New Storytelling/新しい「語り」

選・武邑光裕/メディア美学者

MITSUHIRO TAKEMURA
札幌市立大学デザイン学部(メディアデザイン)教授。専門はメディア美学、デジタルアーカイヴ情報学、クリエイティヴ産業論。著書に『記憶のゆくたて ─ デジタル・アーカイヴの文化経済』がある。

読者のナラティヴを刺激する物語

書き言葉は話し言葉を固定したものではない。ストーリーには起点と終わり、リニアな方向性があり、書物の黙読は読み手の内面に働きかける。ナラティヴ(語り)というのも「物語」ではあるが、これには起点や終わりはなく、方向性も定かではない。人々の相互の語りのなかから共同生成され、世間や社会通念にまで広がる。「大きなナラティヴ」と呼ばれるものは、イデオロギーや時代の価値観などを筋書き、わたしたちの「心・身体・社会」に織り込まれていく。そこで人々は、この物語を再構築するため、個々のナラティヴへと向かう。「小説」は本来、既成の「大説」を揺るがす物語をも意味する。かつてマーシャル・マクルーハンは、「本の未来は自己宣伝である」と述べた。ここに挙げた6冊は、「作家」による物語というより、能動的な「読者」の小説(ナラティヴ)を駆動する刺激的な素材の一例である。

  • 木戸敏郎『若き古代 ─ 日本文化再発見試論』

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    木戸敏郎『若き古代 ─ 日本文化再発見試論』

    これは一般的な歴史研究書ではなく、日本の古代に広がる文化事象を、飛躍的に現代に生成(ポイエーシス)する大胆な「小説」でもある。『若き古代』という主題通り、伝統の再構築とその葛藤が見事に現代に立ち現れる。

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  • Daniel Suarez『Kill Decision』

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    Daniel Suarez『Kill Decision』

    ロボット兵器が自律的な意思決定をもつに至る終末。現在進行中の事象が、未来小説のようにみえるパラドックス。自律ロボット兵器は、すでにわれわれの環境に埋め込まれている時限装置であることを示す傑作スリラー。

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  • Marshall McLuhan, David Carson『The Book of PROBES』

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    Marshall McLuhan, David Carson『The Book of PROBES』

    サーファーで社会学者、そして著名なグラフィックデザイナーであるデイヴィッド・カーソンが、いまは亡きカナダのメディア理論家マクルーハンの未発表の「格言」をヴィジュアル・ストーリーテリングした。

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  • 藤枝静男『田紳有楽・空気頭』

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    藤枝静男『田紳有楽・空気頭』

    私小説という概念は、実に多岐に及ぶ。「私」を題材にすればこそ、その深みは底知れない。本書は、私的ナラティヴ+メタフィクションの極みである。時を超えて劣化せず、私が語る物語、物語を生きる私の興奮を誘う。

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  • J. J. Abrams, Doug Dorst『S.』

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    J. J. Abrams, Doug Dorst『S.』

    「Ship of Theseus(テセウスの船)」という謎めいた本の作家はいったい誰なのか? この本の余白には、若い男女による膨大な書き込みのほか、多くの資料が挟まれている。J.J.エイブラムスとダグ・ドーストによる「作家の死と読者の誕生」。

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  • Stephan Sigrist, Burkhard Varnholt, Simone Achermann, Michele Wannaz, Gerd Folkers『Mind the Future: Compendium for Contemporary Trends』

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    Stephan Sigrist, Burkhard Varnholt, Simone Achermann, Michele Wannaz, Gerd Folkers『Mind the Future: Compendium for Contemporary Trends』

    未来は心から生まれる。特装箱に入った70枚のカードに記された統計、経済、エコロジー、政治、技術、社会、そしてジレンマをめぐるトレンド分析は、情報集約の洗練であり、ユーザー生成ナラティヴの宝庫である。

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New Map/新しい「地図」

選・マニュエル・リマ/デザイナー

MANUEL LIMA
1978年ポルトガル生まれ。マイクロソフトやノキアを経て、現在はCodecademyのデザイン・リードを務める。著書に『ビジュアル・コンプレキシティ ─ 情報パターンのマッピング』がある。

