バンコクの居酒屋「田舎っぺ」に絡む義捐金詐取疑惑、続けます。

さて、今回の中心的な話題は、田舎っぺグループが作成・販売した「チャリティーTシャツ」である。詳しくはこちらを参照していただきたいが、これまで田舎っぺグループでは、マグロ解体ショーについては「ジェトロが後援、大使館が協力」したもので、チャリティーTシャツについては「田舎っぺグループ」独自のイベントであるとしてきた。

この結果、マグロ解体ショーによって生じた義捐金は「大使館を通じて寄付」し、チャリティーTシャツによる義捐金は「独自の支援先を選定して寄付」するという二重構造が生じた。そして、大使館などが関与しない「独自の支援先を選定して寄付」する作業は遅々として進まず、11月中旬の段階においても田舎っぺグループの金庫内に保管さ れたままとなり、一連の騒動の発端となった従業員による使い込みに至った。

キャプローグでは今回、田舎っぺグループがイベント開催にあたってメディア各社に送付したプレスリリースを独自入手すると共に、イベントの事前告知を掲載した地元フリーペーパー「DACO」および、イベント後のレポート記事を掲載した地元フリー情報紙「newsclip」に対して質問状を送付し、両社の編集部から回答を得た。この結果、新たに「チャリティーTシャツ」にかかる「嘘」が判明したので、ご報告する。(ちょっと長いですが、ご了承ください。)
まず、田舎っぺグループのチャリティーイベントにおける義捐金の二重構造を図にすると、こうなる。


バンコクチェンマイ
マグロ後援(協力):大使館およびジェトロ
義捐金:ゼロ(エンポリアムのミス)
後援(協力):大使館およびジェトロ
義捐金:約3万バーツ(寄付済み)
Tシャツ後援:なし
義捐金:発生、金庫保管(着服)
後援:なし
義捐金:発生、金庫保管(着服)

わざわざマグロとTシャツの収益を分け、面倒な処理をすることに対して疑問を感じるが、この義捐金の分類については、在タイ日本国大使館も同意しているようである。11月29日に田舎っぺのオーナー杉森氏を呼び出した大使館は、一度は杉森氏が持参した「義捐金相当額の現金」を預かりながらも、その翌日には、預かった現金全額を、杉森氏に返納している。(詳しくは、こちらを参照)

本来であれば、使い込みなどの杜撰な義捐金の管理を行う私企業のオーナーに、「義捐金相当額の現金」を返納するなど大使館の仕事とは思えないが、それもこれも、大使館が協力したイベント以外で生じた義捐金であり、「独自の支援先を選定して寄付」するという前提に立って義捐金を募った以上は、大使館としても苦渋の決断なのだろうと百歩譲って理解できなくもない状況だったのだが・・・・・

今回、キャプローグが独自入手した「チャリティーTシャツ」にかかる販売告知には、「原価を差し引いた収益全額を日本大使館を通じて被災地への義援金とします」と、鮮明に大きな文字で記載されている。これは、間違いなく「チャリティーTシャツ」の販売に関する告知であり、マグロ解体ショーとは別の書面である。イベント開催に先立ち、この書面がメディア各社にプレスリリースとして送付されている。

友人・知人らに対して、杉森氏は「大使館の義捐金の送付先は怪しい」などと話していたことが確認されているのだが、本人が「怪しい」と思おうが思うまいが、プレスリリースとして大衆向けに告知した以上は、「大使館を通じて寄付」されるのが当然ではないのだろうか?

さて、チャリティーTシャツに絡む疑問点は、これだけではない。

そもそも、マグロ解体ショーとチャリティーTシャツが全く別物であるということを、主催者である杉森氏は十分に告知していたのかという問題がある。一方は「大使館を経由」し、一方は「独自に寄付」をするものであるから、イベント主催者として、2つのイベントであることについて説明責任は免れない。

しかし、結論から書くと、この点についても、主催者からのプレスリリースとして送付された資料によって、杉森氏の「嘘」が明らかになっている。

主催者である田舎っぺグループ(J.Stream社)から送付された「チャリティーイベントのお知らせ」という書面では、「催事名」「会期」「場所」「コンセプト」の各項目につづき、「物産」の項目では「生本マグロ」のほか、「揚げギョーザ販売」「冷凍食品販売」、そして「震災応援のオリジナルTシャツ販売」と記載されている。そして、このイベントの「後援」の項目には「JETRO バンコクセンター」が、また、「協力」の項目には「在タイ日本国大使館」が、はっきりと記されている。
田舎っぺ チャリティーイベントお知らせ

チャリティーTシャツの販売告知には「大使館を通じて被災地へ」と明記し、イベント開催のプレスリリースでは「Tシャツ販売」も含めてジェトロや大使館の協力があるかのような記述をしており、マグロ販売とTシャツ販売が2つの異なるイベントであることを示す記述など、何ひとつ無い。

イベントの告知を掲載したDACOの編集部に対して、告知掲載にかかる経緯などについて質問をし、回答を得た。質問と回答は以下の通り。

Q. イベント告知の掲載の経緯を教えてください。(回答:DACO編集部)
杉森氏から各媒体に一斉にイベント情報がメールで送られ、そのメールを受けて、担当者が情報を編集した上でダコログに掲載という流れになっています。電話やメールで細かなやり取りはあったかもしれませんが、基本的には杉森氏からの情報提供・掲載依頼を受けて、掲載しています。

