コラム:対ロシア制裁が効かない理由=カレツキー氏
アナトール・カレツキー
[1日 ロイター] - 米国と欧州が先に発動した対ロシア追加制裁が、ロシアの通貨ルーブルとモスクワ株式市場の上昇につながったのはなぜだろうか。
このパラドックスを理解するには、英コメディー番組「Yes Minister」を思い起こすといいだろう。主人公である間の抜けた政治家は、危機に直面するたびに同じ発言を繰り返す──「何か行動を起こさねばならない。これがその何かだ。ゆえにこの行動を起こさねばならない」。
この三段論法で問題となるのは、何らかの行動を起こすことが、何もしないことより悪い結果を引き起こす可能性だ。ウクライナ危機をめぐりロシアに経済制裁を科すという西側の判断は、その典型的な例だ。
ロシア抑止を目的に欧米諸国が発動した制裁は哀れなほど効果のなさを露呈し、欧米の確信の欠如や計画性のなさを強調するだけの結果となった。一方その間、ロシアのプーチン大統領は、目標として掲げていたであろう2つのことを成し遂げた。1つは、クリミア編入を既成事実にする暗黙の了解を国際社会から得たこと。もう1つは、ロシアが敵対姿勢を続ける限り、ウクライナの暫定政権は国内分裂を防げない「無力な存在」であるということをトゥルチノフ大統領代行に認めさせたことだ。
経済制裁が失敗に終わるであろうと考える理由は他にも存在する。
第一に、ウクライナ国境をめぐる軍事問題がいつの間にか西側とロシアの経済衝突に変化したことにより、中国やイスラエルなどが、自国の領土問題を軍事的に解決しようと考える可能性が出てきた。
その動機を理解するには、米ハーバード大学のマイケル・サンデル氏が著書「それをお金で買いますか:市場主義の限界」で示した道徳的な難題を考えるといい。同書によると、イスラエルの保育所は、子どもを迎えに来る時間に遅れた親に罰金を科すことにしたが、その結果、時間に遅れる親が前よりも増えたという。親は時間通りに迎えに行く道徳的義務を感じなくなり、時間を厳守する代わりに、罰金をベビーシッター料金とみなすようになったからだ。 続く...