また統一大当たり論によって韓国が統一されれば、北朝鮮住民を束縛から救い出し、潜在的労働力として韓国の産業を補完して、資源確保の面でも恩恵を受けることが可能になるはずだ。韓国としては経済的にさらに成長することができ、それを基盤に統一韓国の国際的立場を高めるという効果もあるだろう。また、これまで左派が独占してきたも同然だった「統一」の論壇を保守政権が取り戻すという、韓国の国内政治的な面でも意味を持つ。
しかし、統一大当たり論には否定的要素もある。それは、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権を刺激し、場合によっては状況判断を誤らせ挑発を引き起こしかねないという点だ。北朝鮮の立場で考えてみると、韓国の統一大当たり論は「韓国による吸収統一」を前提としたものであり、金正恩政権の存在は眼中にもない、と受け止めて当然だろう。そうした懸念は、既に現実のものとなっている。最近、北朝鮮軍部が西海岸で砲撃挑発を行い、無人機の存在を意図的に誇示(?)している例や、4回目の核実験に関する脅しなどは、金正恩集団が韓国の統一大当たり論に刺激されたため-という見方もある。米国のシンクタンク「新安全保障センター(CNAS)」は「金正恩第1書記は、体制存続のためますます暴力的になり、南北間の武力衝突が起こりかねない」と報告書で指摘した。
一部には「北朝鮮が、自滅を招くようなことをするだろうか」「この際、北朝鮮の政権を崩壊させよう」という主張もあるが、5000万人の命を担う韓国の指導者としては、統一よりも国と国民の安全の方が第一の関心事項であって、楽観や意地でこうした論理に乗るということはしない。韓国は、統一に向かう具体的・客観的・現実的なロードマップの提示もないまま、ある種の希望的結果のみを掲げて相手を刺激してしまうことを心配すべきだ。大統領が公の場で語る「統一」と、学界・メディア・市民団体など民間領域で語られる「統一」は、決して同じものではあり得ない。重みが違うし、インパクトもまるで違う。よく知られていることだが、統一前の西ドイツは東ドイツと占領4カ国を意識して、韓国の統一部(省に相当)に相当する政府機関を「全ドイツ問題省(BMG)」「ドイツ内関係省(BMiB)」と呼び、政府レベルで公に「ドイツ統一」に言及したことはなかったという。換言すると、西ドイツは「統一」という表現を自粛したということだ。