本では、最高裁判所がこの審判役を果たしている。

 ただ、ルールである憲法がころころ変わったら、公平、公正な国とは言えない。そのため時の権力者でも憲法は簡単に変えられないよう、普通の法律より改正の手続きが厳しくなっている。これも立憲主義の特徴の一つだ。

 阪口正二郎・一橋大教授(憲法学)は「自分が大事だと思う価値観でも、それを多数決で押しつけたら、争いが絶えなくなる。様々な価値観を持った人々が共存するための知恵が立憲主義だ」と話す。

■なぜ生まれたの?

 立憲主義の歴史をたどると、中世の欧州にさかのぼる。自由や権利を求めた人々が知恵や経験を積み上げて、形づくられてきた。