NHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困〜“新たな連鎖”の衝撃〜」 2014.05.01

都内のインターネットカフェで2年前から生活している19歳の女性です。
14歳の妹と一緒に暮らしています。
姉妹は母親がアパートの家賃を払えなくなったためここにたどりついたといいます。
姉のアルバイトの収入月10万円で生計を立てています。
今厳しい暮らしを強いられる若い女性が増えています。
母子家庭で育った19歳の女性。
毎日朝5時から働いています。
月収は8万円。
収入の少ない母親を助け家族4人を支えています。
年収200万円未満の非正規雇用で働く若い女性は289万人に上っています。
不安定な雇用環境の中結婚して家庭を築く事に現実味が持てないという人も増えています。
取材を進めると親から子の世代へ貧しさが連鎖していく実態が浮かび上がってきました。
今日本社会で何が起きているのか。
現場からの報告です。
(国谷)女性の活躍なしには国企業の将来はないという認識が深まっています。
女性の活用が国の成長戦略の柱の一つに位置づけられまた日本経済団体連合会経団連も女性の活躍推進に向けた行動計画を先日初めて発表しました。
大きな期待が注がれているのが主に正規雇用の女性たちですけれどもその一方で同じ女性でありながら派遣やパートといった非正規で働く女性たちは働く女性のおよそ6割を占めながら能力開発の機会そして子育てしながら活躍できる職場環境からも置き去りになりがちです。
そして何より厳しい経済状況に直面しています。
NHKが一橋大学と共同で行った分析によりますと非正規雇用の15歳から34歳の若い女性の8割が国が生活支援の対策で困窮状態の目安としている年収200万円を下回っている事が初めて明らかになりました。
雇用環境の変化でこの十数年の間で男女とも非正規という働き方が広がっていますがこの変化が今とりわけ若い女性にとって自立した生活が送りにくくなっているという逆風となって現れています。
そしてこの逆風はもともと厳しいといわれてきた母子世帯の子どもたちが困窮した生活から抜け出す道をより険しくし貧困の固定化そして階層化にもつながっています。
OECD経済協力開発機構の調査では日本の母子世帯の子どもたちの貧困率が先進国で最悪レベルだという結果が出ていましてこの貧困の固定化が裏付けられています。
子どもを産み育てながら女性が活躍できる社会が求められている日本。
次の世代に連鎖が生まれている女性の厳しい現実をご覧頂きます。
午前5時。
勤務先に向かう…中学を卒業してすぐに働き始めました。
向かうのは家の近くにあるコンビニエンスストアです。
時給が高い早朝に加え夕方もここで働いています。
鷲見さんの家族の暮らしが一変したのは小学校1年生の時でした。
一家を支えていた父親が亡くなったのです。
49歳の母親はコールセンターなどでパートの仕事をしてきました。
しかし腎臓に持病を抱えているため働けない月も多く鷲見さんが家計を支えてきました。
中学3年生の時の鷲見さん。
希望していた全日制高校への進学を諦めました。
当時小学生だった妹の世話など家事の一切も引き受けてきました。
長女である自分が家を出る事は考えなかったといいます。
一日の出費は500円程度に抑えています。
(硬貨が落ちる音)鷲見さんは仕事や家事の合間に通信制高校で学んでいます。
今よりも生活を上向かせたいと卒業後は保育士を養成する夜間の専門学校に通う事にしました。
今の収入では足りないため奨学金を借りて支払うつもりです。
なぜ今経済的に苦しむ若い女性が増えているのか。
取材を進めると親の世代の貧困が子の世代へと連鎖している事が分かってきました。
キャリーバッグを手にした若い女性たちが次々と姿を現します。
こうした女性たちの中に家賃が払えず携帯電話だけを頼りに深夜営業の店を渡り歩く女性が増えています。
生活保護を受けている親に頼る事ができないという…この16歳の女性は父親が病気で仕事を失ったため中学卒業後家を出て自活しています。
地方から夜行バスで出稼ぎに来たという女性がいました。
愛媛県の大学に通っています。
4年間の学費400万円を稼ぐためにやって来たといいます。
宿泊代を浮かせようとインターネットカフェで寝泊まりしています。
なつきさんの両親は12歳の時に離婚。
以来パートの仕事をする母親と暮らしてきました。
厳しい生活を抜け出そうと大学に進んだなつきさん。
学費や生活費の全てを自分で工面するしかありませんでした。
地元愛媛の最低賃金は666円。
思うように稼げないため休みの度に上京して働いているといいます。
時給が高い工事現場の作業員など3つの仕事を掛け持ちしています。
なつきさんの母親は愛媛県東部の町で暮らしています。
