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アナログ球団からデジタル球団へ――横浜DeNAベイスターズの球団業務改革

誠 Biz.ID 3月11日(火)11時27分配信

 「会社のメールサーバーは500メガバイト(※)しかなかった。それでも、足りなくなったことはあまりなかった」――社員が数名の零細企業ではない。2011年末時点での「横浜ベイスターズ」球団事務所の話だ。普段、IT導入に積極的な企業をインタビューしている筆者にとって、非IT企業のリアルな現状を突きつけられた気持ちになった。(※編集部注:300文字程度のメールで、約10万通程度の容量)

【表:横浜DeNAベイスターズ ITビフォー・アフター、他の画像】

●職人集団「横浜ベイスターズ」×IT企業「DeNA」=前途多難?

 2011年12月2日、ディー・エヌ・エー(DeNA)は横浜ベイスターズの株式を取得し、「横浜DeNAベイスターズ」が誕生した。このチームは、赤字続きという経営面の課題を抱えており、毎年親会社からの損失補填(ほてん)で運営を続けていた。その改善を図るため、まずはIT面からの刷新が始まった。

 球団事務所の主な業務は、プロ野球の試合を興行として提供すること。スタッフは、編成やスカウト、スコアラーといったチーム運営部門、チケットを販売するチケット営業部門やグッズの企画・販売を手がけるMD部門、スタジアムの演出を担当するエンタメグループ、管理部門などで構成される(チームに所属する選手やコーチは、球団事務所と契約する個人事業主のため含まれない)。

 そもそも、球団スタッフ全員がインターネットにアクセスする環境すらなかった。外部とのコミュニケーションは電話かFAXが中心。スタッフ間の情報伝達にしても紙の書類を回覧するという昔ながらのやり方だった。会議室はなく「応接室」があるのみ。執務スペースは、昔の学校の職員室のようだった――。

 当時、管理部門を担当することになった萩原龍大氏(現チーム統括本部 ファーム・育成部 部長)は、DeNAという「ITの世界」から、横浜ベイスターズ球団事務所という「職人たちの世界」に飛び込んだ当時を、こう振り返る。

●普通のIT企業と同等になるまで5カ月もかかるとは……

 萩原氏は着任後、すぐにITインフラを「DeNAほどではないが、IT業界の平均と言える程度のレベル」にまで引き上げる作業を行う。この作業に5カ月かかった。萩原氏は「こんなに時間がかかるとは思わなかった」と笑う。

 携帯電話は支給されていたが、PCは全員に行き渡っていない。まずは、全社員にPCとスマートフォンを支給し、必要があればiPadなどのタブレットも配布した。DeNAで利用していたGoogle Appsを導入して、外出時にもメールやスケジューラーを使えるようにした。

 また、社内にはWi-Fi環境を整備したり、外部から社内ネットワークにアクセスできるVPNやオンラインストレージも提供したりと、データへのアクセスや共有を容易にした。現在では、事務所とスタジアム、一軍とファームなど所在が違う場合には、Skypeでのビデオ会議が盛んに行われている。

 情報共有のためにイントラネットを構築した結果、部門の壁を越えた事務所全体での情報共有が実現した。仕事の「見える化」も進み、球団職員が業務の枠を超えて、“ファン獲得のための知恵を持ち寄りあう環境”ができた。2013年シーズンの観客動員数は対前年比122%と増加し、赤字も年間で10億円程度圧縮できたという。

●スカウトやスコアラーといった職人集団のITアレルギー

 球団事務所には、GMを頂点とする編成やスカウト、スコアラーなどが所属するチーム運営部門、チケット販売を行うチケット営業部門、そして管理部門など約100人のスタッフがいる。中には地方に常駐して球団事務所には年に数回しか来ない人もいる。

 チームを運営する部門や興行を提供する部門は、それぞれが球団内の「職人」たちだ。PCに対して苦手意識のあるメンバーもいる。どうしたら、職人たちにITを使ってもらえるのか。萩原氏を始め、情報システム部門のスタッフがヘルプデスクとなり、一人ひとりに丁寧に対応していった。「ツールありきではなく、重要なのはゴールありきであること」(萩原氏)

 ITを導入したら、自分の仕事がどれだけやりやすくなるのか、普段の作業がどれだけ早く終わるようになるかなど、プラス効果を説いて回った。「まずゴールの姿を見せて、『便利だね』『いいよね』と思ってもらえることが重要。『イメージしてみて?』と説明することが多かった」。

 萩原氏らの草の根的な活動によって、次第に「IT活用は決して難しいものではない」ということがスタッフに伝わっていった。同時に、一人ひとりとの密接なコミュニケーションが必要になるため、萩原氏は「多くのスタッフと距離感が近くなれたのは大きかった」という。

●チーム強化のためのベースボールオペレーションシステム導入へ

 球団の職人たちは、まだ完璧とはいえないまでも、ITを使いこなし始めている。例えば、活動スケジュールを共有するようになり、コンタクト先である名刺の電子化なども徐々にシステム化が進んでいる。

 今後は、選手に近い部分のシステムも大きく変化する。現在、選手の情報を一元管理してチーム編成に役立てる「ベースボールオペレーションシステム」の構築が進んでいるのだ。

 例えば、選手一人ひとりのデータが集約され、選手の映像からフォームのチェックなどもPCやスマホ、タブレットからできるようになるという。すでに、ジェネラルマネージャーやチームの一部メンバーではシステムを運用し始めており、今後球団内で広く展開を図っていく。

 横浜DeNAベイスターズの誕生は、アナログ主体だった横浜ベイスターズと、IT中心のDeNAという、ある意味水と油のような2つの企業体が、うまく混ざった成功例と言えそうだ。


[宮田健,Business Media 誠]

最終更新:3月11日(火)11時27分

誠 Biz.ID

 

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