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「極点社会」人口減少の現実

5月2日 22時35分

山崎馨司記者・野中夕加記者・山本剛史記者

少子高齢化が急速に進む日本。ところが今、地方では、経済を支えてきた高齢者すら減少し、次世代を担う若い女性たちが仕事を求めて大都市に向かう動きが加速しようとしています。専門家は、こうした状況を放置すれば、日本全体が縮小し、いびつな「極点社会」が生まれると警告しています。

特別報道チームの山崎馨司記者、野中夕加記者、山本剛史記者が、新たな段階に入った日本の人口減少問題を報告します。

全国5分の1の市町村で高齢者が減少

「地方では、高齢者すら減り始め、本格的な人口減少の段階に突入している」。
去年12月、別の取材で訪ねた専門家から聞いた話が今回の取材の始まりでした。
団塊の世代の高齢化が進んでいる今、高齢者が減っている市町村があるというのは、本当なのか。
私たち取材班は、政府が公表している2013年の「住民基本台帳」を基に、全国1742のすべての市区町村について、65歳以上の高齢者の人口の増減を調べました。

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その結果、5年間で高齢者が減少した市町村が、全体の5分の1余りの388の市町村に広がっていることが分かりました。
さらに、福島・島根・鹿児島の3県では、こうした市町村が半数を超えていました。
高齢者が減少する町では、何が起きているのか。
私たちは、データを元に、現場の取材を進めました。

高齢者に支えられてきた地方経済に影響

徳島県の西の県境にある、人口およそ3万人の三好市。
5年間で高齢者が5%余り減少していました。
その影響は、およそ4割を占める高齢者の購買力によって支えられてきた地域経済に及んでいました。

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地元の金融機関・JAでは、個人預金が5年間で12億円以上減少。
商店の閉店も続いていて、取材の間にも中心部にある寝具店が店を閉じました。
そして、主要産業である医療や介護の事業者にも、影響が出始めていました。
社会福祉法人「山城会」の高齢者施設を訪れると、39室のうち9室が空き部屋でした。
稼働率は、2011年の97.2%から2013年は77.8%と、僅か2年で20ポイント近く落ち、それまであった年間1000万円ほどの利益もほとんどなくなっていました。

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金丸正弘施設長は、「新たな申し込みもない。空室が出るような事態は考えてもみなかった。経営への影響も危惧している」と話していました。
こうした状況に、三好市の黒川征一市長は、「高齢者が減っていくなかで、今まで長い間続いていた商店も閉店せざるをえないところが出てきている。このままでは、この町は、『限界集落』ではなく、『消滅集落』になってしまう」と危機感を隠しませんでした。

「2040年若年女性半減自治体」衝撃予測

高齢者減少の影響の取材を進めていくなか、私たちは、人口問題の専門家グループが作成した、衝撃的な人口予測のデータを入手しました。
全体の5割に上る896の市町村で、子どもを産む中心的な世代である20代から30代の若年女性の数が、2040年には半分以下になるというのです。
グループの中心は、岩手県知事や総務大臣を務めた、東京大学大学院客員教授の増田寛也さんです。

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増田さんたちは、当時、このデータをまとめた一覧表について、「公表すると波紋が大きすぎる」として、公表していませんでしたが、独自に提供を受けることになりました。

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その896の市町村を地図に落とし込んだのが、上の図です。
このうち30余りの市町村は、実に8割以上減少するとされています。
都道府県別にみると、北海道・青森・岩手・秋田・山形・和歌山・島根・徳島・鹿児島などで、若年女性の数が半分以下になる市町村の割合が高く、最も高い秋田県は、25ある市町村のうち24に上っています。
福島県については、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、ベースとなる国のデータがなく、推計することはできなかったとしています。

若年女性の東京流入継続がポイント

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こうした市区町村ごとの年代別の人口推計は、国が5年に一度行っていますが、国の推計では、若年女性が半減する市町村の数は、373とされていて、専門家グループの予測と大きな開きがあります。
これは、若年女性の地方から大都市圏への人口移動の推移をどう見るかの違いによるものです。

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上のグラフは、20代から30代の女性について、1980年以降、5年ごとに地方から東京に入ってきた人と東京から出て行った人の差を示しています。
2000年以降、出て行った人より入ってきた人のほうが多くなっています。
国は、この「転入超過」の状況は、5年程度で収束するという前提に立っているのに対し、専門家グループは、今後も続いていくと見ています。

介護・医療分野で東京流入拡大の予感

若年女性の人口移動の見通しは、どう見るべきなのか。
私たちは、多くの地方で、若年女性の雇用の大きな受け皿になっている、医療・介護分野の事業者の動向に注目しました。
先に見た徳島県三好市のように、高齢者が減少し始めた自治体では、医療・介護産業が先細りしつつある実態を確認できました。
さらに、地方の社会福祉法人が、これから高齢者が急増する首都圏を目指して、近年、続々と東京に進出していることが分かりました。
地方の社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームは、この10年で3施設から35施設と10倍以上に増えていたのです。
今回、私たちは、鳥取県の「こうほうえん」、徳島県の「健祥会」という、日本でも最大級の2つの社会福祉法人を取材しました。
どちらも共通して抱えていた課題が、東京の施設で働く人材の確保です。
首都圏だけでは、十分な人材の確保が難しくなりつつあるとして、地元を中心に地方のリクルート活動に力を入れ始めていました。
「健祥会」は、今年度に入って、人材確保のために新たな部署を立ち上げ、全国各地を回って人材を集める準備を進めています。
こうした動きが、若年女性の新たな人口移動を生み出しつつあることが見えてきました。
地方の社会福祉法人が高齢者が増える東京への進出を加速させていくのは確実で、若年女性の地方から東京への「転入超過」の状況は、今後も続く可能性が高いと感じました。

若年女性の東京集中で“人口減少スパイラル”

若年女性が向かう東京は、全国で最も子どもを産み育てにくい都市です。
未婚率は全国で最も高く、出生率は全国で最も低くなっています。
その背景には、借家の平均家賃が全国で最も高いことや、保育所の待機児童の数が最も多いことなどがあります。

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私たちが取材した、東京の高齢者施設で働く、松尾亜佑美さん(25)は、長野県出身で、東京で働き始めて4年。
結婚への思いはありますが、月に4回徹夜の勤務があり、休みも不規則で、異性との出会いはほとんどないと言います。
さらに、結婚したとしても、東京で子育てができるのか、不安を感じていました。
東京に働きに来て、結婚や出産を希望してもかなわない、若い女性たちが増えていけば、少子化はさらに加速することになります。
こうした東京などの大都市圏に、若い女性が集まり続けることは、国全体の人口減少をスパイラル的に加速させるおそれがあるのです。

「極点社会」の現実味

4か月以上にわたる取材を通じて、地方では、高齢者すら減り始め、若年女性の流出も止まらず、存立すら危ぶまれる自治体が出てくる一方、大都市圏ばかりに人が集中し、いずれは大都市圏も、地方から来る若者が減って高齢者ばかりになる、「極点社会」と呼ぶべき状況が、決して絵空事ではないことが分かってきました。

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人口移動の流れを変えるには、さまざまな分野にわたる対策が必要です。
従来の少子化対策の範ちゅうにとどまらない、総合的な国家戦略が求められます。
私たちは、人口減少問題を待ったなしの課題と受け止め、どのような手を打つべきなのか、取材を続けたいと考えています。