JR江差線:廃線直前、駆け込み人気

毎日新聞 2014年05月02日 18時48分(最終更新 05月02日 18時50分)

江差線の列車を背景に記念撮影する親子。廃線を惜しむ人たちが全国から押し寄せている=北海道江差町のJR江差駅で、鈴木勝一撮影
江差線の列車を背景に記念撮影する親子。廃線を惜しむ人たちが全国から押し寄せている=北海道江差町のJR江差駅で、鈴木勝一撮影

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。大型連休が始まった4月26日午前9時17分、北海道江差町のJR江差駅のホームに2両編成の普通列車が滑り込んできた。同6時53分に函館を出発、今月11日を最後に廃止される木古内−江差間(42.1キロ)を旅してきた車両は鉄道ファンらでほぼ満席。扉が開くと一斉にホームに降り立ち、車両や駅舎を熱心に撮影し始めた。

 名古屋市から訪れた会社員、日下部康和さん(37)は「テレビ番組で廃線を知り、乗ってみたくなり来てしまいました」。航空機で函館入りし1泊した後、早朝から江差線に乗り込んだ。「ゆっくりと山の中を走るので、気持ちが和みます」と満足そうに話した。

 北海道北見市の男性会社員(46)は中学2年の長男(13)を函館駅から江差行き列車に乗せ、自らは車で先回りして待ち受けた。男性は「江差線がなくなってしまうことが、息子と旅行するきっかけになりました」と明かした。

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 昨年4月に江差線・木古内−江差間の最終運行日(ラストラン)が決まって以来、別れを惜しむ人たちが全国から押し寄せ、雄姿をカメラに収めようと三脚を立てる姿をよく見かけるようになった。少ない時には1日の乗客が10人に満たず超赤字路線であることが廃線の理由となったが、皮肉なことに廃線が決まってからは定員192人の車両がほぼ満員になる日もある。

 江差は江戸時代、ニシン漁と、北前船にヒノキアスナロ(ヒバ)を積み込む交易港として栄えた。往時をしのばせる歴史的街並みが残る市街地へは江差駅から徒歩で約20分ほどの距離がある。そのため江差観光コンベンション協会は4月から駅と市街地や観光施設を結ぶ周遊バスを無料で走らせ、駅前には弁当や記念グッズを売る「おもてなしプラザ」を今月11日までの期間限定で開いた。

 協会職員で店員を務める村田香乃子さん(56)は「沖縄から来たという人もいた。江差を気に入ってもらって、廃線後も足を運んでもらえたら」と、列車が駅を出発する度、ホームに立って手を振り見送っている。

 協会事務局を担当する町職員の畑博之さん(35)は「最後に江差線が町に観光客を連れて来てくれた」としみじみ話す。廃線後、江差駅舎は町に譲渡されるが、具体的な活用法は決まっていない。【鈴木勝一】

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