15歳CEOが日本を変える 起業始めたデジタル・スーパーキッズたち〈AERA〉
dot. 4月30日(水)14時52分配信
自作のアプリに、学習ゲーム、同世代の支援事業まで……。
生まれた時から自宅にiMacがあった子どもたちは、デザインもプログラミングも自由自在だ。
軽やかに夢を形にしていく彼らはどこへ向かうのだろう。(ライター・島沢優子)
高校1年生の角南(すなみ)萌さんはこの春休み、東京法務局渋谷出張所でウキウキしていた。15歳以上にならないと交付されない印鑑登録証明書が必要な法人登記を完了し、代表取締役就任。15歳4カ月にしてIT社長になったばかりだ。資本金50万円は、中高生の起業プログラムを推進するライフイズテック社から支援を受けた。最初の商品は「Sparkwall(スパークウォール)」という中高生の授業共有サービスだ。
「自分に合った楽しく学べる授業を探せる。日本でも総合学習などに役立つと思う」
と角南さんは目を輝かせる。
●アプリ甲子園で優勝
アイデアの源泉は自分の経験だ。中学2年の時、学校のディベート大会で時間配分を管理するソフトを検索したが、数字でカウントするタイマーしか見つからなかった。「一目で見渡せるものを作ろう」と思い立つ。約4カ月で作った「見えるプレゼンタイマー」は、中高生対象のスマートフォン向けアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園2012」で167作品中1位に輝いたのを機に、5万ダウンロードを突破。ヒットすれば1本数千万円の利益を生む携帯アプリ業界で、「スーパー女子中学生エンジニア」と評判になった。
2012年度就業構造基本調査(総務省統計局)によると、15〜19歳の起業者数は全体で800人だが、税金対策などのため個人事業主登記のケースも含まれるので、会社社長の数は不明だ。とはいえ、アプリ甲子園2013には前年大会の約3倍となる合計533作品が応募。10代が力を試す場やサポート環境が整備されつつあるのは確かなようだ。
角南さんが生まれた1998年は、カラフルなiMacが一大ブームを巻き起こした年。彼女の家にもグリーンのiMacがやってきたが、「目に悪いし、電磁波の影響が気になって」(母の亜希さん)さわらせてもらえなかった。
そもそも家より外にいることが多かった。バレエ、ピアノと何でも自分からやりたがり、取り組む集中力もすさまじかった。朝ピアノの練習を始めると、昼食も食べずに弾き続けた。パズルをしても、折り紙をやっても同じように集中した。デジタルとは縁遠い、アナログな幼少期を送ったのだ。
転機は小学2年生。父・明彦さん(44)の海外転勤によりアジア圏で暮らすように。PCソフトで英会話を覚え、3年生でWEBサイトを作った。4年生から住んだ米・ニューヨークでは現地の小学校へ。10歳の誕生日にiMac、クリスマスにiPhoneを両親にプレゼントしてもらった。6年生になると生徒全員にノートパソコンが配布され、各々に学校ドメインのメールアドレスが与えられた。連絡、宿題はすべてサイトから。学習面のサポートも教師から細かくメールで来た。
中学入学を機に帰国。受験を突破し都内の中高一貫校へ入るも、授業スタイルなど環境の違いにがく然とした。日本では教師が黒板に書き一方的に情報を伝えるが、米国では一人ひとりの解釈をITで共有しディスカッションする。授業中盛んに挙手し議論を深めようとするたび、自分が浮いている感覚を味わった。2年からインターナショナルスクールに転校した。
「でも、日本の学校を経験できてよかったと思う。両方知っているのは強みになる」
●高校やめ留学先で社長
海外での経験を日本で生かす10代起業家もいれば、これから飛び出す人もいる。
GNEX代表取締役の三上洋一郎さん(16)は、中高生が中高生のプロジェクト支援を行う「Bridge Camp」を仲間10人と立ち上げた。東京や秋田、中にはアメリカなど世界中からコンタクトがあった五つのプロジェクトを進めている。