思考の方法としての地図

「データヴィジュアライゼーション」は、新しい概念だと思われがちだが、古くから人は情報を視覚化することで文明を発達させてきた。現代に生きるわたしたちと同じように、古代に生きる人々も複雑な問題を解決するために、視覚化という手段を用いていたのだ。そしてわたしたちは、そこから学ぶものが多くある。しかし社会は常に「現在」に焦点を置きがちで、歴史や古いものから学ぼうとしない。データヴィジュアライゼーションにおいても同様だ。当時の思考や問題に対する考え方など、古きものから得られるものは多い。例えば「木」の構造は、視覚的暗喩として、何世紀にもわたり使われてきた。そしていま、デジタルツールによって「メトリクス」での表現が可能になり、社会のさまざまな側面のとらえ方を変えている。データヴィジュアライゼーションは思考の地図なのだ。

  • リチャード・S・ワーマン『それは「情報」ではない。 ― 無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン』

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    リチャード・S・ワーマン『それは「情報」ではない。 ― 無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン』

    こインフォメーション・アーキテクチャーの古典。著者はこの分野の先駆者で、インフォメーション・アーキテクチャーのルーツを知ることができる。

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  • Edward R. Tufte『The Visual Display of Quantitative Information』

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    Edward R. Tufte『The Visual Display of Quantitative Information』

    エドワード・タフテの作品のなかでいちばん好きなのがこの本。さまざまなデータヴィジュアライゼーションの例が、タフテの分析とともに紹介されている。電車のダイヤグラムが使用された表紙が特に素晴らしい。走行中の列車が、それぞれ駅に到着・出発する時刻と場所の複雑な構造をたった1枚のグラフィックで表現している。これに影響を受けて論文を書いたくらいだ。

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  • Daniel Rosenberg, Anthony Grafton『Cartographies of Time: A History of the Timeline』

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    Daniel Rosenberg, Anthony Grafton『Cartographies of Time: A History of the Timeline』

    人がこれまでいかにして時間を理解し、表現してきたかという「時間の観念」の歴史がわかる。特にタイムラインの概念の歴史は、新作『The Book of Trees』にも関連する興味深いトピックだ。

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  • Alberto Cairo『The Functional Art』

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    Alberto Cairo『The Functional Art』

    さまざまなデータヴィジュアライゼーション本のなかでも、実用的な一冊がこれ。いかにして数字やデータを視覚化し、データヴィジュアライゼーションをツールとして使用するかを学べる。

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  • Scott Christianson『100 Diagrams That Changed the World: From the Earliest Cave Paintings to the Innovation of the iPod』

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    Scott Christianson『100 Diagrams That Changed the World: From the Earliest Cave Paintings to the Innovation of the iPod』

    人類の歴史を、地図や図表、チャートなどを通して振り返った一冊。人間があらゆることを視覚化してきたことがわかる。いわばヴィジュアライゼーションによる文明の歴史だ。

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  • ウィリアム・リドウェル、 クリティナ・ホールデン、ジル・バトラー『Design rule index ─ デザイン、新・25+100の法則』

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    ウィリアム・リドウェル、 クリティナ・ホールデン、ジル・バトラー『Design rule index ─ デザイン、新・25+100の法則』

    すべての本のなかから一冊だけ選べと言われたら迷わずにこの本を選ぶだろう。まさにデザインのバイブル。デザインの125の法則が、ネットワークのように構築された構成も面白い。すべてのデザイナーに読んでほしい。

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New Communication/新しい「コミュニケーション」

選・宮内悠介/SF作家

YUSUKE MIYAUCHI
1979年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部英文科卒業。海外放浪、麻雀プロ試験受験などを経てプログラマーに。2013年、『ヨハネスブルグの天使たち』が第149回直木賞候補になった。

変わりゆく世界をサヴァイヴする方法

社会情勢の変化や、あるいは新たなテクノロジーの台頭─そのなかで、わたしたちの言語やコミュニケーションはどう変わっていくのか。変わりゆく世界を、どのようにサヴァイヴしていけばいいのか。それをテーマに、哲学や工学、文学など、ジャンルをまたいで筆者なりに6冊を選んだ。『多言語主義とは何か』は多言語文化や言語政策を理解するための補助線として挙げた。『入門 自然言語処理』は、言語をめぐるテクノロジーの一例として。『動きすぎてはいけない』は話題の哲学書であるとともに、アクチュアルな問いを含んでいる。より生活者の視点に近いものとして、外国人の事件を扱った『ブエノス・ディアス、ニッポン』を入れた。『伝奇集』は最先端の作家も参照するボルヘスの代表作。対する『know』では、超情報化社会における新たなコミュニケーションの姿が描かれる。