(取材者)おはようございます。
女手一つで娘を育ててきました。
離婚したあとフルタイムで働かなければなりませんでしたが地元ではパートの仕事しかありませんでした。
かづきさんがようやく就く事ができた仕事はレンタルビデオ店でのアルバイト。
今も週5日働いています。
夕方5時からは弁当のチェーン店。
夜9時まで働きます。
時給は720円。
2つの仕事を掛け持ちしても月収は15万円を切ります。
非正規の仕事に就く人の割合は男女とも増えていますが女性の平均賃金は男性の8割にとどまっています。
蓄えを作る余裕はなくかづきさんは年金の保険料さえ払う事ができません。
かづきさんは働きづめの娘の体をいつも心配しています。
これからも休みの度に東京で働き学費を支払うつもりだというなつきさん。
大学卒業後は福祉関係の仕事に就き母親を支えたいと考えています。
なつきさんが滞在していたネットカフェ。
ここ数年女性の利用者が増えています。
ここでは定員64人の7割が長期滞在の女性です。
住民票をビルの住所に移し郵便物を受け取る事もできます。
料金は1日2,400円。
1か月以上滞在すると1日1,900円になります。
首都圏で4店舗に広がっています。
この店に最も長い期間滞在しているという女性。
畳1畳ほどの部屋に生活用品を持ち込み暮らしていました。
同じネットカフェに母親もいる事が分かりました。
彩香さんは41歳の母親とここに来たといいます。
(ノック)現在は派遣の仕事をしているという母親。
10年前に離婚してから娘を一人で育ててきましたが生活に行き詰まりここにたどりついたといいます。
彩香さんが頻繁に訪れる部屋がもう一つありました。
ちょっと…。
学校には半年近く通っていないといいます。
姉の彩香さんはコンビニエンスストアで週5日アルバイトをしています。
生活苦のため高校を中退した彩香さん。
ようやく見つける事ができた仕事でした。
およそ10万円のアルバイト代と母親から手渡される数万円が姉妹の生活費です。
毎日の食事は彩香さんがコンビニから買って帰ります。
一日1食。
空腹の時は店内の無料のドリンクバーでしのいでいます。
母と2人の娘はここに来るまでどのような暮らしをしてきたのか。
3年前まで住んでいたというアパートです。
母親は離婚後看護助手として働いていました。
しかし徐々に子育てと仕事の両立に疲れ生活は困窮していったといいます。
周囲の人や行政に頼る事はありませんでした。
彩香さんが小学6年生の時「私の夢」と題して書いた作文です。
「私のお母さんは私達のために朝仕事に行って夜帰ってきます」。
「お母さんに少しでもゆう福なくらしをさせてあげたい」。
「明日の食事を心配しない暮らしをしたい」。
それが姉妹の今の願いです。
(萌)ちっちゃい頃はね。
(取材者)いつぐらいまで?
(萌)小3とか。
中央大学教授の宮本太郎さんです。
誰しもがネットカフェの中でホントに社会から身を隠すようにひっそりと暮らしている困窮した姉妹の姿を見て衝撃を受けない人はいないと思うんですけれども貧困の問題そして社会保障の問題に深く携わってこられましてどのように受け止められますか?ネットカフェ難民という言葉はかねてからありましたけれども母子が一つのネットカフェの別々のブースに分かれて暮らしているという現実これはこの日本の現実なんだろうかという事でやはり衝撃を受けざるをえなかったですね。
女性や子どもの貧困という問題はこれまでもあった訳です。
しかしこれまで男性正社員が安定雇用を得て標準世帯妻子どもを養っているという事ができてた時代はこの問題はさほど深刻なものとは受け取られてこなかった訳です。
ところが今そのような安定雇用が崩れて失職したり病気になったりあるいは亡くなったりした時にその母子がすぐに貧困に巻き込まれていってしまう。
そしてその貧困が母子のみならずその更に子どもたちにも連鎖をしていってしまう。
あっという間に貧困が家族の中で連鎖をしていく。
まさに貧困連鎖社会とでも言うべき現実が現れているんだなという事だと思います。
ただ一方で社会の中では女性活用が叫ばれてさまざまな対応によって女性がより活躍できるようになっているのではないかいろんな機会が開かれてきているのではないかというイメージがありますけれどもその一方で全くそれとは逆の現実が生まれている。
なぜこうなってしまったんでしょうか?やはり女性特に若い女性は活躍できてるという印象を私たち持ってますよね。
しかも身なりなどを見れば仮に貧困であってもそう簡単に分からない訳です。
つまり若い女性の貧困というのは見えにくくなってる訳なんですね。
どういう事かというと例えば1999年に男女共同参画社会基本法という法律が出来ました。
しかしその同じ年に労働者の派遣法が改正をされてどの業種でも基本的に派遣ができるようになった。
