サイエンスZERO「大科学ミステリー 銀河系が寒冷化をまねく!?」 2014.05.03

カナダ東部オンタリオ州の切り立った崖。
掘り出されたある生物の化石から驚くべき事実が発見されました。
5億年以上前から生息していたブラキオポッドという貝に似た生物。
その化石の中から太古の地球を襲った壮大な気候変動の痕跡が見つかったのです。
なんと1億4千万年もの長い周期で繰り返し寒冷化が起きていたという新事実!これまで知られていなかったこの壮大な寒冷化の原因は何なのか?あらゆる可能性を探る中で超意外な容疑者が浮かび上がってきました。
地球にこの寒冷化をもたらした犯人は地球の外にいるというのです。
それって月の引力?それとも太陽活動の変化?いえいえ犯人だと目されているのはな…なんと私たちの銀河系!一体どういう事?実は私たちの銀河系ってごく最近までその姿形もほとんど分からないほど謎に包まれた存在でした。
その謎が今最新科学によって次々と解明され始めています。
そうしたら私たちが住む地球と銀河系との間に思いも寄らない密接な関わりがある事が分かってきたんです。
銀河系が地球に寒冷化をまねいたってどういう事なのか。
その驚くべき真相に迫ります!
(南沢)うわ〜ちょっと今日のスタジオすごい寒いですよ。
春の装いじゃちょっと寒かったですかね。
だけど1億4千万年もの長い周期で地球はこのような寒い時代が訪れてたって事ですか?しかもその犯人が我々のこの銀河系って言われても「う〜む」って…。
地球の寒冷化と銀河系がどう関係するんですかね。
それがいきなりこの1億4千万年という超長い周期で寒冷化が起きてたとなると地球上の生命の進化にも影響を与えてそうですよね。
確かにそうかもしれないですね。
その1億4千万年という長い周期で繰り返されてきた地球の寒冷化一体どうやって発見されたのでしょうか。
壮大なミステリーをひもときましょう。
謎の寒冷化を発見したのは…太古の地球の気候変動を調べる地質学者です。
バイツァーさんはブラキオポッドという貝に似た生物の化石を世界中から集めました。
その殻を砕いた粉を酸で溶かしそこに含まれる酸素18という物質を詳しく調べました。
実は海水の中には酸素16を含む軽い水と酸素18を含む重い水があります。
軽い水は蒸発しやすく海水から抜け出して雲をつくります。
しかしやがて雨となって降り再び海水に戻ります。
ところが地球が寒冷化すると地上に降った軽い水の一部は氷河などになって陸地にとどまります。
すると…その分海水の中の重い水の割合が高くなります。
この海水を体内に取り込んでいたのがブラキオポッド。
その殻に含まれる重い水の成分酸素18の割合が高いほどその時期の地球が寒冷化していたという証拠になります。
さまざまな年代の化石を調べた結果およそ1億4千万年ごとに地球が0.5℃から3.5℃ほど寒冷化していた事が明らかになったのです。
これほど長い周期で繰り返される寒冷化はこれまで知られていませんでした。
しかも平均気温が最大3.5℃下がるって実は地球にとっては大問題。
例えばおよそ200年前には地球の平均気温が0.2℃下がりました。
それだけでイギリスのテムズ川が凍りついたという記録も。
また世界各地に飢きんや疫病が広がり社会が大混乱に陥ったのです。
それをはるかに上回るほどの寒冷化の原因は何なのか?バイツァーさんたちはあらゆる可能性について考えました。
しかし結局原因を特定できないまま論文を発表しました。
その2年後1通のメールがバイツァーさんのもとに届きます。
送り主はイスラエルヘブライ大学の宇宙物理学者…そのメールには謎の寒冷化を地球にもたらした犯人がなんと「銀河系のスパイラルアーム」だと書かれていたんです。
スパイラルアームって一体何!?スパイラルアーム?とんでもないやつが犯人で出てきましたね。
そのスパイラルアームというのは一体何なんでしょうか?おっ!これ銀河ですね。
そうです。
