(青山陶子)先生!お時間ですよっ!
(陶子)お時間です。
(神津恭介)そうか。
ありがとうございます。
頑張ってください。
(大田俊太郎)ジャンルの違う先生お2人。
それも人気のあるお2人のジョイントならきっと成功すると信じてたんだ。
(ピアノの演奏)
(ピアノの演奏)
(ピアノの演奏)
(ピアノの演奏)
(拍手)
(二宮由紀)すてきでしたわ。
いやお恥ずかしい。
(佐竹薫)先生!あぁこれはご夫婦おそろいで。
今夜は先生にお会いできるんじゃないかしらと思ってました。
(佐竹明彦)家内は君のファンだから。
あら…こちら今売り出しの新進作家の二宮由紀さんでは?先生も隅に置けないわ。
ご紹介します。
こちら同じ大学でアメリカ文学を教えている佐竹助教授。
奥さんの薫さんです。
初めまして。
二宮由紀です。
佐竹先生にはカルチャースクールの講座を聴講させていただいたことが。
あそうだったんですか。
ご一緒してもよろしいかしら?
(佐竹)ご迷惑だよ。
あら…久しぶりに先生にお会いできたんですもの。
よろしいでしょ?まあどうぞどうぞ。
あら私もワインいただきたいわ。
(店内のBGM)あら…アガーテのアリア。
ほう…お好きですかオペラ?ええ。
イタリアオペラが好きですけれどでもドイツ・ロマン派オペラを切り開いたこの『魔弾の射手』も。
僕もです。
あら私も大好きだわ。
『魔弾の射手』。
射撃大会で優勝できれば恋人アガーテと結婚できる。
(薫)そのために狩人マックスは悪友にそそのかされて悪魔に魂を売りその代償に…魔弾7発を手に入れる。
…バーン!…ところが悪友の陰謀によって最後の一発はアガーテに当たるはずだったが森の隠者の助けでアガーテは救われ逆にその悪友が魔弾に倒れる。
(薫)そして魂を売った罪で追放を命じられていた狩人マックスはその罪を許されてめでたしめでたし…。
けど私自分の思いがかなうなら必ず自分の思う標的に当たる魔弾が手に入るのなら…魂だって売ったってかまわないわ。
いやぁ皆さんおそろいで!あなた…。
主人ですの。
(二宮寛次)二宮です。
お見知りおきを。
これはどうも…。
あ…これは神津先生ですね!お顔はテレビやご本で拝見を。
今日は女房がいろいろとお世話になりまして。
いやぁちょっと一言お礼をと思いましてね。
これはどうもご丁寧に。
あなた酔ってらっしゃるのね。
失礼して一緒に帰りましょ。
いやっ!…いいんだ。
君は楽しんで帰ってきなさい。
僕もちょっと人と会う用があるんでね。
皆さんそれじゃ!…申し訳ございません。
お騒がせして。
いえ…。
ご夫婦仲がよろしくてうらやましいわ。
ねぇあなた?
(ウェーター)…お電話が入っておりますが。
もしもし。
佐竹ですが。
(男の笑い声)
(佐竹)…もしもし?
(男の声)「私ですよ」
(二宮)先生…私。
(笑い声)
(二宮)皆さんの前でお話をと思ったんですがね先生のお立場ってものがあると思いましてね。
例の写真…マスコミに流されてもよろしいんですかね?君…!大学の先生が女子高生と援助交際だなんて…喜びますよマスコミの連中。
名門の奥さまにも知られたくないでしょ?頼む…二〜三日待ってくれ。
金は必ず…!きっとですよ…。
(由紀の声)「先日は楽しい夕べをありがとうございました」「ピアノのお礼にほんの心ばかりのものを」「私が育てたバラ今朝花開いたバラです二宮由紀」へぇ〜すばらしいバラだね。
先生きれいなバラには棘があるっていいますよ。
でも由紀さんがバラ作りもするとは知らなかった。
今ガーデニングってはやってるんですよね。
…私だってその気になればバラの一輪や二輪。
お待たせ!やっと上がったわ!お疲れさまでした!ありがとうございました。
お腹すいたでしょう?なんか軽い物でも作るわ。
僕ならおかまいなく!私もペコペコなの!おうどんでいいかしら?
(大田)すみません。
・
(電話の音)…主人かしら?二宮でございます。
…あ昭栄出版さん?何度もお電話してすみません。
…いかがでしょうか?そうあと…2時間ぐらい。
(キャッチホンの音)ちょっと待ってね。
割り込み電話が入ったみたい。
もしもし二宮でございますが。
もしもし…?どうかなさったんですか?…なんだか変なの。
またいたずら電話かしら?僕が代わりましょう。
もしもし。
(ボイスチェンジャーの声)「ご主人は殺された」えっ!?「二宮寛次は殺された」「死体は月島2号埠頭の倉庫に捨ててある」二宮さん殺されたってどういうことなんですか!?ちょっとあなたいったい…?もしもしっ!?
(大田)2号埠頭の倉庫はここですね。
倉庫の中を調べてみます。
車の中にいてください。
・
(大きな物音)
(ネコの鳴き声)主人はどうでした?何も見当たりません。
やっぱりいたずら電話だったんですよ。
あ…!何かあそこに…。
(パトカーのサイレン)
(大田)先生…!大丈夫ですか?神津先生…!あなたは車の中で休んだほうがいい。
(野上警部)神津先生。
お知り合いだったんですか?彼から電話もらいましてね。
仏は…絞殺です。
(野上)紐のようなもので首を絞められたようですな。
…バラのようですね?ええ。
見てくださいこれ。
バラの花…。
(野上)日本人も変わりましたな。
男が胸にバラを飾るなんて。
殺害現場はここではないようですね。
(野上)どうしてわかります?靴を見てください。
かかとに引きずった跡がある。
(野上)なるほど!どこか別の場所で殺害してここに死体を捨てたというわけですな。
(アナウンサー)「昨夜遅く月島の倉庫街で男性の絞殺死体が発見されました。
この男性は二宮寛次さん41歳で新進女流作家として注目を浴びる二宮由紀さんのご主人であると判明しました。
捜査当局は所持金には手が付けられていないことから怨恨によるものではないかと…」行ってくる。
(薫)行ってらっしゃい。
アッ…!
