間近にひかえる中で日本を代表これからも日本を代表する横浜F・マリノスガンバ大阪の対戦でした。
横浜F・マリノス対ガンバ大阪をお伝えしました一人の男性が病院の一室に運び込まれます。
全身の筋肉が萎縮し声が出せなくなる難病。
自分の声を録音して残そうとしています。
いい感じです。
今度は「い」です。
はい「う」。
はい「え」。
もう一回いきましょうか。
「え」。
「お」。
お〜いいですね。
録音した言葉を使って会話ができる音声ソフト。
都内の病院で発案されました。
文章を入力すると録音した人の声で読み上げてくれます。
声を失ったあとも思いを伝え合い豊かな時を過ごしたい。
各地の医療関係者を通じて患者やその家族に広がり始めています。
「ありがとう」。
声が失われる時人はどんな言葉を残そうとするのか。
家族はどんな言葉を望むのか。
失われゆく声と向き合う患者とその家族。
再び互いを見つめ直す日々の記録です。
東京・府中市にある…ALSやパーキンソン病など脳や神経の異常から体の機能が徐々に失われていく人たちを治療しています。
「あ〜」とおっしゃって。
あ〜。
はいベロ出してみましょう。
横に動かして。
はい結構です。
録音した声を合成するソフトマイボイスを考案したのは…これまで接してきた患者は1,000人近く。
声を失ったあと家族と意思の疎通が自由にできなくなる苦しみを目の当たりにしてきました。
お〜い。
「お〜そっか」。
お〜そっか。
患者は五十音だけでなく家族に伝えたい言葉も録音します。
これまでの4年間で136人が声を残しました。
声を残した事でもう一度家族との時間を取り戻した人がいます。
夫隆博さんといつもマイボイスで会話しています。
酒井さんは全身の筋肉が硬直していくCRPSという病気を患っています。
最近は長時間座る事も難しくなってきました。
10代の頃に病気の診断を受け体の機能が少しずつ失われていった酒井さん。
23歳の時隆博さんと結婚。
冗談好きな夫との明るい会話が心の支えでした。
ところが3年前呼吸の乱れが激しくなりました。
医師から声が出せなくなると告げられました。
そんな時病院で紹介されたのがマイボイスでした。
せめて声だけは残して夫と話したい。
酒井さんは録音に臨みました。
この時残した声で今酒井さんは隆博さんと冗談を言い合ったりけんかをしたりもします。
(笑い声)「だったから」って貧乏だけどね。
ばかじゃねえの。
しつけえなホントに。
2人は声を失う前と同じ会話ができているといいます。
去年11月。
声を録音して残すため一人の男性が入院してきました。
2か月前全身の筋肉が萎縮するALSと診断されていました。
呼吸をするための筋力が衰え声が思うように出せなくなっていました。
もうちょっとですか?和田さんに声の録音を勧めたのは妻の尚美さんです。
声を失ったあとの夫の日常生活を少しでも充実させたいと考えました。
最初は関心を示さなかった和田さんも尚美さんの説得に応じました。
和田さんは家族4人暮らしです。
大学2年生。
高校3年生。
大学受験を控えています。
和田さんは仕事一筋に生きてきました。
公認会計士として30年間大手の監査法人に勤務。
家にいてもこの書斎で仕事をする事が多かったといいます。
尚美さんとは23年前にお見合いで結婚。
息子の成長を静かに見守ってきました。
会話は決して多くありませんでしたが勉強や部活動の事など尚美さんから何でも聞いていました。
あんまりざっくばらんなすごいこう…ワ〜ワ〜キャ〜キャ〜一緒に遊んでくれるお父さんではないと思うんですけどでもちゃんと…大事なとこ大事なとこではちゃんと見てくれてるなっていう感じかな。
入院から1週間。
録音の日がやって来ました。