つまり雇用の非正規化が同時進行した訳ですね。
だから一部の女性は確かにガラスの天井が無くなったそのチャンスをつかんで社会的に活躍をするようになった。
しかし数の上ではそれに勝る女性たちがここで貧困に巻き込まれていった。
こういう現実を私たちは見ておく必要があると思いますね。
15歳から34歳の若年女性の非正規の割合ですけれども1987年20%だったのが現在47%。
男性も同じようにこの間4倍に増えて今25%程度になっているんですけれども。
しかし女性がより貧困に陥りやすい。
またそこから抜けにくくなっているという現実はありますか?確かに非正規化というのは女性だけの問題ではないんです。
考えてみると雇用家族それから社会保障。
私たちの生活を支えてきた3つの柱がいずれも揺らいでいる訳ですね。
VTRにうかがえた女性の貧困というのは実は若年の特に単身の女性がそうした3つの柱の揺らぎを一番深刻に打撃として受け止めてしまっているという事だと思うんですね。
具体的に申し上げると今国谷さんおっしゃった非正規化です。
女性にとってこれまでの非正規っていうのは夫の安定した所得があってそれを補足補完するための所得を得るための非正規だった訳ですね。
ところが今自分の非正規としての所得だけで家計を担っていかなければいけないという…。
そういう非正規になってしまっている。
社会保障は特に単身の若年の女性へ支援してくれる支出は非常に少なくって彼女たちは社会保険料のような負担だけをしょい込んでいる。
雇用家族社会保障の揺らぎが一番深刻なダメージを及ぼしているのが若年の単身の女性であると。
こう言って差し支えないと思いますね。
なんとかして自らの力で困窮した生活から抜け出したい。
そして子どもの世代には連鎖させたくないと願う多くの女性たちがいます。
しかしそこには大きな壁が立ちはだかっていると感じる女性たちも少なくありません。
いらっしゃいませ。
2年前に大学を卒業してから契約社員の仕事やアルバイトで生計を立ててきました。
「観光に関わる仕事がしたい」と学生時代海外で学んだ事もある村上さん。
今も就職活動を続けていますが正規の仕事に就く事はできていません。
大学の時と同じアルバイト。
時給は当時と変わらず800円です。
福島県出身の村上さんは母子家庭で育ちました。
「大学を出て安定した暮らしをしたい」。
村上さんは大学を卒業するまでに奨学金516万円を借りました。
その返済が重くのしかかっています。
村上さんの大学時代の友人…齊藤さんはカラオケ店に正社員として就職できました。
一日10時間以上働いて手取りの収入は月15万円。
ボーナスもありません。
周囲の同世代の男性も同じような状況の人が多く結婚して出産する事は考えられないといいます。
子どもの世代への連鎖を断とうとして厳しい現実に直面する女性も少なくありません。
一人で子どもを育てる女性は年々増加しその数は124万人。
そのうち20代のシングルマザーの8割が年間114万円未満で暮らす貧困状態に置かれています。
近い近い近い!5歳の娘を一人で育てる…娘が1歳の時に離婚した広田さん。
食品の訪問販売やスポーツ用品店の非正規の仕事をしてきました。
顔…砂ついてる。
一人親に支給される児童扶養手当などおよそ5万円と合わせて生計を立てています。
よろしくお願いします。
「子どもの将来のために資格を取って生活を安定させたい」。
広田さんは保育士の資格を取るために去年から3年制の専門学校に通っています。
利用したのが一人親の資格取得を支援する国の制度です。
学校に通う間の生活費が2年間月10万円支給されます。

(ピアノ)専門学校に支払うのは3年間で380万円です。
ママハンガーってこれね…。
広田さんは学費をためるために子育てをしながら仕事を掛け持ちし一日10時間以上働きました。
その事で給付金が満額支給される所得の基準を超えてしまい月7万円しか受け取れない事になりました。
きれいに折れた。
広田さんは資格を取る事ができても子どもの成長を支えていけるのか不安を感じています。
生活が困窮する中で授かった子どもを手放す女性も増えています。
どうぞ。
どうも。
茨城県土浦市にあるNPO。
子どもを産んでも育てる事ができないという女性たちを受け入れ出産をサポートしています。
保険証と母子手帳…印鑑持ってるよね。
産まれた赤ちゃんは特別養子縁組みで子どもを求める夫婦のもとに引き取られます。
去年NPOに寄せられた相談は1,300件余り。
女性たちの半数以上が子どもを手放す理由として経済的に苦しい事を挙げています。
38歳の女性。
働きながら高校に通いその後も一人でギリギリの暮らしを続けてきたといいます。
予定日まで1か月もあるのにどうしようって…。
念願の子どもを授かりましたが恋人の男性の同意を得られませんでした。