例えば、中高生が物事を実現するうえで入手しにくい資金、資材及び場所の支援提供を中心に事業展開。利用にあたっての手数料は基本的に無料とし、コストについては中高生にアプローチしたい企業向けマーケティングやリクルーティングの機会を用意し、スポンサー料を募る。開始するにあたり、周囲の高校生500人に地道に調査し手応えを得たという。
小学3年生から独学でプログラミングのスキルを磨いてきた。私立の中高一貫校で4年間過ごしたものの「残りの2年間をもっと有意義なものにしたい」と今春退学し、留学準備中だ。社長業は留学先でそのまま続ける。
「(社長業は)難しい。周囲に迷惑かけているので、何とか挽回したいです」
学生団体の時期にツイッター上の影響力が測定できる「Cil」などいくつものウェブサービスを開発してきたが、収益に落とし込めてはいない。起業を志す若者を支援するサムライインキュベート社長で、GNEXへ500万円を出資している榊原健太郎さん(39)は、
「三上君は賢くて物おじしないところがいい。30代のオッサンと話している錯覚に陥る(笑)。彼が引っ張っていってほしい」
と期待を寄せる。
一方、親のほうは、カラダ半分社会の荒波にもまれているようなわが子に、ハラハラさせられる。
「やりたい気持ちはわかるけれど、普通に青春を送ってほしいという葛藤がある。少なくとも大学生になっていれば……」
そう話す母・ひろ子さん(44)の胸中は複雑だ。母が0歳から始めた読み聞かせが、息子の思考力や教養の扉を開いた。せがまれて1日10冊読んだこともある。小学校時代はハリー・ポッター、マルクスの『資本論』、スミスの『国富論』と移行。6年生で学校の図書館の本はほぼすべて読破した。本の世界だけではいけない、経験が大事だと、キャンプにも連れ出した。
「社長でも、私にとっては子ども。手を離しても、目と心は離しません」と親心をのぞかせた。
●講演やテレビ出演も
一方、AMF代表取締役の椎木里佳さん(16)は、「世界の10代を元気に」をモットーに、Tokyo Teens TVの番組制作や女子高生を対象にしたマーケティングを請け負う。また、メロディーの種類が豊富なスマホアプリ「JKめざまし」も制作。現役女子高生起業家として講演やテレビ出演もこなし、昨年は「新入社員くらいの年収」(椎木さん)を手にした。
父・隆太さん(47)は、「秘密結社 鷹の爪」などの映像コンテンツ制作を行うDLE代表取締役。父娘で社長業を営んでいるが、実績はもちろん父が大きくリード。3月下旬にはアニメ関連企業としては10年ぶりの東証マザーズ上場を果たした。
ソニーを脱サラしベンチャーの世界で成功した父は、早くから負けん気が強いリーダー向きな娘の性格を見抜いた。私大の付属小学校へ入れ毎朝車で送迎。車中で父が行ったのが、毎日娘の夢を尋ねること。
「大きくなったら何になりたいの?」
年齢とともに、もしくはその日の気分で答えは変わる。
「花屋さん」「洋服屋さん」「女優」「映画監督」──。
父にとって、答えは何でもよかった。
「毎日尋ねられれば、私は何をしたいのかと、子どもなりに意識する。夢とか将来とまったく向き合わずに過ごすのと、少しでもイメージするのでは違う。社会教育の一環です」
父親から毎日問われた里佳さんは、こう振り返る。
「面倒くさくて適当に答えてたけど、夢について考える癖がついた。やりたいことがあまりに多いので会社を作っちゃった」
父が施した「6歳からのハローワーク」が、起業に至るベースになったようだ。
●父は退職してサポート
10代起業家のなかで、早くも収益ベースに乗せているのがケミストリー・クエスト取締役社長の米山維斗(ゆいと)さん(14)だ。原子カードを結合させて分子を作って遊ぶ化学カードゲーム「ケミストリークエスト」を小学3年生で開発。累計7万2000部のヒット商品となった。6月には第2弾「ケミストリークエスト入門版 はじめての冒険」が発売される。
