趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書〜仏像のなぞを解きほぐす〜第4回 2014.04.29

あなたはカリカリ派?トロトロ派?
(テーマ音楽)古代インドで生まれた仏教。
そのうねりはガンダーラを超えシルクロード中国を経てアジア全体に仏像世界を花開かせました。
日本にたどりついたほとけたちはどのようにして生まれ育まれ心と形を築き上げてきたのでしょうか?仏像のなぞを解きほぐす「ほとけの履歴書」。
開講です。
日本に古くから伝わる「鬼」。
恐ろしい存在でありながらどこか親しみやすくもあります。
仏像の世界にも鬼は度々登場します。
中国から伝わり日本で独自の進化を遂げた鬼。
籔内さんが想像力豊かに鬼について考えます。
先生よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
今回の「ほとけの履歴書」は?「鬼」です。
鬼ってお寺さんで拝観した事ありませんよね?実はお寺の中にも仏像と一緒に鬼がいっぱいいるの。
えっ!?私見過ごしていたのかもしれませんね。
今回の「ほとけの履歴書」。
鬼は鬼でも「邪鬼」です。
「邪鬼」。
「ほとけの履歴書」見てみましょう。
ほら。
あっ!かわいい!なんかいたずらっ子でちょっとかわいらしい邪鬼ですね。
2人がかつて訪れた京都・教王護国寺。
空海が開いた東寺です。
その時拝観したほとけさまの中に邪鬼が隠れていました。
ほんとに迫ってきそうですよね。
風がブワーッと飛んでゆくような勢いがあるお像ですよね。
…とともえさんが見とれていた持国天の足元にいました。
邪鬼の多くは四天王像の足元に踏みつけられています。
邪鬼思い出した?はい。
そういえば足元にかわいらしいキャラクターがあるなという事は。
こういうなのがいたでしょ。
この上を踏みつけられてたよね。
あれが邪鬼。
この字は「オニ」あるいは音読みでは「キ」ですよね。
中国では「キ」ですけど日本では「オニ」。
今回はその中国の「キ」と日本の「オニ」との違いについて話をしていきたいと思います。
「鬼」っていうのは…例えば同じ「キ」だと空気とか大気元気とか病気とか雰囲気とかっていう「目には見えないけども力を感じるもの」ですよね。
この「鬼」が要するに「祟る気」。
いろんな悪い事をする鬼。
「祟る」といえばこちら。
「四谷怪談」で知られるお岩さん。
お岩は死ぬ前「不義理をした夫を祟ってやる」と語ります。
お岩の恨み言葉の中に中国の鬼を知るカギがあります。
「魂魄」とは死者の霊魂の事。
古代中国の生命観が反映されています。
どちらの漢字にも「鬼」が入っています。
古代中国では霊魂は2種類あると考えられました。
魂は天界に昇り魄は大地に帰るとされます。
しかし非業の死を遂げた霊はどこにも帰る事ができずさまよい人に祟ると考えられたのです。
「魂魄この世にとどまりて恨み晴らさでおくべきか」。
怖いね〜。
「四谷怪談」ですよね。
要は帰るべき所がなくなった霊魂がこの世をウロウロしてて我々の目には見えないけどなんか祟る。
それが中国の鬼です。
中国では目に見えない恐ろしい存在と考えられていた邪鬼。
仏教の世界ではどのように位置づけられているのでしょうか。
改めて履歴書を見てみましょう。
この邪鬼も所属餓鬼界。
六道の中にちゃんと所属するんですね。
常に飢えているわけ。
「何かが欲しい欲しい」。
常に貪欲に何かを求めている。
そういう姿だと思います。
何かたくらんでいるような表情にも見えますもんね。
仏教特有の生命観「六道輪廻」。
邪鬼が属するのはその一つ餓鬼界。
常に飢えと渇きに苦しむ世界です。
六道の世界は決してどこか別の世界にあるんじゃなくて今我々この世界に同時並行してあるんですよ。
見えてないだけで。
特にこの餓鬼道っていうのは…餓鬼界を題材にした…目には見えないオニたちが人間の世界に同居している様子が描かれています。
常に飢えていて絶え間ない欲望に苦しむ餓鬼界のオニ。
この時代オニは人々のすぐそばにいる存在だったのです。
そのような邪鬼がどうしてこのような愛らしいキャラクターになったのか知っていきたいですね。
じゃあ改めてこの邪鬼君たちを拝観にいきましょう。
静岡県の願成就院の毘沙門天の足元にいる邪鬼君です。
2人が訪れたのは…この寺には大仏師運慶による5体の仏像が安置されています。
そのどこかに籔内さんお気に入りの邪鬼が隠れているようです。
この間拝観した毘沙門さん。
今日は下の方足元を見てほしいの。
あっ!こちらの足元に。
そうそう邪鬼。
毘沙門天の力強い立ち姿。
その足元に2匹の邪鬼が踏みつけられています。
毘沙門天の武器戟を手につかむ邪鬼。
抵抗しているのかそれとも支えになろうとしているのか。