  • 三浦信孝『多言語主義とは何か』

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    三浦信孝『多言語主義とは何か』

    アメリカやEUではどのような言語政策が行われたか。あるいは、言語が混淆としていくなか、人や文学はどう変化したか。17人の研究者による、「高校生や大学生など若い人々」に向けた多言語主義をめぐる論考集。

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  • ボルヘス『伝奇集』

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    ボルヘス『伝奇集』

    ラテンアメリカ文学の巨人、ボルヘスの代表的な短篇集。無限の書物が収められた「バベルの図書館」など、古今東西の神話や哲学を題材に、夢と現実が錯綜する迷宮世界は、ウンベルト・エーコも円城塔も参照する。

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  • 野崎まど『know』

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    野崎まど『know』

    超情報化社会において、「知る」という行為はどう変質するのか。舞台は、脳の拡張が義務化され、情報格差の進んだ2081年の京都。ロマンスありバトルあり、ライトな語り口で究極の問題を問う話題の近刊SF。

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  • ななころびやおき『ブエノス・ディアス、ニッポン ─ 外国人が生きる「もうひとつの日本」』

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    ななころびやおき『ブエノス・ディアス、ニッポン ─ 外国人が生きる「もうひとつの日本」』

    同時多発テロの余波で不当逮捕されたエジプト人。売られてきたコロンビア人少女。あるいは、ビザの価値が命よりも重い脳腫瘍の少年。外国人事件を専門とする「普通の弁護士さん」が、町の外国人たちの物語を紹介する。

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  • スティーヴン・バード、エワン・クライン、エドワード・ローバー『入門 自然言語処理』

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    スティーヴン・バード、エワン・クライン、エドワード・ローバー『入門 自然言語処理』

    機械翻訳やテキストの自動要約、あるいは音声認識など、いまや当たり前のように使われている「機械に人間の言語を扱わせる」ための技術は、どのような基礎の上に成り立っているのか。プログラミング経験者向け。

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  • 千葉雅也『動きすぎてはいけない ─ ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』

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    千葉雅也『動きすぎてはいけない ─ ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』

    「ひとは動きすぎになり、多くのことに関係しすぎて身動きがとれなくなる」―この「接続過剰」な世界において、いかなる「切断」がありうるのか。紀伊國屋じんぶん大賞2013を受賞した、身近でポップな「旬」の哲学書。

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New Body/新しい「身体」

選・石戸奈々子/デジタルえほん作家

NANAKO ISHIDO
東京大学工学部卒業後、MITメディアラボ客員研究員を経て子どもの創造・表現活動を推進するNPO法人「CANVAS」を設立。著書に『子どもの創造力スイッチ!─ 遊びと学びのひみつ基地CANVASの実践』ほか。

自分の中に新しい身体の解がある

「新しい身体」というテーマを聞いて、テクノロジーで身体の機能を拡張し、人類が夢のような能力を獲得していくことを想像しました。しかし、こうしたテクノロジー論は、すぐに倫理や宗教など形而上の議論に向かってしまいます。昨今もSTAP細胞の発見が世間をにぎわせました。バイオテクノロジーの進展により、身体機能の拡張を超えた身体の根本的な変化が起きようとしています。であればいま必要なのは、もっと身体や能力を正面から見据えることではないでしょうか。わたしは、子どもの創造的な学びをつくるという活動をしています。子どもたちには、「感じる→考える→つくる→伝える→」のスパイラルを大切にし、心と頭と身体、すべてを使い、想像し、創造することを伝えています。それは自らの身体と向き合うことであり、その先に新しい身体に対する解があるのではないかと思います。

  • ブルーノ・ムナーリ『ファンタジア』

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    ブルーノ・ムナーリ『ファンタジア』

    未来をつくり出す力とは何か。この本は、自分のもつ力を拡張させ、想像と創造に向かうエネルギーを与えてくれる。

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  • アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』

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    アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』

