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憲法のゆくえ 震災・暮らし(下)9条で得た信頼守れ/元自民党幹事長・加藤紘一さん

加藤紘一さん

 −安倍政権は集団的自衛権の行使容認の検討を加速させている。

<正式な論議を>
 「憲法改正ほど難しくないとの理由で、解釈改憲へ進む道筋は危うい。やるなら正式な改憲論議を踏むべきだ。一部を取り出すのは安易で、間違えた道を歩みかねない」
 −政府・自民党は行使できる事例を限定した限定容認論を唱える。
 「(自民党副総裁の)高村正彦さんが言う最高裁の『砂川判決』はそもそもが自衛隊の存在の容認で、集団的自衛権を認めたものではない。米国は南のホンジュラスやニカラグアなど、政治的に不安定な地域に介入することがある。米国の要請を受け、自衛隊が地球の裏側まで出向く局面は十分に想定される」
 −政権は支持率が安定している。今の社会や世論の変化をどう見るか。
 「戦争への反対勢力はぐんぐん減っている。第2次世界大戦後、地域社会の保守系無所属層は腹にずしんとくるほどの決心を持ち、自民党のリベラル保守を支えていた。どんどん存在が薄くなっている」
 −国民政党を掲げた自民党は変質したのか。
 「左右のバランスが悪くなり振り子を戻す力が失われた。(会長を務めた)ハト派派閥の宏池会など(の存在感)がなくなったとされるが、社会全体からハトが消えてしまった。党内はネット右翼の台頭を歓迎する政治家が元気になっている」

 −日本全体を包む右傾化の本質とは。

<闘争が際立つ>
 「戦後のナショナリズムは三つあった。スポーツや学力などで世界トップを目指す競争と、自らの根本を見つめる誇り。この二つが後退し、闘争するナショナリズムばかり際立っている」
 「日本は韓国企業に敗れ、中国のGDP(国内総生産)に目を丸くしている。自信を失った国は歴史上、隣に敵をつくってしまうものだ」
 −揺れ動く憲法の問題は、中韓など国際関係の火種になっている。
 「戦後、日本への信用が築かれたのは憲法9条によるところが大きい。条文を超え、近隣諸国や米国に対する日本の平和外交宣言の基本になっていた。長年貫いてきた理念と積み上げた信頼を今、壊すべきではない」

 −将来に向けた処方箋を何に求めるべきか。

<原点回帰 必要>
 「日本は近現代史を学んでいない人が、社会の枢機を担っている。ジャーナリストも現状を描写するだけで真相を書き切れていない。歴史を直視し、勉強し直す必要がある。自民党も、地域の多様な声を束ねた原点に立ち返ることが欠かせない」(聞き手は報道部・元柏和幸)

[かとう・こういち]山形県鶴岡市出身。東大卒。外務省官僚を経て衆院旧山形2区、山形3区で当選13回。官房長官、防衛庁長官などを歴任。日中友好協会会長。74歳。

[憲法第9条]日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


2014年05月04日日曜日

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