アスリートの魂・選 2014.05.01

巨人菅野智之投手です。
プロ2年目の初日の出。
ルーキーとして臨んだ去年およそ150キロのストレートと多彩な変化球でチーム最多タイの13勝。
日本シリーズ第6戦では楽天田中将大投手と対決。
その不敗神話をただ一人破りました。
未来のエースとして期待を集めています。
去年以上の活躍が求められるシーズン。
取り組んだのは自らの原点ストレートを強化するための徹底的な投げ込み。
更なる成長を遂げたい。
今年の結果にこだわっています。
その挑戦を支えるのは伯父原監督への思い。
いつも比べられてきました。
いつか「原辰徳の甥」としてではない自分の存在を認めさせたい。
きっと乗り越えてみせる。
そしてエースを目指して。
心に誓って自らを追い込んだ闘いに迫りました。
アメリカ南西部アリゾナ。
菅野投手です。
(取材者)よく眠れましたか?はい。
大丈夫です。
毎朝8時この施設で自主トレーニングをしていました。
大リーグの選手に交じってのトレーニング。
日本ではこの時期多くの選手がまだ休暇の真っ最中です。
2年目としては異例の年末年始の海外自主トレ。
更に上を目指すからこその取り組みです。
(場内アナウンス)「9番ピッチャー菅野。
背番号19」。
去年菅野投手はおよそ150キロのストレートそしてカーブスライダーなど多彩な変化球で打者を翻弄。
13勝6敗防御率3.12という巨人先発陣では最高の成績を収めました。
全ての球種を投げれるというところがやっぱり器用だなと思いますしすごいなと。
そこでストライクも取れるし勝負球でも使えるんで。
まあ菅野のマックスのボールというのは大体150キロ…149〜150キロってとこなんですけどそのタイミングが合った時のボールというのはすさまじいボールだと思います。
アリゾナで取り組んだのは基礎体力を強化するトレーニング。
空気抵抗で負荷をかけピッチングに必要な下半身を強化します。
重いハンマーでタイヤをたたくトレーニング。
弾力性のあるタイヤを全力でたたく事で腕への衝撃を抑えながら同時に体全体の瞬発力を鍛える事ができます。
更に力強く生まれ変わる。
そこには今シーズンに懸ける菅野投手の決意がありました。
来年はもう…何て言うんですかね本当のプロ野球選手としてのスタートが始まるというかそういう気持ちで僕はいるんでしっかり覚悟を持って臨まないといけないなというふうには思いますね。
特に菅野投手が満足できなかったものがあります。
それはストレートです。
ストレートはアマチュア時代から菅野投手が武器としてきた球種です。
しかし去年シーズン後半になって菅野投手のストレートは打ち込まれるようになりました。
前半戦2点台だった防御率は8月に5点台になるなど急落。
スタミナがもたず球威が衰えてしまったのです。
シーズンを通して相手を抑えきれるストレート。
菅野投手にとって乗り越えなければならない課題です。
開幕までに強力なストレートを身につける。
闘いが始まりました。
1月。
帰国した菅野投手。
(取材者)眠いんじゃないですか?子どもの頃から初詣に通っている神社です。
中学高校大学。
いつもこの場所で新たな目標を掲げては挑んできました。
プロ2年目の飛躍を誓います。
毎年恒例のおみくじ。
(取材者)いいですね〜。
今年何吉だ?お〜一番いい!
(取材者)えっ?末吉です。
いや僕言わなかったですけど末吉が出てほしいと思ったんですよ。
(取材者)何でですか?菅野投手はキャンプ直前のトレーニングに入りました。
ストレート強化のために取り組んだアリゾナでの体力作り。
その成果をブルペンで試します。
手を確認するようなしぐさをしています。
また。
何度も気にします。
手首が僕は寝ちゃうのでそれをなるべく立てる…。
立てるというよりも一番力が入るポジションに持ってくるという。
やっぱり切れであったりとか球の回転というのが間違いなくよくなると思うので。
菅野投手のストレートの投球フォームです。
ボールを離す瞬間手首が斜めに寝ています。
手首をまっすぐに立てると投げたボールの軸が水平になります。
力が横方向に逃げる事がなくより伸びと切れのあるストレートが投げられるというのです。
野球解説者の与田剛さん。
この試みは菅野投手にとって大きなリスクになると指摘します。
実際に完全にオーバースロー上から投げるタイプのピッチャーであれば手首の角度は分かりやすいと思うんですが少しスリークオーター気味に投げていきますのでこういう状態で投げていきながら手首を立てるという事はまず難しいしありえない事なんですが…。
菅野投手の長所はこの軸がぶれないフォーム。
下半身から上半身へ力を伝える時常にまっすぐな姿勢が崩れません。
安定した状態でボールを離すこのフォームは理想的といわれます。
しかし手首を立てる意識が強すぎると体の軸が傾き理想的なフォームを崩してしまう危険性があるのです。
自分の体がどういうふうに動いていくのかというのは常日頃から練習の中で感覚を磨いていかなければいけませんし。
ただそれでもねなかなかできない事なんですけども。
フォームが乱れるリスクを冒してでも強いストレートを手に入れたい。
できる限り手首を立て力の入るポイントを探ります。
練習中の事です。
突然菅野投手が取材陣に話しかけてきました。
(取材者)見られますよ。
私たちが撮影した映像で自らのフォームをチェックし始めました。
一つ気になる事を見つけました。
いや悪くないと思います。
前半ちょっとばらつきありましたが後半の方は修正して投げられたという…。
こちらは菅野投手が目指す手首が立った状態。
一方こちらは手首が寝ています。
