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社説

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きょう憲法記念日 平和主義の破壊許さない(5月3日)

 戦後日本の柱である平和憲法が危機に直面している。

 安倍晋三首相は歴代政権が継承してきた憲法解釈を覆し、集団的自衛権の行使を容認する「政府方針」を、今月中旬にも発表する。

 自衛隊の海外での武力行使に道を開くもので、専守防衛を基本とする平和主義とは相いれない。

 9条を実質的に放棄する政策転換と言っても過言ではない。

 首相はさらに、憲法が権力を縛る「立憲主義」を否定する。一国のリーダーが、国の最高法規をないがしろにする異常事態だ。

 憲法の危機であり、アジア諸国との関係においても深刻な緊張を生むことになろう。

 国民が敗戦から立ち上がり今日の社会を築く過程で、憲法は道しるべの役割を果たしてきた。

 この意義を再確認しながら、次の世代へと間違いなく引き継がなければならない。

■「9条」空文化に狙い

 わが国が攻撃を受けていないのに、反撃行動に出る集団的自衛権の行使は憲法上、認められない。

 首相はこの憲法解釈を変え、集団的自衛権が行使できるようにしたい意向だ。

 中国が軍事力を増強し、沖縄県尖閣諸島の領有権を主張していることや、北朝鮮の核・ミサイル開発が念頭にある。

 だがそうなれば、自衛隊のあり方は一変する。専守防衛の組織から、海外での武力行使が可能な「米国の同盟軍」になるからだ。

 侵略戦争の反省の上に制定された憲法9条はその意味を失う。

 批判を受け、適用を一定の範囲にとどめる「限定容認」に傾いているが、歯止めにはなり得ない。首相は、先の日米首脳会談でオバマ米大統領の支持を得たとして強引に突き進む考えだ。

 わが国は世界の国々との絆を強めたいと願い、問題が起きても軍事力による解決を避けてきた。

 しかし9条の枠組みを踏み越えた日本について、戦時中に被害を受けた周辺国はこれまで通り「平和国家」として見るだろうか。

 70年近い戦後の歩みを変える危うさは歴然としている。

■立憲主義踏みにじる

 安倍首相の憲法観も厳しく問われている。

 国会答弁で首相は、憲法解釈の変更について「最高責任者は私」と述べ、首相の判断で決められるかのような認識を示した。

 憲法が政治権力を縛るものだとする「立憲主義」の否定である。

 首相は根本的に誤っている。

 憲法は一度も改正されてはいないが、一方で内外の情勢変化に対応し、自衛隊の役割について憲法の枠内でどうあるべきか、国会で議論が積み重ねられてきた。

 歴代首相が勝手に憲法解釈を変えることはなく、これが法的安定と国民合意の基盤となっている。

 国会論議の重みを首相は理解していないのか、集団的自衛権をめぐる手法は極めて独善的だ。

 自分と考えが近い外交・安全保障の専門家を集めた私的諮問機関・安保法制懇で議論を進め、国会の議論は後回しである。

 そもそも集団的自衛権の行使容認については、9条をどう解釈しても正当化できないとの見解が憲法学者・専門家の主流だ。

 行使できないことを前提に安全保障政策を立案せよ―。これが憲法の要請である。

 首相はかねて改憲を強く主張している。そうであっても現行憲法を尊重し擁護する義務がある。

 権力者が「気に入らない憲法は無視してよい」と考えてしまったら、社会は成り立たない。

■市民レベルで危機感

 戦争放棄を定めた憲法9条をノーベル平和賞に推そう―。神奈川県の主婦が昨年1月、インターネットを通じて行ったこんな呼び掛けが大きな反響を呼んだ。

 賛同する署名が約2万4千人分も集まり、ノーベル賞委員会(ノルウェー)もこのほど平和賞候補として受理した。

 首相の思惑とは反対に、市民レベルでは危機意識から憲法擁護の動きが活発化している。

 北海道新聞社の世論調査でも、集団的自衛権の行使容認に対する反対が賛成を上回った。

 憲法の平和主義に、国民が強い信頼を寄せているのは明らかだ。

 国是と位置づけられてきた武器輸出三原則が安倍政権の下で事実上撤廃された。集団的自衛権の行使容認は改憲への道につながる。

 戦後、曲折はありつつも、日本国民は平和を享受してきた。戦乱が絶えることのない世界において、極めて貴重な経験と言える。

 平和に生きる権利を保障してきた憲法は、国民全体で共有し、継承すべきものだ。

 周辺国との摩擦も、日本国民の平和に寄せる思いを伝えることが解決の糸口になり得る。そこに目を向ける政治であってほしい。

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