これまでの放送
No.2983
2011年1月11日(火)放送
“ウーマノミクス(女性経済)”が日本を変える
放送の一部をご覧いただけます。
出演者
岩田 喜美枝
さん
(資生堂副社長)
宮本 太郎
さん
(北海道大学教授)
北海道大学法学部
NHKサイトを離れます
横田 響子 さん (コラボラボ社長) 青野 慶久 さん (サイボウズ社長)
横田 響子 さん (コラボラボ社長) 青野 慶久 さん (サイボウズ社長)
頼みの輸出では新興国のライバルとの激しいコスト競争にさらされ、人口の減少によって国内消費も冷え込む日本経済。この閉塞感を打ち破り、企業や社会を活気づける大きなカギになると熱い注目を集めているのが、働く女性たちの活躍=“ウーマノミクス”(女性経済)だ。他の先進国に比べて、結婚や出産を機に仕事を辞めてしまう女性が非常に多く、“埋もれた資源”とも言われる日本の女性たち。女性の就労が拡大すれば、生活者の視点から斬新で多様なサービスや商品を生み出して企業に活力を与え、さらに手にした収入で消費をけん引するという“ウーマノミクス旋風”を巻き起こすと期待されている。ヨーロッパでは、女性が働きやすい職場作りに真剣に取り組むことによって、男性もワークライフ・バランスが取れるようになり、さらに出生率も上昇するという好循環が生まれている。日本でも始まった“ウーマノミクス”の最前線に迫り、その可能性を探る。
【放送時間】
総合テレビ:19:30~20:43(73分スペシャル)
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出演者の発言
番組中の出演者のコメントを掲載
- 出演者
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岩田 喜美枝
さん
(資生堂副社長)
宮本 太郎 さん (北海道大学教授) 北海道大学法学部 NHKサイトを離れます
横田 響子 さん (コラボラボ社長)
青野 慶久 さん (サイボウズ社長)
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【スタジオ1】
●主要企業100社のアンケートでも99%が女性の活用が必要だと回答している。なぜ、今企業が斬新なアイデアを女性から期待する時代になったのか?
岩田さん)女性がもっと活躍できるようにするということが、企業にとって日本の経済全体にとって、人材面からの成長戦略につながるということに、多くの人が、気がついたということだと思う。なぜ、女性の活躍が企業の成長や経済の発展につながるのかというと、代表的な理由は2つある。ひとつめは、消費者場が非常に多様で、女性の消費者のニーズは女性のほうがよく分かる。だから男性から見落とされていたような女性のニーズは女性のほうが、意志決定できるポストにつくことができれば、それを拾い上げてビジネスチャンスに変えることができる。だから市場についての理解度が高まるというのがひとつの理由としてあると思う。もうひとつは、女性の活躍だけではないのだが、従来はややもすると学校を卒業し、生え抜きで、その会社でがんばってきた男性が、会社の中心だったと思うのだが、これをいかに多様にするかということが必要だということだ。女性はもちろんだが、中途採用者とか、外国人だとか、そういう多様なバックグラウンドを持っている人材が、自分たちの経験や情報や価値観を会社に持ち寄って、そしてその中でそれが融合したり、場合によっては対立する、そういう環境のなかでしか新しい考え方は出てこないと思う。モノカルチャーな生え抜きの男性だけの会社では、組織が持っている価値を突き破るような新しいものを生み出すことは難しいと思う。女性たちは、いわゆる既得権というものがない状態でチャンスを与えられるので、そこで思い切って自分自身をぶつけるという傾向もある。
●宮本さんは企業が女性の能力や視点に活躍する動きをどういう視点からみているのか?