悪い存在なのにどこか憎めない不思議な魅力を感じさせます。
どうして毘沙門天に邪鬼は踏みつけられているんですか?結局退治されたわけじゃないんです。
成敗されたわけじゃなくて調伏したわけだよ。
だから「もうこんな悪い事しちゃ駄目だよ」って踏みつけて「これからはちゃんとほとけさまたちを守ってみんなを守るんだよ」って言って懲らしめてる。
へえ〜。
じゃあよりよこしまなオニを正しい世界へ導いてあげたみたいな感じなんですかね。
仏教というものの本質がこの邪鬼を見る事で分かると思うの。
決して…だから懲らしめてはいるけども結局は…他の仏像には見られない独特の造形も邪鬼の見どころです。
以前ねこのお像の模刻をさせて頂いた事がある。
毘沙門天の?それは実際は小さくてこれぐらいの大きさにしたんだけどその時にうちの学生たちが2匹の邪鬼も模刻させてもらったんだけど面白いんだ。
ひっくり返すとほんとに生き生きとしてね。
東京藝術大学籔内研究室ではこの運慶の邪鬼を3D撮影して調査研究を行いました。
盛り上がった筋肉やふんどしを締めた様子がリアルに表現されています。
隅々まで彫り込んだ運慶の気迫が伝わってきます。
個性的な邪鬼をもう一つ。
聖徳太子ゆかりの法隆寺。
金堂には釈三尊像をはじめ飛鳥時代の仏像が並びます。
この四天王像は現存するものとしては日本最古。
足元の邪鬼も飛鳥時代特有のスタイルで彫られています。
どの邪鬼もとてもユーモラス。
まるで四天王を支える乗り物のようにも見えます。
仏像の名脇役邪鬼。
どうぞお忘れなく。
この「鬼」という字怖いね。
中国ではこれは目に見えないもの。
そして目に見えないけど我々に祟ったり悪さをする本当に恐ろしいだけのものなんだ。
不安になりますね。
でも日本でこの字を書くと「オニ」と読みますね。
ともえちゃんオニのイメージは?角が生えていてっていうちょっとキャラクターっぽいイメージなんですが。
描いてみて。
いわゆるこうお顔があってちょっと角がチャームポイントというか…。
そしてこう髪もちょっとパーマみたいになっていて…。
私のオニのイメージはこうですね。
うまいもんだね。
かわいいね。
でも私たちのオニのイメージは怖いんだけどこういうキャラクターっぽいかわいいイメージがあります。
でも角があってあと虎のパンツですよね。
そしてこん棒を持っている。
これどこから来たのかなとずっと考えてたの。
ええ〜。
もう私たちは子供の時の昔話を読んで覚えてしまってます。
「牛」と「虎」。
牛と虎うしとら…艮の方角って知ってる?方角を干支で表した十二方位。
艮の方角は「丑」と「寅」の間つまり北東を意味します。
北東の方角といえば昔から気になる方角ですよね。
だからこの艮っていうのはオニがやって来る方角オニがやって来る門。
「鬼門」。
鬼門!うわ〜!その「き」は鬼の「キ」ですね。
その鬼門っていう方角が艮の方角だぞっていうので。
牛の角に虎のパンツで。
え〜!ともえちゃんが描いてくれたみたいなこういう誰でも日本人ならオニっていうと共通のイメージがあるよね。
この共通のイメージを一体日本人はどこから持ってきたのかという事を彫刻家の私がねずっと考え続けてきたんですよ。
えっそれ答えは見つかったんですか?これからお見せしましょう。
はい。
先ほど邪鬼を拝観した…日本のオニのイメージをつくったと籔内さんが考えるほとけさまがこの寺にいます。
あっお不動さん。
右に矜羯羅童子左に制童子を従える国宝「不動明王像」。
運慶の傑作です。
牙をむいた迫力ある表情や髪形がオニの姿を連想させます。
いつごろからオニのイメージがああいうふうに決まったのかはまだよく分かんないけど私は一つのオニの造形のモデルになっているのはお不動さんじゃないかなってずっと思ってるんです。
お不動さんの怖さっていうのは本当に恐怖に震えるような怖さではなくて雷おやじの怖さだよね。
「おっかね〜」って感じでしょ?でもどこかにちゃんとやさしさがあるから。
それはお不動さんの怖さと同じだと思うんですよね。
なるほど。
明王様もオニのモデルになっていたんですね。
そうですね。
ほら私もこうやって描いてきたんだ。
先生のオニですね。
全体のイメージは不動明王のお姿によく似てると思うんです。
こういう腕輪もしてるし縮れっ毛で角を生やしてるけど。
そしてなんかオニが「めっそ〜もございません」って恐縮してますね。
これは仕掛けがあるんです。
よいしょ。
あっ隣に明王様。
「おまえわしのマネしてないか?」。
「めっめっそ〜もございません」。
オニもさすがに明王様はきっと怖いでしょうね。
でも明王様のお姿をキャラクター化してるのはなんか日本人のやさしさを感じますよね。
日本のオニはそういう頼りになるもの。