ALSと診断された時和田さんは「年は越せないかもしれない」と告げられていました。
声はいつ出せなくなるか分からない状態でした。
ちょっと目を開けられますか?こんな感じのお部屋なんですよ。
完全に防音室になってますのでね。
ここでいいお声を頂けたらと思ってます。
エヘヘヘッ。
(本間)緊張されてます?大丈夫ね。
笑ってるから大丈夫です。
ホントですか。
よかったですよ。
まずは五十音です。
(本間)調子を整えていいところでいいですから「あ」って言ってもらっていいですか?あ。
(本間)いいですね。
今の「あ」でよろしいですか?もう一回。
あ。
(本間)いい感じです。
今度は「い」です。
い。
(本間)はい「う」。
う。
五十音をとり終えると次は自分が残したい言葉を録音します。
和田さんは尚美さんには相談せず言葉を決めていました。
合格?合格おめでとう。
はい。
(尚美)就職おめでとう?それはこれから先の息子たちに宛てた言葉でした。
奥様が読んだあとこういきますね。
はいどうぞ。
「合格おめでとう」。
「就職おめでとう」。
「結婚おめでとう」。
(本間)ちょっと休憩ね。
記憶でいく?自分がいなくなったあとを意識した言葉ばかり。
日常生活で使う言葉はありませんでした。
本間さんがもう一度勧めます。
普通に「こんにちは」とか「おはよう」とか挨拶はいらないですか?「お世話になりました」とかそういうのはいいですか?いろんな人にお世話してもらうのにいいですか?ん?いいですか。
ありがとうございます。
ちょっと疲れちゃったね。
お疲れです。
お疲れ。
自分が残したい言葉を絞り出した和田さん。
録音は30分が精いっぱいでした。
もっと日常的なもっとホントにおしゃべりの内容を録音されるのかなって思うんですけど…。
やっぱりどうしてもラストメッセージみたいになっちゃうのでちょっとそこが聞いているとつらいなと思うんですけど…。
でも今一番主人が伝えておきたい事を伝えてるんだと思うので…。
和田さんが最期の言葉を残そうとしたのには訳がありました。
病を告げられた時医師からは「人工呼吸器をつければもっと長く生きられる」と伝えられました。
しかし和田さんは「最期は自分らしく生きたい」と延命治療を拒みました。
尚美さんは人工呼吸器が必要になったらつけてほしいと希望しましたが和田さんは受け入れませんでした。
2回目の録音の日。
この日も和田さんが残そうとしたのは家族への最期の言葉でした。
録音のあと。
本間さんが尚美さんを呼び止めます。
家族はどんな言葉を録音してほしいのか逆に問いかけました。
尚美さんはいざ問われると録音してほしい言葉が見つかりませんでした。
残した声で夫との会話を続けている酒井惠子さんです。
はい吸って。
呼吸をするための筋力が衰えていました。
このままでは今つけている呼吸補助の器具では間に合わずより本格的な人工呼吸器が必要になります。
24時間チューブにつながれる延命治療。
選択を迫られる日が近づいていました。
日々の生活にも変化が起きていました。
酒井さんはマイボイスを使わなくなっていたのです。
「来年は食べる事も出歩く事もできなくなるかもしれない」。
生きている証しとして使ってきた声を今は使う気になれませんでした。
深夜0時夫の隆博さんが帰宅しました。
隆博さんは訪問介護の仕事でいつも帰りが遅くなります。
会話は用件のやり取りが中心になっていました。
行ってきま〜す。
朝早く仕事に出かける隆博さん。
病気が悪化してからも2人の時間はほとんどありませんでした。
1人きりで不安を抱える時間が耐えきれなくなっていました。
どうもご無沙汰。
元気だった?この日酒井さんのもとを作業療法士の本間さんが訪ねてきました。
マイボイスを使わなくなった事を気にかけていたのです。
