コンテンツ事業 被災地への発注把握せず 経産省とJPO
東日本大震災の復興予算を投じた「コンテンツ緊急電子化事業」が本来の事業目的と異なっている問題で、事業を管轄する経済産業省と受託団体の日本出版インフラセンター(JPO、東京)が被災地の企業に発注した金額や対象書籍の冊数を把握していないことが18日、分かった。
事業は被災地での書籍電子化を通じた新規事業立ち上げや雇用創出などを目的にしており、出版関係者は「大見えを切っておきながら結果を説明できないのは無責任だ」と憤っている。
契約書などの資料に関する河北新報社の情報公開請求に対し、経産省文化情報関連産業課の担当者は「経産省に資料はなく、JPOに問い合わせてほしい」と回答。被災地企業への発注額の内訳に関しては「数字を持っていない」と述べた。
JPOの責任者は「被災地の定義が分からないので算出できない。実務は別の会社が取り仕切っており、細かい数字は分からない」と説明する。
JPOの実務を担う民間会社パブリッシングリンク(東京)の担当者は「被災地企業への発注額は分からない。契約上、発注額の内訳は言えない」と話す。
制作会社別の電子化書籍の冊数も明らかになっていない。JPOは発注した30社の社名だけをホームページで公開。ほぼ半数は山形を除く東北5県に本社がある企業とみられ、大手印刷会社2社も含まれる。
電子書籍に詳しい出版関係者は「冊数ベースでみると被災地企業に回った仕事は少なく、大半は大手印刷会社が請け負った」と指摘する。
30社のうち東北のある制作会社が電子化した書籍は約70冊。同社の担当者は「想定の1割を下回る数だった。受け入れ態勢を整えていたが、無駄になった」と嘆く。
首都圏の出版関係者は「大手ありきの事業で被災地支援とは名ばかりだ。国やJPOは制作会社別の金額や冊数を明らかにするべきだ」と批判する。
◎大手、事前に事業熟知? 説明会前に下請け打診
日本出版インフラセンター(JPO)が書籍を電子化する制作会社の公募説明会を開く数カ月前、大手印刷会社が下請け会社を探していたことが18日、関係者への取材で分かった。東北の制作会社から「大手は早くから事業内容を知って動いており、公募は不公平で茶番だ」と批判が出ている。
説明会は2012年3〜4月に東京都と仙台市で計3回あり、経済産業省とJPOの担当者らが事業目的や実施体制などを紹介した。
仙台市の制作会社は説明会の約4カ月前の11年12月、大手印刷会社から「被災地で大量のデータ処理ができる会社を探している」という電子メールを受け取った。
対応できる業務内容を返信すると、12年1月に担当者から電話で「国の事業で大量の書籍を電子化することになりそうだ。本をスキャンした後のデータ処理と校正を請け負ってほしい」と打診された。同じころ、別の大手印刷会社から同様の問い合わせがあった。
このうち1社の担当者は「電子化する本を多く確保できるのは大手2社だけ。うちの方が手厚くサポートできる」と持ち掛けてきたという。2社はともに電子化作業を受注している。
制作会社の担当者は「大手の担当者は早い段階から事業の詳細を把握していた。被災地の業者が参入できる余地は少ないと感じた」と証言する。
受注できなかった別の仙台市の制作会社役員は「説明会の案内が来るまで事業があることすら知らなかった。被災地支援の事業とは思えない」と冷ややかに話す。
[コンテンツ緊急電子化事業]出版社が書籍を電子化する際、費用の半分(東北の出版社は3分の2)を国が補助する事業。総事業費は20億円で、うち10億円は経済産業省が復興予算として計上。約6万5000冊を電子化する計画だったが、東北関連の書籍は全体の3.5%の2287冊にすぎず、成人向け書籍やグラビア写真集など100冊以上が補助対象に含まれていたことが明らかになっている。
2014年04月19日土曜日