どちらも私たちの銀河系から数千万光年離れた所にあるほかの銀河なんです。
でもこういうイメージですよね銀河って。
でもこういった銀河にもスパイラルアームがあるんですけどどこにあるか分かります?アームっていうぐらいだから腕っぽい感じなのかなと思うんですけど…。
ス〜ッて何か線になってヒュ〜ッて伸びてる所じゃないですか?そうですね。
スパイラルアームっていうのは渦状の腕っていう事です。
多くの銀河はその中心部から数本の渦を巻いた腕が出てるんですよ。
それをスパイラルアームっていうんですね。
どうなってるんでしょうかね?という事で奈央ちゃん描いてみて下さい。
え〜っ!かなり難易度高いですよ。
渦状の腕って事ですもんね。
それっぽいものを描けばいいんですよね。
はい。
お〜。
真ん中にあって渦っぽい感じの腕が何本も出てるという…。
これは我々の銀河のスパイラルアームですか?はい。
どこかで見た事あります?教科書とか?あれは想像図でしかないんですね。
えっ?そうなんですか?実は…え〜っそうなんですか?ずっと本物だと信じ込んでました。
このスパイラルアームの全体像を見るためには我々の銀河系の外に出ないといけないんですよ。
ところが人類が一番遠くまで飛ばした探査機ボイジャー1号でさえようやく冥王星のちょっと先までしかまだ行ってない。
まあ数字で言うと大体200億kmぐらいなんですが…。
なので誰も見た事がないんです。
そうか。
しかしかのガリレオが400年以上前に初めて宇宙に望遠鏡を向けてから科学者たちはもうあの手この手を使ってこの銀河系の形を知ってやろうと観測を続けてきたんですよ。
そんな事ができるんですか?1950年代スパイラルアームに最初に迫ったのがアメリカヤーキス天文台のウィリアム・モーガンさん。
彼は星の分類の第一人者でした。
実は私たちの銀河系にある星々の中にはほぼ同じ強さの光を放つタイプの星がある事が分かっています。
でも地球から見るとその明るさは違って見えます。
その星が地球から近いほど明るく遠いほど暗く見えるんです。
そこでモーガンさんはこのタイプの星をいくつも探し出し…その結果太陽系の周りにはたくさんの星が密集した3本の帯状の領域がある事が明らかになりました。
ほかの銀河を見てみるとそうした星が密集した領域がまさにスパイラルアーム。
つまりモーガンさんが見つけた星が密集する3本の帯は私たちの銀河系が持つスパイラルアームの一部だったのです。
しかしこの時点で明らかになったのは太陽系に近い側だけ。
銀河系の中心を挟んだ向こう側に延びるスパイラルアームの姿は宇宙空間に広がるちりに隠され観測できませんでした。
モーガンさんの観測から60年後ついにはるか遠くのスパイラルアームが捉えられました。
偉業を成し遂げたのは…電波天文学者の…学生時代に作ったこの電波望遠鏡で35年にわたって銀河系の全貌を観測しようと挑み続けてきました。
デームさんが観測したのはスパイラルアームの中に星と共に密集する星間ガス。
星の光は宇宙のちりに吸収されますが星間ガスが発する電波は吸収されず遠くからでも地球に届くのです。
どれくらい遠くからどんな強さの電波が来ているのか。
角度を変えて繰り返し調べれば銀河系内の星間ガスの分布が浮かび上がってきます。
この手法を使って2011年5月デームさんたちのグループは銀河系の果てにあるスパイラルアームの星間ガスを捉える事に成功しました。
観測されたのは太陽系から7万光年も離れた所に延びるスパイラルアームの一部でした。
これは既に観測されていたスパイラルアームとこんなふうにつながる事が確かめられました。
こうして銀河系のスパイラルアームの全体像がついに明らかになったのです。
へえ〜こうやって銀河系のスパイラルアームが見えてきたんですね。
そうですね。
こちらが3年前ようやく明らかになった私たちの銀河系のスパイラルアームの全貌です。
赤く光った部分ありますね。
はい。
こちらが太陽系。
銀河系の中心から2万6千光年ほど離れた所にあるんです。