それから我々を強く導いてくれるもの。
例えば東北のなまはげなんかもそうだよね。
ものすごく怖いんだ。
小さい子供にしてみたらあんな怖いものはないと思うけどでも子供に危害を加えるわけじゃない。
子供をさらっていくわけじゃない。
子供が元気に育つように大きな声を出させようとしているわけだよね。
そういうやさしい気持ちを持っている日本のオニ。
それはやっぱり日本人のやさしさならではの。
もう一度履歴書を見てみようか。
ここに「仏教に帰依した後は燈明を捧げる役目をしている」。
邪鬼っていうのは暗闇の…悪い神々の手下として悪さをしてたけれどもしかし心を入れ替えて実は暗闇を明るく照らそうとしているけなげな連中もいるんです。
え〜拝観させて頂きたいです。
2人が最後に訪れたのは…大きな千手観音像のそばに小さなオニの立ち上がった姿がありました。
鎌倉時代から燈明を掲げ続けています。
小さいながらも体全体に力をみなぎらせて明かりを担ぐ天燈鬼。
一方龍を巻きつけ上目使いがユニークな龍燈鬼。
お釈様に光を捧げます。
一つ一つの筋肉からも感じ取るものがありますね。
小さながらもお釈様の力となって活躍したんだろうなっていう思いが見えます。
彫刻家の目から見てもよく造ってありますよ。
ほんとによく造ってある。
天燈鬼の方はよく見て。
角が2本生えてるでしょ?それから腰に巻いてるのをよく見てほしいんですけど獣の皮。
耳がついてるでしょ?目の部分がついてるでしょ?下に垂れた所。
あっ本当ですね!毛皮を巻いてるんですよ。
毛皮が一体何の毛皮だったかは今は分かんないけどひょっとしたら虎だったかもしれない。
そうするともうオニそのものですね。
もともとは悪鬼夜叉。
暗闇の中にいた…そしてそこでうごめいて…かわいいね。
かわいいですね。
でもね日本のいろんなお祭りに登場するオニなまはげとかそういうものってたいまつを掲げてるよね。
そうですね。
だから人の役に立つあるいは人を良い方向に導こうとしている人のために働いているオニはみんなやっぱり明かりを持ってるかもしれないね。
オニは光を持ってみんなを照らしている。
オニのイメージがガラリと変わりました。
悪いオニとして踏みつけられていた邪鬼。
やがて仏法によって改心しほとけのために立ち上がりました。
そして人間のために悪を威嚇し人々の幸せを願います。
日本で進化したオニ。
私たちを戒め励まし守ってくれる心強い存在なのです。
先生日本のオニって愛すべき存在なんですね。
愛すべき存在でありまた頼りがいのある存在でもあるね。
奈良の古いお寺で元興寺というお寺があるんです。
毎年節分の時に豆まきをするんです。
その時びっくりしたのが「鬼は内福は内」って言うの。
「鬼」は普通外ですよね。
鬼も入れちゃう?なんかねそれを聞いた時に私は日本人の鬼に対する考え方っていうのがすごくよく出てるなと思ったんです。
それは鬼はどこか自分の外にいて自分たちに悪い事をする。
だから「どこか行ってくれ」ってただただ追っ払うだけのものではなくて…善もあるし悪もある。
その心の中にいる鬼も良い方向へ持っていきたい。
そういう気持ちを込めて「鬼は内福は内」というふうに呼ぶんじゃないかなというふうに思いました。
日本のオニの仏像を拝観する事で日本人の心のやさしさにたどりついた今回の「ほとけの履歴書」でした。
どうもありがとうございました。
こちらこそどうもありがとうございました。
今回の内容はこちらのテキストに詳しく掲載されています。
どうぞご参考になさって下さい。
今後の放送予定も掲載されています。
2014/04/29(火) 11:30〜11:55
NHKEテレ1大阪
趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書〜仏像のなぞを解きほぐす〜第4回[解][字]

仏像のなぞを解く「ほとけの履歴書」。第4回は鬼を考える。古代中国の鬼は目に見えない怖い存在。しかし日本の鬼はどこか愛きょうがあるのはなぜ?日本の鬼の変遷を考える

詳細情報
番組内容
仏像のなぞを解く「ほとけの履歴書」。第4回は鬼を考える。古代中国の鬼は目に見えない怖い存在。仏像でも「邪鬼(じゃき)」として表現され、四天王に踏みつけられている。ところが、日本人のイメージする鬼はどこか愛きょうがある。なぜなのだろう?籔内さんが中国と日本の鬼を比較検討しながら、鬼観の変遷を考える。
出演者
【出演】篠原ともえ,【講師】彫刻家・東京藝術大学教授…籔内佐斗司,【語り】徳田章

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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