    文化的行動としての「身ぶり」と「言葉」から人間の本質を解明しようと試みる。特に記憶の外部化と技術の発達の関係性は、新しい身体を考えるうえで大きなヒントとなりうる。

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  • 葛飾北斎『北斎漫画 VOL.1 江戸百態』

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    葛飾北斎『北斎漫画 VOL.1 江戸百態』

    江戸庶民の肉体のリズム、表情の豊かさ、立ち上るその時代の躍動感。北斎の観察眼とその視点の矛先が面白く、そして温かい。お金に無頓着で、ボロをまとい、93回引越し、90歳まで生きただけでなく、生涯を通じて3万点、1日1点つくり続けた彼もまた肉体の人だったのだろう。

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  • エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』

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    エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』

    MITのビジネススクール教授陣によるこの本は、テクノロジーの発達によって雇用は創造的な仕事と肉体労働に二極化すると警告する。人はコンピューターで頭脳と身体を拡張したが、それが成長し、人の領域を逆襲するという。だが同時に、古い仕事が失われても新しい仕事が生まれるという経済学も説く。その新しい仕事が次に生み出す身体とは、何だろうか。

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  • ジュリアーノ・フォルナーリ『人体絵本』

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    ジュリアーノ・フォルナーリ『人体絵本』

    迫力満点の人体絵本。人間の身体がいかに複雑で神秘的か、改めて気づく。まずは自分の身体のことをよく知ることが、新しい身体を考える第一歩ではなかろうか。

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  • ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』

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    ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』

    人は遊びにより、肉体と精神を鍛え、さまざまな能力を強化し、組み合わせ、創造的になる。そして文化をつくり出す。なぜ人は遊ぶのか。遊びとは何なのか。そんな問いから人間の本能を読み解くこともできる。

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New Privacy/新しい「私」

選・マシュー・エイキンス/ジャーナリスト

MATTHIEU AIKINS
アフガニスタン・カブール在住のジャーナリスト。VOL.11では「ポリオ撲滅:アフガンを治癒する『史上最大の医療作戦』」を執筆。母親が日系アメリカ人3世のため、YUTAKAという日本名をもっているそう。

プライヴァシーの復興

近い将来、わたしたちが考える「プライヴァシー」の意味、そして「プライヴァシー」に期待することは、これまでとはまったく違ったものになるだろう。今日、メールの内容や読んだ本、習慣、そして性生活まで、すべての生活ログが、政府や企業によって記録され、それらは永遠に消えない。デジタル化された現代で、わたしたちは、これまでにないさらされ方をしている。嫌でも逆らうことのできない強力な力が働くこの世界で、自分の家、少なくとも自分の部屋くらいは、誰にも侵されない時代に戻ることはできるだろうか。もちろんそれは不可能だろう。しかし、若いアクティヴィストやソフトウェア開発者たちはいま、オンラインにおけるプライヴァシーを復興させようとしている。彼らの努力が、この世界の「新しいプライヴァシー」を根本から再構築するかもしれない。

  • ブルース・シュナイアー『信頼と裏切りの社会』

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    ブルース・シュナイアー『信頼と裏切りの社会』

    コンピューターのセキュリティ専門家のブルース・シュナイアーは、オンラインで自分のプライヴァシーをどう守るべきか実用的なアドヴァイスをしてくれる。将来、デジタル的な意味での「裸」にされたくないならば、一度は読んでおくべき一冊だ。

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  • James Bamford『The Shadow Factory: The Ultra-Secret NSA from 9/11 to the Eavesdropping on America』

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    James Bamford『The Shadow Factory: The Ultra-Secret NSA from 9/11 to the Eavesdropping on America』

    ジェームズ・バムフォードはエドワード・スノーデンやウィキリークスが登場する以前から、NSAの調査をしていたジャーナリストだ。この本は、9.11を機にNSAがどのようにして冷戦時代のツールや技術をデジタル化する世界に適用させ、諜報、監視活動を強めていったかが描かれている。

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  • Thomas Pynchon『Bleeding Edge』

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    Thomas Pynchon『Bleeding Edge』

    トマス・ピンチョンは、公の場に出ることもなければ、取材を受けることもない謎に包まれた人物だ。最新作の舞台は、2001年のシリコンヴァレー。ハッカーらを描いたブラックコメディだ。