(野上)すると電話の声は聞いておられんわけですな?はい…。
私が出ましたときにはもう切れてしまった後で…。
ご主人の二宮寛次さんは準大手の大芳証券の営業マンだったそうですが3年前に退職なされたとか?…はい。
私たちが結婚したのは12年前…証券業界がピークのころでした。
二宮はそれは生き生きと仕事に打ち込んで…収入もよく…子どもができないことを除けば…幸せでした。
ところが3年前バブル崩壊後のリストラで二宮は会社を…。
…でご自分で会社を設立して投資のコンサルタントみたいな仕事を始められたわけですね?はい…。
(野上)だが仕事は思うようにはいかなかったようでしてね。
見違えるように人が変わって生活も荒れ奥さんの由紀さんに当たり散らしときには暴力さえ振るうようになったようです。
由紀さんは…そんな日々の息苦しさから逃れたい一心で少女時代から好きだった小説を書くことを始めた。
それが彼女の運命を変えたというわけか…。
だが二宮寛治は文学には無縁の男。
由紀さんの収入が多くなると無断で彼女の預金から金を引き出したり夫婦仲はすさんでいたようですな。
だったら動機の点からいうと由紀さんも容疑の圏内に入るってことですね。
(野上)せっかくのご意見ですが由紀さんには完全なアリバイがありましてね。
どうぞ。
ローズティーです。
おっ…バラの紅茶ですか。
いただきます。
このオフィスこのごろバラに凝ってるんです。
野上さん。
そのアリバイというのは?ええ。
死亡推定時刻は昨夜の9時から11時なんですが9時半から創芸出版の大田くんが原稿を取りに来ていましたしおまけに横山みどりという女性週刊誌の編集者が9時と11時に電話をかけてきてます。
〔ええ。
確かに9時と11時にお電話しました〕〔お願いしているエッセイの原稿ができていないかと9時にお電話したんですが「まだできてないので2時間ほどしてもう一度電話してくれないか」とおっしゃられて〕〔それで2度目の電話が11時…〕〔正確には11時5分ぐらいでしたでしょうか?〕〔そのとき割り込み電話が入って〕割り込み電話…?それは男の声だったんですか?
(野上)それがどうもはっきりしないんですよ。
大田くんの話では声を変えていたようでしてね。
よくテレビで声を変えて流すでしょ?妙な声で男とも女とも…。
しかしなぜ犯人はわざわざ電話で二宮さんを殺害したことを知らせてきたのか…?で…二宮さんに恨みを持っている者はどうなんです?
(野上)それが大ありで!二宮寛治は神田にある雑居ビルに小さな会社を持ってたんですがまぁ会社といっても電話番の女の子がいるだけですがね。
投資コンサルタントなんて実際はいかがわしいもんだったようで。
家宅捜索したらメモが見つかりましてね。
…メモ?二宮寛治が勤めていた大芳証券の内部告発のメモです。
(野上)メモには大手の証券会社とほとんど同じ手口で総会屋に利益供与していた大芳証券のカラクリが詳しく記されてました。
(石黒)〔二宮くんはすでに3年前当社とは縁が切れていますので当社と何の関係も…〕
(野上)〔彼にこのメモのことで強請られてたのと違いますか?〕〔とんでもございません。
メモに書かれてることも事実無根です〕〔…だったらこのメモを検察に回してもよろしいですね?〕
(神津)二宮さんは強請っていたんですね?
(野上)もちろんその総務部長は否定してましたがメモをネタに大芳証券を恐喝してたのは間違いないでしょう。
自分をクビにした会社への復讐という思いもあったのかもしれませんな。
それに彼には確かなアリバイもないんですよ。
するとその石黒って総務部長が有力な容疑者ってわけですか?それが強請られていたのはもう一人いたようでしてね。
もう一人?はい。
この写真を見ていただきたいんです。
実はこれを見ていただきたくて伺ったんです。
二宮の会社のデスクの引き出しに大事にしまってあったものです。
《これは…!》
(読経)
(野上)城京大学文学部助教授佐竹明彦さん。
あなたに間違いないようですな。
…はい。
野上さん。
なにもこんな所で…。
いやいいんだ。
この写真のことでいつか見えると思ってました。
神津くん。
君も一緒にいてくれ。
渋谷の街で声をかけられて…。
それで…ラブホテルに入ったんですか?だが何もしてない!あの子には指一本触れてない。
だったらなぜラブホテルへなんか?それは…。
なぁ佐竹。
やましいことがないんなら何もかもきちんと話したほうがいい。
魔が…差したとしか…。
本当です。
誓って何もしてない!そうだとしても写真を撮られてしまった。
二宮寛治に強請られてたんでしょ?彼から連絡があって二〜三度会いました。
500万持ってこなければマスコミにばらすと…。
(野上)500万…?
(佐竹)100万はすでに渡したが二〜三日後にとりあえずもう100万円用意しろと。
(野上)3日後つまり事件当夜あなたは約束どおり二宮寛治に会った。
(野上)二宮の会社の電話番の女の子が証言してますよ。
(野上)事務所の金庫に100万円が手つかずで入ってました。
確かに…100万円渡して彼の事務所近くの喫茶店でお茶を飲みました。
でも…6時ごろには彼と別れてます。
(野上)その6時以降はどちらに?
(佐竹)刑事さん私を疑ってらっしゃるんですか?
