ラストデイズ「勝新太郎×オダギリジョー」 2014.05.01

45歳の呂比須さん、日本がワールドカップ初出場を果たした1998年のフランス大会に、フォワードとして出場しました。
今年36年ぶりによみがえった幻のフィルム。
波乱に満ちた人生を送ったある男の姿が焼き付けられていた。
俳優…豪快にあおるのは自作のパセリ酒。
でねあのねおいこれから初めてのやつをやるから。
「ちちたたててとん!」で笛やめてもらってこの辺からどこでも好きなところから…。
はい。
気合い入れて。
いいか分かったかもう二度と言わないぞ。
よし!突如打ち鳴らす三味線。
「座頭市」を生み出した映画史に燦然と輝く名優。
監督脚本編集。
映画作りの全てに手を延ばした。
おい!俺がしゃべってるんだから俺に任せればいいじゃないか。
作品に人生の全てをささげた伝説の男。
(オダギリ)うわ〜。
ここです。
早春の日本海。
勝の足跡をたどる男がいた。
俳優…自分の人生を懸けて本当の事を話そうと思います。
デビューから15年自分だけの個性とは何かを問い続けてきたオダギリ。
独自の道を突き進んだ勝にずっと引かれてきた。
主演の俳優がその作品の監督もしてしまうという事を僕は驚いた記憶があったんですよ。
そんな事できる人がいるんだと思って。
俳優勝新太郎が終生追い求めたものとは何だったのか?これすごいですね。
トータルで幸せな人やなとは思いますよ。
だけどもすごく…人にはその生きざまが凝縮された究極の日々がある。
ありがとうございます。
市はご覧のとおりおてんとさまが恵んでおくんなすったおまんまありがたく頂戴いたしております。
座頭市は按摩と博打で日銭を稼ぐ盲目の男。
徳利の中のさいの目も…。
やっちまえ!仕込み杖を逆手で操る異様な殺陣。
勝負!繰り出される超絶技巧の曲芸斬り。
前代未聞のダークヒーローに人々はどぎもを抜かれた。
わしが相手だと言ったはずだ。
こんな相手に旦那…。
いいから下がれ。
斬るのならわしが斬る。
毎回訪れる豪華ゲスト。
1962年の登場以来26作の映画100話のテレビドラマが製作された。
実は「座頭市」の世界観を作り上げたのも勝新太郎自身だった。
はい用意…本番スタート。
なあおゆき3年のなげえ間の夢をくわされたんだよなこいつのおかげで。
ちょっと待って。
監督脚本撮影編集。
全てに手を延ばした勝。
バカ!映像作家としても独自の境地を切り開いた。
しかし晩年勝の人生は一変する。
スキャンダルにまみれスポットライトから次第に外れていった。
その数奇なるラストデイズ。
何を見つめていたのか。
勝新太郎の映画人生。
それは京都から始まる。
おはようございます。
オダギリがまず訪ねたのは長年勝の映画作りを支えたスタッフたち。
これなんか…日本映画の黄金時代俳優勝新太郎はこうした撮影所で作品作りに没頭した。
もちろんテレビでも何でもいいんですけど…だから撮影所におるというのが一番落ち着いた。
勝には演出を陰で支えるチームがあった。
撮影音声照明脚本など映画製作のプロフェッショナルたちだ。
勝は彼らを引き連れこの老舗のすき焼き屋を度々訪れた。
勝さんはねこうやってるでしょう。
そしたら丼鉢に御飯ちょっと半分ぐらい入れて残りをパッパッパッと卵つけて入れてうわ〜っうわ〜っと食っちゃう。
へ〜っ。
食べ方同様演出も破天荒なものだったという。
プロデューサーと私ホン屋ですからホン屋と打ち合わせはするんですよ。
「今回はこういうもの一遍出してみよう」という。
「違うよ」という答えしか返ってきませんけどね。
「どうすんの」というところから始まる。
僕は大失敗しましてね。
親分さんが斬られてザーッと振る予定がよそへ振っちゃったんです。
「しまった!」と思ったけどカメラ動かす事ができないから「あ〜っ」と思ったけど…「しめた!」と思ってこれがダーンと倒れるからそれにつけてやったら顔がパッと出た。
そしたら勝さんがね…ダビングしててテープレコーダーで音楽出さなあかんわけですよ。
インピーダンスローラー回しながらず〜っと見てたら…涙ポロポロ出てくるし…。
勝さんがその時に…「いやぁちょっと芝居に見とれて…」と言ったら…勝は偶然起きる事を次々取り込む即興を演出の柱に据えていた。
そして誰にもまねできない作品を次々生み出した。
