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小保方氏騒動でみたネットならではの「誤報」

先月末から今日1日にかけて、次のような記事が一部インターネッツ界隈を駆け抜けた。

理研は5日、小保方晴子研究ユニットリーダーが1月末の論文発表後、初めてSTAP細胞の再現実験に成功したことを明らかにした。実験の客観的な証明には第三者による再現が必要だが、成果の正しさを一定程度裏付けた形だ。

STAP細胞 小保方さん、再現実験に成功 論文発表後初めて - MSN産経ニュース

問題の論点は第三者の手での再現性があるのか否かに移行しているのだから、自身で何度再現しても意味はないのだがそれはともかく、なによりも問題なのは3月5日付の記事であるということだ。この記事が、あたかも最近の出来事のように受け取られ拡散している

ネットならではの「誤報」と呼んで差し支えないだろう。新聞や雑誌媒体とちがって記事単位でやりとりされるため新着かどうかがわかりにくく、また拡散されていることからアップデートなのだろうと先入観が働きやすい状況にもなっている。ネットではこうした事態がままある。

にしても、これはないだろうと思うのだ。なにせ、冒頭1行目にちゃんと5日と書いてある。

この記事を新着と考えた人は、以下のうちのどちらかだろう。

・日にち感覚が欠落している人

・リンクから中身を推測し、そもそも記事を読んでいない人

興味深いのは、特に小保方さんを擁護しているような人ほど騙されているということだ。

再現されてよかったねといった善良な人達による小保方さんへの心あたたまるエールはそれはそれで胸が痛むのだけれど、中には小保方さんの批判者やマスコミに向けて、思いっきり啖呵を切っている人々もいて、自分の間違いを彼らが気づいたときの恥ずかしさに思いを馳せると、それだけで気の毒になってくる。

この事態から学ぶべきは、自分にとって都合の良い情報ほどわれわれの判断力を鈍らせるということだ。それは世界的な大発見をした(とされる)研究者から市井の一般人まで、普遍的にあてはまる傾向だろう。

ちょうど昨夜、クリストファー・ノーランの出世作『メメント』を観たのだが、まさにそういう話だった。記憶力を失った主人公が、記憶は嘘をつくが、記録は嘘をつかないぞとうそぶき、全身メモ人間となって妻を殺した犯人を追う。

彼の盲点は、記録そのものがその記録者(の深層心理)に都合のよい仕方で記録され、また見るときも見る者の都合によって解釈されるということだ。

だからといって、記憶が記録に優越するわけでもない。次から次へと明かされる真相に楽しめたのだが、問題はこれが再鑑賞だったということだ。記憶も記録もあてにならないもので。

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