宮本さん)これまで女性の“社会参加”や“男女平等”って理念的に語られていたところがあると思うが、VTRを見ていると経済が元気になる上で不可欠なことなのだなと、非常にリアルに感じる。社会と歴史の大きなページがめくられていくような感慨がある。女性の労働力率とGDPの経済成長率の関係のデータをみると、実は女性の労働力が高い国っていうのは、経済成長率が高いということが言えそうである。どうしてかというと、よく考えてみると、決して不思議なことではない。今経済っていうのは、重厚長大型の経済ではなくて、サービス経済とか、知識経済とか言われる時代で、こういう経済の形のなかでは、女性が活躍することが非常に効果的だと言えると思う。ひとつは当たり前だけれども、女性の能力が活用されるということ、日本の女性の大学進学率は短大も合わせると、もう53%、非常に国際的にも高い。でもそれが第一子を出産する前後では、6割以上の女性が会社を辞めざるを得なくなる。とても、もったいない。それから、女性が就労すれば家計収入が増えて内需が強まる。これも当たり前。それから女性が就業するっていうことは、女性就業を支える色んなサービス経済が活性化する、育児とか介護だとか、食品関係、こういったとことで、雇用が増えて、投資が増える。一方で、“ウーマノミクス”というのは、女性がこれまでの男性のように、バリバリがむしゃらに働くのかということかというと決してそうではないと思う。女性がどこで生きているのかというと、生活感覚が経済のなかで活かされている、女性が生活者としてのポジションをうまく活かしているわけで、経済と生活の新しい関係、“生活密着経済”とでもいうか、これが、新しい形で出てきている。もうひとつは、女性が働き続けることができるような介護とか保育などの社会保障のサービスが、経済と良い関係になっていく、やはり社会保障と経済の新しい関係も、ほのかに見えている、つまり、社会と経済の新しい形を示しているのは“ウーマノミクス”だと思う。
●起業する女性たちは非常に多いが、どういう女性たちが、どういう企業をおこしているのか?
横田さん)そもそもインターネットの出現で、小資本で起業がしやすくなったということが、まず大前提としてあると思うが、そうすると、若くして女性が、「組織でなかなか活躍できる場がない。なければ自分たちで作ってしまえ。」という傾向がひとつあると思います。子育てが一段落してブランクがあった後で、また組織に戻るのではなくて、自分で始める方もいるし、若くして会社で商品提案したものの通らない、だったら自分で作ってしまおうと考えて起業し、実はヒットしたという会社があったりとか、一方で、働き始めて活躍する場を与えられても、長時間労働ということで長くそのままいけない、「じゃ、ワークライフバランスをしっかり保ちながら、自分の力を活かしたい。」という方が増えているのだと思う。生活感覚でのビジネスの提案というか、例えば、女性はよくピアスをなくすのだが、外れないピアスキャッチを作って、アメリカに進出する会社ですとか、ファッション小物でもシンプルな服に合わせると、すごくすてきなものにみえるものを作っていたりとか、えっ?そんなものを作っているのかというモノをつくっている人がすごく増えていると思う。
●起業を目指す女性が実際に開業した割合は男性の2倍あるが、一方で、廃業率も男性に比べると2倍、失敗するケースも多い現状がある。廃業に迫られる理由をどうみているのか?
横田さん)小資本で始められるとはいえ、経営には、ヒト・モノ・カネのすべてが必要である。40歳男性で、資金が3千万円くらいある人が一番起業の成功確率が高い、とも言われているように、20代女性の起業だと人脈が少なかったり、だとか、資本もそれほど潤沢ではなかったりとか、という部分においては、そういうスタートアップの大変さを抜けきれずに終わるということはあると思う。しかし、今はインターネットで女性起業家同士がフォローしあうこともできるし、女性起業家ネットワークを活用して、自分の強みはきっちり育てていく、例えば規模を拡大せずとも、他社とうまく組んでいくということで、今後、廃業率は減らしていけると思っている。弊社のイベントにも参加して頂いている女性起業家は、平均で5人の雇用でまだまだ少ないが、小規模で社会の変化にフレシキブルに対応して持続的にやっていくことで、そいういった会社が増えれば増えるほど、今日本は20人にひとり女性社長と言われているが、アメリカは、三人にひとりになってきているので、それぐらい増えてくると、日本でも100万人規模の雇用につながる。後は、女性起業家の方が自分たち自身も子育て・介護というところに直面しやすいので、直面する社員たちに対応するフレシキブルな体制も作りやすいというところもある。
●男女雇用均等法から25年。まだまだ出産育児を機に会社をやめる女性多い。なぜこのような状況が続いているのか?
