引受けの特殊性


引受けに関する昨日の投稿の続きです。

引受けは第一種金融商品取引業です。他の業者は引受けを行うことができません。引受けができるのは基本的に証券会社に限られます。なぜか。

証券取引法時代には、証券会社でさえ引受けは特別なもので、証券会社としての登録の他に、引受けを行うための認可を別途受けなければすることができませんでした。金融商品取引法の起案段階では、第一種金融商品取引業を行うものが登録のみで引受けをできる制度にしても良いかどうか検討されました。

金融商品取引業者の基本的な仕事は、究極的には一点に集約できます。それは「投資家にリスクをとらせる」ことです。

株券や社債の売買(の委託)とは発行者の倒産リスクを投資家にとらせることです。組合出資持分を販売する行為とは出資対象事業が失敗するリスクを投資家にとらせることです。

ここが、決定的に銀行と異なります。銀行が企業・個人に融資をするときには、自己で企業・個人の倒産・破産リスクをとります。間接的には預金者がリスクをとっていることになりますが、直接リスクをとるのは銀行です。

余談ですが、銀行が証券会社など金融商品取引業者よりも世間的な信用が高いのは、銀行はリスクをとる業種であるのに対し、金融商品取引業者はリスクをとらせる、響きの悪い言い方をすれば、リスクをばらまく業者だからです。(私見)

引受けは違います。

引受けでは金融商品取引業者がリスクをとります。株券や社債を引き受けるということは発行者の倒産リスクを金融商品取引業者がとることを意味します。組合出資持分を引き受けるということは出資対象事業が失敗するリスクを金融商品取引業者がとるということです。だから、引受けは金融商品取引業の中でも特別な存在なのです。

リスクをとるためにはリスクが顕在化したとき、つまり、引き受けた結果、金融商品取引業者が損失を被ったときに損失に耐えられるだけの体力が必要です。したがって、クッションとして資本金・純資産が引受けを行う業者に潤沢にある必要があります。結果、資本金・純資産が5000万円以上要求される第一種金融商品取引業を行う業者にのみ、引受けは認められるわけです。

金融商品取引法としては、引き受けた結果、金融商品取引業者が倒産しても構わないようですが、分別保管が義務付けられている場合であっても、コミングリング・リスク(ごちゃ混ぜリスク)など、投資家の資産が保護されない可能性があります。ですから、金融商品取引業者に倒産されては困るわけです。

以上見てきたところから、引受けは第一種金融商品取引業の登録を受けないとできない制度になっています。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

引受け(5)


前回の続きです。

引受けは、第一種金融商品取引業です。引受けには、元引受けとそれ以外の引受け(「下引受け」とここでは呼ぶことにします)があり、元引受けには、リスクの高い元引受けとそれ以外の元引受けがあります。前回は、ここまで説明しました。

なお、引受けは第一種金融商品取引業ですから、ここからは、金融商品取引業者等を「証券会社」と呼ぶことにします。

<引受けを分類する意義>
引受けを「リスクの高い元引受け」「それ以外の元引受け」「下引受け」に分類する意味は、証券会社の資本金規制にあります。

リスクの高い元引受けを行う証券会社の最低資本金額は30億円、それ以外の元引受けを行う証券会社の最低資本金額は5億円、下引受けしか行わない証券会社の最低資本金額は5千万円です。リスクが高いほど、要求される資本金額が高くなっているわけです。

<元引受け>
前回の復習も兼ねますが、元引受けとは、発行者又は所有者から、直接、有価証券を取得とする行為です。つまり、直接、発行者又は所有者と接点のある引受けのことを「元引受け」と呼びます。

<リスクの高い元引受け>
リスクの高い元引受けとは、発行者又は所有者と元引受契約の内容を確定するための協議を行う証券会社が行う引受け行為のうち、100億円超を引き受ける行為です。大型起債や公募増資の幹事証券会社の引受けがそうです。(本来的には)発行者又は所有者と協議の上、100億円超を引き受けるから、リスク(損失の危険)が高いわけです。

<それ以外の元引受け>
リスクの高い元引受け以外の元引受けとは、1.発行者又は所有者と協議を行わない証券会社の引受けか、2.協議を行っても、引受シ団の引受総額が100億円以下における引受け、又は、3.引受総額は100億円超で、他の証券会社と共同して協議を行う場合であって、自己の引受額が100億円以下の引受けです。

この定義は、大型起債や公募増資の幹事証券会社の引受け行為の実態を表現するために、技巧的になりすぎ、実務には影響がありませんが、理解できない点があります。(平成19年7月31日公表の金融商品取引法制に関するパブリックコメント回答146頁をご参照ください)

