自治体の数を半減させた平成の大合併が今、地方を苦しめています。
国が15年前から推し進めた平成の大合併。
合併ブームは列島を駆け巡り全国の市町村は、3200から1700に減りました。
当時国は、合併すれば職員の削減や公共施設の統廃合が進み自治体の財政が強化されるとうたっていました。
ところが、今当時の青写真とは逆に合併した300以上の自治体が財政難を訴えています。
公共施設の休館や住民サービスの見直しを余儀なくされています。
合併自治体の財政はなぜ悪化したのか。
平成の大合併を検証します。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
現在1700ある市町村の中でいわゆる平成の大合併を経験した自治体の数は、590に上ります。
規模の小さな自治体の数が減ることで国の財政立て直しにつながる。
加えて、自治体も合併すれば行政が効率化し自治体の財政もよくなる。
国から住民に近い地方自治体に政策決定権限と自由に使える財源を移す地方分権でよりよい社会を実現できるなどとして自治体の合併が1999年から2000年半ばの間に全国で次々と行われたのです。
ところが今、合併に取り組んだ地方自治体のおよそ半分に当たる308の自治体が深刻な財政難に苦しんでいます。
その大きな背景が地方交付税です。
地方自治体が行政サービスを行うために財源の不足分を国が地方交付税という形で配布しています。
合併して新しい自治体が誕生すると規模が大きくなることで効率化が期待できるため配られる交付税は、合併前よりも少なくなる仕組みになっています。
これまで、国は合併を促そうと合併後10年間に限り交付税をそのまま配布するという特例を作りました。
この10年の間に自治体は職員の削減や重複した公共施設の統廃合などを進めるはずでした。
しかし、多くの自治体では国の描いた青写真とは異なり効率化が進まなかったのです。
まもなく平成の合併のピークから10年。
ことしから3年間で570もの自治体で国から受け取る交付税の減額が始まりさらなる財政悪化への懸念が高まっています。
地方分権の掛け声の中合併を選択した自治体の多くで財政の効率化が進まなかった理由からご覧ください。
人口4万3000人の兵庫県篠山市です。
15年前平成の大合併第1号として4つの町が合併して誕生しました。
合併により市役所の支所となった建物を訪ねてみると職員の数は、まばらで閑散としていました。
実は、篠山市は今深刻な財政難から徹底的な業務の見直しを迫られているのです。
職員を3割削減し、給与もカット。
さまざまな住民サービスも縮小や廃止を余儀なくされています。
子ども向けの博物館は1年のうち3か月しかオープンできなくなりました。
こうした節約作戦の背景には地方交付税の減額があります。
合併に伴う特例が期限切れとなり18億円も収入が減ることになったのです。
そもそも篠山市の合併の目的は老朽化したインフラを整備することにありました。
当時4つの町が共同利用していたゴミ焼却場や斎場の建て替えには100億円必要でした。
小さな町が単独では負担できないため合併して予算規模を大きくしようと考えたのです。
そのころ国も市町村の効率化を促す合併の推進にかじを切ります。
市町村の合併が必要であるとの意見が高まってきております。
合併特例法が成立し市町村に合併を促すための優遇策が打ち出されました。
地方の財源不足を補う地方交付税の優遇です。
本来、交付税は、合併して自治体の規模が大きくなるとそれぞれが合併前にもらっていた合計額よりも少なくなる仕組みでした。
これでは合併が進まないとして合併後10年間に限って交付税を減らさない特例が作られたのです。
さらに、もう一つの優遇策として合併した自治体だけが使える合併特例債が用意されました。
市町村が新たに借金するときその7割までを国が負担するという破格に有利な借り入れ制度でした。
合併を果たした篠山市はこれらの制度を使ってインフラを整備。
まず20億円を投じた斎場を建設します。
さらに、事業費80億円のゴミ焼却場も完成しました。
しかし、これだけでは止まりませんでした。
篠山市が利用できる特例債の上限は230億円。
そのうち200億円を使って市民センター、温泉施設図書館、温水プール博物館など合併前の自治体ごとに次々とハコモノを建設していったのです。
合併特例債は、あくまで3割は市が返済しなければならない借金です。
その額は60億円にも膨れ上がりました。
巨額の借金の背景には将来、人口も税収も増えるという甘い見通しがあったといいます。
しかし、予想とは裏腹に合併の僅か3年後人口は減少に転じます。
人口増加で賄えるはずだった借金の返済が重荷となりそこへ交付税の減額が重なり財政危機へと陥ったのです。
行政の効率化が、うたわれた平成の大合併。
しかし、そもそも効率化を実現することが困難な現実もあります。
人口7万7000人の大分県佐伯市です。
9年前、9つの自治体が合併して九州で最も広い市町村になりました。
通常、合併すると役場を統廃合しますが佐伯市では8つあった役場をすべて残し支所として使っています。
合併によって市の面積は900平方キロメートルになり端から端までの移動には3時間かかります。
人口をもとに決められる国の想定では佐伯市の支所の数は2つ。
しかし、広大な面積を2つの支所ではカバーできないため8つの支所を残さざるをえないといいます。
さらに、南海トラフ巨大地震で大津波が予想されているため避難誘導のためにも支所が減らせません。
当時、自治省の事務次官として市町村合併の陣頭指揮を執っていた松本英昭さんも自治体の効率化が難しいことは認めています。
しかし、低成長の時代を乗り切るには合併が必要だったと強調します。
今夜は地方自治体の財政、そして政治を長年見つめてこられました、後藤・安田記念東京都市研究所常務理事の新藤宗幸さんにお越しいただいています。
交付税の特例の期間がまもなく切れて、交付税の減額が始まっていく。
それに加えて、合併に向けて、特例債をこれ、合わせて発行総額5兆3600万円で、発行した市町村というのは556に上るんですけれども、それが借金となって重くのしかかり始めたと。
しかし、財政悪化したり、不安になるっていうことがある程度予想できたんじゃないですか?