神がかった勝の演出。
その最高峰の一つ…「天」。
「天」って言うの。
「おてんとさま」の「天」か。
じゃあ天女様だ。
(笑い声)座頭市が死の病に侵された少女と出会い短いひとときを過ごす物語。
安らかな日々に追っ手の足音が忍び寄る。
いやがらねえ…。
ちきしょうおい。
そして迫り来る少女の死。
おい。
勝はこの物語を驚くべきやり方で生み出した。
実はもともとの脚本は全く別のストーリーだった。
唯一勝が取り入れたのは「病を患う少女」という設定。
そして突然京都市内での撮影を取りやめ日本海へ行くと言いだした。
翌日50人のスタッフは何も知らされないまま北へ150km離れた海岸へと向かった。
そこで一体何が行われたのか。
勝の足跡を追って北へと向かった。
うわ〜。
ここです。
ここです。
へ〜っ。
日本海に面した町…そこに広がっていたのは人けのない浜辺。
うわ寒そうですね。
もう寒いってもんじゃなかったんですよ。
雪が吹きつけて。
まさに冬の海やった。
確かにあの小さい石2つとか入ってましたもんね。
これもバックになってたと思うんですけどね。
現地に到着した勝。
宿の一室にスタッフを集め頭の中にあるイメージを語り始めた。
その時録音されたテープが残されている。
ストーリーセリフカメラワークをあふれるように語り始める勝。
それは既に作品として完成されていた。
(録音の声)カメラこうやってこれで彼女がじ〜っと…更に勝は現場でも偶然を取り込む。
フーッとやってる時に…「これ美枝子ちょっと開けて…」。
私の顔描いてよ。
そんな…描けるわけがねえじゃん。
触ってみれば描けるでしょう。
どれ…。
絵を描くようにせがまれ少女の顔に触れる市。
少女が口に貝殻を挟みおどけてみせる。
何だ?これは。
私歯が出てるの。
(笑い声)幸福感と別れの予感が一気に去来する。
奇跡のワンシーンが生まれた。
偶然にこそ完全なオリジナリティーが生まれる。
それを勝はこう呼んだ。
独自の道を突き進んだ勝新太郎。
その執念はどこから来たのだろうか。
勝の母校。
勝新太郎…はじめまして。
はじめまして。
よろしくお願いします。
オダギリと申します。
出迎えたのは勝の同級生たち。
え〜と…。
これですか?
(島田)そう。
そうですよ。
真ん丸い顔してるでしょう。
ほんとに真ん丸な顔ですね。
ハハハ…いるいるいる。
奥村利夫って書いてある。
奥村利夫。
12345番目だからここだ。
12345。
これ。
え?これ俺いるよ。
同級生が語るその素顔は意外なものだった。
元気いっぱいで…。
その後の彼の人生を考えるともうちょっと特徴があったろうとかやんちゃだったろうとかっておっしゃるかもしれない思っちゃうかもしれないけど実はそうじゃなくて全然普通の子だった…。
がき大将だった兄とは違い利夫は目立たない少年だったという。
そうだな〜。
そうするとうちの母親が「奥村君御飯食べてく?」って言う。
で食べたらあいつ早く帰れよと思ってもなかなか帰らないんですよ。
何で帰んないですかね?家にね。
父は三味線の師匠。
住み込みの弟子も多く母は家の仕事に追われていた。
そんな利夫の心の救いになっていたのが歌舞伎だった。
度々授業を抜けだし父の顔が利く舞台裏に通っては一日中芝居に胸を躍らせた。
中でも憧れたのが当時の歌舞伎界のスーパースター…中学卒業後父の後を追い三味線の道へ進んだ。
しかしスターへの憧れは日増しに強くなっていった。
その気配を修業仲間は感じ取っていた。
仲間たちと芝居を打った利夫。
演じたのは菊五郎の当たり役だった。
それから病みつきになっちゃったんですね。
ああ思ってましたか。
思ってました。
でもまさか映画俳優になるとは思わなかったですね。
利夫は敷かれたレールを外れ自らの道へ踏み出す。
オダギリは自らの少年時代を思い起こしていた。
僕が…物心付く前に両親が離婚。
幼いオダギリは映画館に預けられ一人時間を潰す事が多かった。
いつしか俳優を目指すようになった。
こいつ全然反応しないね。
デビュー以来自分にしかできない演技を目指しどんな役でも体当たりで挑んだ。
僕の勝手な考えなんですけど…奥村利夫は22歳の時映画会社のカメラテストに見事合格。
喜び勇んで京都に乗り込んだ。
しかしそれは苦難の始まりだった。
