去年ごろから国会やマスメディアではヘイトスピーチデモをめぐる議論が盛んに行われている。しかし、どれをみても一本調子な繁華街で公然と行われる民族差別という切り口ばかりであり、本当に恐ろしい問題点について、全く触れられていないでいる。
それは、ヘイトスピーチデモ隊が個人を標的したデモ活動を平気で行うということだ。そして誰も逮捕もされないのである。
これは、あるヘイトスピーチデモの動画だ。
デモ隊数十名が過激な言動を繰り広げ、騒乱状態に陥っているという特徴は、新大久保などで行われるデモと同じだ。しかし、よく見てほしい。
このデモは、住宅街の路地裏で行われているのだ。
ヘイトスピーチについて批判的な主張をしているネットジャーナリストに対する抗議として行われたもので、参加者は複数の関連団体によって動員されたようだ。
動画の冒頭のマンションはそのジャーナリストの事務所が入っているという。しかし、入居者の大半は自宅として使っており、周囲は民家が並んでいる地域である。
しかし、警察たちはデモを取り締まることをせず、ジャーナリストとの万が一の衝突を避けるためにずらりと立ち並び、デモを許してしまっているのである。
普段人があまりこないはずの住宅地に大勢の人が押し寄せ、メガホンを通して罵詈雑言を叫び、ときに抗議対象と対峙している光景は、近隣住民からすればたまったものではないだろう。ましてや心臓の弱い高齢者や小さな子ども、睡眠中の夜間勤務の人たちからすれば絶対に許されないことだ。しかし、デモがきてしまう現実があるのである。
これだけでも異常な光景だが、問題は、この次の動画だ。2分50秒から再生してほしい。
なんとデモ隊員はそのまま、ジャーナリストの実家に訪れているのである。
「あなたの息子さんからね、ここにいる女性たちが大変な被害を受けているから抗議しに来たんだよ」「自分が生んだ子どもでしょう?」などと、家の軒先で80代か90代くらいに見える高齢女性に向かい、集団でバッシングを展開。
居合わせた警官がすぐに駆け付けたようだが、逮捕もされず、デモ隊員は玄関先の女性を取り囲んで、街宣車のスピーカーにつないだマイクを使って一斉に罵声を浴びせ、シュプレヒコールを展開した。
動画の後半は、ジャーナリスト本人が駆けつけると、デモ隊はさらにヒートアップ。路地裏を盾で武装した警察官がずらりと埋め尽くして封鎖する事態になっている。異常な風景である。
しかし、こうした光景は過去何度も存在するようだ。
こちらの活動の趣旨は、「右派の間で内容が問題視されているドキュメンタリー映画を放映した映画館への抗議活動」だそうだが、映画館や運営会社の社屋ではなく、またぞろ支配人の実家を訪れている。
平日の朝に、おそらくアポをとることもなく、門を勝手に開けて家の敷地に侵入し、引き戸をガラガラと開けるメガホンやプラカードを携えたデモ集団は明らかに異様だ。母親とみられる高齢女性をひとしきり恫喝した後に、やはりマイクを使っての大声で怒鳴り続ける演説が行われたようだ。
デモ隊は、その数日後に再度自宅を訪れ、今度は祖父らしき男性を執拗に攻撃。事態を憂慮して駆けつけた近隣住民と小競り合いを繰り広げたのだが、警察はやはり逮捕しなかったようだ。
当たり前だが、ジャーナリストも映画館の支配人も中年男性であり、立派な大人である。世帯が分離すれば、肉親であっても他人は他人である。「実家の親への抗議デモ」はあきらかに、まともな人間としての筋の外れた行為であり、ましてや大の大人が一人の高齢者を袋叩きにする行為など、絶対に防ぐべきことではないだろうか。
しかし、呆れることに日本の警察は、これを全く取り締まることをしないのである。
こちらの動画では、とある大学の校長に抗議する目的で自宅デモを実施。インターフォンに応じた家族が、在宅していないということを告げても隊員らは帰宅せず、インターフォンを連打。通報があったのか警察が次々と駆け付け、現場は騒然となるのだが、デモを排除したり逮捕することもなく、住宅地でのマイクを使った過激な演説を許してしまった。