当然、予想できたと思います。
つまり経済的に決していいという状況じゃありませんし、ちまたでずっとみんなが言ってたように、高齢化をしていくと、少子化すると。
そのことだけ考えても、財政状態がよくなるわけではないんですね。
ですけれども、この合併というのは政治的なコストが非常にかかる話なんですね。
政治的コストとおっしゃいますと?
例えば今、5つの自治体を合併しようと。
国民健康保険料でも、あるいは介護保険料でもいいですけれども、この5つが全部、同じ額のわけないでしょ。
必ず高低がありますね。
そうすると、この合併を成立させよう、住民の合意を得ようという話になると、どうするかといえば、一番安いところに新しい自治体の料金を設定するわけですよ。
合併の自治体の中には、住民負担の安い、例えば国民健康保険のところがあったら、安いところで合わせる?
それからさっきの篠山の例もありましたけれども、もう一つは、旧市町村に同じような建物を造る。
そうやってみんなの合意を得る。
こういうコストがすごくかかりますから、当然、そのことをあまり見なければね、交付税の減額等々で、今、苦しくなるのは当然といえば当然ですね。
しかもバブルの時代にハコモノをいっぱい造って、そしてその結果、運営費が高くつくっていうことは、もう経験済み。
してますもんね。
特に合併特例債は、建物にはつきましたけれども、管理運営経費は、全然対象外ですから、大きい建物を造れば造るほど、そういう管理運営経費がプレッシャーになって、迫ってきますよね。
それでも、みんなこぞって、こうして特例債発行に走った、あるいは合併に走ったっていうのは、どういうことですか?
やっぱり、合併の一つの効率化を図るとか、あるいはそれで町を近代化するという、一種のそういう雰囲気に流されたとしか言いようがないんじゃないですかね。
効率化できると言われていましたけれども、今、おっしゃったみたいに、政治的コストがかかるものなのだと。
でもこうしたその特例債を発行に当たって、国はもう少し慎重になるべきではなかっただろうかという気もするんですけども。
そうですね、私もそう思います。
つまり、いかに合併させるか、そういう一つの誘因を、次から次に出していく。
のってくるという読みがあったと思いますね。
ただ、当時のことばとして、よく自己責任ということが、いろんな分野でいわれましたけれども、国側は別に割り当てたわけじゃないよと。
借りたのはあんたたちじゃないかと。
それは自己責任でしょと、こういう言い逃れもまたできますよね。
国としては、地方に渡す交付税の額を減らしたいという?
もちろん全体としての経費を減らしたいということですよね。
さあ、これから、その交付税の減額に伴って、自治体の財政の悪化が進むのではないかと懸念する自治体。
自治体の中には、独自の方法で、経費を削減しようという取り組みを行っている所も出てきました。
8年前、7つの町が合併して出来た香川県三豊市。
交付税の減額を2年後に控えています。
現在100億円ある交付税が最終的に60億円にまで減るため市は、行政サービスの根本的な見直しに着手しています。
議論の末、選んだのは業務そのものを有償ボランティアに委ねる改革案でした。
発足したのが、定年退職した地域住民などで結成された「まちづくり推進隊」です。
住民票の発行や税金の収納などを除き支所のほとんどの業務を担っています。
この日は新たに転入してきた住民のためにゴミの分別ルールのチラシを手渡しました。
推進隊を活用することで23人の職員を削減。
年間2億円の人件費を節約しています。
地域のニーズを踏まえた推進隊の仕事は自治会や交通安全運動防犯活動まで多岐にわたります。
おはようございます。
点検でまいりましたんで。
これ、最近テストしてみた?