自分の今の経済力では同じような人生を歩ませてしまう。
女性はNPOに子どもを託す事に決めました。
宮本さん今の生活では結婚する事を考えられないあるいは自分が妊娠しても産み育てる事ができないと思う女性たちが増えている。
そうなるとこのままでは日本全体の活力がどんどん失われかねないというそういった強い懸念を感じますね。
今政府は女性の就業を強化する事を成長戦略として位置づけている。
私はこれは非常に大切な考え方だと思うんですね。
ところがこのVTRに見られるような女性の働き方というのはとてもそういう就業とはかけ離れてしまっている訳です。
しかしここにはピンチをチャンスに転化していく可能性もある。
つまり女性たちは少しでも頑張って自分の手に職をつけて普通の生活がしたいという思いを口々に語っていました。
私たちがこの女性の思いを支えきるかそれともこの現実を放置してしまうのか。
これは日本社会全体の持続可能性に関わる分岐点に私たちは立ってるんだというふうに思いますね。
子どもへの連鎖ですけれども国も親の困窮した生活が子どもの将来を左右してはいけないとして新たな検討会を立ち上げて7月をめどに政府の大綱も打ち出そうという事にはなっているんですけれども…。
ホントにその連鎖を止めるためにはスピードをもって対応しなければならないですよね。
子どもの貧困というのは人道的道義的に放置できない問題であると同時に私たちのこの国が活力を持って続いていくために非常に重要な問題。
それを解決する事が重要になっているという事です。
しかも子どものうちにその貧困の芽を摘み取るという事は彼らが大人になってから対処するよりもずっと効率的でしかも彼ら自身も人生を充実したものにしていく事ができるという点で大切です。
家族の問題雇用の問題社会保障の問題大きく日本の状況が変化してる中でその矛盾が若い女性に集中して困窮した生活という事で今現れ始めている。
この事を解決するさまざまなメニューも出されてはいるんですよね。
確かにいろんな施策は出てきています。
ところがそうした制度っていうのは行政のいろんな部門にバラバラに分散していてどこに行けば何がどう解決されるのか皆目分からないという状況迷宮のような状況になってる訳です。
だから制度全体を刷新していくのと併せてこの制度間の連携を一人一人のニーズに合うような形で調整をしてつなぎ合わせていく。
そういうコーディネーター的な役割も求められてる。
これができると一つ一つの制度が大いに生きていくという事になると思います。
そしてホントに見えにくくなっている困窮した状況にある女性たちに積極的に呼びかけていってほしいというふうにも思います。
こうした現実をどう発見していくか。
ネットカフェのドアの奥にこの問題が隠れてしまっているという面はある訳ですけれども…。
これをどう発見しかつ一人一人の個別のニーズに向かい合っていくか。
繰り返しになりますけれどもその解決が日本社会の活力につながるという事は強調したいと思います。
今日はどうもありがとうございました。
中学を卒業してから家族を支えるため働いてきた…今月から専門学校の夜間コースに通う事になりました。
こっちが上着です。
入学式のために初めて買ったスーツ。
新しい文房具。
全て自分でそろえました。
夢だった保育士を目指します。
おめでとうございます。
おめでとうございます。
撮りまっせ。
いいすか?鷲見さんが自ら働いてつかんだスタートラインです。
先週。
この日も鷲見さんは朝5時に仕事に出かけていきました。
いつか安心して暮らしていける日が来るのを信じて。
働き続ける日々がまた始まります。
2014/05/01(木) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困〜“新たな連鎖”の衝撃〜」[字][再]

今、働く世代の単身女性の3分の1が年収114万円の暮らしを強いられている。特に深刻化しているとされるのが若年女性の貧困である。「新たな貧困」を見つめていく。

詳細情報
番組内容
今、働く世代の単身女性の3分の1が年収114万円の暮らしを強いられている。その中で特に深刻化しているとされるのが15−34歳の若年女性の貧困である。家族を養うために朝5時から働く19歳の女性。家賃が支払えず、ネットカフェで暮らす母娘。取材を進めると、親の世代の貧困が、若年女性へと連鎖していることが明らかになってきた。最前線のルポから社会を襲う「新たな貧困」を見つめていく。【キャスター】国谷裕子
出演者
【キャスター】国谷裕子,【語り】上田早苗

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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