[憲法記念日] 「解釈改憲」の前にやることがある
( 5/3 付 )

 17年ぶりの消費税増税の中で迎える憲法記念日である。

 急激な消費の落ち込みなど、予想されたほど混乱が見られないのは国民が豊かだからだろうか。そうではあるまい。

 本紙の4月中旬の県民世論調査では、消費税が8%になり「生活が厳しい」と答えた人が53.5%に上った。アベノミクスはまだ地方へ届いていないのだ。

 鹿児島市でホームレスらの支援を続けるNPO法人の鶴田啓洋さんは「4月以降、炊き出しを受ける人が増えたとは感じない。ふだんから生活は厳しいのでじっと耐えているのだろう」と推し量る。

 憲法25条2項は「社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」ことを国に求めている。

 そもそも、消費税増税による増収約8兆円は、毎年1兆円規模で膨らむ社会保障に充てる約束だ。政府がそれをたがえないよう、憲法を支えに目を光らせたい。

■民意を問うべきだ

 久しぶりの東京で、「銀座は中国人ばかり」と嘆く声を聞いた。確かに、一夜の宿も通りすがりの築地市場も中国人の観光客が多かった。深夜に入ったラーメン店では客席でも厨房(ちゅうぼう)でも中国語が飛び交っていた。

 日本に住む外国人は204万人ほどだ。うち中国籍と韓国・朝鮮籍が計約120万人で、鹿児島県内にも3500人近くが暮らしている。

 国内人口が減少に転じる中、格差社会の広がりと相まって、こうした国籍の人々に対する警戒感が都市部で強まっている。

 とげとげしい空気の中で安倍晋三首相が力を入れるのが、集団的自衛権の行使容認である。

 集団的自衛権とは、自国が直接攻撃されていないのに同盟国などと共に反撃する権利だ。歴代政府は、憲法9条に照らし「専守防衛のための必要最小限度を超える」として行使を禁じてきた。だが、集団的自衛権も、必要最小限度なら許されるというのが首相の論理である。

 一昨年暮れに再登板した首相は改憲へ布石を打ってきた。国会の発議要件を緩和する96条改正は断念したものの、特定秘密保護法を成立させ、武器輸出も緩めた。

 連休明けには、集団的自衛権や国民投票法改正案の審議などを加速させ、年末を挟んで日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定を急ぐ。

 数年来、巨大化した軍事力を背景にした中国のふるまいは目に余る。尖閣諸島周辺への度重なる領海侵犯がそうだ。北朝鮮はミサイル発射や核実験など挑発を繰り返すばかりである。十分な警戒を怠ってはならない。

 だからといって、違憲とされてきた集団的自衛権の行使を解釈見直しで認めることが、アジアに平和と安定をもたらすだろうか。むしろ、緊張を高め、「安全保障のジレンマ」に陥ることにならないか。

 実際、多くの国民は性急な解釈変更を案じている。

 先の県民世論調査でも、憲法解釈の見直しによる集団的自衛権の行使容認に5割以上が反対した。9条見直し反対派も過去最多の57.0%に上った。逆に憲法自体の改正を求める声は53.3%と過去最少に落ち込んだ。

 首相は一度立ち止まるべきではないか。世論はそう促している。

 集団的自衛権の行使容認は、戦後一貫して「9条の下で専守防衛に徹する」と国内外に宣言してきた安全保障政策の一大転換だ。実質的な憲法改正といえよう。

 そんな国是の変更を政府の解釈だけで行うのは、立憲主義、法治主義の否定につながらないか。国会で十分な論議が必要だ。その上でどうしても行使容認を目指すなら、堂々と改憲の手続きを踏んで国民投票に問うべきである。

■ソフトパワー生かせ

 領土問題や歴史認識で一向に溝が埋まらない日本と中韓両国の政府と異なり、自治体や民間レベルでは地道な交流が続いている。

 微小粒子状物質「PM2.5」など大気汚染がひどい中国の環境改善を支援する試みだ。公害を克服した北九州市や三重県四日市市が中心になっている。

 鹿児島では、南京大虐殺記念館を何回も訪ねて和解の道を探る県日中友好教職員の会などだ。

 こうした活動は「ソフトパワー」と呼んでいいだろう。軍事力に代わって、文化などを通じて他国を引き寄せる力のことだ。北九州市などの実践は、日中韓の政府間で大気汚染の実態解明を進める協力に結びついたのである。

 こう考えると非戦の誓いを述べた憲法の前文や、それを担保する9条の規定こそ最大のソフトパワーといえるのではないか。

 中国でも「軟実力」と訳され、世界で中国語の普及に力を入れているという。もともと漢字文化圏の韓国にも、そして北朝鮮にもこの言葉は通じそうだ。

 「軟実力」で大気汚染対策を進展させる。歴史認識や領土問題でも、外交力を含めたこの力で相互理解を深める。必要なのは「対立」ではなく、「対話」である。

 21世紀は憲法を核にしたソフトパワーを全開にして、北東アジアだけでなく世界全体の平和へ活用するべきである。


 
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