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  • Dave Eggers『The Circle』

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    Dave Eggers『The Circle』

    デイヴ・エガーズの最新作の主人公は、フェイスブックやグーグルに似た会社The Circleで働く若い女性だ。彼女は、すべての行動がソーシャルメディアに記録されアップデートされる闇の世界に追い込まれていく……。

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  • Nate Anderson『The Internet Police: How Crime Went Online, and the Cops Followed』

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    Nate Anderson『The Internet Police: How Crime Went Online, and the Cops Followed』

    無秩序なインターネットが法施行によってどのように変えられてきたのかを「Ars Technica」の編集者ネイト・アンダーソンが解説する。スパムや児童ポルノ、クレジットカード詐欺などはなくなるだろうと指摘している。

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  • Viktor Mayor-Schönberger『Delete: The Virtue of Forgetting in the Digital Age』

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    Viktor Mayor-Schönberger『Delete: The Virtue of Forgetting in the Digital Age』

    生活のすべてが記録されるとは、何を意味するのだろうか? 忘却と消去が存在しない世界がはらむ倫理的な問題について考察された一冊。

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New Architecture/新しい「建築」

選・豊田啓介/建築家/noiz

KEISUKE TOYODA
東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースにnoizを共同主宰。

動的な情報体系としての「建築」

建築は、一般に意識されているよりずっと高次の情報体系だ。近年のデジタル技術はそのことを明らかにしつつある。BIMやアルゴリズムエディターが扱う時間軸は新しくデザイン対象になりつつある次元だし、構造や法規、コストといった現実的な要素をひとつの次元として扱うことで、複合的な情報系をより高次な情報モデルとして客観的に共有できる環境が、デジタル技術により整いつつある。3Dプリンターやロボティクスなどの技術は情報をアウトプットする手段を広げつつあるし、いまあるセンサーやシミュレーション技術を組み合わせるだけでも、建築は相当劇的に変わっていく。バイオテクノロジーや遺伝学など、多様な異分野とのコラボレーションも広がっていくはずで、静的な物質という従来の建築概念の外側に、動的な情報体系という広義の建築が、一気に形をみせつつある。

  • 『AD(Architectural Design)』

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    『AD(Architectural Design)』

    アキム・メンゲスがかかわり始めて以降の『AD』は、積極的にコンピューテーショナルな手法の可能性や論理的背景を論じている。日本の建築系雑誌で見られなくなってしまった論理的展開のサポートや討論、批評という側面を重視した構成は、もっと読まれるべき。

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  • ショーン・B・キャロル『シマウマの縞 蝶の模様 ─ エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』

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    ショーン・B・キャロル『シマウマの縞 蝶の模様 ─ エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』

    進化発生生物学という新しい分子遺伝学による、多様な生物構造の発現に関する最新の進展を共有させてくれる。生物や化学分野と建築やデザインという分野が、情報学やプログラミングを介して同じプラットフォームに乗りうる具体的な道筋をみせてくれる。

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  • ニコラス・ネグロポンテ『ビーイング・デジタル ─ ビットの時代』

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    ニコラス・ネグロポンテ『ビーイング・デジタル ─ ビットの時代』

    1990年代の書とはいえ、いま読んでも新しい。昨今のDigi-Fabやインタラクティヴシステムの基礎を切り開いた概念がよくわかる。

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  • 甘利俊一『情報理論』

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    甘利俊一『情報理論』

    チューリングやノイマンと並んで、情報社会の理論的ブレイクスルーを成し遂げたクロード・シャノン。情報理論の基礎一般を解説しながら、シャノンの役割や情報処理の考え方も伝えてくれる本書は、基礎を理解する入門書として秀逸。

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  • ジョージ・ダイソン『チューリングの大聖堂 ─ コンピュータの創造とデジタル世界の到来』

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    ジョージ・ダイソン『チューリングの大聖堂 ─ コンピュータの創造とデジタル世界の到来』

    プリンストン高等研究所のコンピューター黎明期の記録。ネットワークの力がある分水嶺を超え、われわれがこれまでに経験したことのない力と脅威が生まれつつある状況にも言及。

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  • スチュアート・カウフマン『自己組織化と進化の論理 ─ 宇宙を貫く複雑系の法則』