いえ、全然してないけど。
1人暮らしの高齢者が多い地区で始めたのが火災報知器の取り付け。
あのぐらいやったら寝とっても、目が覚めるやろう。
一軒一軒、地道に回り200軒以上に取り付けました。
お邪魔しました。
地域住民の発案で行われる推進隊のサービス。
行政は運営に関わらず住民の自主性に委ねられています。
自治体の財源が減る中行政サービスの重点を決めてそこに集中しようという町も現れています。
高齢化率が30%を超える人口6300人の福島県矢祭町です。
合併しない選択をした矢祭町。
しかし、小規模の自治体に手厚く配分されていた交付税制度が見直され町の交付税は最大で8億円も減りました。
以来、職員を3割減らしトイレ清掃も職員みずからの手で行うなど行政コストの削減を行っています。
7年前にオープンした「もったいない図書館」も利用者の少なかった武道館を改築して造られました。
蔵書は44万冊に及びますがすべて寄付で賄っています。
入り口に置かれている朝刊も再利用されています。
しかし行政コストを削減する一方で重点政策には十分な予算を充てているのが矢祭町の特徴です。
3億円近くを投じて充実させているのは、子育て支援。
幼稚園の授業料は月2000円で周辺市町村の半額程度です。
さらに、第3子の誕生には祝い金が100万円。
ここ数年は出生数が下げ止まっています。
小さな町でも地域に根ざしたサービスを提供することで自立に向けた一歩を踏み出せると考えています。
三豊市では、交付税が100億から60億に減るということで、有償ボランティアの活用を考えた、この取り組み、どうですか?
僕はそういう交付税の減額だけではなくてね、全体として評価します。
高齢化社会といっても元気なお年寄り、いっぱいいるわけですから、いろんな自治体の、自治体の仕事を手伝ってもらうというのはいいと思います。
ただ、今、絵で見たようなこと、そういう労働だけではなくて、三豊なら、三豊の町をどうするかという、そういう意思決定にも参加していただいて、今までのいろんな人生上の知恵をそういうところで出していただいたらいいんじゃないでしょうかね。
そして一方で、合併しなかった矢祭町では、重点的に子育てに支援をするという決断をしたわけですけれども。
実に正しい決断じゃないでしょうか。
合併しないということはですね、かなり厳しい経済条件、財政条件に直面することになります。
ただ、同時に孤立してしまうんではなくて、元気な自治体というのは、やっぱり子どもの声が、あるいはいろんな世代の声がする自治体ですよね。
だから、削るところは徹底的に削って、先ほどの保育園の保育料にしたって、あるいは3子目以降の手当にしてもですね、移りたいという人が出てくるんじゃないですか。
いずれにしろ、心配されるのは、財政悪化によって、いろんな削減をして、町から人がいなくなっていく、人口が出ていくことですよね。
やっぱり、よく自治体の活性化、地域の活性化ということを言いますけれども、そのために企業誘致だとかなんとかって言うんだけれども、やっぱり人がいることですよね。
しかも、それもいろんな世代の人間が暮らす、そういう多世代の人間が暮らせる条件を行政はきちんと作る。
これがやっぱり必要なんじゃないでしょうかね。
思惑どおりに合併後の自治体の財政いってないところが、308という形で現れているわけですけども、合併しなかった自治体のほうが、財政不安が少ないという事態も生まれているんでしょうか?
全体的な状況を見ますと、合併しなかったところのほうが、合併したところよりも、財政状態は比較的よろしいです。
相対的な問題ですけどね。
というのは、やっぱり合併しないで単独で生きていくという、そのためには厳しいことをいろいろせねばならない。
そういう住民間の合意ができているということではないでしょうかね。
もちろん、合併してうまくいっている所もある?
もちろんです。
合併して、うまくいって、自分たちの過去の歴史、あるいは文化というものをですね、きちんと生かしている所はありますよ。
またそういう歴史や文化を大事にしている合併した自治体が元気にいっているということですよね。
だから、一概に合併が悪いとは言いませんけれども、町のきちんとした方向性を考えないで、やれ特例債だ、やっぱり交付税の算定外だというようなことに飛びついて、ハコモノを造ったからということですよね。
そこは反省すべきだと思っています。
しかし、改めて本当に地方自治ということを考えさせられますね。
そうですね。
結局、自治というのは自分の頭で考えて、どこかにすがらないで、頼らないで、生きていくということが、基本になければだめですよね。
きょうはどうもありがとうございました。
新藤宗幸さんと共にお伝えしました。
2014/05/01(木) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「平成の大合併 夢はいずこへ」[字][再]
全国の市町村が1700余りに半減した「平成の大合併」。あれから10年経った今、合併した自治体は財政の危機を訴えている。なぜ効果はあがらなかったのか、検証する。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】後藤・安田記念東京都市研究所 常務理事…新藤宗幸,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】後藤・安田記念東京都市研究所 常務理事…新藤宗幸,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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