岩田さん)均等法制定から四半世紀になる。採用はずいぶん変わり、女性に対する門戸が開いた。しかし、相変わらず変わらないのが、第一子を出産する前後に3分の2の人がやめてしまう現状。なぜなのかという原因は、家庭にも問題があり、職場にも問題があり、行政にも問題があるからだ。家庭には、まだまだ育児の負担が女性一人に集中していて、そのことが仕事の継続に負担になっていることがあると思う。職場では何が問題かというと、やっぱり、仕事と子育てが両立できるような、まず制度。代表的なものは育児休業制度とか、短時間勤務制度ですとか、事業所内託児施設等、まずその制度的な整備。それから制度ができただけではだめで、本当にそれを使って、がんばってもらいたいという風に、会社の風土がなっているか、それは会社が本当に、子育てしながら、女性に活躍してもらいたい、という風に、女性のみなさんに期待しているかどうか、このあたりだと思う。行政は、これはみなさん異口同音におっしゃっていますけど、やっぱり保育所や学童保育の制度というのは、一企業ができることというのは限りがあるので、ここのところの予算をもっと集中的にシフトをして、そして保育の質は落とさないけれど、例えば建物などのハード面では、思い切った規制緩和すると、行政にお願いしなければならないところだと思う。こういう条件が改善されない限り、今のM字型カーブも変えられないと思う。子育ての両立って色々苦労はあるが、やっぱり自分の経験はこういう展望があるとか、この会社でがんばるとどんな可能性が将来あるのかとか、それが見えると人はがんばれると思う。しかし、会社から期待されていないみたいだと、難しいんだったら辞めてしまおうとか、いうことになると思う。
●宮本さんは、M字の存在をどう見ていますか?
宮本さん)日本の雇用曲線、M字の底が深いのは、これまでの日本の生活保障の形が、「男性稼ぎ主の雇用を安定させて、妻と子供を養ってもらう。」という形にあったからだ。ところがこの形が完全に限界に突き当たっている今、政府も含めて底を上げていかないといけないということを目標としている。実際、M字の底はすこしずつ上がり始めているのだけれど、少し底が上がってきている。ただ、よく見てみると少し心配になることが存在している。ひとつは、未婚の女性が増えている、30歳から34歳の女性が、経済問題もあって、結婚できなくなっちゃっていて、未婚の女性が働き続けることで、M字の底が少しあがっている。一方で、既婚の女性に注目すると、むしろここ数年間で、底が深くなってしまっていることがある。つまり、結婚して子供を産み、育てながら、依然として働きにくいという現実がみられるわけだ。もうひとつは、ただ底をあげればいいというのではない、雇用の質も問題で、やはり、非正規の仕事が中心となって底が上がってきている現実がある。今男性は、18%が非正規労働者だが、女性は53%が非正規だ。そもそも“ウーマノミクス”の強みっていうのは、女性の生活感覚が活かされるということであるはずなのに、今の就労の形が“ウーマノミクス”の強みを引き出しているのかなというと、少しまだ疑問なところもあって、道半ばなのかもなという気持ちがする。
【スタジオ2】
●「ワーク重視」「ライフ重視」制度導入の経緯について。女性たちが長く続けられる企業である必要性を感じられたのか。
青野さん)もともとITベンチャーですから「むちゃくちゃ働いて当たり前」という感じだったんですけど、もう本当、一時すごく社員が辞めて、女性に至っては3分の1くらいが、一年の間に辞めていくようなことがあって、会社の雰囲気も悪くなりますし、それから合理的に見ても、人が辞めると、また次、採用してこないといけないですよね。これにまたお金がかかりますし。また採用してきたら、また今度、教育をしていかないといけないので、教育コストがかかると。辞めれば辞めるほど、損するようなモデルになっていて、これはちょっと事業を継続していくのがきついぞと。なので、みんなが辞めにくい制度を作ろうと思って、みんなとディスカッションして、今のような選べる制度というのを作ってきたんです。
●ツイッターから意見では、「働き方の選択というと聞こえはいいが、中小企業や慢性的な人手不足の所では絵に描いた餅ではないか」「これからの日本企業に、ライフ型を支えるゆとりはない、ライフ型の得る報酬や業務は、もっと賃金の安い人材にとって代わられると予想している」つまり、本当にこうしたライフ重視、あるいはワーク重視を選べるような選択をすることによって、業績がもつのかという声もあるが。