酒井さんのマイボイスを調整して聞きやすくしようと持ち掛けました。
あっでも出た。
「すら」。
気持ちを解きほぐそうとする本間さん。
酒井さんがマイボイスを使い始めた頃の思い出を話し始めました。
ご主人がね体が大きいじゃない?小さい携帯電話持ってきてね「ここにもしかしたら惠子の声がちょっとだけだけどあるかもしれないんですよ。
役に立ちますか?」とか言って一生懸命持ってきて下さったんですね。
それが印象的でしたね。
酒井さんが久しぶりにマイボイスに触れました。
ほかの誰よりも声を聞いて喜んでくれた夫の姿を思い出しました。
この日残念な知らせも聞きました。
同じ頃に声を録音したALSの女性が病気が進行しマイボイスを使えなくなったというのです。
「私はまだ使えるんだよね。
だからこそ使わないと伝えないともったいないと思った」。
去年のクリスマスイブ。
隆博さんが休みを取れたため2人は一緒の時間を持ちました。
(笑い声)酒井さんはまだマイボイスが使えるうちに自分の声で夫に確かめておきたい事がありました。
病気が進行し会話ができなくなっても変わらず自分に寄り添ってくれるのかという問いかけです。
何?何か言った?何?別に今までどおりじゃないの?何だかんだいろいろやってきたしさ。
酒井さんはそれでも言葉を続けます。
う〜んもう寝な。
あんまりいい事は言わないからさ。
暗い話ばっかりするからね。
フフフメリークリスマス。
隆博さんからはっきりとした答えはもらえませんでした。
でも酒井さんは声には出さない夫の気持ちを感じ取っていました。
声を残そうとしている和田勇人さんです。
これまで録音したのは自分がいなくなったあとを意識した言葉だけ。
尚美さんは自分たち家族がどんな言葉を聞きたいのかまだ見つけられていませんでした。
この日手伝いに来ていた和田さんの母も一緒に家族で話し合う事にしました。
昔から勇人さんがよく言ってたような事とかありますかね?言ってた事?
(尚美)言ってた事とか口癖とか好きそうな言葉とか。
あんまりしゃべらない方だったからね。
(尚美)ハハハハそうね。
長男の彬さんも口下手な父の言葉がすぐには思い浮かびません。
(彬)あんまり俺父さんがコミュニケーション能力あるなって思った事ないもん。
自分が多少苦労したんだよ。
(尚美)おとうさんがねコミュニケーション能力がすごくあるって…家庭と仕事場と違うのかもしれないよ。
でもさ…。
だから確かに苦労したのかもしれないね。
苦手だろうなと思って見てたからさ。
その時…。
大学に行くなら…。
(泣き声)思い出した事がありました。
高校を中退するかどうか悩んでいた4年前。
父がかけてくれた言葉です。
高校をやめたいならそれでいいって言われて。
大学に行きさえすれば過程は何でもいいからって。
(尚美)好きなように…ね。
基本は彬が好きなようにやったらいいよっていう事だったよね。
(彬)うん。
そうだった。
言葉を探すうちに少しずつよみがえってきた家族の時間。
みんなで和田さんが家に帰った時にマイボイスを使う姿を思い浮かべました。
好きな食べ物。
仕事で使ってきた言葉。
応援していたサッカー選手の名前。
家族会議はいつしか家族の中の父の姿をもう一度見つめ直す時間になりました。
話してると結構出るもんだね。
フフフ…。
飲みたいんだよねお水。
やりますやります。
翌日尚美さんは家族会議のやり取りを和田さんに聞かせました。
長男が自分の言葉を大切にしていた事みんながもう一度一緒に暮らしたいと思っている事を知りました。
おはようございます。
本間さんが録音した声を聞いてもらおうとやって来ました。
パソコンだとこうなるんですね。
「たくやくん就職おめでとう」。
どうでしょう?