(野上)いやいや。
関係者の方には皆さん伺うことになってます。
(佐竹)銀座に出て映画を見ました。
家に帰ったのは10時半ごろだったと思います。
(野上)それを証明してくださる方いらっしゃいますか?いや…それは…。
・
(薫)それ以上お答えする必要はないわ。
主人が何をしたとおっしゃるんです?奥さん!この恥知らず…!お父さまの顔に泥を塗る気!?
(野上)奥さんもこのことご存じだったんですか?私が…?私がどうして知らなければいけませんの?
(薫)由紀さん…あなたがいけないんだわ。
ご主人を放ったらかして小説なんかお書きになるからこんなことになるんだわ。
(大田)何をおっしゃるんです!?由紀先生は一生懸命無理を言うご主人に尽くしてこられたんだ!いいのよ大田さん。
(大田)いやいくら何でも…!
(薫)そうだわ大田くん。
あなたが犯人なんじゃない?見るに見かねて憧れのマドンナのためにひと肌脱いだ。
そうなんでしょ?ホホホッ…!参りましょ。
待ってください。
まだお話が…。
それでしたら弁護士を通してくださいな。
行きましょ。
何様のつもりだ?いくら父親が名門女子大の学長だからって名門意識まる出しじゃないですか。
《殺された二宮寛治に脅迫されていた男が2人…》《それに由紀さんに憧れを抱いていた男大田》《そして薫さんか…》
(銃声)ほんと大変なご葬儀でしたね。
…本当に何も知らなかったのかね薫さん。
えっ…?野上さんや由紀さんにまで当たり散らし怒りかたが普通じゃなかった。
人間痛いところを突かれると過剰に反応するものだ。
(銃声)じゃあ先生はご主人が脅迫されてたの知ってたんじゃないかっておっしゃるんですか?おそらくね…。
だとすると薫さんにも充分動機があることになりますよね。
ご主人の名誉を守るため…ううん。
そればかりじゃなく名門である家名を守るために…。
いずれにしろ事件を解く鍵はバラの花だ。
バラの花…?殺された二宮さんが胸に差していたバラ…。
あのバラはどこで…?
(銃声)
(大田)先生。
いやぁ…これはどうも。
先日の葬儀にはご丁寧にありがとうございました。
いえ…いろいろ大変でしたね。
(大田)由紀先生のお力になっていただければと僕が強引にお連れしたんです。
このままでは…主人は浮かばれません。
どうかお願いです。
事件の解明に先生のお力をお貸しください。
単刀直入に伺いますがあなたはご主人が佐竹を強請ってたことご存じでしたか?いいえ…。
警察では佐竹先生を疑ってるようですけどとても私には信じられません。
こういう訊きかたは失礼だと思いますが…佐竹とは個人的なおつきあいはありましたか?実は2年ほど前私が書いた小説まがいのものを佐竹先生に読んでいただいたことがありますがそれ以後は…。
先日神津先生とご一緒に“ルクルス”でお目にかかるまで一度も…。
今度の事件ではみんなそれぞれが嘘をついている…。
どうもそんな気がしましてね。
嘘…?私もその一人だと…?…違いますか?沖アケミさんですね?
(野上)君に間違いないようだね?うん。
すてきなおじさんだった!…すてきだ?君みたいな高校生をラブホテルに連れ込むような男のどこがすてきなんだっ!?だって私には指一本触れなかったんだよ。
それなのにお小遣い5万円もくれちゃって。
ちょ〜ラッキー!この親不孝者めがっ!!俺にも…彼らと同じようなころがあったなんて信じられない。
なんにも考えないでただひたすらボールを追いかけてたころが…。
お前は…殺してないって言ったな?信じていいんだな?殺してやりたい…一瞬そう思ったさ。
でも本当に殺してなんかいないんだ。
でもなんだってあんな写真を撮られるようなことを…?そっちのほうが俺には信じられない。
何か人に言えないような特別な理由でもあったんじゃないのか?…魔が差したのさ。
どういうおつもり?父の家にまで押し掛けてくるなんて。
ご主人のことでもう少しお伺いしたいことがありまして。
お話しすることはございません。
(ため息)…あら!どうも。
どういう風の吹きまわしかしら?先生が来てくださるなんて。
ほう…きれいなバラですね。
私バラが大好きなの。
ことにこの“レッドデビル”が大好き。
すてきな名前でしょ?マンションにもここにもこれしか飾らないのよ。
“レッドデビル”…赤い悪魔ですか。
先生も…佐竹を疑ってらっしゃるの?いやそのことなんですが…。
10時半にあいつが帰宅したというのは間違いないんですね?ええ。
佐竹が帰宅した直後私が帰宅したんですもの。
間違いないわ。
それまで薫さんどちらに?私…?私は…このギャラリーにいたわ。
お一人で?ええ…。
パートの女の子は5時には帰ってしまったし…。
いやだ…私を疑ってらっしゃるの?いやそうじゃありません。
(石黒)まいったな…。
私は何もやましいことはないんですから。
あなたもいかがです?気分がスカッとしますよ。
(石黒)いやいや私は…。
実はですね…あの事件の晩二宮があのギャラリーの女性と会っているのを見たんですよ。
そう…7時ごろでした。
奥のオフィスに消えて15分ぐらいして二宮は帰っていきました。
二宮さんと…薫さんが?薫って女性も強請られてたんじゃないかな?石黒さん…あなたのようにですか?それにしても事件の晩なぜあなたはあのギャラリーに?それは…。
あなたも二宮さんと会う約束があった。
…違いますか?そうなんですね?ギャラリーの前で7時に会う約束だったんです。
(石黒)ギャラリーから出てきた二宮と5分ほど話して別れました。
別れたんですね?
