「3A07 ~Memories are here~」について今頃語る(前編)
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「3A07 ~Memories are here~」について今頃語る(前編)

2014-05-04 08:48
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同人誌等と違って、金に変換出来ない二次創作に対してリアルや魂を削っても意味は無い。
再生数やコメント、マイリス等の数値的対価をどれだけ得てもその先には何もない。
世界は何も変わらない。1円だって貰えやしない。そんなことは最初からわかってたはず。

……ならば、あの半年間は全くの無意味だったのだろうか?
2010年1月末。病室の天井を見上げながら、自分はそんな事を考えていた。

***



シネ☆MAD2nd
の、『覇道』という動画を見た事はあるだろうか。今はもう削除されていて見る事は出来ないが、「おまんP×わかむらP」という無敵のコンビによって制作された素敵な動画は、「10分以上の物語系動画」というハンデを乗り越えて2009年5月頃の時点で既に10万再生は超えていたと記憶している。
「エロ釣り等を用いない、動画時間10分以上の物語」で、しかもアイドルマスターというジャンルで10万再生数を取るのは決して容易い話ではない。それは今も昔も変わらない。

2009年3月1日深夜2時半頃、自分は『覇道』を見終えて呆然としていた。
掛け値なしの全力の物語。これを生み出すには、相応の魂を削る必要があったはずだ。
そして同時に、禁忌の疑問が浮かんだ。もし自分が、同じステージに立たされたとしたら。
2ndに続くシネ☆MAD3rd等のイベントが企画され、逃げ場の無い場所に置かれたとしたら。
自分は果たしてこの『覇道』に等しい、あるいは超える動画を産み出せるのだろうか?

だから、シネ☆MAD3rdへの参加の打診が来た時、自分は少しだけ逡巡した。
一切の言い訳が出来ない場所で、掛け値なしの全力の二次創作動画を作るという企画に参加するということは、もはや趣味の世界の範疇を超え、完全に商業世界のスタンスとなる。
それは正しいこと? いいや。明らかに間違えている。どうしようもなく愚かな行為だ。

だが結局のところ、自分は企画への参加を承諾することになる。
何しろ自分は『覇道』を見てしまったのだ。見てしまったのだから、仕方がない。

***

2009年5月上旬。運営がシネ☆MAD3rdの参加者集めを実行している中、自分は無い知恵を絞って必死に考え込んでいた。なにしろ時間が無い。企画動画の公開予定日は10月10日だ。
脚本は極力最速のタイミングで出さなければならない。脚本に時間がかかればかかるほど相棒となる2人の時間を奪うことになり、動画のクオリティ低下に繋がってしまう。だからせめて、事前に方向性やコンセプトだけでも決めておかねばならない。好きなものを好きなように作って結果を得るというのは基本的に幻想だ。それを実行できる才能や実力を持っている人は世の中少数派だと自分は考える。凡人は凡人なりに戦略を練る必要がある。何しろ仮想敵は『覇道』だ。だから無い知恵を絞って必死に考えた。必死に必死に考えた。

この時点で自分が出した答えは2つ。動画としてのウリと、歌や音楽としてのウリ。
そんなの当たり前の話だろう、って? 仕方ないじゃないか、媒体が動画なんだから。

動画としてのウリは『叙述トリックの視覚化』だ。叙述トリックを視覚化するのは基本的に難しい。だから新本格ミステリ系小説はなかなか映像化されない。といっても、ミステリに仕立てあげてはならない。あくまでも叙述トリックはエッセンスでありオマケにすると決めた。

歌や音楽としてのウリは、2009年当時に存在していたアイドルマスター系の楽曲全てを検討した上で、やはり『隣に…』しかないと判断した。この歌は次元が1つ違う。そうなると、あずささんが主人公になる。対になるのは『フタリの記憶』だろうか。これはセットだ。

もしかしたら、風車に挑むドン・キホーテで終わるかもしれない。
それでも自分は奇跡を願い、シネ☆MAD3rdのチーム分け結果を待っていた。

奇跡。奇跡とはなんだろうか。
『覇道』に挑むことのできる技術と環境と時間を保持している相棒との出会いだ。

二桁人数の参加絵師陣の中に、1人だけ三次元を駆使するPがいた。セバスチャンPだ。
もしセバスチャンPを相棒に得る事が出来れば、「叙述トリックの映像化」の試みに際して、より高度な表現をすることができるだろう(その意味では、もし絵師さんとぶち当たるようだったら、コミケに参加しない絵師さんが望ましかった)。あともう1人、できれば色調補正のプロフェッショナルを引き当てる事ができたら……その時は、腹を括ろうと思った。