安定していないというのです。
僅かな角度の差。
しかし理想を追い求めるためには無視できない。
いつまでも投球を振り返っていました。
菅野投手は24歳。
都内で1人暮らしをしています。
(取材者)お〜!家に帰っても気になるのは野球の事。
この日は巨人の開幕投手争いの報道に見入っていました。
野球との出会い。
そこには切っても切り離せないある人の存在があります。
菅野投手は…母の兄は現在の巨人監督原辰徳さんです。
(場内アナウンス)「4番サード原」。
(歓声)原監督はかつて10年以上にわたり巨人の4番を務めたスター選手。
憧れの存在でした。
引退試合でも最後となる382号ホームラン。
ファンに感動を与えるその姿に魅せられ野球の道へと進みました。
非凡な才能の菅野投手は小学校中学校でも投打に活躍。
しかしそれはあまり評価されませんでした。
周りからはできて当たり前だと思われていたんで。
やっぱりそれはつらかったですよ。
高校2年の夏今も忘れられない出来事があります。
5回3失点という平凡な投球にもかかわらず原監督の誕生日に投げただけで新聞に大見出しで掲載されたのです。
自分としてはやっぱり面白くない訳です。
反省しないといけない点が多々あった試合ですし満足なんか一個もしてない。
周りの目も「何だあいつあんなピッチングしてこんな新聞の一面になんか載ってんだよ?」みたいな。
それがもう忘れられなかったですね。
その感覚が。
偉大な伯父への複雑な思い。
原監督もそれを感じていたといいます。
いやもうよくお風呂に入れたりプールに入れたりねそれはしましたね。
私の息子と年が変わらなく。
まあしかし彼が中学校ぐらいになったら僕を見る目が伯父さんの目じゃなくて何か野球人…まあ巨人軍の監督という目で見たような気がしますよ。
原監督の功績を超えたい。
大学はあえて同じ東海大に進み伯父が成し遂げられなかった大学日本一を目指しました。
背番号は19番即決致しました。
卒業後も1年浪人してまで巨人に入団。
全てはいつか原辰徳の甥ではなく菅野智之として自分を認めさせたいという思いからでした。
何か事があるごとに「原監督の甥っ子だ原監督の甥っ子だ」。
「原監督の甥菅野」。
ちっちゃいやつが「菅野」って。
分かります?新聞の見出しで。
それがもう…。
嫌だっていう感覚とはまたちょっと違うんですよね。
「何でだろう?」っていう。
だから僕はもうそれがとにかくモチベーションでしたね。
これを逆にするんだっていう。
それが夢な訳です。
菅野の伯父さんは実は原監督だったって。
最終的にはやっぱりそこが目標なんで僕の中では。
菅野投手を支える覚悟です。
1か月にわたるキャンプが始まりました。
先発ローテーションに入るのは6人。
中でもこの一年チームの中心となるべきピッチャーに言い渡されるのが開幕投手です。
初日から全員がブルペンに入っての開幕投手争い。
いち早く体作りを始め仕上げてきた菅野投手。
取り組んできたストレートを試したい。
その絶好の機会が訪れました。
元ヤンキースの松井秀喜さん。
臨時コーチとして菅野投手を相手に打席に立ってくれたのです。
またとない機会。
1球目からストレート。
2球目も。
ストレートにこだわります。
首脳陣が見つめる大先輩との対決。
ストレートをアピールする事ができました。
球に力もあるしねコントロールもいいですし。
やはりね去年あれだけのピッチングをしたなという。
そういうものはね十分感じられましたけどね。
その2日後の事です。
この日の朝のトレーニング。
いつものようにウオーミングアップを始める菅野投手。
その合間。
しきりに体をほぐすような動きをしていました。
キャッチボール。
肩を気にしています。
異変が明らかになったのはブルペンでの投球練習。
菅野投手は投げませんでした。
背中の故障でした。
これまで味わった事がないほどの痛みだったといいます。
無理をして投げ込んだ事が発端でした。
その後およそ1週間菅野投手はブルペンに入る事ができませんでした。
投げられずひたすらトレーニングだけの日々。
大幅に出遅れる事になりました。
開幕があと43日に迫っていました。
2月も後半。
キャンプ地は沖縄へ移りました。
主力が引き揚げたあとのブルペンに菅野投手の姿がありました。
背中にはまだ痛みが残っています。
間もなくオープン戦。
休んではいられませんでした。
最初のオープン戦です。
菅野投手マウンドに上がりました。
今年初めてバッターにストレートを投げる機会。
しかし…。
2ストライクと追い込んでもストレートで空振りが取れません。
フォアボールを出してしまいます。
ランナー三塁のピンチ。
ストレートを外野に打たれます。
2回を投げて3安打2失点でした。
何としても後れを取り戻したい。
この日エース内海投手の隣で投げ込みに臨みました。
うあ〜!うあ〜!予定の球数を過ぎます。
しかしやめません。
およそ1試合分105球に及びました。
3月。
ストレートが走るようになってきました。
空振り。
振り遅れ。
4試合で防御率は1.59。
主力先発陣の中でトップの成績でした。
(司会)昨日でオープン戦全て終了しました。
オープン戦が終わりました。
(司会)原ジャイアンツでございます。
開幕直前の激励会。
(拍手)しかし彼にとっても開幕投手っていうのは特別でしょう。
しかし一人で戦う訳ではありません。
気負う事なく平常心の中戦ってもらい…。
開幕投手は球団の顔。
入団2年目の投手が務めるのは巨人では14年ぶりの事です。
菅野投手の成長。
それを原監督は感じていました。
目指してきた開幕投手。
今シーズンを占う大事な舞台です。