Q. イベント告知の掲載にかかる判断基準・方針などはありますか?(回答:DACO編集部)
当時はいろいろな団体が東日本大震災のチャリティーイベントを開催しており、編集部にも掲載依頼メールが次々と届いていました。方針としては、イベント情報に不審な点がない限りは優先して、誌面やダコログで掲載していくことにしていました。

問題の「まぐろ解体ショー」についても、「通常価格~」と具体的な金額があったり、 寄付先に「日本大使館を通じて」とあったこと、JETROや日本大使館が企画書に名を連ねていることから、「ちゃんとしたイベント」だと判断しました。


以上が、DACO編集部からの回答である。

当時、震災被災地への支援を行おうと様々なイベントが行われていた中で、田舎っぺグループ主催のチャリティーイベントの告知文が掲載された判断基準には、「JETROや日本大使館」が名を連ねていたことが重視されていた。そして、これら政府系機関による「後援・協力」によって、「ちゃんとしたイベント」と判断したのは、DACO編集部だけでなく、マグロやTシャツを購入した人々も同じではないだろうか。この点において、両機関の責任は重い。


また、イベント会場を訪れ、レポート記事を掲載したnewsclipの齋藤氏からも、記事の掲載の経緯や、イベント時の様子などについて質問し、回答を得ている。

Q. イベントを取材した経緯について、教えてください。(回答:newsclip齋藤氏)
別件でお会いした際、主催者からの依頼を受けました。

Q. マグロとTシャツでは義捐金の寄付の方法が異なるなどの説明はありましたか?(回答:newsclip齋藤氏)
特別な説明は受けておりません。ただ、メールでの事前の説明には義援金額として、(マグロやTシャツなどが合わせて表記されており)区別が分からない表記となっております。

また、事前に配布された、同イベントを紹介した新聞記事のコピーが配布され、「~300バーツのチャリティTシャツも製作し、その収益を日本への義援金に加える。」(バンコク週報)や、「当日の収益金は原価を除いた売り上げのすべてを、東日本大震災へのチャリティーとして、在タイ日本国大使館へ手渡す計画だ」(媒体不明)と、書かれていました。

Q. 当日のイベント会場で印象的な人物などはいますか?(回答:newsclip齋藤氏)
まぐろ解体がメインだったので、そちらに気を取られており、ほとんど記憶しておりません。杉森氏は忙しくされており、ほとんど話をしておりません。福井氏が来客の記念写真を一生懸命撮っていた記憶があります。Jetro所長の掛け声で記念撮影になったはずです。
 

以上が、イベント会場を取材したnewsclip齋藤氏からの回答である。

現場を取材した齋藤氏でさえ、義捐金の取り扱いがマグロとTシャツでは異なるとの説明は一切受けていないとのこと。また、イベント開催以前に、バンコク週報などに掲載された記事でも、そういった内容は確認されていない。どうして杉森氏は、誤った内容で報道したメディアに訂正を求めないばかりか、誤った内容を掲載した記事をプレスリリースに添付して、他のメディアに送りつけたのだろうか?

これが、杉森氏がメディアに対して配布したバンコク週報のコピー。
上記記事を一部抜粋すると「藤崎ポンパン校長がデザインした、震災応援のオリジナルTシャツも1枚300バーツで販売する。当日の収益金は、原価を除いた売り上げのすべてを、東日本大震災のチャリティーとして、在タイ日本国大使館へ手渡す計画だ。」と記載されている。この記事をみて、誰が「Tシャツの売り上げは、在タイ日本国大使館に手渡されない」と思うだろうか?


以上、これまでの連載を通じて、私が読者各位に伝えたいことは、杉森氏が「大使館やジェトロからの支援を受けているかのように偽装し、大使館やジェトロの名を騙ってチャリティーTシャツを販売し、義捐金を詐取した疑い」があるということだ。決して、福井氏による「義捐金使い込み疑惑」ではない。杉森氏による「義捐金詐取疑惑」である。

現在把握している情報では、杉森氏は18日にも被災地である南相馬市を訪れ、義捐金を寄付することになっている。しかし、この南相馬市に届けられる「義捐金」とは、タイ人を含む多くの人々が被災地を思ってマグロやTシャツを購入したことで生じた義捐金ではない。集まった義捐金は、福井氏のごく私的な欲求を満たすためだけに使用され、その義捐金に相当する現金を杉森氏が工面し、それが被災地に届けられるに過ぎない。また、福井氏による使い込み騒動がなければ、本当に被災地に届いていたかも疑問が残る。

在タイ日本国大使館の皆さん、今からでも外務省の力を持ってすれば、寄付の実行を止められるはず。別に「協力」に対する責任を取れとは言いませんので、最後にひとつくらい良い仕事をしていただけませんかね?「大使館を通じて」という約束で集められた現金なんだから、個人が持って行ったら、ダメですよね?

あ、ジェトロには何も期待していません。せいぜい、「大使館を敵に回さないように」頑張ってください。ちなみに、ジェトロ絡みでもネタを持ってます。本件について何かしらのアクションを起こされるなら、お早めに。

(つづく)

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