(石黒)二宮は忘れ物をしたとか言ってギャラリーへ戻っていきました。
それきり二宮とは会ってません。
そのとき二宮さん胸にバラの花を差していましたか?バラの花?…さあ?コートを着てましたからね。
いやぁ遅くなりまして!あぁどうでした?いやはやあの女性にはまいりましたよ。
〔私が…?〕
(野上)〔はい〕〔私がどうして二宮さんとお会いしなければなりませんの〕〔何かのお間違いじゃございません?〕
(陶子)どちらかが嘘をついてることになりますね。
佐竹助教授の奥さまか大芳証券の石黒部長か。
その後の二宮さんの足取りは?それがぜんぜん。
石黒部長の言うとおりだとしても7時半前後からの足取りは依然不明です。
今のところ動機を持ちアリバイがはっきりしないのは佐竹助教授…奥さまの薫さん…石黒部長…この3人ですね。
神津先生にはなんなんですがやっぱり私は佐竹助教授が本ボシとにらんでます。
なぜなら佐竹助教授は二宮寛治と喫茶店で別れた後彼は二宮のあとをつけてギャラリーに入るのを見た。
妻にまで接触しているのを見て逆上。
ギャラリーから出てきた二宮寛治を誘い出し殺害した。
時間的にもドンピシャリです!いやしかし…それは野上さん…。
まぁまぁ見ててください!今度ばかりは先生の手を煩わせないで済みそうですよ!先生…。
先生お待たせしました。
わぁ神津先生じゃない!いつもテレビなんかで見てます!アケミさんですね?はい。
沖アケミ16歳です!なんでも好きな物をどうぞ。
じゃあ…アイスクリームいただきます。
あらどうしたの?言葉遣いも態度もまるで変わっちゃって。
人によって態度を変えるんです。
常識ですよ!…コーヒーちょうだい。
とにかく私に話してくれたこと先生にもお話しして。
あのね街でね私から声かけたの。
でもねなんかあのおじさん変なの。
いったん通り過ぎようとしたんだけど私のこのペンダント目に留めてね…。
(佐竹)〔このペンダントは…?〕
(アケミ)〔これ?これママの形見〕そしたら少し話そうって言うから近くのラブホテル案内したの。
指一本触れようともしなかったのはいいんだけどその代わり身の上話さんざんさせられちゃって。
〔どこで…生まれたの?〕
(アケミ)〔ニューヨーク〕
(佐竹)〔ニューヨーク?〕〔ママはねモダンバレエのダンサーだったの〕〔名前は沖沙也加っていうんだよ〕〔…おじさん知ってんの?〕〔あ…いや…〕〔で…お父さんは?〕〔パパは私が1歳のときに交通事故で亡くなったってママそう言ってた〕〔ママねとってもかわいがってくれたの〕〔だからパパいなくてもとっても幸せだった〕〔でも2年前ママは…病気で死んじゃった〕〔で…2年前私埼玉に住むおばあちゃんを頼って日本に帰ってきたってわけよ〕〔苦労…したんだね〕〔ううん。
私へっちゃら。
だってママが守ってくれるもん!〕
(アケミ)パパのことなんにも知らないけどでもあんな人がパパだったらなってそう思えるような優しい人だったんだよ。
よかったら…そのペンダント見せてくれるかな?
(アケミ)パパが手作りしたのをねママにプレゼントしたんだって。
だから世界中にこれ一つだけなの。
じゃあね!あ…最後に一つだけ。
アケミさんはそのおじさんを誘うよう誰かに頼まれたんじゃないのかな?頼んだのはこの人かな?当たり!このオヤジ。
どうしてわかったの?すご〜い!前に一度ね渋谷で声かけられて食事に行ったことがあるの。
そのときのオヤジだよ。
そう…。
その二宮さんがあなたに佐竹助教授を誘うよう声をかけてきたって言うの?
(アケミ)うん。
ラブホテルへ誘い込めばお小遣いもらえるって言うし。
それにね部屋に入ったらすぐに助けに来てやるって言うの。
だからオッケーしちゃった。
そうか。
じゃあアイスクリームごちそうさまでした。
驚いたわ…。
二宮さんが仕組んで撮った写真だったなんて。
あのペンダント…ママの形見がアケミちゃんを救ったんですね。
「FromKtoS」か…。
「S」はアケミちゃんのママの沙也加さんの「S」として…「K」っていうのは…?佐竹助教授のお名前はたしか“明彦”…。
君も彼女が佐竹の子どもじゃないかってそう思うんだね?はい。
確かにあいつはハーバード大学出身だ。
留学中にニューヨークに住む日本女性のダンサーと恋に落ちたとしてもなんら不思議じゃない…。
だとしたらイニシャルはKでなくてAでなければ…。
佐竹のイニシャルは…Kだったんだ…!
(神津)なぁ佐竹…。
お前いつだったか言ってたよな。
お前の名前と奥さんの名前が同じ“薫”だったって。
結婚するときに名前を変えたんだって。
結婚前のお前の名前は佐竹薫…。
そう…イニシャルはKだ。
アケミさん…お前の子どもだったんだ。
渋谷の街であの子が声をかけてきたとき…タイムスリップしたような衝撃を受けた。
歳はいくらか違うが…ニューヨークで出会ったときの沙也加そっくりだった。
そして…お前はあのペンダントを見た。
俺が沙也加にプレゼントしたペンダント…。
彫金をやってる友達に手伝ってもらって指にケガをしながら俺が作ったペンダント…。
気がついたときにはあのホテルにいた。
我が子だとわかりながら…俺は…何もしてやれなかった…。
許せない…。
すべてはあの二宮の策略だったなんて…。
あの男は人でなしだ…悪魔だ…!今生きてるなら…今度は俺が殺してやる…!