でもこうして見ると太陽系ってスパイラルアームの外にいるというか結構離れてますよね。
だとしたら…そこ疑問ですよね。
その辺り専門家の方に詳しく伺っていきましょう。
国立天文台の本間希樹さんです。
銀河系のスパイラルアームって太陽系から結構離れてますけどそれが地球に影響を与えるという事がありえるんですか?先ほど見て頂いた図は現在の銀河系の姿ですね。
銀河系っていうのは回転してます。
過去の銀河系の形も見る必要があるって事ですね。
はいそういう事になります。
まさに今本間さんたちはその銀河系を構成する天体がどのような位置にあってどのように動いているのかそれをこんな壮大な方法で明らかにしようとしているんです。
本間さんたちはここでスパイラルアームの動きを精密に捉えようという大がかりな観測に挑んでいます。
ここ石垣島でスパイラルアームの中の天体を狙っているのは…これで天体の位置を超精密に観測し続けています。
しかし通常天体から届く電波は地球の大気で揺らいでしまい天体の位置を正確に知る事は困難です。
そこで本間さんたちは2つの天体が発する電波を同時に受信するという新たな技術を編み出しました。
VERAの電波望遠鏡は1つのアンテナの内部に2つの受信機を持ちそれらが別々に動く事で同時に2つの天体を捉える事ができます。
2つの天体から来る電波は同じように大気中で揺らぎます。
そこで共通する揺らぎの成分を見つけ出し打ち消す事で正確な天体の位置を割り出そうという作戦。
このように2つの電波を同時に受信できる電波望遠鏡は世界でもVERAだけなんです!とはいえ直径20mの電波望遠鏡1つでは十分な観測精度は得られません。
そこで同じ電波望遠鏡を小笠原や岩手県の水沢など4か所に設置。
4つの電波望遠鏡で一斉に同じ天体を観測する事で直径2,300kmのアンテナに匹敵する高い観測精度を達成。
この見かけ上巨大な望遠鏡で三角測量を行い天体までの距離を測るのです。
例えばある天体の位置をまず春に観測。
更に半年後の秋に同じ天体をもう一度観測します。
春秋2つの観測点の距離は実に3億km。
それぞれの場所から同じ天体を見た時の僅かな角度の違いをもとにその天体までの距離を割り出します。
まさに…VERAの運用開始から7年。
本間さんたちは40個の天体をそれぞれ1年以上観測し続け各天体の精密な動きを突き止めました。
その結果銀河系の中心から近い天体も遠い天体もほぼ同じ毎秒240kmというスピードで動いている事が分かったのです。
実はこれって衝撃的な事実。
こんなふうに星が動いていたら銀河系のスパイラルアームがなくなっちゃうっていうんです。
一体どういう事?えっ何でですかね?スパイラルアームがなくなっちゃう?どういう事だろう?ポイントは銀河系内の星の動き方なんですよ。
ちょっとこれを見て下さい。
仮に銀河系がこんな円盤だとしましょう。
いくら回っても形は変わらないですよね。
張り付いているんですからね。
ここでこの円盤の内側と外側の星の速度を見てみたいと思います。
わあ〜。
あれ?どうなっちゃうんだろう?それをシミュレーションで見てみましょう。
銀河系の中心から近い星も遠い星も同じ速さで回転したとすると…。
あっわ〜。
渦が消えちゃいましたね。
でも今銀河系ちゃんと渦ありますよね。
ありますよね。
混乱してきた。
実はこれ天文学者の間では巻き込みのジレンマと呼ばれる大問題なんですよ。
ジレンマ。
まさにそうですね。
このジレンマどうやって説明できるんですか?入ったり出たり?ちょっと想像できない。
実はこの巻き込みのジレンマある身近な現象で説明できるといいます。
それは…例えば黄色で示したエリアに注目してみましょう。
常に渋滞が起こっていますが渋滞にはまっている車は入れ代わり続けています。
この渋滞エリアこそが銀河系のスパイラルアームの正体だというのです。
つまりはこういう事。
同じスピードで動いていた星がある場所で遅くなり密集します。
