中国政府の「テロ」断定、米国が「待った」

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  • JAMES T. AREDDY

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 先月30日に中国・新疆ウイグル自治区のウルムチにある鉄道駅で起きた爆発事件。中国政府は即座に分離・独立派による「テロ」と断定したが、驚く人は誰もいなかった。

 この日、米国務省はテロに関する国別の年次報告書を発表した。ここでは今回の爆発事件は取り上げられていないが、中国政府が昨年10月に天安門広場に自動車が突入した事件などを「テロ」と断定していることについて、裏付けとなる証拠が十分に示されていないと指摘した。

 例えば、中国政府は自動車突入事件について、小型の四輪駆動車が天安門広場に掲げられた毛沢東の肖像画近くで群衆に突っ込み、車に乗っていた新疆ウイグル自治区出身のウイグル族3人が車に火をつけたと説明している。しかし、報告書は同自治区の分離独立を求める勢力が関与したことを示す独立した証拠はないと述べている。

 報告書は「中国当局は少数民族のウイグル族が関与した数件の暴力事件をテロ行為と断定した」と指摘。さらに、「テロリストの関与について詳細な証拠を示しておらず、記者や国際的なオブザーバーが公式メディアの報道について検証することも制限した」と述べた。

 ウルムチの爆発事件についても、米国は同じ姿勢を貫いているようだ。

 国務省のハーフ副報道官は「米国は中国の新疆ウイグル自治区のウルムチの鉄道駅で起きた罪のない市民に対する恐ろしくかつ卑劣な暴力行為を非難する」との声明を発表したが、「テロ」という言葉は使わず、新疆の正式名称に言及した。その上で、「犠牲者とその家族、この悲劇の影響を受けた全ての人々に哀悼の意を表する」と述べた。

 報告書は中国がテロ対策での国際協力を支持すると言いながら、対応が十分ではないとも指摘した。

 米国は中国の新法にも言及、当局が「国家の安全に対する危害やテロ犯罪」を理由に容疑者を逮捕しやすくなったと批判した。反体制派や人権活動家、宗教活動家を拘束するために権限が行使されているという。

 米国の指摘について、中国外務省は無責任だとして反発した。

 中国外務省は米国のテロ報告書について、同省のウェブサイトに声明を発表。秦剛報道官は「中国はテロの犠牲者であり、いかなるテロリズムやテロ行為にも常に断固反対する」と述べた。

 中国政府は、米国がダブルスタンダードを用いていると批判しているが、中国人自身も政治的な背景のある暴力事件の位置づけに苦慮している。中国当局が天安門広場での自動車突入事件をテロと断定してから数日後、山西省太原市の省共産党委員会の庁舎付近で爆発事件が発生。容疑者として中年の中国人の男が逮捕されたが、当局はテロという言葉を使わなかった。

 習近平国家主席は先週、新疆ウイグル自治区を視察した際に、分離・独立派の動きをけん制することに多くの時間を割いた。国営新華社通信によると、習主席は爆発事件後、「新疆での反分離主義の闘いは長期的で複雑かつ深刻なものになっている」と述べた。

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