(神津の声)〔お前は殺してないって言ったな?〕〔信じていいんだな?〕
(佐竹の声)〔本当に殺してなんかいないんだ〕
(石黒の声)〔私は何もやましいことはないんですから〕
(大田の声)〔何てことおっしゃるんですか!?〕
(薫の声)〔いやだ…私を疑ってらっしゃるの?〕・
(電話の音)
(野上)はい捜査本部!ああ神津先生!…え?子ども?彼の名誉のためにも野上さんにはお話しといたほうがと思って。
それはそれは!しかしこれで佐竹助教授への容疑は一層濃くなりましたな。
隠し子となれば援助交際にも増して大変なスキャンダルですよ。
動機も倍増というわけです。
いやぁご協力ありがとうございました。
(携帯電話の発信音)「はい捜査本部。
野上です」
(携帯電話を切る)…これは驚いた!薫さんじゃないですか。
私だって泳ぎぐらいいたしますわ。
そりゃまあ…。
夜のプールってすてき。
こんなふうに人のいないプールはなおさら…。
まるで貸し切り状態ですね。
私がそうお願いしたんですの。
えっ…?…ウソ。
私の思いが通じてこうして神津先生と二人きりになれたんだわ…。
捜査のほう…どんな様子なのかしら?さあ…?私には…。
警察はやっぱり佐竹を犯人と見てるのかしら?あいつは何て言ってます?佐竹は…私には何も話してくれないわ。
先生…私怖いわ…。
私…真犯人に心当たりがありますの。
…真犯人?ええ…。
(薫)あら陶子さん…。
…また出直してまいりましょうか?えっ…?
(薫)せっかく先生と二人きりになれましたのに…。
このお話の続きはまた…。
どうも。
不潔だわ!先生も先生です。
で…どうだった?ねどうだったの?はい。
薫さんのギャラリーで働くパートの女性に接触したんですがやはり事件当夜は5時に帰って何も事情は知らないようです。
そうか…。
いやありがとう。
そうだ。
食事でもしよう。
ごちそうするよ。
たしかここに置いたはずだが…。
何か?いやなんでもない。
良かったわ。
思い切って神津先生をお誘いして。
篠原画伯には連載小説の挿絵でお世話になってるんですけれど薫さんには葬儀でのこともあって一人で来る勇気がなくて…。
私でよければ喜んでご一緒します。
神津先生ったら…。
由紀先生。
神津先生も本日はありがとうございます。
どうぞ。
じゃちょっと…。
どうもこんにちは。
おめでとうございます。
(薫)先生。
ああどうも。
よくも平気な顔で来られたものだわ。
先日は主人の葬儀にご出席いただきましてありがとうございました。
由紀さんにお見せしたいものがございますの。
神津先生もご一緒にどうぞ。
これよ。
私があなたと佐竹の仲を知らないとでも思ってらしたの?おしとやかな顔をしてやることは泥棒猫!恥知らずもいいとこだわ!薫さん…。
その写真誰が送ってきたか教えてあげましょうか?二宮さんよ。
あなたの殺されたご主人。
殺したのは由紀さんあなたなんでしょう?何をおっしゃるんです!不倫を知ったご主人はあなたを責めさいなみ一方で佐竹を強請った。
動機は充分だわ。
あなたは出版社の大田くんと共謀してご主人を殺したんだわ!あなたに憧れている大田くんなら何でもあんたの言うまま。
女王様のためなら殺人だってできるわけよ!あんまりです!大田さんまで犯人扱いするなんて!第一キャッチホンだなんてインチキ茶番劇もいいとこだわ。
あれはあなたたち2人のお芝居に決まってるわ!あなたこそ…二宮を憎み恐れてたくせに。
あなたは二宮に示談を申し込んで断られた。
そうなんでしょ?名門に生まれたあなたにとってスキャンダルは何よりも怖いもの。
なんとか闇に葬り去らなければと焦っていたはずだわ。
そうだわ。
あのキャッチホンの電話の声…大田さんが聞いたのはあなたの声だったのね!何ですって!私が出たときには無言だった。
あれは万一私が聞いてあなただと知られてはとそれで…私のときは何も言わなかった。
そうなんでしょう?よくもそんなでたらめを!主人を殺したのはあなただわ!いい加減にしてよ!!薫さん…由紀さんも落ち着くんだ。
申し訳ありません。
お見苦しいところをお見せしてしまって…。
いや…。
おかげで少し謎が解けました。
謎…?なぜ二宮さんが佐竹を脅迫の的にしていたのか。
その理由です。
そのことでは…神津先生に嘘を申していました。
確かに私と佐竹先生とは1年ほどお付き合いが…。
きっかけは…私が初めて書いた小説を読んでいただいたことです。
主人には気付かれていないと思ったんですけど…。
〔お前の失楽園男は立派だよ!見てみろ!〕その日からというもの朝に夕に主人は責めたてて…。
私の不倫がもととはいえ地獄のような日々…。
ただひたすら書くことだけが私の支えでした。
その後…佐竹とは?それ以来なんだか急によそよそしくなって…。
佐竹先生はあの写真のことで主人から脅迫されていることも話してはくださいませんでした。
いかが?先生も一杯。
大丈夫よ。
毒なんか入ってないわ。
しかしきれいなバラだ。
こんなふうにあの晩も二宮さんの胸に飾ってやったんですね?あなたには負けたわ。
じゃあやっぱり二宮さんはここに…?ええ。
訪ねてきたわ。
7時ぐらいに来て…15分ぐらいいたかしらね。
彼は佐竹から充分な金を引き出せないとみてあなたまで脅迫してきた。
ご主人の不名誉なスキャンダルを世間に公表してもいいのかと。
そのとおりよ…。
何でもご存じなのね。
次回にお金を渡す約束をして彼は帰っていったわ。
けどすぐに忘れ物をしたと言って戻ってきた。
忘れ物は口実で私にもう一度凄みをきかせるためだったのよ。
その矛先をかわすためのプレゼント。