動画は残っていないのだが、奈良県の生駒市では官民協働事業に取り組んでいた民間委員の個人宅がヘイト団体からデモ攻撃を受けることもあったようだ。複数の委員がいる中で、あえて在日コリアンの女性を抗議対象とした差別的な活動なのだが、これも警察はなんらデモを規制することはなかった。デモ隊は呼び鈴を連打して恫喝をしたり、街宣車で一般個人を相手とするネガティブキャンペーンを行ったようだ。
あなたは何も政治的な活動をしていないし、自身の息子や親が政治活動に従事していない、生粋の日本人かもしれない。
だが、そうしたごく当たり前の一般市民の住宅を狙う活動はいくらでもある。
この動画は、京都でのヘイトスピーチデモで起きたトラブルを映したものだ。「朝鮮人一家のデモ妨害編」と題し、住宅地の細い生活道路を行進中だった約300人規模のデモ隊が赤ん坊を抱いた母親に向かい排斥を叫ぶという史上最低の光景を記録している。
考えてほしい。普通の日常生活をしているあなたの自宅の前の路地に、ある日突然300人のデモ隊が訪れ、しかもみな殺気立ち、悪口や聴きなれない差別用語を大声で叫んだとしたら。あなたはどうするだろうか。驚いて、玄関先に出てしまうに違いないはずだ。
しかし、デモ隊はそれを「反日在日朝鮮人の妨害」と解釈し、老人だろうが赤ん坊だろうがお構いなしに、力の限り攻撃を加えるのである。それを警察はただ見ているだけなのだ。
日本最大の韓国人街にしてK-POPの聖地である新大久保で大規模な反韓デモが毎週末繰り返された去年、女子高校生を中心とする韓流ファンの少女たちが、ツイッターで最大規模の団体である「在特会」の桜井誠会長を批判し、炎上状態となったことがあった。
これを恨んだのか、会長は次のデモでK-POPファンを「なぶり殺す」よう呼びかけ、人気K-POPスターの来日イベントが中止される事態になった。
会長はさらに以前にもK-POPファンからの批判を受けたことがあり、その時はなんと「住所を突き止めて200人規模で表敬訪問をする」と宣言している。表敬訪問とは、まさしく上の動画のような自宅デモを意味したネット右翼用語だ。
K-POPは女子高校生の間で絶大な人気があり、彼女らはごく普通の、流行りに便乗しているだけのイマドキの女の子である。彼女らにとって生きがいである文化や、大好きな街を差別的なデモによって汚されることはたまったものではないだろう。
そんな彼女らが、インターネットでヘイトスピーチを批判することは当たり前の行為であるのだが、デモ隊は平凡な少女たちでさえもデモの対象にしようと考えているのだが、警察はやっぱりヘイトデモを規制しないのである。
これまでヘイトデモはさまざまな一般市民に向けての集団での恫喝や暴力を繰り広げている。デモの通りすがりの人に対し因縁を付け、一斉に襲い掛かっているのだ。小学生や老人、女性、主婦、身体障がい者や知的障がい者など、どのような相手であっても容赦なく憎悪の限りをぶちまけている。
通勤電車内や、学校、学習塾、洋服店、アウトドア洋品店、家電店、お寺、スーパーマーケット、遊戯施設など、本来デモにふさわしくない場所に出没し、中に上がり込んで大声で従業員に怒りをぶつけたり、居合わせた客といざこざを起こすのである。「よそからの訪問者」自体に慣れていないような離島や田舎の小さな集落での活動も少なくない。
彼らの脳内には「活動に理解し、賛同する仲間」と「反日在日勢力」という二項構造しか存在していないのである。一般市民への理解を求めてデモ活動を行いながら、少しでも不信感を抱けば途端に敵とみなし、一斉に襲撃するという乱暴性がそこには存在しているのだ。
しかしながら、今日も、日本全国の書店に行けば、店頭の新刊本コーナーは「愛国ポルノ」で一面覆いつくされており、そこには在特会の会長以下、ヘイトスピーチデモ関係者の著書や寄稿のある雑誌・ムック本もいくらでも置いてあるのだ。
いったいこれのどこが、まともな世の中だといえるのだろうか?