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集団的自衛権めぐるジレンマ解消を

2014/5/3付
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 日本国憲法が施行されて3日で67年を迎えた。安倍晋三首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は今月中旬にも、憲法が禁じていると解釈してきた集団的自衛権の行使を容認する報告書を提出する予定だ。

 首相周辺はこれを受けて政府・与党内の調整を本格化させ、秋の臨時国会に関連法案を提出するスケジュールを描いている。集団的自衛権の行使容認は安全保障政策だけでなく、現行憲法のあり方そのものの転機になる。

グレー領域の調整カギ

 「自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を、自国が直接されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」というのが集団的自衛権に関する現在の政府見解だ。

 国連憲章51条にもとづく権利で、保有しているものの、日本は憲法9条の規定から行使は許されないとする解釈である。

 安倍首相はかねて内閣法制局によるこうした政府解釈に疑問を示しており、安保法制懇の報告を踏まえ、見直しへの手続きを踏んでいく意向とされる。

 中国の脅威や朝鮮半島の情勢など、東アジアの環境変化を踏まえても、従来の集団的自衛権の解釈を変更して、日本の安全保障にとって何が抑止力になり、プラスなのかを幅広く考えていくべきときだ。

 政府見解の見直しを進めるにあたり3つのジレンマがある。その解消に動くことが求められているといえるだろう。

 第1は「安倍首相のジレンマ」である。集団的自衛権の解釈変更は安倍首相が前面に出てくれば出てくるほど、抵抗が大きくなるという政治の現実がある。靖国神社参拝にみられるように首相は保守のイデオロギー色が濃い。見直し反対派がボルテージをあげる理由のひとつがここにある。

 このジレンマを解消するには、集団的自衛権の見直しに反対してきた公明党の理解を得ることが何よりも必要になる。個別的自衛権や警察権の拡大で対応できると主張する公明党をいかに説得できるかにかかっている。

 自民党の高村正彦副総裁が指摘している1959年の砂川事件の最高裁判決を論拠とする集団的自衛権の限定容認論にも公明党は難色を示している。警察権と自衛権、自衛権も集団的と個別的のそれぞれグレーな領域をどう整理するのか。知恵の出しどころだ。

 第2は進め方の問題である。「政権公約のジレンマ」を抱えているからだ。

 自民党は2012年の衆院選の政権公約で、国家安全保障基本法を制定し集団的自衛権の行使に道を開く方針を打ち出した。ところが、首相の側から聞こえてくるのは安保基本法によるのではなく、自衛隊法などいきなり個別法を秋の臨時国会で処理する段取りだ。

 筋論からすれば基本法を制定し、考え方をはっきり示したうえで個別法に入るべきである。

 政治の駆け引きの材料となってきた9条の政治史を思いおこすと、個別法先行の考え方も理解できないわけではないが、基本法と個別法の同時処理も検討すべきだ。少なくとも基本法に盛り込むべき内容などを閣議決定し、政府声明や首相談話のかたちで明らかにする必要はある。

解釈と明文改憲の区別

 第3は「改憲のジレンマ」である。もし政府解釈の変更によって集団的自衛権の行使に風穴をあけると、首相が掲げる改憲が差しせまった問題ではなくなり、むしろ遠のくという皮肉な結果をもたらす可能性をひめているためだ。

 改憲ではさまざまなテーマが取り沙汰されるが、9条問題のように明文改憲をしない限り動かないというものはほとんどない。取りあえずの対応策として、そこをいわゆる「解釈改憲」でしのぐとすれば、国論を二分する憲法改正は急ぐまでもないといった意見が強まってくる事態も予想される。

 解釈変更でできるのはどこまでで、武力行使を伴う多国籍軍参加のようにここからは明文改憲をしないとできないといった改正の仕分けをきちんとしておくべきだ。

 同時に改憲の手続きを定める国民投票法の今国会成立に向けた努力も当然求められる。

 戦後政治をふり返ると、自衛隊の存在、日米安保条約のあり方、そして集団的自衛権の解釈と、憲法9条が常に争点となり、その攻防がひとつの軸になってきた。もし、ここで集団的自衛権の問題に一応の方向が定まれば、憲法論議は新たな段階に入っていく。

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