それっきり彼とは会ってない。
・
(電話の音)もしもし…。
(石黒)刑事にもあの神津にも黙っていたが二宮は私と立ち話をしたあと忘れ物を取りにあんたのギャラリーに戻ってすぐ出てきたが…もう一度ギャラリーへ入っていった。
「いいもの見せてやる」今夜9時来ればわかる。
場所は大芳証券屋上。
ウワーッ!自殺?昨夜9時ごろビルの非常階段から石黒部長が飛び降りましてね。
遺書はありませんでしたが現場の状況から自殺のようです。
待ってください野上さん。
結論は急ぎすぎないほうがいい。
あなたの悪い癖です。
お言葉ですが彼の遺体のそばには白バラが一輪ありましてね。
近所の花屋で彼が買い求めたものだと調べはついてます。
おそらく死ぬ決意をしたみずからのために白バラを買い求めたんでしょうな。
白バラ…。
(携帯電話の音)はい野上だ。
何!?わかった。
すぐ戻る。
昨夜現場から走り去っていく女の後ろ姿を見たという目撃者が現れました。
先生のおっしゃるとおりだ。
失礼!女性の後ろ姿…?それにしても今度は白いバラだなんて…。
白いバラは確かにギリシャローマ時代から死者に供える風習があります。
今でもスイスの一部では共同墓地のことを「バラの庭園」と呼んでいるそうですわ。
さすがですね。
思ったとおりバラに詳しい。
お尋ねしたかいがありました。
そういえばギリシャ神話ではバラの花が沈黙の神ハルポクラテスに与えられたという故事がありますね。
ええ。
そこからバラが秘密を暗示するようになったんでしょう。
昔から会議室の天井中央に一輪のバラをつけ会議の内容を外部にもらさない誓いの印としたそうですわ。
スブ・ロサ…バラの下で…。
秘密裏にって語源ですね?よくご存知ですこと。
スブ・ロサ…秘密裏に…。
しかし見事なものですね。
レッドデビルですか?いいえ。
よく似てますけど“ルビーウェディング”といいます。
ルビーウェディング…。
私の誕生日が7月なもんですから。
そういえば7月の誕生石はルビーでしたね。
その7月に結婚したんです私たち…。
そうだったんですか。
主人が…あんなに変わってしまうなんて…。
楽しかったころを思って…このルビーウェディングを育てる気になったのかもしれませんわ…。
《ルビーウェディング…》
(馬のいななき)さすが!お見事だわ。
どうぞ。
まずは乗ってみてください。
今日は見せていただくだけにいたします。
でも神津先生に誘っていただいて来てみて良かったわ。
本当に気持ちがいいわ!大学の馬術部でご一緒だけあってお2人ともお上手ですこと。
君たちも休みにしないか?お茶でも飲もう。
ねえ大田くん。
はい。
事件のあった晩犯人からかかってきた電話…本当に聞き覚えはなかったかね?先生まで僕を疑ってるんですか!?そうじゃなくて…。
何か手がかりになるようなこと気づいてないかと思ってね。
例えば電話のこととか死体を発見したときとか…。
死体…。
最初に見たときにはあそこには死体はなかったような…。
ねえ由紀先生?さあ…私にはどうだったか…。
たしか…。
気のせいです。
何でもありません。
《もし死体があの場所になかったとしたら…》《運べる人物は…》
(陶子)先生。
あっありがとう。
先生!大当たりですよ!どうしました?石黒部長が転落死したとき駆け去っていった女がいましたね。
その女が赤い車に乗って走り去ったのを見たという目撃者が現れましてね。
赤い車って…。
そう!佐竹薫が乗り回しているのも赤い車です。
まさかそんな…。
考えてみれば灯台もと暗しでした。
強請られている亭主のためスキャンダルから家名を守るため佐竹薫は二宮寛次を殺害した。
その秘密を知られた石黒部長をも始末した。
まあ…確かにつじつまは合ってはいますが…。
でしょう!まあ…先生が友人の奥さんを疑いたくないお気持ちはよくわかりますがね。
バラの鑑定のほうはどうなってます?二宮寛次の死体のそばにあった赤いバラからは残念ながら指紋は何ひとつ検出されていません。
何ひとつ…二宮本人のもですか?ええ。
花弁葉茎すべて念入りに調べてもらいましたが指紋はゼロです。
佐竹薫の指紋が発見できればすぐにでも逮捕できるんですがね。
あのバラちょっと拝借できますか?大学の植物学の教授に鑑定してもらおうと思うんです。
どうぞそうしてください。
佐竹薫が贈ったバラだと証明していただければこっちは鬼に金棒ですからね。
レッドデビル…。
赤い悪魔…。
副編集長ご就任おめでとうございます。
これはほんの気持ち。
わあ〜!ありがとうございます。
生けてさしあげるわ。
すみません。
みなさんどうぞこちらでおくつろぎください。
・
(薫)大田くん!おめでとうございます。
僕らもお祝いの席に加えてもらおうと思って。
あなた。
ああ。
これ先日の仲直りとお祝いに。
どうぞ。
ありがとうございます。
わっすごいな!ボルドーのビンテージものじゃないですか!あら今日は神津先生は?新聞社の対談が入ってしまって少し遅れて参ります。
先に始めてくださいとのことでしたから。
先輩。
とっておきのシャンペンを。
今冷やしてありますので。
とっておきは神津先生がいらしてからになさったら?うちのを先に開けましょうよ。
じゃあそうさせていただきます。
せっかくの赤ワインですからデキャンターに入れて空気に触れさせましょ。
ワインにかけてはたいへんな凝りようね。
では…ホストの役得としてテイスティングをさせていただきます。
もう先輩ったら!すみません遅くなって。
先に始めてます。
大田くん!先輩!大田くん!大田くん!大田くん!
