政治家も官僚も「ざけんじゃねえ」。でも、それじゃ何も動かない。政治で何かを変えよう! ラッパーたちが立ち上がった。

 客に性風俗を乱す享楽的なダンスをさせていたとするには合理的な疑いが残る――大阪地裁は4月25日、風俗営業法違反の罪に問われたクラブ「NOON」の元経営者に無罪を言い渡した。1年前、クラブ規制を変えようと始まった運動に追い風が吹いた。

 ここで言うクラブは、女性が隣に座って酒や会話を楽しむ昔ながらの「クラブ」ではない。1980年代に生まれ、最先端の音楽が流れる中、酒やダンスを楽しむ「クラブ」だ。

 昨年5月。都内のクラブで活動するラッパーのダースレイダー(37)は東京・永田町の議員会館に乗り込んだ。クラブ規制を緩和する風営法改正の必要性を国会議員に訴える。

 十数人の議員を前に、金髪やサングラスにスーツ姿の8人の仲間と、世界のヒットチャートはダンス音楽が占め、観光、イベントなどダンス産業の裾野は広く、経済成長にもつながることを訴えた。パソコンや動画も使い、世界各国のクラブの映像も上映した。

 青春時代、遊び場だったクラブはいま仕事場だ。そこが警察の摘発を相次いで受けている。クラブを守りたいという一念だった。

 訴えが終わると、国会議員から拍手がわいた。

 「ドアだけ閉めときゃバレないさ」。1987年の「Hoo! Ei! Ho!」(風営法)という曲の一節だ。

 「設備を設けて客にダンスをさせる営業」に面積や立地など条件をつけ、公安委員会の許可制とした同法。85年の改正で営業が原則午前0時までと規制強化された。クラブや客が法や当局に素直に従うとはカッコわりぃ、政治権力に「ファック(ざけんじゃねぇ)」と中指を立てる。そんな声の代弁として、歌い継がれている。

 だが2010年末、「NOON」が風営法違反容疑で警察の摘発を受け、当時の経営者が逮捕された。「音楽バー」とも見えるグレーさから、クラブはそれまで大規模な摘発を免れてきたが、ごみや騒音など近隣とのトラブルも目立っていた。摘発は「調子に乗るなよ」という警察の本気を感じさせたという。もはや、「ドアだけ閉めときゃ」と言っていられなくなった。

 関西のクラブの客らが立ち上がった。「規制は表現の自由を保障する憲法に違反する」と異議を申し立てた。音楽家の坂本龍一らも参加し、15万人の署名につながった。逮捕された経営者は裁判で「規制は違憲だ」と主張した。

 だが、「『正論』や『運動』だけでは変わらない」。現実を政治の力で変えようと動いたのは、若手弁護士で署名運動にも関わっていた斎藤貴弘(38)たちだ。ダースレイダーらクラブで活躍する著名アーティストに呼びかけて勉強会を開き、国会議員に直接働きかけることを決めた。

 「堂々と踊るには『ファック』(ざけんじゃねえ)じゃない。『ロビー』(働きかけ)だ」が合言葉になった。