くじ引きの結果、奇跡は起きた。
セバスチャンPと、七夕Pを相棒にできることが確定した。七夕Pの力量は「Fix You」だけでも見てもらえれば一発で伝わると思う。モニタの前でガッツポーズをしたのを覚えている。

この時、セバスチャンPはシネ☆MAD3rd運営の用意したアンケートにこう答えていた。
「動画としては3分程度なら動かせます。残りは静止画でお願いしたいです」
ごく当たり前の内容だ。無償で出来るラインの限界点を真面目に提示してくれている。

しかし。それでは駄目なのだ。
自分がセバスチャンPと七夕Pに求めようとしていたのは、もっと遥か上の領域だったから。
相棒二人には、今後数ヶ月に及ぶデスマーチにつきあってもらわなければならない。

2009年5月17日。IRCでの、チーム初顔合わせの日。他のチームは、軽い挨拶だけで終わらせていたはず。でも自分にとっては、もう勝負は始まっていた。実質残り4ヶ月間だけで、『覇道』及びシネ☆MAD3rdの他参加チーム全員を敵とし、挑まなければならなかったからだ。

「シネ☆MAD3rdの企画コンセプトは『完璧な合作』と運営は言ってます。でも、他のチームは運営が期待した程にはそのコンセプトと真面目に相対しないと思う。だけど、それでも自分はそのコンセプトを真面目に実行したい。この三人でなくては絶対に出来ない事をやりたい」

自分の覚悟はある。でもそれだけじゃ足りない。

「だから、納得させてみせます。自分がやりたい事を最速で脚本に仕立ててきます。
 その脚本を見た上で、お二方が腹を括っても良いと判断したのなら。
 時間とか、魂とか、なんかそういうのを削ってやっても良いと判断したのなら。
 ……俺と一緒に、デスマーチに付き合ってもらえませんか」

どうしても必要だったもの。相棒二人の覚悟。

三次元が絡む脚本の場合、問題となるのはモデリングだ。
セバスチャンPはXSI使い。本家アイドルマスターと同じツール。
(MMDは公開から1年ちょいで、モデルはあまり存在していなかった頃だ)



だから、セバスチャンPには真っ先に「何があるのか」を聞いた。
キャラクターは何があるのか。
背景は何があるのか。
1からモデリングするとして、どこまで可能なのか。

【キャラクター】
・アイマス1時代の765キャラ(小鳥さん含む、社長は無し)
・1~2種のキャラクターモデリングが可能

【ステージ】
・765プロの内部、外部
・765プロ会議室
・あずささんの部屋
・ライブステージ(舞台袖含む)
・1~2種の背景モデリングが可能




まず、上記条件を踏まえた上で『叙述トリックの視覚化』を実現する脚本を組み上げること。
『隣に…』と『フタリの記憶』も使用すること。ここまでが既存の縛り。

さらに。
一番負荷がかかるのはセバスチャンPだ。だから、セバスチャンPの気力や体力が想定以上に低下しすぎて、動画が未完成に終わりチームは解散……という事態だけは避けたかった。
だから「極力限界まで圧縮した脚本」にくわえて「制作可能な残り時間に合わせて、柔軟に対応できる脚本にする」という、無謀にも程がある追加の縛りを課した。

急がなければならない。脚本が1分1秒遅れるごとに、相棒達の時間が減っていく。できることの幅が減っていく。打ち合わせ時間が減っていく。急げ、急げ、急げ!

タイトルはもう決めていた。英語圏の人はよく使う表現だが、日本人には馴染みが薄いもの。
『3A07』という謎のタイトルで気を引けば、戦略的にも悪くないんじゃなかろうか。
(それに、トランプならモデリングもしやすいだろうという打算もあった)

初稿を10日程度で書き上げて、二人に叩きつけた。
どうしてもこれを動かしたいんです。3分と言わず、やれるところまでやってみませんか?

「……これは……動かしてみたいですね」
「わかりました。腹、括りますよ」

2009年5月末。この先の、約半年に及ぶデスマーチが確定した瞬間だった。


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この記事読んでいる間、だんだんと頭の中に
プロフェッショナル-仕事の流儀-の主題歌が再生されてました…
記事内容と若干矛盾してる選曲ですがお許しを(^^;
2分前
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