【前回記事】
・ミステリの基礎知識:新本格ミステリって何? - あざなえるなわのごとし
新本格作家の中でも、さまざまなジャンルでの活動が目立つ我孫子武丸氏について語る方が少ない。
ということで氏の過去作を振り返ってみたい。
速水三兄妹シリーズ
我孫子武丸氏は1989年に「8の殺人」で講談社ノベルスよりデビュー。
ノベルス版は故・辰巳四郎氏イラストの表紙。
そして「0の殺人」「メビウスの殺人」に続く。
……8以外、電子書籍にすらなってないのか。
えー、この速水三兄妹シリーズはそれぞれ
8の殺人:ジョン・ディクスン・カー
0の殺人:アガサ・クリスティ
メビウスの殺人:エラリー・クイーン
それぞれの本格作家の作品をイメージして書かれているため、作品によって起こる事件も雰囲気も全く異なる。
「8の殺人」では密室殺人だけれど、続く「0の殺人」ではトリッキーな連続殺人。
「メビウスの殺人」では無差別殺人のミッシングリンクを探る。
それぞれが
8の殺人:ハウダニット(どのように殺したのか?)
0の殺人:フーダニット(誰が殺したのか?)
メビウスの殺人:ミッシングリンク(関連性は何か?)
と同じシリーズなのに方法論が全く異なるのもとても面白い。
クリスティ好きとしては0の殺人を推したい。
ともかくかなりお勧めのシリーズなのだが……うーん。
探偵映画
映画「探偵映画」の撮影中に監督が失踪。
脚本は未完成。そこで残されたスタッフが知恵を出し合い犯人を探す。
……というバークリーの「毒入りチョコレート事件」だとかアシモフ「黒後家蜘蛛」、西澤保彦「麦酒の家の冒険」とでもいうかそういう作品。
佳作ですがよくできてる。
人形シリーズ
電子書籍にすらなってない……どころか新刊の扱いも。
鞠小路鞠夫という腹話術人形が事件を解決する、というシリーズで読み口は北村薫辺りをイメージさせて柔らかいコージーミステリ。
読み口も軽くて、突然アクションもあったり、恋愛要素もあったりする、ほっこり紅茶を飲みながら読める名シリーズなんだが…。
ディプロトドンティア・マクロプス
イラストのせいもあると思うんですが、個人的に火浦功なんすよね、これ。
「ニワトリはいつもハダシ」とか「ハードボイルドで行こう」「丸太の鷹」みたいなね。
あーいう作品だったはず。
巨大化した○○が京都の鴨川で暴れるところしか覚えてない。
小説たけまる増刊号(たけまる文庫 謎の巻/怪の巻)
我孫子武丸の短編を集めたボーナストラック的な作品集。
速水三兄妹シリーズの短編やスピンオフ作品も多いので他を読んでおくとさらに楽しめる。
分巻され文庫化もされたんだけれど……これも1円とかですね。
買いやすいっちゃあ買いやすいけれど。
殺戮にいたる病
我孫子武丸の名前が、ミステリ史に刻まれた名作。
個人的には、ノベルス版で新刊で発売されたその日に買って、読んで
「こ、こ、これは?!」
と驚いたわけです。
ところが今となっては「○○なミステリ教えてくれ」だの「○○で驚愕のトリックが?!」「○○によってあなたは必ずだまされる」だのという「いや、そこに(それを)提示された時点である程度どんなもんか解るやんけ」というところで名前を挙げられ言及されていて、そのあとで読めばそりゃあ「あぁ、なるほど」で終わりますがな。
そうじゃなくてこれは何の予備知識も無しで読んで「こ、こ、これは?!」となって面白いんですよね。
だから2chの板だのまとめだの見て名作を探そうとするやつはアホだ。
狼と兎のゲーム
かまいたちの夜
我孫子武丸という作家の存在が、ミステリ好き以外にも広く知れたのはこの「かまいたちの夜」シリーズ。
サウンドノベルという古くも新しいジャンルと練られたシナリオ。
ピンクのしおりを目当てに何度も繰り返し遊んだものです。
かまいたちの夜2 バグ まとめ - YouTube
バグすらもシナリオの仕込みという「メタ」さはいろいろ新しかった。
e-novels
・作家集団「e-NOVELS」、小説などをオンライン販売
1999年のこと。
小説家が直接作品をオンラインで売る。
今だったらnoteだのKDPだのあるわけですが、それを先取りしたのがe-novelsだった。
名を連ねるのは、我孫子武丸に西澤保彦、綾辻行人に京極夏彦とそうそうたる面々。
ところが先取りしすぎたのかいつの間にか先細りして消えてしまった。
今ではパピレスで買えるみたいですが。
15年も前にやるのはさすがに時代が早すぎたかもしれない。
・e−NOVELS - 電子書店パピレス
他
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明日発売の別冊文藝春秋にて新連載の我孫子武丸さん著「裁く眼」の挿絵を担当しました。主人公が法廷画家ということでお声がけいただきました。公式サイトより立ち読み可能です。http://t.co/BkRW0ZGUiW
— 榎本よしたか (@YoshitakaWorks) 2014, 2月 7新連載があったり。
とはいえなぜか他の新本格作家と比べると作品が少し地味な印象の割に、名前だけは「かまいたちの夜」の影響で広く知られているという不可思議な状況。
我孫子氏=かまいたち
我孫子氏=殺戮
どっちかみたいな。
いやいや、もっとほかにも面白い作品が多くあると思うんですけど。
GWに氏の作品を読んでみるのもいいんではないでしょうか。
どっかに出かけるのも混んでるし、そこそこ暑いし。