デビュー作自分だと思っていた主役は同期の…既に追われ生き残った白虎隊士16名ここに潔く割腹して飯盛山の土となろうではないか。
うん。
先生のそばへいこう。
勝は脇役の一人。
ギャラは雷蔵のだった。
歌舞伎役者だった雷蔵は既に確固たる個性をつかんでいた。
焦る勝はスター俳優を必死でまねた。
メーク殺陣声色。
しかし結局は二番煎じ。
客も入らず映画館からは「勝の映画はかけたくない」と言われる始末だった。
俳優として7年が過ぎたある日30歳となった勝に主役の話が舞い込んだ。
主人公は盲目で不気味な鬼気をまとった坊主の男。
これまでにない強烈な個性のキャラクター。
勝は役作りに没頭する。
盲学校へ通い盲目の人々のしぐさを研究。
目を閉じた状態で付き人相手に殺陣の練習を繰り返した。
そして…。
日本映画史にその名を刻む「座頭市」が誕生した。
特訓の末に編み出した居合斬りは映画ファンのどぎもを抜いた。
断っておきますけどね市の命はそう安くは売れねえよ。
ふっ!見事だ…。
誰のまねでもない勝新太郎が生まれた瞬間だった。
その道は自分らしさを追求する道。
しかしそれは自分自身を苦しめる地獄道でもあった。
用意…スタート。
あっ!毎週繰り出される斬新な演出で人気を博したテレビ版「座頭市」。
勝はある事を自らに課していた。
しかしそのこだわりが勝自身を追い詰めていく。
回が重なるにつれアイデアは枯渇。
中には製作に一年をかけたものもあった。
予算は当時破格の一本2,000万円。
それでも赤字の連続。
勝は人知れずもがき続けた。
「座頭市」の製作を長きにわたり支えた。
当時の勝の苦悩をかいま見ていた。
(中村)これ今嫌だっていって…100本は大変だと思いますよ。
まあそういう勝ちゃんが非常に直感的で自分に対するなんて言うのかな……というのはずっと持ち続けてたからね。
それでず〜っと来た人ですから…だからトータルで幸せな人やなとは思いますよ。
だけどもすごく…
(聞き手)中村さんの中ではなんか苦しんでいた感じが…妥協せず己の道を突き進む。
その飽くなき執念が自分自身を追い詰めていった。
勝さんは…やっぱりそこの…勝さんがもしその生き方を後悔してたんであれば…テレビ版「座頭市」最終回。
そこには自分と闘い続ける勝の苦悩が描かれている。
第100話「夢の旅」。
市は夢の中で突如光を取り戻す。
幻想の世界に酔いしれる市。
その前に現れたのはなんと勝だった。
その命により市は無残に切り刻まれていった。
(笑い声)お助け下さいまし…。
47歳の勝。
ここから数奇なラストデイズに巻き込まれていく。
新たな創作のエネルギーを求めていた勝に大きな出会いがあった。
巨匠黒澤明。
「座頭市」にほれ込んだ黒澤から超大作「影武者」の主役に抜てきされた。
「世界のクロサワ」となら次なる道を見いだせるはずだ。
撮ってんの?少しおいしい事言い過ぎてんじゃないの。
そういうのは撮らないで下さいよ。
うまい事ばっかり言って。
ところが突然の決裂。
勝が黒澤の演出に口を出したなどさまざまな臆測が飛んだ。
これを境に勝の人生は急転。
翌年再起をかけて挑んだ刑事ドラマは視聴率低迷により打ち切り。
その翌年勝の事務所は12億円の負債を抱え倒産。
その9年後…勝のイメージは映画界のスターからワイドショーの主役へと成り下がってしまった。
「座頭市」という革命を起こした男の…晩年自宅を失い都内にマンションを借りて暮らしていた勝。
長き凋落の中で何を見つめていたのか。
これまで公開されてこなかった勝の遺品が残されていた。
実はこのころ勝のもとには国内外から数々の出演依頼が持ち込まれていた。
オーストラリア。
ふ〜ん。
あっ勝さんが監督主演だったんですね。
勝自らが立てた企画もあった。
しかしほとんどは幻に終わった。
何で作らなかったんですかね。
書き散らされた大量のメモ。
なぐり書きされていたのは生前語る事のなかった苦悩。
「演技なんていうものの中に芸なんてあるのかテクニックの中から芸が生まれるのか出来心の中にこそ芸は生まれる」。
己の道をどう極めるべきか。
映画から遠ざかりながらも一人もがき続けていた。
鬱憤を晴らすように。
だからそういう事なのかもしれない。
オダギリもまた俳優としての葛藤を抱えてきた。