<下引受け>
下引受けは、元引受け以外の引受けを指しますから、1.発行者又は所有者と直接の接点のない引受け、つまり、元引受けをする証券会社から再引受けをする行為と、2.売出人が金融商品取引業者等の売出しにおいて引受けをする行為のことです。

<まとめ>
引受けの定義をまとめると以下の通りです。

引受けは、募集か私募を行う発行者から、又は、売出しを行う売出人から有価証券を取得する行為であり、買取引受けと残額引受けがある。

引受けは、いずれも第一種金融商品取引業であり、証券会社が行う引受けは、「リスクが高い元引受け」「それ以外の元引受け」「元引受け以外の引受け」(下引受け)の3つに分類され、リスクが高いほど最低資本金額が高くなっている。

引受けに関する条文は、金融商品取引法及び政令・内閣府令でも飛んでいるので、わかりにくいです(目論見書の交付義務に関する条文にまで影響しています)。まずは、全体像をつかむことが大切です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

引受け(4)


前回の続きです。

引受けは、第一種金融商品取引業です。そして、第一種金融商品取引業としての引受けには、元引受けと下引受けがあり、このうち、元引受けとは、発行者又は所有者から、直接、有価証券を取得する行為です。前回は、ここまで説明しました。

<売出人と所有者>
元引受けの定義が、「発行者又は売出人」ではなく、「発行者又は所有者」となっているのには理由があります。

別の機会に詳しく説明しますが、「売出し」は、業とし行えば、つまり、反復継続する意思で行えば、金融商品取引業です。

具体的には、証券会社が、買い集めた株券や社債券を、不特定多数の投資家に、一斉に販売する行為が、金融商品取引業としての「売出し」です。この場合、証券会社は「売出人」です。

一方、金融商品取引業とはならない売出しがあります。具体的には、親会社が子会社の株券(株式)を、不特定多数の投資家に、一斉に販売する行為です。この場合、親会社は、業として売出しを行っているわけではないので、金融商品取引業者である必要はありません。

子会社の株券を、不特定多数の投資家に、一斉に販売する親会社は、売出人ではありますが金融商品取引業者である必要はなく、子会社の株券を所有する単なる「所有者」です。

そこで、元引受けの定義に戻りますと、元引受けとは、発行者又は所有者から、直接、有価証券を取得する行為です。所有者について、金融商品取引法は「金融商品取引業者及び登録金融機関を除く」と規定しています。

これは、つまり、金融商品取引業者等が、売出人となる場合を除くという意味です。売出し(金融商品取引業)を行う者を除いたので、「発行者又は売出人」ではなく、「発行者又は所有者」となっているわけです。

少し複雑になってきていますが、ここまで、大丈夫ですよね。

<元引受けの分類>
前回説明した通り、第一種金融商品取引業である引受けには、3つの種類があります。拙著「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)の登録申請書のひな形にもありますように、金融商品取引業の登録を受けようとする者は、登録申請の際、それぞれの引受けについて、やるかやらないのか、選択することになっています。

3つのうち、2つは元引受けで、もう一つがそれ以外の引受け(「下引受け」とここでは呼ぶことにします)です。そして、元引受けには、損失の危険の管理の必要性の高い元引受けとそれ以外の元引受けがあります。

「損失の危険の管理の必要性の高い」とは、「リスクが高い」元引受けという意味です。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

引受け(3)


前回の続きです。

引受けは、発行者又は売出人から、買取引受けか残額引受けの形で、募集・私募又は売出しの対象となる有価証券を取得する行為です。前回は、ここまで説明しました。

一般論としては、ここまで理解すれば良いのですが、金融商品取引業等の「実務」では、元引受け下引き受けを理解する必要があります。

<引受けは金融商品取引業>
元引受けの説明に入る前に確認しておきたいことは、引受けは、金融商品取引業であるという点です。金融商品取引法では、2条8項に金融商品取引業の定義がありますが、引受けは、同6号に規定されている通り、金融商品取引業です。

そして、引受けは、金融商品取引業のうちでも、第一種金融商品取引業です。そのことは、金融商品取引法28条1項3号から明らかです。

金融商品取引法28条1項は、第一種金融商品取引業を規定し、3号で引受けを規定しています。条文を抜粋しておきます。カッコ内は、私が補足したものです。

次のイからハまでのいずれかに該当する行為(は第一種金融商品取引業)
イ 有価証券の元引受けであって、損失の危険の管理の必要性の高いものとして政令で定めるもの

ロ 有価証券の元引受けであって、イに掲げるもの以外のもの

ハ 第2条第8項第6号に掲げる行為であって、有価証券の元引受け以外のもの

これでは意味不明ですので、以下、詳しく説明します。

ここからが、少し複雑になります。

<元引受け>
元引受けについては、金融商品取引法28条7項に定義があります。これを抜粋すると長くなるので、要約すると、元引受けとは、発行者又は所有者から、直接、有価証券を取得する行為のことです。ここで、発行者又は売出人ではなく、発行者又は「所有者」になっている点に注意です。