(勇人の声で)「ななちゃんみなちゃんはなちゃん結婚おめでとう」。
(本間)でも聞きやすいですね。
(尚美)いいですよね。
そうそう歌ってるみたい。
歌を歌ってるみたい。
聞こえてきたのは自分の声でした。
この日和田さんは最後の録音に臨みました。
和田さんが一人で考え準備していた言葉を尚美さんが読み上げます。
(尚美)「窓を」。
「開けて」。
「もっと」。
「開けて」。
「窓を」。
「閉めて」。
「もっと」。
「閉めて」。
「明かりを」。
「明かりをつけて」。
「明かりを消して」。
これまでとは違う言葉でした。
「おなかがすいた」。
おなかがすいた。
「のどが渇いた」。
のどが渇いた。
「顔を拭いて」。
顔を拭いて。
「体を拭いて」。
体を拭いて。
「頭を拭いて」。
頭を拭いて。
「目薬をさして」。
目薬をさして。
「はなをかむ」。
はなをかむ。
「ひげをそる」。
ひげをそる。
うん。
以上です。
(本間)ありがとうございます。
今何か声がいい感じなんですけど…。
和田さんが録音するのを拒んできた言葉。
今を生きるための言葉でした。
和田さんはマイボイスを使って家族に言葉を伝えようとしていました。
僅かに動く右足だけを使って入力します。
書いていたのは間もなく大学入試に臨む次男隆さんに宛てたメッセージでした。
書き上げた言葉を声にしてメールで送りました。
出た出た。
うん?…うんうん。
うん…うん…うん…合ってる。
うんそうね。
そうそう。
「頑張って」より「力まず」の方が隆の性格に合ってるからって。
ホントそうよね。
フフフ。
和田さんは父親として今息子たちにできる事を精いっぱいやろうとしていました。
自分の声で会話ができなくなる不安を夫に伝えた酒井惠子さん。
新しい目標を立てていました。
はい。
お疲れ。
たとえ夫の帰りが遅くても食卓を囲んで話す時間を増やそうと決めたのです。
2人の会話に以前の明るさが戻っていました。
そうだね。
お礼は言わないね。
ハハハ…!そう。
「頂きます」と「ごちそうさま」はちゃんと言うじゃん。
そんな事ないじゃん。
お弁当はちゃんとお礼言ってたよ。
ハハハ…。
ありがとうございます。
この先声が使えなくなる日が来ると分かっているからこそ一日一日を大切にしようと2人は考えるようになりました。
生きる証しとして残した声。
本当の気持ちを交わした事でたどりついた夫婦の時間です。
和田勇人さんの病室を家族が訪れました。
次男隆さんの大学合格を報告するためです。
卒業した証しを見せてなかったから持ってきたんだって…。
この時和田さんは呼吸をするのが難しくなりマイボイスも使えなくなっていました。
こんな感じで。
見える?卒業証書。
和田さんは2つの声を家族に残しました。
「試験りきまないで」。
隆さんは第一志望の大学に合格しました。
「ゼミ頑張って」。
長男の彬さんは今父と同じ公認会計士になるための勉強を始めています。
失われていく声と向き合った半年間。
それは家族がそれまで意識していなかった互いの思いを深く理解し合った日々でした。
「た」「ち」「つ」「て」「と」。
家族は今和田さんに唯一残された目の動きから伝えたい事を読み取っています。
家族をつないでいる大切な人の声。
その掛けがえのなさに触れた時間がこれからの歩みを支えていきます。
2014/05/03(土) 16:00〜16:50
NHK総合1・神戸
特集ドキュメンタリー「声〜家族がつながるとき〜」[字]
50音や口癖などを録音し合成すると、文字を打ち込むだけでその人の声で読み上げるソフトが、病気で声を失いつつある患者に利用され始めている。声でつながる家族の物語。
詳細情報
番組内容
あいうえお…の五十音や、口癖など、「声」を録音してパソコンで合成すると、文字を打ち込むだけで、その人の話し声となって再生される音声ソフトがある。今、ALS・筋萎縮性側索硬化症などで気管を切開し、人工呼吸器を取り付けなければならなくなった患者たちに利用され始めている。声が出なくなる前に、声を残そうとする患者やその家族。どんな思いで録音に臨むのか。声を残すことで生まれる新たな家族の時間を見つめる。
出演者
【語り】渡邊佐和子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番
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