この問いに多くの人がある本を選ぶ。
辞書である。
言葉だけでこの世界の全てを表現する。
辞書はいわば小宇宙。
辞書の数だけ宇宙がある。
一冊の辞書には作り手たちが言葉に捧げた途方もない時間が潜んでいる。
国語辞典が誕生して120年あまり。
生まれては消える言葉を辞書は追いかけ続ける。
これは辞書作りに人生を捧げた人たちのちょっと不器用だけど愛すべき物語。
会社員の山本康一さん47歳。
毎朝の日課がある。
新聞の隅から隅まで目を通す。
マーカーを手に何をチェックしているかといえば…。
「人間力」。
「NGワード」。
「ぬーっ!」?広告の言葉も見逃さない。
気になる言葉は記録せずにはいられない。
会社へ向かう道中でも…。
見慣れない言葉をチェックする。
山本さんの20年来の日課である。
山本さんの勤務先は東京・水道橋の出版社。
創業は明治14年。
辞書と教科書専門の老舗出版社である。
国語や外国語はもちろん語源辞典やてにをは辞典に至るまで242種類の辞書を作っている。
山本さんは辞書出版部の部長。
国語辞典の編集者でもある。
朝からの不思議な行動は辞書に載っていない言葉を探しての事だった。
まあ…山本さんはこの辞書の編集長を務めている。
収録語数23万8,000語。
一冊の辞書としては最大規模の国語辞典だ。
現在中身を刷新する改訂作業を進めている。
どんな言葉を追加すべきか。
この時期はとりわけ新しい言葉に敏感になる。
「大辞林」の生き字引とも呼べる人がいる。
本間研一郎さん64歳。
山本さんの前の編集長である。
半年前に定年し今は嘱託として在籍している。
国語辞書一筋35年である。
本間さんは辞書にない言葉を見つけるとカードを取り出しその言葉の意味「語釈」を書いていく。
言葉ハンター本間さん。
いつでもどこでも獲物に目を光らせている。
これはこの間女房が言ってた言葉を。
洗濯物を室内に干す「中干し」。
それからタクシー乗ってたらね運転手さんが「高速行きますか?下道行きますか?」って聞くから。
要するに普通通る道の事を「下道」って言うんだなと思って。
これはちょっとね恥ずかしいんですけどね…「アイドルグループなどでグループの中央に立つ者。
またその位置。
一番注目が集まるところとされる」って。
(取材者)これはどこから?日常生活の中でこう気がついたら即時にこうやって起こしておく。
だからカバンの中にいつもね白紙の。
今どき流行らないんですけどね私はそのやり方でやってます。
あれ?地道で気が遠くなるような作業。
辞書出版部はプロフェッショナルの集まりだ。
一分の隙もなくカスタマイズされたデスク。
逆さに並べられた辞典。
一瞬で言葉を見つけられる。
黙々とマーキングしているのは…「ありき」。
「ありき」。
「ありき」。
使用法の微妙な違いを追っている。
こちらは左右両利きのペン使い。
原稿を効率的に修正するために身につけた技だ。
謎の行動…。
修正に漏れはないかをチェックしている。
くせ者ぞろいの職人集団。
その中に所在なげな若い女性がいた。
石塚直子さん26歳。
よろしくお願いします。
(取材者)今日来られたんですか?
(取材者)やっぱりうれしいんですか?「小学生の時から愛読書は辞書!」と言い切る石塚さん。
現在筑波大学の博士課程で日本語学の研究をしている。
憧れの現場を知りたい一心でインターンに応募。
大辞林編集部に加わった。
編集長の山本さんが早速石塚さんに仕事を与えた。
年に一度文化庁が発表する「国語に関する世論調査」。
新しく生まれた言葉や言葉の使われ方について調査したものだ。
それらが辞書に載っているかどうかをリストアップしていく。
移りゆく言葉にどう対応していくか。
それが辞書の生命線である。
言葉っていうのは常に変化していくものですからそういう意味でも言葉とともに生まれ変わっていき成長していかなければならないというのが辞書の宿命だと思うんですね。
従って改訂というのはしていかなきゃいけないし改訂しなければ死んでいくんですよね。
言葉に取り残されていく。
前回の改訂は8年前の2006年。
改訂は辞書に新たな命を吹き込む大切な作業である。
編集部と共に改訂作業に加わるのは第一線で活躍する日本語の研究者たち。
大辞林には初版の時代から守り通している編集方針がある。
…という事が中心ですから数よりも面白いというものがそういうのが入ってるとあ〜なるほどというのを入れるのがもちろん中心ですけどね。
現代語生きた言葉を載せる事。
その基本方針のもと二度の改訂をし追加や修正を行ってきた。
例えば「やばい」という項目。
1988年刊行の初版では「