ほんとにそこのジレンマを勝さんも強く感じてたんだろうな。
あっどうも。
勝の最晩年を知る…編集者だった田崎は雑誌で勝の連載を担当。
勝が62歳の時から公私にわたるつきあいを続けた。
このころになると時折もう一人の自分をかいま見せたという。
逆もありましたよね。
一緒に御飯食べててステーキとかで「勝新だ」とかって声がすると必ずしょうがないんで一番でかいステーキでレアで食べなきゃいけないんです。
これはしょうがないんです勝新太郎なんで。
食べれないんですよ。
気が付くと肉が僕の前にあるんですよ。
そういうの見て「この人やっぱり作ってるんだな」と僕は思ったし…ほんとですよね…。
自らが老い時代が変わりゆく中でも己の道を曲げようとはしなかった。
毎日夕方…でいつも文句言ってるんですよ。
それだけは思ってたのかなと思います。
それで気持ちを保ってたのかなと思いますけど。
いつか…医者に声帯の切除を勧められても勝はそれを拒否した。
願いはかなわなかった。
翌年…この世という舞台を去った。
(ノック)
(中村玉緒)どうぞ。
あっどうも。
はじめまして。
この度はお世話になりましてありがとうございます。
35年連れ添った妻の前でも最後まで勝新太郎であり続けたという。
ですから「俺が死んだらこうしてくれ」という…次の作品とか…残したかったんですかね?何か。
まあ本人が一番もっともっとやりたい事があった…。
そうでしょうね。
だから一番悔しいのは本人でしょうね。
その悔しさを出さなかったけども…。
オダギリが最後に向かったのは勝の眠る場所。
是非一緒にと誘ったのは…勝さんのお墓は…?
(中村)初めて来たんですよ。
17年間来た事なくて…。
「何しに来たの?」って言ってるかも。
「今頃何だお前は」。
という事を今言ったんですけどね。
フフフフ…どうなんですかね。
オダギリは中村に問いたい事があった。
中村さんはすごく悲劇だというふうに…六十何歳まで…これもそういった事で作った借金じゃなくてめちゃくちゃするからできただけの話であってね…。
最後なんか「いいんだよもう1億借金しようが5億借金しようが一緒だろ」みたいなねそういうわけの分からん理屈で終わった人ですよね。
何も残ってませんよ。
それは持ってたんだって僕も聞いてびっくりしたけども最近聞いたんですけどね。
何があろうと死の間際まで手放さなかったもの。
それは自分でなければこの世に残せなかったもの。
自分の生きた証し。
勝の壮絶なラストデイズをたどったオダギリ。
一体何を受け取ったのか。
それはでも…そんな気持ちなんですけどね。
でねあのねおいこれから初めてのやつをやるから。
分かったかもう二度と言わないぞ。
ご満足する事ならどんな事でもする。
これはもう記録ですよ。
一生のうちに一回しかやらないよこんな事俺は。
2014/05/01(木) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
ラストデイズ「勝新太郎×オダギリジョー」[字]

映画史に輝くスター“勝新太郎”。なぜ妥協することなく、独自の道を貫いたのか?「座頭市」スタッフの証言、貴重な映像、直筆メモを俳優・オダギリジョーが読み解く。

詳細情報
番組内容
映画史に輝くスター“勝新太郎”。独自の道を追い求めた映像作家でもあった。完全なアドリブ撮影、多額の赤字…。勝新太郎は、なぜ映画にすべてを捧げたのか?たどるのは、自らも監督や脚本をてがける俳優・オダギリジョー。三味線奏者だった時代の友人や、「座頭市」を作り上げたスタッフたちと出会い、貴重な映像や、直筆のメモを読み解き、伝説に彩られたその素顔に迫る。個性を押し殺す時代に、「カツシン」がよみがえる。
出演者
【出演】勝新太郎,オダギリジョー,中村玉緒,【語り】西島秀俊

ジャンル :
映画 – その他
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
情報/ワイドショー – 芸能・ワイドショー

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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