復習ですが、引受けとは、「発行者又は売出人」から有価証券を取得する行為です。これは、一般的な引受けの意味です。

そして、引受けは第一種金融商品取引業で、引受けのうち、元引受けは、「発行者又は所有者」から、直接、有価証券を取得する行為です。

なぜ、第一種金融商品取引業の引受け(元引受け)の定義においては、一般的な引受けの定義と異なり、「発行者又は売出人」ではなく、「発行者又は所有者」となっているのでしょうか。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

引受け(2)


前回の続きです。

発行者が有価証券の募集か私募を行うときには発行者に代わって、売出人が有価証券の売出しを行うときには売出人に代わって、有価証券の販売を引き受ける行為が引受けです。前回は、ここまで説明しました。

もう少し正確いうと、引受けとは、発行者が有価証券の募集か私募を行うときには発行者から、売出人が有価証券の売出しを行うときには売出人から、販売目的で、有価証券を取得する行為です。

同じ取得する行為でも、引受けには、買取引受け残額引受けがあります。前回抜粋した1号が買取引受け、2号が残額引受けです。

<買取引受け>
発行者が有価証券の募集か私募を行うときには発行者から、売出人が有価証券の売出しを行うときには売出人から、投資家に販売する(取得させる)目的で、有価証券を取得する行為が買取引受けと呼ばれる行為です。

基本的に買取引受けの場合、売残りリスクは発行者又は売出人がとります。

発行者が有価証券の募集や私募を行う目的も、売出人が有価証券の売出しを行う目的も、いずれも、資金調達にあります。

以前にもお話したように、金融商品取引法は資金調達法です。発行者は、株券や社債券を発行して、募集又は私募を行い、資金調達をします。売出人は、例えば親会社が売出人の場合、自社が保有する子会社の株券を売却して(売出しを行い)、資金調達をします。

発行者又は売出人が50億円の資金調達を計画していた場合、引受人が頑張ったんだけれども、30億円しか売れなかったので、30億円だけ取得したとき、引受人は、残りの20億円を取得する義務を負いません。売れ残り・計画倒れのリスクは、発行者又は売出人がとるわけです。

発行者又は売出人にしてみれば、50億円の資金調達を計画していたのなら、当然、50億円すべてが売れてくれるに越したことはありません。そこで、もう一つの方法が考えられました。

<残額引受け>
発行者が有価証券の募集か私募を行うときには発行者との間で、売出人が有価証券の売出しを行うときには売出人との間で、「もし、売残りが生じた場合には、売残りをすべて引き受けます」という契約を交わす行為が残額引受けと呼ばれる行為です。

ですから、残額引受けの場合、売残りリスクは引受人がとることになります。

以上が、引受けの一般的な説明です。

次に、金融商品取引業者等にとって、引受けとはどういう行為かという実務的な説明に移ります。

テーマ : 金融商品取引法
ジャンル : ファイナンス

プロフィール

川崎善徳

Author:川崎善徳

<このブログ>
私は、金融商品取引業者で、金融庁・証券取引等監視委員会の検査を過去11回受けています。おそらく、国内最多の検査経験。このブログは、金融庁・証券取引等監視委員会の検査を乗り切りたい!と考えている金融商品取引業者の方のために、検査経験11回の作者が難解な金融商品取引法をやさしく解説するブログです!


<プロフィール>
慶應義塾大学文学部卒業後、住友信託銀行入社、平成4年からコンプライアンス担当。転職し、BNPパリバ証券コンプライアンス部長、新生証券取締役コンプライアンス部長を歴任。著書「金融商品取引法の基本がよくわかる本」(中経出版)、「金融商品取引法対応マニュアル」(住宅新報社)、雑誌「プレジデント」、「週刊金融財政事情」の金商法のインタビュー記事、セミナー「認定FIEL(金融商品取引法)資格養成講座」(グローバルマネージメントアカデミー)の専任講師、「当局検査対応実践講座」(金融財務研究会)の専任講師などの実績。金商法(旧証取法)の分野で国内最古参のコンサルタント。行政書士。

電話:03-3263-7640
Email:yoshinori-kawasaki@tkao.com

<ご質問>
多忙なためご質問は基本的にしばらくご遠慮頂きたくお願いします。ただし、金融庁(証券取引等監視委員会)の検査対策に限り、ご質問を受け付けます。ご理解のほどよろしくお願いします。

ブログでは私見を紹介しています。正確性は保証しかねます。所属団体とは関係がありません。予めご了承ください。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード