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歌物語『アゲハ蝶』(ポルノグラフィティ)

作者:無月華旅
これは、歌の歌詞を題材にした物語。
『アゲハ蝶』

ヒラリヒラリと舞い遊ぶように、姿を見せたアゲハ蝶。
僕は夏の夜の真ん中、ちょうど午前0時に月の下にいる。
アゲハ蝶の羽に描かれたのは、喜びとしてのイエローに憂いを帯びているブルー、それに世の果てに似ている漆黒。

 僕は長い長い、旅を続けている。それは、この世界でたった一人、愛した人を探す旅だ。彼女との思い出だけを胸に刻み、僕はひたすら歩く。
 ふっと前方を見ると、僕と同じような旅人が木の陰で休んでいた。
「どこまで行くんですか? あなたの旅は、いつになれば終えるのですか?」
 僕は旅人に尋ねた。旅人は答えた。
「終わりなどないさ。終わらせることは出来るけど」
「そう……じゃあ、お気をつけて」
 そう言って、その旅人を見送ったのは、ずっとずっと前の話。
 僕はその旅人と会った場所に今、立っている。僕が歩いてきた方向から男性がてくてくと歩いて来るのを見つけたとき、今更になって彼が僕自身だったと気が付いた。
 僕は彼女に会えただけでよかったんだ。本当にそれだけで、世界に光が満ちたんだ。毎晩見る、彼女との思い出の夢の中で会えるだけでよかったのに……。
 こうして旅をして、彼女にもう一度会って、愛されたいと願ってしまった。その時から、僕の世界は表所を変えた。ずぅっと先に見える地平線、世の果てでは空と海が混ざって見えた。

 彼女が好きだった詩人が、たったひとひらの言の葉に込めた意味を、僕はその意味をついに知ることはなかった。その言の葉の意味は、僕の友人、できるなら彼女が知っていて届いていてくれればいいと思う。
 もし、この僕の旅が戯曲だったとしたら、なんてひどいストーリーなんだろう。もう彼女を探し当てることも、世界が表情を変えたその時から、彼女の夢を見ることも……僕は進むことも戻ることもできずに、ただ舞台である、この旅を続けるしかないんだ。

 あなたが望むのだったら、この身など差し出していい。降り注ぐ火の粉の盾にだってなろうと思う。ただ、あなたの中に一握りでもいいから、僕の想いをすくい上げて、あなたの心の隅においてほしい。

 僕は、ひたすら荒野を進んでいた。そこにヒラリヒラリと舞い遊ぶようにアゲハ蝶が現れた。何も色がなかったところに、ポツリと咲いたんだ。意識が朦朧としてきて、揺らぐその景色の向こうに、もう近づくことは出来ないオアシスを見つけた。いつの間にか、僕は地面と呼吸を共にするように倒れていた。
 冷たい水をください。できたら愛してください……。
 ただそれだけを望んでいたのに。なんて、ひどい話だろう。僕のことを笑っているのか、憐れんでいるのか、はたまた悲しんでくれているのか、アゲハ蝶の気持ちは僕にはわからないけれど、どうか、こっちにきて僕の肩で羽を休めておくれ。
 どうか、僕を一人にしないでおくれ……。
 はじめまして、こんにちは。無月華旅です。いかがでしたでしょうか? 歌から導く歌物語。今回は、『アゲハ蝶』です。有名な曲ですね。それをちょっぴり悲しい失恋の話にしてみました。具体的な名前を付けようかとも思ったのですが、イメージが固定されるのは嫌なので、やめました。
 楽しんでいただけたなら幸いです。
 願わくば次の作品で会えますことを。

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