(場内アナウンス)「開幕投手ピッチャー菅野智之!」。
開幕戦の相手は阪神です。
「ストレートを投げきる」。
そう決めていました。
第1球。
ストレート。
ボールでした。
しかし力を込めて投げられました。
その後もストレートで押します。
見逃し三振。
150キロ。
バットを折ります。
2回まで無失点で抑えます。
しかし3回菅野投手は攻め方を変えます。
ストレート狙いを警戒して打者2巡目は変化球でと考えました。
これが裏目に出ます。
変化球が打たれます。
ランナー二塁一塁のピンチ。
迎えたのは阪神の4番ゴメス選手。
スライダーでした。
この回一気に4失点。
ストレートを避けた事で喫した失点でした。
その後味方の打線が奮起。
4点を返して勝負は振り出しに戻りました。
ところが5回。
2アウトランナー三塁のピンチを迎えます。
そして…。
打席には先ほどタイムリーを打たれたゴメス選手。
打たれれば再び勝ち越されます。
抑えなければならない場面。
初球。
投げたのは胸元への146キロのストレート。
ゴメス選手打席を外します。
そして3球目。
ストレートの軌道から僅かに手元で曲がるシュート。
こだわってきたストレートを初球に見せた事でピンチを乗り切る事ができました。
チームは12対4で勝利。
菅野投手は勝利投手となりました。
2年目の投手が開幕戦に勝つのは巨人では54年ぶりの快挙です。
この3か月間目標としてきた開幕戦。
納得できるストレートを投げられたのは結局序盤だけでした。
このままでは終われない。
理想のピッチングを手に入れるため今日も試行錯誤が続いています。
とにかく僕は野球が好きなので好きな事で一番になりたいって思うのは当たり前のように僕はとにかく一番になりたいです。
菅野智之投手24歳。
更なる高みへ。
立ち向かいます。
2014/05/01(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂・選「きっと越えてみせる 巨人 菅野智之」[字]

巨人の開幕投手、菅野智之投手に密着。昨季ルーキーながらチーム最多タイの勝利数と先発陣トップの防御率で好成績をおさめ、今季さらなる飛躍を誓う菅野投手の挑戦を追う。

詳細情報
番組内容
昨季ルーキーながらチーム最多タイの13勝をあげた巨人の菅野智之投手。今季はストレートの強化を宣言、オフに2年目としては異例の海外自主トレを行った。さらに年間200イニング登板という大きな目標も掲げる。決意の裏には原辰徳監督を伯父にもつ球界きっての名門として常に周囲から見られてきたことへの反発心がある。誰もが認める巨人のエースになるために。強い覚悟で開幕にのぞむ菅野投手の闘いを追う。語り:萩原聖人
出演者
【語り】萩原聖人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 野球

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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