(パトカーのサイレン)毒死ですな。
おそらく青酸性の毒物でしょう。
毒はおそらくワインに。
鑑識さんこのワイングラスとデキャンターとボトル念入りに調べてください。
どうやら毒物はグラスでもデキャンターでもなくワインそのものに仕込まれていたのは確かなんですがねそれがいつどのようにして混入させたかが謎でしてね。
陶子さんのお話ではワインは被害者みずからがみんなの見ている前で開けたということですが…。
そのとおりです。
先輩がアルミ箔の封を切ってコルク栓を抜いて自分でグラスに注いだんです。
だとするとワインに毒物を入れるチャンスがあったのは被害者の大田くん自身ということになりましてね。
まてよ…もしも一連の事件の犯人が大田くんだとしたら己の犯した罪の深さにいたたまれなくなってそれで自殺を…。
野上警部…。
私も大田くんを疑いたくはないがそうとでも考えるしか…。
ねえ神津先生。
ワインの瓶に触ったのは3人だったね?はい。
佐竹助教授がお持ちになったのを奥さまの薫さんに渡して薫さんが大田先輩にプレゼントなさったんです。
確かに検出されたのがその3人の指紋だけでした。
コルク栓やアルミ箔はどうです?何か細工した痕跡は?いいえ。
指紋だって被害者本人のものだけでした。
例えば針のような穴はなかったですか?私にはどうもそんなふうに見えたんですが…。
針…?ええ。
そういえば鑑識の報告にそのようなことが。
コルク栓はどうです?コルク栓にも針で開けたような跡はありませんでしたか?そっちのほうの調べはまだ…。
それにしても陶子さん無事でよかったですね。
犯人は大田くんだけを狙ったんですよ。
大田くんがまず最初に口にすることを知っていたんです。
大至急調べてみてください。
針のようなもので開けた痕跡がなかったのかどうか。
はい。
・
(電話の音)はい神津オフィスでございます。
講演のお申し込みで…。
申し訳ございません。
別の電話が入ったようです。
少々お待ちください。
もしもし?神津オフィスでございます。
あれ陶子さん?野上警部?もしもし?もしもし?あーごめん!捜査本部へかけるつもりでリダイヤルボタンを押したんだがさっきかけたばかりだった…。
リダイヤル…。
(野上)もしもし。
鑑識の報告はどうなってる?何!?注射針だ!?わかった。
すぐ戻る。
先生。
ズバリ的中ですよ!コルク栓に注射針を通したような痕跡があるそうです。
やはり思ったとおりだ。
犯人は注射針を使ってワインに毒を混入させたんです。
チャンスがあったのはワインに触れた佐竹夫妻。
2人で決まりですよ!先生…。
バラが違う…。
先生ならお出かけになりました。
佐竹という方からお電話があって。
佐竹?それは男性の方でしたか?それとも女性の方でしたか?男の方でした。
出かけるとき先生何か…?いいえ。
私昼間お掃除を頼まれているだけの者ですから。
何も…。
そうですか。
佐竹が由紀さんに電話?ええ。
あいつがどこに行ったかご存じですか?大学にも姿がないものですから。
佐竹なら今朝家を出ていきました。
置き手紙を残して…。
…手紙?ええ。
「君にはすまないことをした」「僕のことは忘れて新しくやり直してほしい」ですって。
サインした離婚届まで入ってたわ。
まさかあいつ…。
そう…。
死ぬつもりかもしれない…。
薫さん…。
私は…いったい何のために…。
何を守ろうとしたのかしら…。
けど…私は…誰も殺してない…。
わかってます。
あなたは佐竹の犯行じゃないかと心配してそれで動き回っていたんですね。
先生…。
(携帯電話の音)はい神津です。
伊豆?わかった。
薫さん。
由紀さんが執筆のため時々利用するホテルが伊豆にあるそうです。
主人は…主人はそこに…。
今度は…今度は由紀さんまでも…。
・いらっしゃいませ。
お疲れさまでございました。
(佐竹)いつ見てもこの滝はすばらしい!君が執筆するあのホテルを何度か訪ねて…一緒に見た。
薫とは…別れてきた。
すべては僕が悪かった。
僕の優柔不断さが君を…薫を苦しめてしまった…。
もう…もう今となっては遅すぎます。
待ってくれ!僕は何もかも捨ててきたんだ!一緒に…一緒に死んでくれ。
君は…僕となら死んでもいいと言った。
あの言葉は嘘だったのか?一緒に死んでくれ!僕は薫も何もかも捨てられず君を二宮から救い出すこともできなかった。
でも今なら…今なら一緒に死ねる。
由紀…。
もう遅い…。
そう言ったでしょ。
待ってくれよ!放して!由紀頼む!やめてください!由紀…!やめて!なあ…由紀頼む!やめて…!やめて!・やめるんだ!バカなことはやめるんだ佐竹…。
神津先生…。
薫さん心配してるぞ。
アケミさんのことだってこのままじゃ無責任だ。
今ここで人生から逃げたりしてどうするんだ!いや…間に合って良かった。
彼…佐竹さんきっと事件のことで追いつめられてそれで自暴自棄になったんですね。
確かに。
でも…それは事件に追いつめられたからじゃないでしょう。
あいつは誰も殺したりしてるわけじゃないんですから。
殺したのは…由紀さんあなただ。
殺したのは…由紀さんあなただ。
私が?私がいったい…誰を殺したとおっしゃるんです?ご主人の二宮さん石黒さん大田くん。
3人を手にかけたのはあなたです。
あの晩二宮さんはかねてから強請っていた佐竹から100万円せしめその足で薫さんのギャラリーを訪れそこでも脅迫したのち薫さんからバラの花をプレゼントされた。
〔お似合いだわ…〕そしてギャラリーの外で待っていた石黒部長と会い証券スキャンダルをネタに石黒部長も恐喝した。
そして石黒部長と別れたあと再びギャラリーを訪れた彼は夕食をつき合わないかと薫さんを誘ったがピシャリ断られ仕方なく自宅へ帰った。
時刻はおそらく8時半ごろ。
〔先生はまだご執筆中ですか〕〔精が出ること〕〔また酔ってらっしゃるのね〕〔お祝いだよ!お前の男からまた100万せしめてやったよ!〕〔これからもまだまだ搾り取ってやるよ!〕〔あなた…!〕〔悪いのは私のほうです。
お金も何もかも残して私はこの家から出ていきます。
だからどうか…〕〔別れてなんかやるもんか〕〔お前と佐竹を一生苦しめてやるよ…〕〔やめてください!はなして!〕〔こっちへ来い!〕〔夫が妻の体を求めて何が悪い?〕〔あの男が忘れられないのか?〕〔いや〜!〕お見事な推理と申し上げたいところですけど神津先生は肝心なことをお忘れですわ。
私にはアリバイがありますの。
その謎は解けました。
そもそも私が不思議に思ったのはなぜ犯人は二宮さんを殺害したとわざわざ電話してきたのかということです。
あれはアリバイ作りのためだったんですね?二宮さんを絞殺した直後の9時女性週刊誌の編集者から電話が入った。
その電話を利用してアリバイを作ったんです。
〔ごめんなさい。
原稿まだなの〕〔2時間したらまた電話してくれる?〕そう言って電話を切ったあなたは二宮さんの遺体を車のトランクに運び入れた。
そして急いである細工をして9時半に原稿を取りに来た大田くんを何食わぬ顔で迎え入れた。
ある細工…?