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    スチュアート・カウフマン『自己組織化と進化の論理 ─ 宇宙を貫く複雑系の法則』

    複雑系や創発、カオスなど昨今さまざまな場面で鍵となっている概念の出発点として、また建築の情報的側面、間接的にしかコントロールできない創発する存在を「デザイン」する可能性を考えるにあたって、マストの一冊。

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New Globe/新しい「地球」

選・池田純一/デザイン・シンカー

JUNICHI IKEDA
コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了。電通総研、電通を経てFERMAT Inc.を設立。著書に『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』〈講談社現代新書〉、『デザインするテクノロジー』〈青土社〉、『ウェブ文明論』〈新潮選書〉。

更新とフィードバックの21世紀

21世紀はインターネットがさながらパンデミックのように地球上に広がったところから始まった。そのインターネットが民間に解放されたきっかけは、20世紀後半においてわたしたちの地球をめぐる思考を規定し続けた、冷戦というイデオロギー対立が終結したことであった。その結果、現代は一見すると、20世紀初頭のグローバル化時代に戻ったかのようだ。しかし100年前とは異なり、現代はビッグデータやクラウド、インターネットオブシングズなどのイノヴェイティヴな概念が次々と考案され、休みなく社会像が更新される時代であり、フィードバックの科学であるサイバネティックスが社会の隅々にまで行き渡った時代だ。その地球は、交通網の整備により空間的な拡大を求め続けた20世紀の地球と同一であるはずがない。本格的なウェブ時代の幕開けとともに始まった21世紀の地球の姿を考える。

  • ピーター・H・ディアマンディス、スティーヴン・コトラー『楽観主義者の未来予測』(上)(下)

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    ピーター・H・ディアマンディス、スティーヴン・コトラー『楽観主義者の未来予測』(上)(下)

    テクノロジーによる「よりよき世界」の構築を求めてやまないシリコンヴァレー精神が描く近未来像。20世紀の「局所的で線形的な」思考法に代えて「全域的で累乗的な」思考法を採用し、テクノロジー、資本、人間の協調による地球的課題の解決策を、建設的に創造し提案する。

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  • 養老孟司『人間科学』

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    養老孟司『人間科学』

    脳こそが人間存在の基盤であり、現代文明は世界の脳化の成果であるとする著者独自の唯脳論的世界観から、人間と社会の成立について論じた怪物的な書。「予測と統御」を旨とするビッグデータ社会は脳化社会の極北であり、新たな地球もまた人間=脳によって生み出される。

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  • 平野克己『経済大陸アフリカ』

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    平野克己『経済大陸アフリカ』

    最後のフロンティアとして経済発展が期待されるアフリカは、54ヶ国の背後に欧・米・中・イスラムなど諸国の思惑が錯綜する政治大陸でもあり、政府・企業・財団の交叉が革新的解決策の提案を促す。アフリカの苦悩は地球の苦悩であり、アフリカの希望は地球の希望である。

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  • ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

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    ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

    20世紀の本質が大量生産・消費社会であったことを回顧し、作中人物の惨殺をもって20世紀の文化を支えた創作の精神を葬送し鎮魂する物語。同時に、世界規模で展開される産業経済のうねりが21世紀の地球を形作る駆動力となることを、怖ず怖ずとだが承諾しようとする文学。

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  • ジジャン=ピエール・デュピュイ『経済の未来 ─ 世界をその幻惑から解くために』

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    ジャン=ピエール・デュピュイ『経済の未来 ─ 世界をその幻惑から解くために』

    インターネットが世界を覆った現代では、金融市場に見られるように、参加者全員の認知的フィードバックが幾重にも重なることで、次の現実が生み出され、しばしば予言は自己成就してしまう。そのような再帰的な経済活動の趨勢を、人間として制御する方法を探求する試み。

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  • 巽 孝之『モダニズムの惑星 ─ 英米文学思想史の修辞学』

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    巽 孝之『モダニズムの惑星 ─ 英米文学思想史の修辞学』

    既に陳腐化した観のある「グローバルな電脳網に覆われた地球」というイメージを更新するために「惑星」という概念を取り出し、その意義をアメリカ文学の伝統の中で思考する。それはウェブを生み出したアメリカ文化の内側から新たな地球の姿を得ようとする挑戦でもある。

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