岩田 山内は「任天堂は娯楽の会社で、娯楽以外はしないほうがいい」としきりに言っていた一方で、「娯楽=ビデオゲーム」とは考えていませんでした。その山内の想いを引き継ぎながらも自分はこの気持ちをどう表現するべきなんだろうと、年末年始の休みの間も含めて、ずっと考えていました。
最初は「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」という言葉が出てきました。人々の生活の質を高めるために娯楽はある、衣食住のあとに娯楽はあるものですから。でも「人々のQOLを向上させる」だけだと、任天堂と家電メーカーさんとの違いはちっともわからない。それで年が明けた頃にやっと、「人々のQOLを楽しく向上させる」という、「楽しく」と言葉を入れることが任天堂にはちょうどいいということに、ようやく気づきました。これを軸に1月の経営方針説明会でお話ししようと決めて、あのプレゼンテーション原稿を書きました。
ゲームビジネス以外のことを
社員はやりたいと思っている?
――なるほど。ですが、任天堂にテレビゲームを作りたくて入ってきた人は、岩田さんのその考えについていけないかもしれませんね。たとえば、「ゲームのユーザーを絞り込んでゲームを作れば儲かるのに」とか言われませんか。
岩田 確かに、はっきり申し上げますと、「人々のQOLを楽しく向上させる」と私が突然言い出したことを不思議に思っている社員がいるのは当然だと思います。
世の中の常識的な考え方からは、「ターゲットとするお客様を絞ったほうが成功確率は高い」と言われますが、できるだけたくさんの人と関わりを持って、より数多くの人たちの生活を豊かにするお役に立てたほうが、任天堂という会社が存在する意味が大きいと思っています。
任天堂の個性のひとつは、ターゲットとするお客様を過剰に絞らないことです。具体的には、「今実際に製品を受け入れていただいているお客様以外にも、私たちの製品を喜んでもらったり楽しんでもらったりする方法が必ずあるはずだ」と常に考えるようにしています。