マカオ揺るがすジャンケット業者の失踪

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  • KATE O'KEEFFE

[image] Bloomberg News

 

 マカオのジャンケット(有力賭博客の仲介業)関係者が失踪し、世界最大のカジノ市場を揺るがしている。中国の特別行政区における賭博収入の約3分の2を占めるあっせん業者の不透明なネットワークに焦点を当てるこの事件では、関係者が最大100億香港ドル(約1300億円)の債務を抱えるものと見られる。

 ラスベガスなど世界の他のギャンブル拠点とは異なり、マカオでは多くの顧客についてジャンケットに依存している。ジャンケットは中国本土から高額を投じる賭博客を招き、信用の付与やプレイヤーの負債回収を通じて手数料を得ている。この制度が当地に根付いたのは、中国政府が市民に本土から持ち出すことのできる現金に制限を適用するほか、賭博客の負債が中国国内では有効とみなされないため。

 この件を調査している複数のカジノ、ジャンケット業界の上級幹部によると、マカオの賭博業界で約4年間にわたりジャンケットを活発に運営していたHuang Shan氏が先月行方不明になった。Huang氏の消息がつかめないために、出資者の最大13億ドルもの資金の回収が困難になっていると幹部らは述べた。

 Huang氏は出資者に月2.5%の配当を付与することで大事業を築いたが、同業界幹部によるとこれは業界水準の1%から2%を上回る率だ。ジャンケットの業務は、銀行のように出資者から現金を集め、これを賭博客に融資する。多くの出資者は毎月の固定配当収入を条件に融資資金の提供に合意している。

 Huang氏は当局から何らかの不正行為の容疑をかけられているわけではない。同氏のコメントは得られていない。マカオ司法警察局の代表はコメントしていない。マカオのカジノ当局はコメント要請に応じていない。

 賭博事業への出資者が資金回収に奔走する中、業界幹部は今回の事件がマカオでの信用縮小につながりかねないと危ぐしている。マカオの賭博収入はラスベガスの7倍多い。カジノ幹部は、各社がこの事件から直接被害を受けることはないものの、システムへのショックの可能性を懸念していると述べた。

 これまでにもマカオのジャンケット業界で多額の債務を抱えた人が失踪することはしばしばあったが、「市場は微動たりともしなかった」と状況を調査中しているカジノ上級幹部は述べた。ただ、金額の大きさから判断すると今回は影響が出る可能性もあると指摘した。マカオ最大級のジャンケットへの出資者は「この人物を少なくとも100人が探している」と語った。

 ジャンケット出資者でマカオのカジノ「ポンテ16」の副最高経営責任者のHoffmanMa氏は、マカオのジャンケット運営者は資金調達において数十、数百もの出資者に依存していると述べた。しかし、一部の出資者が資金を失ったと警戒している現在、「人々は投資をちゅうちょするかもしれない」と同氏。これは資金不足につながり成長は限定されることになる。

 ここ1週間でクレディ・スイス、バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ドイツ銀行、HSBCを含む大手金融機関の複数のカジノ業界アナリストが失踪による潜在的影響を推定しようと試みたが、これは依然として不明だ。

 バンカメ・メリルリンチのアナリスト、Billy Ng氏は「重大な疑問はこれが単に1つの事件にとどまるか、あるいは連鎖反応を招くかにあり」、後者の場合は有力賭博客関連の収入の伸びは鈍化する、と29日の調査リポートで述べた。

 マカオのジャンケット業界は昨年の当地の合計賭博収入450億ドルのうち300億ドル近くを占めた。つまりマカオ以外の世界のあらゆるギャンブル拠点よりも規模は大きい。

 中国南部の貴州省出身のHuang氏は4月中旬にマカオを離れたもようだが、ニュースが急速に広がったきっかけは、4月20日に賭博債務の疑いがかかる人のリストを掲載するサイト「ワンダフルワールド」で失踪が伝えられたことだった。このサイトを所有するジャンケット出資者、Charlie Choi氏は、これほど大規模な事件は今まで聞いたことがないと述べた。

 Huang氏が関わっていたジャンケット会社、マカオの金麟グループは、澳門博彩控股(SJMホールディングス)の「グランドリスボア」、銀河娯楽集団の「スターワールド」、新濠博亜娯楽(メルコ・クラウン・エンターテインメント)の「アルティラ」、MGMリゾーツの「MGMマカオ」の4つのカジノで運営している。

 しかし、金麟は先週、Huang氏と出資者が同社の知るところなく交わしたあらゆる非公式の合意について責任を負わないと文書で明らかにした。マカオの220近い公認ジャンケット運営会社の1社である金麟の幹部は、Huang氏は同グループとは別に自身の賭博事業を運営しているほか、Choi氏のサイトの情報は正確だと述べた。

 起業家精神に満ちたジャンケット業界では、個人が複数の異なる役割を担うことも珍しくない。ジャンケットの顧客や出資者の多くが同時に代理人の役割も務めており、ギャンブルに共に興じるよう友人を誘う際にも手数料を得ている。出資者が複数のジャンケットグループの株を保有していることもしばしばある。

 潜在的損失を見極めるために互いに話し合っているカジノ、ジャンケット幹部は、最大13億ドルという推定値を示している。しかし、消えた資金の具体的な額は不明で、この無秩序に広がり、互いにつながる業界の不透明性を浮き彫りにしている。

 事情に詳しいカジノ幹部によると、Huang氏失踪のニュースが広がるにつれて、出資者は資金回収を目指して同氏のジャンケットが運営するカジノのカウンターに殺到した。ジャンケットへの出資資金の一部は、賭博客が利用できるようにこうしたカウンターで保管されているためだ。

 世界各地の規制当局がジャンケット業界について警戒感を表してきたが、その一因は企業がその保有構造や業務、顧客について詳細をわずかしか開示していないことにある。

 また、多くのカジノ運営会社もジャンケットに手数料を支払わなくてはならないことからこのシステムを好まない。マカオのカジノはジャンケット以外の事業を前面に押し出しており、こうした事業は最近ではジャンケットを上回る伸びを示している。それでも、ジャンケットは依然力強く成長している。

 昨年12月には、米ウィン・リゾーツのスティーブ・ウィン最高経営責任者(CEO)がマサチューセッツ州のカジノ規制当局にジャンケット制度を説明する際、同制度を「枝がどんどん広がり続ける木」に例えた。ウィン氏の企業は同州で免許取得を目指している。

 ラスベガスとマカオでカジノを運営する企業を率いるウィン氏は「ジャンケット運営会社が免許を受け、調査の対象になっている」とし、「これとは別に、国の異なる地域で定期的に活用するサブジャンケット運営業者がある。さらに、このシステム内に出入りする無数のセールスマンがいる」と述べた。

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