(テープレコーダーの声)「ご主人は殺された。
二宮寛次は殺された」「死体は月島2号埠頭の倉庫に捨ててある」そう。
ある細工とは音声を変えた録音テープを作ることでした。
11時になると原稿ができたと書斎から出てきて大田くんに原稿を渡した。
その直後約束どおり女性週刊誌の編集者から2度目の電話が入った。
〔二宮でございます〕電話に出ると同時にあなたはひそかに携帯電話のリダイヤルボタンを押した。
あらかじめ小型録音機とともにエプロンのポケットの中に用意していた携帯電話です。
携帯電話のリダイヤルは無論自宅の電話番号です。
キャッチホンで受けた携帯電話からの電話をあたかも外部からかかってきたいたずら電話のように見せかけ大田くんが電話を代わった。
電話を代わると同時に小型録音機のスイッチを入れ携帯電話を通してそのテープの声を流したんです。
「死体は月島2号埠頭の倉庫に捨ててある」電話を聞いた大田くんはあなたとともに急いで車で月島に向かった。
その車のトランクには二宮さんの遺体が隠されているとも知らずに。
月島に着くと倉庫の中に捜しにいった大田くんのすきを見てあなたは車のトランクから二宮さんの遺体を運び出しパレットの陰に捨てた。
そして初めから遺体がそこにあったかのように発見したんです。
どうして…どうして私だとおわかりになったんですの?バラの花です。
バラの花…?あの晩二宮さんは薫さんから赤いバラの花を贈られた。
遺体の胸には赤いバラが差してありましたがでも同じバラではなかった。
双方ともモダンブッシュローズに属するハイブリッドティー大輪木バラですが薫さんが贈ったのはレッドデビル。
完全八重で高芯咲きです。
植物学の教授に苦労して鑑定してもらったところ素人目には同じ赤いバラに見えても2つは別物でした。
遺体の胸にあったのは八重で丸弁抱え咲き。
そう。
あなたの好きなルビーウエディング。
二宮さんともみ合ったときに薫さんから贈られたバラが散るか何かしてそれであなたは温室のバラを二宮さんの胸に手向けたんじゃありませんか?あのバラが…薫さんから贈られたものだとは知りませんでした。
無残に散っているバラの花を見て…初めて取り返しのつかないことをしてしまったと主人に詫びる気持ちをこめ…せめてもとあのバラを…。
そして石黒部長も手にかけてしまった。
彼は二宮さんが薫さんのギャラリーからまっすぐ自宅へ向かったのを尾行して知っていたんです。
だから犯人はあなた以外にないと強請ってきたんじゃありませんか?あの晩…彼はあのビルの屋上に私を呼びだしたんです。
〔いつお会いしてもきれいだ…〕〔二宮君にはさんざ脅迫されてきたが今度はこっちがお返しする番だ〕〔5千万すぐに用意できなかったら警察にあなたのことを話す〕〔そうなれば人気作家のあなたも一巻の終わりだ〕〔あなたはもう私の手から逃げることはできない…〕〔私の言うとおりにすればいいんですよ由紀さん〕〔キャッ!〕〔来ないで!やめて!〕〔由紀さん!〕〔ウワーッ!〕殺すつもりはなかったんです…。
でも…彼が死んでほっとしたのも事実です…。
そして…大田先輩までも…。
彼は二宮さんが死体を発見したときのことに不審を持ち始めたんですね?ええ…。
彼は私に疑問をぶつけてきました。
彼にすべてを感づかれるのは時間の問題で…何とかしなければ…もう…焦りばかりが…。
それでワインに毒物を仕込んだ…。
注射針を使って…。
あの日あなたはサイドテーブルで花を生けていた。
花を生けるふりをして注射針を使った。
おそらく注射針は袖口の中に予め隠しておいたんでしょう。
違いますか?そのとおりです。
ホスト役の大田くんがテイスティングのために一番先にワインを口にする。
そう読んでの犯行ですね?…はい。
本当に私…どうかしてたんです。
いつだったか薫さん…思いがかなうなら悪魔に魂を売ってでも魔弾を手に入れたいそうおっしゃってたけど…。
悪魔に魂を売ってしまったのはこの私です。
魔弾をひとつ手にしたら…もうあとには引き返せないのに…。
本当に私ったら…。
魔弾を手にしたらすべてを失うことになるとも知らないで…。
いつか…いつかこの日が来ると思っていました…。
2014/05/01(木) 13:05〜14:56
ABCテレビ1
天才神津恭介の殺人推理[再][字]
「ふた組の夫婦のからみ合う殺意!昇進祝いのパーティで毒殺トリック!」
詳細情報
◇出演者
村上弘明、根本りつ子、北原佐和子、磯部勉 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0×0818)
EventID:58501(0xE485)