6年生で社長になった米山さんは、1歳で会話が成立、2歳でひらがなやカナ、PC操作をマスター。図鑑を読みあさった、4歳で「サイコロは対面の数字の和が7」を図鑑で理解し自分で展開図を描き組み立てた、小学校低学年で化学記号を覚えたなど、天才伝説に事欠かない。両親は芽を摘まないよう、欲しがる図鑑や専門書を書店や図書館を一緒に回って与えたという。
さらに驚くべきは、IT系会社員だった父の康さん(50)が2年前に退職してまで息子の事業をサポートしていること。
「親バカかもしれないけれど、息子は凄いヤツ。賭けてみたい」
期待させたり、ハラハラさせたりと親を揺さぶる10代起業家だが、前出の榊原社長は一層の努力を促す。
「起業家は今後増えるとは思う。幼児期からスマホやiPadを触るようになり、働き方が多様化したため、起業へのハードルが低くなっているのも確か。ただ、海外で10代の成功例はあるが日本では皆無。高校を卒業して注目されなくなった時点で真価が問われる」
日本の10代デジタル起業家伝説は、始まったばかりのようだ。
■デジタルキッズたちへの質問
<質問項目>
(1)役職
(2)起業年齢
(3)事業概要
(4)賞など
(5)好きな本
(6)尊敬する人
(7)将来の夢
(8)家族構成
(9)親への感謝
(10)血液型
【一目で見渡せるプレゼンタイマーアプリ】
角南 萌さん (15=アメリカンスクール高校1年)
(1)(株)Wayve代表取締役社長
(2)15歳
(3)Webサービス、アプリの制作
(4)「見えるプレゼンタイマー」で「アプリ甲子園2012」優勝
(5)『The Chosen(選ばれし者)』(ハイム・ポトク)
(6)ブランドン・スタントン(写真家)、ラリー・ペイジ(Google共同創業者)
(7)認知心理学や脳科学に興味があり、スーパーコンピューターを駆使して人の脳をシミュレーションする研究をしたい
(8)両親
(9)自分たちの予定を変更してでも、私の"好き"に付き合ってくれる
(10)B型
【中高生のプロジェクトを支援するサービス】
三上洋一郎さん (16=留学準備中)
(1)(株)GNEX代表取締役
(2)14歳
(3)ビジネスをしたい若者と企業をつなぐクラウドファンディングサービスが主
(4)不動産の空室を活用した学生向け宿泊サービスを提案し、一橋大学起業部主催のハイスクールスタートアップサミット審査員特別賞
(5)『希望の国のエクソダス』(村上龍)
(6)孫正義
(7)20歳までに会社を上場させる
(8)両親と三つ違いの妹
(9)放任主義で育ててくれたこと
(10)A型
【女子高生の動向探るマーケティング調査】
椎木里佳さん (16=都内私立高校2年)
(1)(株)AMF代表取締役
(2)15歳
(3)TVの番組制作やメーカーのマーケティング
(4)特になし
(5)『夢をかなえるゾウ』『永遠の0』
(6)椎木隆太
(7)世界に影響力のある人物、会社になること
(8)両親と兄
(9)メモを取る重要性を教えてくれた。否定せずのびのび育ててくれた
(10)A型
【分子を作って遊ぶ化学カードゲーム】
米山維斗さん (14=筑波大学附属駒場中学校3年)
(1)ケミストリー・クエスト(株)取締役社長
(2)9歳
(3)企画、出版、製造、販売、システム開発、イベント、教育支援
(4)中国・上海の雑誌「週末画報」年刊「アジアの若き100人」選出(2012)
(5)「ニュートン」ムック
(6)特になし
(7)研究者希望だが具体化していない
(8)両親と弟
(9)博物館など僕が興味を示したところに必ず連れていってくれた
(10)B型
※AERA 2014年5月5-12日号
最終更新:5月2日(金)16時18分
記事提供社からのご案内(外部サイト)
「dot.(ドット)」ではAERA、 |