数時間一緒にいても数十年間一緒にいても同じことなのよ
そう言ったのはSF漫画史上最も煙草が似合う女性エマノンだ。
はじめましての人もそうでない人もこんにちは!
株式会社サーチフィールドと言うイラストや漫画に特化した制作代理店を経営している小林です。
僕は今まで『キングダム』や『G戦場ヘブンズドア』、『大東京トイボックス』などのレビューの様に、熱く、 魂が震える様な、そばに誰もいなければ読んでいて叫び出したくなる様なそんな作品が大好きでレビューを書いてきました。これぞ漫画だ!これこそが漫画のど真ん中だ!世界よ、これがMANGAだ!!と言った具合にです。
でも今回紹介する漫画は今までとはちょっと毛並みが違います。
魂が震える様な熱い展開はありません。叫び出す様な燃える展開もありません。
淡々と描かれる世界とマッチする彼女の煙草を吸う仕草に、その仕草に僕はやられました。
なんて渋く煙草を吸う女性なんだろうと。この女性の物語を読んでみたいと、そう思ったんです。
若い頃に粋がって煙草を吸い出した全ての人に捧げます!
これは『風立ちぬ』に通じる純愛煙草漫画なんだ!!
SF漫画史上最も煙草が似合う女性エマノン。
何かを思い出すかの様に煙草に火をつけて煙をふかす。17歳の小娘がなんとも渋く煙草を吸うものだ。
僕が思うに煙草という道具は人を渋くさせる。まさに中ニ病には欠かせない道具であり、僕も大学時代は渋い大人に憧れて煙草を吸っていた。煙草=渋いと言うイメージである。故に煙草を吸うキャラクターにはどこか影がなくてはいけない。
煙草を吸うからカッコいいのではなく、カッコいい人間しか煙草を吸ってはいけないのだ!
エマノンが吸う煙草にはこの渋さがある。若気の至りで吸う煙草ではない本物の渋さがある。
一体どんな人生経験をすれば17歳でこんな渋さを出す事が出来るのであろうか?
煙草を吸う描写を読むだけでますますエマノンにのめり込んで行く。
事実エマノンは煙草と影が良く似合う。17歳とは思えない影の深さを感じるのである。それもそのはず、エマノンは生命誕生からの30億年の記憶を全て引き継ぐ存在なのだ!
重大なネタバレだと怒る人もいるかもしれない。しかしこの物語はエマノンが30億年の記憶を全て覚えていると言う前提の元に読むべき漫画なので許して欲しい。
エマノンの煙草には歴史があるのである。
ここにシビれる!あこがれるゥ!
永遠の命をテーマにした作品は数多く存在する。
有名な所では手塚治虫の『火の鳥』があり、誰しもが憧れる永遠の命は人の運命を狂わせる。
決して幸せだけではない現実がある。永遠とは憧れるからこそ儚いのだ!
エマノンは生命誕生からの30億年の記憶だけを全て受け継いでいる。そう、記憶だけを受け継いでいるのである。そこが他の作品とは違う点なんだ。
肉体は変化し続けるが記憶は継承される。人と出会い、恋をして、子供が出来るとエマノンの記憶は全て子供に継承される。作中でエマノンはこれは一種の伝染病だと語っているが、記憶という本来は曖昧な情報だけを全く劣化させる事なく30億年も紡ぐとどうなるのであろうか?
人は忘れる事が出来るから幸せに暮らしていけるのである。忘れると言う行為は人類史上最高の発明なのである。思い出は美化されて記憶に残るが、その曖昧さが人を人として存続させられている理由なのではなかろうか?
エマノンの記憶には曖昧さがない。全て記憶しているのだ。30億年の記憶の全てがつい昨日起こった事の様に鮮明に、たぶん匂いやその時の瞬間的な感情まで全て記憶しているのだ。そしてそれを誰にも共有する事もなく、たった一人で抱え込まなくてはいけないのである。
SFと哲学は似ている部分があり、作中でもエマノンは自分がなんのために生きているのか?何の為に自分と言う存在が誕生したのかを自問自答している。30億年の記憶はなんのために受け継がれるのか?
きっと答えなんかないのだと思う。いや、答えではなくそれがエマノンの役割なのだ。生命誕生からいつかくる滅亡までの全ての記憶を受け継ぐ。誰に伝えるでもなく、誰に頼まれた訳でもなく、ただただ生命の傍観者として記憶し続ける事がエマノンの役割なのである。
つまり全ての人はみなエマノンの思い出なのである。
エマノンと言う傍観者の思い出が僕ら人類の歴史なのである。
最後に
大切な事は全て『おもいでエマノン』から教わりました。
僕はこの作品を通して、大人の渋さと言う物を学びました。
冒頭の台詞は、ある時代のエマノンが一人の男性と恋に落ちて、別れ、そして再び出会った際に述べた台詞です。
十数年ぶりに再会した男性は年相応に成長し、重ねた歳の数だけ美化された思い出の様な純粋な気持ちを彼女に伝えます。そして何故自分の前から姿を消してしまったのかと?
エマノンにとっては一瞬も一生も同じ様なものなのである。
そう、それはどちらも刹那の記憶。
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