こうして出来るのがスパイラルアーム。
星々は速度を落としながら通過していきます。
スパイラルアームを通り抜けると再び加速します。
こう考えれば巻き込みのジレンマが解消し常にスパイラルアームが形づくられるそんな仮説があるのです。
ほう〜交通渋滞に表されるとちょっと説明できそうな気がしてきたけど。
気がしますよね?でも本間さんたちの観測では銀河系内の星たちはみんな同じ速さで動いているんですよね。
はい。
そうですね。
それに加えて…渋滞してる上でまた新しい星が生まれてくるんですか。
はいそうですね。
どんどん混んじゃいますね。
そうですね。
ホントですね。
そうなんですよね実はそこにこそ今回のミステリー。
1億4千万年ごとの地球の寒冷化と銀河系とを結び付ける大きな手がかりがあるんです。
いよいよ謎の真相に迫ります。
太古の化石から浮かび上がったおよそ1億4千万年もの長い周期で繰り返される地球の寒冷化。
それを引き起こした犯人は私たちの銀河系だと主張したのが…宇宙から降り注ぐ放射線の研究者です。
一体どんなからくりで銀河系が地球に寒冷化をもたらすというのか。
スパイラルアームの中にはたくさんの星やガスが密集しています。
そこには年老いた重い星も数多く存在し周囲のガスを吸収して超新星爆発という大爆発を頻繁に起こしています。
するとそこから宇宙線と呼ばれる強い放射線が大量に放出されます。
もし地球がスパイラルアームの中にいれば周辺で相次ぐ超新星爆発で生じた大量の宇宙線が降り注ぎます。
それが大気中の分子と衝突して雲のもとになる微粒子を生み出します。
すると雲の量が増えて日光を遮り地球が寒冷化するというのです。
現在地球を含む太陽系はスパイラルアームの外にいます。
ところが過去に遡るとシャビブさんの計算では…1億4千万年ごとに地球を襲う謎の寒冷化はまさに地球がスパイラルアームの中を通過している時期に起きたとシャビブさんは考えたのです。
なるほど。
地球が銀河系の中で渋滞にはまると寒冷化が起きてたって事なんですね。
すごい。
銀河系のスパイラルアームが生物の進化にまで影響を与えてたとしたら面白いですね。
そうですね。
ただしこれは…本間さんたちのVERAについては新しい展開があるんですよね。
VERAは今日本国内の4局の望遠鏡で観測していますがお隣の韓国にVERAと同じような電波望遠鏡が3台あります。
これを足して7台ありますね。
ここの観測をちょうど今年始めてます。
更に将来ですが中国にも同じような電波望遠鏡が4台ありますのでここと日本で望遠鏡を結ぶと距離が5,000km超えるんですね。
もっと暗い星まで見えますので観測できる天体が増える。
Dialogue:0,0:29:03.042014/05/03(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「大科学ミステリー 銀河系が寒冷化をまねく!?」[字][再]

過去の地球で1億4千万年という長い周期の大規模な寒冷化が起きていた?しかもそれを招いた“犯人”は我々の「銀河系」だという。最新科学で壮大な宇宙ミステリーに挑む!

詳細情報
番組内容
化石調査していた研究者が、驚くべき証拠を発見した。過去の地球で、実に1億4千万年という長い周期の大規模な寒冷化が起きていたのだ。この壮大な周期の寒冷化の原因は何なのか。浮かび上がってきた“犯人”は、なんと私たちの「銀河系」!最新研究によって、地球と銀河系の間に、知られざる密接な関係があることが分かってきたのだ。銀河系が地球に寒冷化をもたらすとは、どういうことなのか?壮大な宇宙ミステリーに迫る。
出演者
【ゲスト】水沢VLBI観測所准教授…本間希樹,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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