憲法9条:母の願いに賛同の輪…平和賞候補にエントリー

毎日新聞 2014年05月02日 20時48分(最終更新 05月02日 22時39分)

憲法9条の全文がプリントされたTシャツを手に、「戦争がない世界を」と訴える鷹巣さん(前列中央)と実行委のメンバーら=東京都で河津啓介撮影
憲法9条の全文がプリントされたTシャツを手に、「戦争がない世界を」と訴える鷹巣さん(前列中央)と実行委のメンバーら=東京都で河津啓介撮影

 戦後67年間、戦争放棄をうたう憲法9条を保持し続けてきた「日本国民」が先月、今年のノーベル平和賞候補にエントリーされた。きっかけは、平和賞を選考する「ノルウェー・ノーベル委員会」に神奈川県の主婦が昨年送ったメールだった。1人で始めた運動が約2万5000人の署名を集めるまでに広がり、ついには選考委員を動かした。5月3日は憲法記念日。【河津啓介】

 運動を始めた同県座間市の鷹巣(たかす)直美さん(37)は、憲法を改正しようという世の中の空気に、7歳と1歳の子供の母親として素朴な疑問を抱いていた。「戦争になれば、子供が悲惨な目に遭う。9条を守るためにできることは……」。思いついたのが「9条に平和賞を」とノーベル委員会に訴えることだった。

 「9条に平和賞を授与してください」。むちゃを承知で昨年1月、初めてメールを送った。英語でしたためたが、返信はなかった。

 あきらめなかった。

 冷戦終結後の欧州をまとめようと尽力する欧州連合(EU)が、前年に平和賞を受賞した。「平和賞は結果だけでなく、平和実現のための努力も評価されるはず」と信じ、メールをその後4カ月間で7通送った。やはり返信はなかった。

 転機は昨年5月。インターネット上の署名サイトで「9条に平和賞を」と呼びかけると5日間で約1500人の署名が集まった。委員会に知らせると、翌日返信があった。「2月1日の推薦の締め切りを過ぎている」という内容だったが「エントリーには有識者の推薦が必要」などとヒントも記されていた。何より、受賞者は個人や団体に限られ、「憲法9条」のような抽象的なものはそもそも候補になれない、と知った。

 そこで鷹巣さんは、憲法が主権者と定めている「日本国民」を受賞候補にしようと決めた。「憲法にはいろんな意見がある。でも『戦争したくない』という気持ちは同じはず。戦争の悲惨さを語り継いだ人々の思いにも光を当てたい」。そんな願いも込めた。

 昨年8月には、知人らと「『憲法9条にノーベル平和賞を』実行委員会」を結成し、推薦人と署名を募った。今年2月1日の応募締め切り時点で、大学教授など43人の推薦人と2万4887人分の署名を集め、委員会に提出した。4月9日。ノーベル委員会から「今年の278件の受賞候補の一つにエントリーされた」とメールがあった。

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