エッセイ「私の電撃体験」第23回
茜屋まつり
『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム』にて第19回電撃小説大賞<大賞>を受賞。注目のデビュー作は今月発売!!
あるワナビの話をします。簡単に上手く行くと思っていた時期はあったようです。「一年で作家になってやる」と豪語していたわけですから。それが蓋を開けてみれば一年でせいぜい二次選考に行くぐらい、という。
現実を知ったようです。というか、心の底から思い知ったようです。変わらねば、と。
その『電撃体験』を経て、たぶん彼の人生を変える《意識改革》が起こりました。具体的には何かと言うと、甘えを断つということ。
その頃はまだ就職も考えていたりなんかして、定時に上がれるなら会社員もアリかな?なんて思っちゃってる自分がいたようです。だけど安定した生活というのは甘えです。一生そこに居たいと思わせてしまう。カットしました。
その頃はまだ文学性なんてものを追いかけていたり、自分の作品にプライドをもっていたようで。でも、評価シートは明らかに方向性のズレを示していました。こだわりと自己防衛をはき違えていたようです。まったく酷い甘えです、これもカット。
「こうしなさい」「あたりまえでしょ」「常識でしょ?」甲斐性無しの彼に有り難いことを言ってくれる人たちはこの頃まだ居たようですが、ようやく気づいたのです。甲斐性が完璧にあるような人間は、作品に身を削るようなマネはしないと。
常識は甘えなのだと。安定は甘えなのだと。幸せは甘えなのだと。
彼は悟りました。居心地の良い場所で、大事な人たちに見守られ、居心地の良い物語を書いても、こう評価されることでしょう。
「平凡」と。凡庸な才能しかない彼が平凡な物語を書いて受賞できるほど、ライトノベルは甘くないのです。
だからすべてを棄てて、彼は「茜屋まつり」になったのです。
次号は『さくら荘のペットな彼女』の鴨志田一先生が登場!
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