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プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

参院だけでも党議拘束を外すべきではないか?

2010年07月12日(月)10時38分
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(編集部からのお知らせ:このブログの過去のエントリーが一部加筆して掲載されている冷泉彰彦さんの著書『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』〔阪急コミュニケーションズ〕が発刊されました。全国の書店でご購入ください)

 情勢分析がクルクル変わったのが悪いのではありません。結果が大きく「ブレた」のが悪いのでもありません。民意が揺れ動いたのは、日本の経済社会が大きな困難へと向かう中、どんな選択が正しいのか、真剣な思いと激しい動揺が世論にあったからであって、政治家はその思いを厳粛に受け止めるべきでしょう。

 問題は何かというと、その民意がどこにあるのかが、このままでは曖昧だということです。このまま、結局この国として「何も決められない」状況が続き、その責任をなすり合っていれば、その間に「時間切れ」になってしまいます。今日のワールドカップ決勝で言えば、お互いにドンドンとエキサイトしてレッドカードが続出して、試合が破綻する、そんなイメージです。

 表面的に見れば、民意はその時その時の政権党の失策に対してレッドを切り続けているわけで、「決められない」まま政権政党がコロコロと変わったり、集合離散を繰り返したりということになっては本当に時間をムダにするだけです。

 論点がどこにあったのか? 民意はどこにあるのか? 例えば、今回の選挙で顕著だったのは世代交代です。この点では素晴らしい結果であったとも言えますが、それぞれの党で当選した新世代の議員は、どんな世論を代表しているのか、どんな人生観、社会観を持っているのか? 現在の報道を通じてはよく分からないのです。結果的に政策の選択として民意がどこにあるのか、全く分からないことになります。

 例えば子ども手当が良い例です。賛成論には、出生率改善への期待、世代間の富の移転、格差是正、教育改革は待てない、あるいは教育改革をやって既得権を失うよりバラマキが楽という不純な動機もあるでしょう。大政党としてはその「ひとくくり」としての政策になるのだと思います。ですが、肝心の政策論として賛否を問うのであれば、こうした賛成理由を本心から持っている、あるいは真剣に選挙区の民意から受け取ってきた政治家が論争しなくては、先へは進まないでしょう。

 反対論もそうです。財政破綻が怖いのか、子供の養育費用は自分で稼げという価値観なのか、それとも受験制度を変革し待機児童を無くすのが先だというのか、受験制度を改革するにしても「誰でも平等に大学へ」などというバカなことを考えているのか、それとも塾で活躍している教科指導のプロを教員登用するなどの抜本改革を考えているのか、とにかく真剣な人生観と真剣な選挙区世論の反映でなくては、政策論は進まないのです。

 待機児童政策もそうで、幼保一元化を保育園の教育を強化する方向でやって将来的な競争力強化まで遠望するのか、それとも超少子化を前提に、低コストの「ベビーシッター」的な一時しのぎでやるのか、これも大違いです。

 1つ言えるのは、安定成長期までは機能した「政策は官僚に任せておけば」ということは、全く期待できなくなって来ているという点です。幼保一元化などが典型で、文科省と厚労省の縄張り争いからは建設的な案は期待できないでしょう。

 そこで、思うのですが、もうこうなったらまず参院では党議拘束を外してはどうでしょう。折角、世代交代が進んできた、その新しい政策論をどんどん論戦の場に出すためにも、必要だと思うのです。その結果として、大きな理念の元に幅広い個性を包括できる政党が政権能力として認められることになれば良いと思います。

 今回の民主党は、それなりに新世代の候補を立ててきましたが、例えば応援に回った「衆院のチルドレン」がそれこそ、党議拘束どころか個別のメディア露出も禁じられる中で「キャラ」が全く売り込めていない中では、応援の効果も限られていたのだと思います。

 その辺も含めて、党議拘束を外して大きな改革へ向けた政策立案の府に、この参議院が変わっていけばまだ日本には希望がある、そのように思います。例えば、みんなの党などは、政策ごとのパーシャルな連合をということを考えているようですが、そのみんなの党自身の政策決定については、喜美代表の思いつきや、他党との密室談合で決まったという印象を与えては、アッという間に世論から見放されるでしょう。

 それこそ、みんなの党が率先して参院の党議拘束を外す、その上で内部に闊達な議論と多様性があることを見える形にして、その信頼の上にパーシャル連合なり、再編なりへと進むのが筋ではないでしょうか?

 もう1つ、アメリカから見ていて思うのですが、以前はアメリカの選挙というのは同性愛の人権だとか、国旗への忠誠がどうとか政策論とは関係のない「社会価値観」が投票行動を左右する、これはムダだと思っていました。少なくとも、無用な対立エネルギーを煽るだけで、政策上の意志決定には関係がない、そんな印象を持っていたのも事実です。

 ですが、今の日本のような変革期には、ある種の社会価値観について、個々の政治家がどんな信念を持っているのかは、世界観の問題として重要な時期だとも思うのです。例えば、夫婦別姓問題ですが、「夫婦間の個の尊厳」を重視して賛成するのか、「姓の変わることでの女性の働きにくさ」への実務的救済を大事にしているのか、あるいは反対するにしても「せめてウチの息子にはワガママを言わない嫁を取って、イエの存続を見てから死にたい」という高齢者のこだわりを代弁するのか、それとも「古き良き日本」などという文化原理主義的な言論に酔う有権者を抱えているのか、そうした違いは「政策の選択における再現性」の根拠になるような世界観の問題として重要だと思うのです。

 この点に関しては、民主党と社民党の距離ができたこと、自民党から「たちあがれ日本」が分離していったことなどで、有権者には多少分かりやすくなったようにも思いますが、やはり候補1人1人の肉声として、こうした価値観論争上のポジションももっと見える形にすべきでしょう。

 いずれにしても、今回の選挙を通じて「気まぐれな有権者がねじれを作った」という印象を抱くとしたら間違いだと思います。危機感を高めた有権者は必死の選択をしています。その真意に応えるためにも、党議拘束を外して参院を「決定のできる院」に変えるべきですし、その際には個々の候補者の政策論争能力、そのベースとしての社会価値観が個性として浮き彫りになるしくみが必要だと思うのです。

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冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。主な著書に『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』(阪急コミュニケーションズ)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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