青野さん)やれる会社とやれない会社があると思うんですけど、知っといて頂きたいのは、やったらデメリットがあるように見えると思うんですけど、結構メリットもたくさんあって、例えば、こういう選べる制度をやってますよって、学生の前で会社説明会をしたら、みんな「ええ会社やな」と優秀な学生が本当入ってくるわけですよね。そしたら、すごく優秀な女性が入ってきてくれるかもしれないと。そうするとこれ「やったほうがメリットあるやんか」ということなんですよね。
もう一つは、やってみてもし業績が悪くなったら、辞めればいいんですよね。それはもう、ちゃんと社員にも説明して、「今この制度があるのは黒字やからこれができるけれども、赤字になったら辞めるからな、それは分かってるやろな」と。「だからみんなで頑張って稼ごうな」と。そうしたら、みんなで頑張って稼いで、今のいい制度をもっと維持、発展させていこうと思いますから、これまたいいことですよね。その辺をちゃんと説明すれば、私は続けられると思ってるんですけれどもね。
●ワーク重視で選ぶ人と、ライフ重視を選ぶ人と、本当に公平に人事評価ができるのか。
青野さん)まず評価を公平にするというのは、そもそも僕は幻想だと思ってるんですよ。例えば、営業マンですごくたくさん売ってきました。これすごいねと。それから方や、サポートをしていて、すごいお客さんの厳しいクレームを解決したと。どっちが偉いですかと、これ、わからないですよね。公平に評価するというのがそもそも難しいと。そうすると、どういう人事制度がいい制度かというと、公平ではなくて、ちゃんと一人一人を見る。「僕はむちゃくちゃ働くけど給料いっぱい欲しい」という人、じゃあそれに応えてあげる。「僕はそんなに長時間は働きたくないんだけれども、給料はこれぐらいもらえたらいいです」っていう人がいたら、それに応えてあげる。一人一人にちゃんと合った制度で対応してあげると、みんなハッピーじゃないですか。だから目指すのはこっちだと思うんですね。公平というのじゃなくて、一人一人に必要なものを報酬として提供できるかどうか。それはお金だけではなくて、働き方であったり、仕事の内容であったり、それから働く仲間であったり、こういうものを一つ一つメンバーと会話をしながら、提供できるようにしていくと。これが理想の制度だと思うんですけれども。
●人事制度も相当フレキシブルに、一人一人を見て評価をしていくというシステムをとっていらっしゃる。
青野さん)僕らの会社は本当小さいので、社長とメンバーの距離も近いですから、やっぱりちゃんと話し合って、一人一人見ながらやっていくっていうのが逆に中小企業の強みだと思っています。
●一方で岩田さん、女性を巡る状況を変えるためには男性の意識を変えないと改善しないという声もある。岩田さんも2人のお子さんを育てながら、キャリアアップを図ってこられたが、仕事一筋で働いてきた男性ばかりがいる環境を変えることが、大きなステップでしょうか?
岩田さん)私自身の経験からいっても、やっぱり仕事を続けるうえで、一番障害になったのは、やっぱり長時間労働でしたですね。育児期の自分というのは、30代でしたので、男性の働き方に自分の働き方を合わせるしかなかったんですが、自分の経験を踏まえても今、資生堂の中で、全社員を対象にしたワークライフバランスを実現できるような働き方の見直しを推進してるんですよね。なぜそれが女性の活躍にとって大事かというと、従来型の働き方というのは、配偶者にサポートしてもらっていくらでも働けるという、そういう男性型のモデルなんですね。その中に、例えば子育てをしながら頑張ろうという女性が放り込まれたときに、やっぱり時間制約のある人は、一流の社員とは見なされない。だから責任のある仕事は回ってこない、評価は高くない。結局やっぱり、キャリアアップができないということになると思うんですね。ですから従来型の男性型と言っていいのかな、男性型の働き方のスタンダードを、共働きの当たり前とするようなワークライフバランス型のスタンダードに変えるっていう、これがなければ女性の活躍っていうのはないと思います。それから一部、やっぱりワークライフバランスに世の中、誤解があるかなって感じがするんですね。働かなくてもいいというのがワークライフバランスではなくて、それはもちろん、社員の数を増やせば、1人当たりの労働時間は減ると思うんですけれども、そういう余裕のある企業っていうのはあまりないので、今の社員の中で、いかにもっと1人当たりの労働時間を減らすか、あるいは労働時間を柔軟にするかということ。それは1時間当たりの生産性が上がるような働き方にしようと、業務改革をしようということなので、これは本当に難しい課題なんですけれどもね、それを乗り越えるということが、女性の活躍にとって、子育てとの両立支援策の次に来る大きな課題だと思います。
●宮本さん、時間当たりの賃金を同じ業務をしている正社員と非正規社員を同じにするという銀行があったが、こうした取り組み・変化をどうご覧になるか?
宮本さん)女性に働きやすい環境というのは、短時間でもパートタイムでも、きちっと力が発揮できて、そしてちゃんと評価されると、会社にしがみついていることだけが高く評価されるんじゃないと、そういう転換が大事ですよね。これをまさに企業の中で実践している、こういうのを「同一労働・同一賃金」というんですけれども、社会全体でこれをやっていくのはなかなか難しいんですよね。どういう仕事の中身を、どういう評価をすればいいのか。これを会社の中できちっとやっていくというのは、ものすごく大切なことであって、それをやってるんだなということが非常に印象的でしたね。
岩田さん)パートタイマーというのは、仕事に値段がついてるんですね。正社員は人に値段がついてるんです。その人の能力とか成果とか、勤続とか。ですから、やっぱり評価基準というのか、賃金体系がつながっていない。それを評価基準を合わせるということとか、せめてパートから、その中の優秀な実績を上げた人は、正社員に転換できる道を制度上作るとか、そういうことはそれぞれの企業でできるというふうに思いますけどね。
●女性の経済活動への参加を進めるべきだという番組をすると、ツイッターの中には「もっと女性のために道を開けろ、席を譲れ、そのためには男性はもっと控えろ、我慢しろという感じがします」という声もあるが、男女のいす取りゲームになってしまうのか。
宮本さん)今のような意見もあれば、他方では、「こんなに雇用がないのに、女性にどんどん社会に参加してもらう、雇用に加わってもらうというのは、自分たちの首を絞めるんではないか」という、そういう考え方もあると思うんですね。ウーマノミクスというのは、決して限られた雇用を争い合ういす取りゲームじゃないんですね。むしろ、サービス経済を高めていく、女性が就労するための、さまざまな支援的な産業を広げて、そこに雇用をつくっていく。いすの数を増やしていくことなんですね。ここが一つです。それからもう一つは、ウーマノミクスというのは、女性だけの参加ではなくて、全員参加型社会への道だと思うんですね。つまり今、女性と限らず、非正規の人も社会と、雇用と関わりにくくなっているわけですよね。実は女性もその非正規の人たちも、そもそも女性の多くは非正規ですけれども、きちっと働き続けることができない、働きにくいという、その原因は、一緒なんですよね。つまり、会社の外で能力を高めたり、あるいは会社の外で能力をきちっと評価されることが非常に難しい社会になっちゃってる。さっき岩田さんもおっしゃったように、会社の中にいったん正社員として入り込むとですね、能力を伸ばすチャンスが潤沢に与えられるけれども、いったん、そのチャンスを失うと、いつまでもはじき出されたままになってしまう。これでは全員参加型社会はつくれない、みんなの能力は生かせないわけですよね。こうした人たちの能力を生かして、多様な回路を作っていくという点では、ウーマノミクスというのは、全員参加型社会への最短の道というふうに、見たほうがいいのではないかなと思います。
●「女性が経済活動に参加していくとなると、少子化がどんどん進むのではないか、子どもをもっと産まなくなるのではないか」という意見もよく聞かれますが。
宮本さん)そういう意見が聞かれるのはわかるんですけれどもそれは恐らく女性が忙しくなると、子どもを産み、育てることができなくなるじゃないか。現実には、女性の労働力率が高い国、先ほど成長率の高い国と言ったけれども、出生率も高くなってるんですよね。逆に言うと、労働力率が低い国、これは南ヨーロッパなんかがそうなんですけれども、そこは出生率も低くなってしまってる、これはよく考えてみると、これも当たり前なんですよね。女性が働けるということは、女性のための子育て支援なんかがきちっとしている、子どもを産み・育てやすいということなんですね。だから実は、女性が働きやすいということと、子どもを産み・育てやすいというのと一緒で、女性が働き始められるようになると出生率も上がっていくということですね。それからもう一つ、これから高齢社会が深刻化していきます。今は人口統計上では3.3人に、生産年齢人口ですね。3.3人に1人の高齢人口が支えているわけですけれども、これ2050年になるとですね、1.2人で1人を支える。いわばこれまでが騎馬戦型だったとすると、今度は肩車型になっていくわけなんですけれども、この1.2人で1人を支える、これ男女みんなが生産年齢人口がみんな働いて、ようやく肩車ができる。これが今、労働力率が60%ぐらいあったら、0.7人に1人とかね、0.8人で1人を支えなきゃいけないわけで。そういう意味では、ウーマノミクスは処方箋としても不可欠。
●結婚、そして出産しても働き続けられる環境を作ることが求められているが、もう一つ同時に、女性が本当に自分の能力に見合った、自分の力を発揮できる仕事を得られることも大切。番組が今回行った企業のアンケート調査の結果では女性管理職の少なさが際立っていた。女性管理職の割合は平均で課長級では4.6%、部長級で2.8%、役員に至っては1.2%にとどまっている。理由としては「家庭との両立が難しい」「女性自身がそれを望んでいない」「目標となる先輩がいない」という回答が多く見られた。
企業の中でのリーダーとして活躍する女性が、極めて少ないというのが日本の現実。
今、世界では国を挙げて、女性リーダーを育て、経済力を上げていこうという動きが出てきている。ノルウェーでは、短時間で女性の取締役を増やそうと、上場企業の取締役の40%以上は女性にしなければならないというルールを法律で定めた。
【スタジオ3】
●取締役の女性比率を40%以上にする今のノルウェーの法律について
岩田さん)10年前は管理職に占める女性比率が11%だったのが、「取締役40%」という数値目標を義務化したような、そんな国があるっていうのは本当に驚きました。ちょうど日本は係長級まで入れると、管理職に占める女性比率が今1割ぐらいなので、私たちもやり方によってはこれから変わることができる。ヨーロッパから学ぶべきことはやっぱりスピードの速さかなと思いました。日本の場合に、数値目標を個々の企業に義務づけるということについては、私は経済合理性と反するところもあるので、クエスチョンマークをつけているのです。例えば、能力適性からいって良い候補が男性にいるのに、数値目標があるからというので、そこに女性を登用しないといけないというのは経済合理性に反することだと思うのですね。けれども、女性の育成を急ぐということはとても大事だと思うのです。ですから個々の企業が数値目標を自ら掲げて、それを達成するためにさまざまな人事策を総動員するということは、とても大事だと思うのです。特にやっぱり人を育てるのは仕事自体だと思いますので、いかにチャレンジングな仕事を女性に経験してもらうか。日ごろの仕事の与え方、OJTのしかた、そして異動、経験をさせるっていう、そういうことを掲げて、アファーマティブアクションを企業が取るということは、ぜひ進めるべきことだと思います。
●今、国がなすべきことについて
宮本さん)もちろん役員の女性比率を高めるのは大切ですけど、北欧がここまで来るのは、1つは税制改革、それ以上女性が働いたら損しちゃうという、「約103万円の壁」、「130万円の壁」、この制度を改革していくのが1つ。あとは良質な保育サービスを潤沢に提供した、それが北欧がここまでに来た背景だったと思いますね。
●「広げることについて、社会のリスクが軽減されて、当たり前の幸せをすべての国民が享受できるようにしていくことが、ウーマノミクスの最終的な到達点であってほしいと、切に願います」というツイッターの意見について
岩田さん)そのとおりですね。ですから、ウーマノミクスというのは、企業とか経済にとって付加価値を創造して、競争力を高めるという側面ありますけど、同時にやっぱり、女性が生きたいように、働きたいように働く。家庭では男性と女性が稼ぐこと、子育てをするということをもっとシェアするという、個人の幸せという観点からいってもそのとおりだと思いますね。
宮本さん)これまでの日本って、男性は会社の物語、女性は家族の物語、それぞれの物語、1つの物語だけを生きることを余儀なくされていた。これからは2つの複数の物語を生きて、1つの物語で厳しくなったら、別の物語で英気を養って、そのエネルギーをまた別の物語で生かす、そういう時代が求められているのではないかなと思いますね。
前回
2010年12月16日(木)放送
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