発声練習

2014-05-01

毎年神社・寺社は平均毎週2〜3社ずつ燃えている

一見、データ付きでもっともらしいけれども、列挙されている事例が本当にあるのかを確認するソースを見せていない。これは他者からの検証に耐える形で情報を提供するという意思がないあらわれ。卒業論文や実験レポートにおいて参考文献部分をうるさく言われるのは「他者からの検証に耐える形で情報を提供する意思」が端的に表れるのが参考文献の適切さであるから。

上記エントリーが主張しているのは次の3点

  1. 毎週のように神社や寺社が燃えている
  2. その原因は放火である(文中に明示していないが、エントリーの構成から意図は明らか)
  3. 放火の理由は、文化財の盗難のためであり、盗難された文化財は中国でオークションにかけられている

神社や寺社が毎週のように燃えているのか?

新聞記事のデータベースにアクセスできる環境にあるならば検索で探すのも良いけど、こういうのは統計情報が公開されていないかを探すのから始めるのが良い。火事の話なので Googleで「火災 統計」で検索すると消防庁の消防白書の存在い行き当たる。

多くの場合、データは付属資料として白書の終わりにまとめられていることが多いのでそれを探してみると平成25年度(2013年度)の消防白書の付属資料II-20:建物火災の火元建物用途別の損害状況という表が見つかる。この表は平成24年(2012年)中の火災報告より作成されたもの。消防白書には1年前の状況がまとめられており、現在は平成25年度版までしかでていないので、2003年〜2012年の10年間の神社・寺社の火災件数と損害額、死者数を消防白書の付属資料から抜き出した。

年  件数 損害額(百万円) 死者発生数
2003 137 953 3
2004 144 721 1
2005 158 836 3
2006 94 1166 5
2007 150 1215 2
2008 136 1368 3
2009 118 903 N/A
2010 126 969 2
2011 113 400 7
2012 106 915 2

1年は52週なので少ない年でも平均毎週2件、多い年では平均毎週3件燃えている。この点に関してはリンク先のエントリーは嘘はいっていない。でも、正確でもない。NAVERまとめ:静岡で2夜連続して神社全焼【記録35件】神社仏閣の相次ぐ火事、いったい日本でなにが起こっているのかというのもあるけど、頻度的にはそれほど不思議ではない。

ついでに建物の用途に学校があったので学校でも同じ表を作ってみた。この学校はたぶん小学校から大学・専門学校まで含んでいると思われるので、そもそも総数が多いというのはあるけど、年間200件〜300件の火災が起きているというのはちょっと驚いた。平均すると毎日1件学校が燃えている。避難訓練重要。

年  件数 損害額(百万円) 死者発生数
2003 369 333 1
2004 352 252 1
2005 384 433 2
2006 330 279 1
2007 341 333 1
2008 320 950 1
2009 317 245 1
2010 292 264 0
2011 260 66 0
2012 234 130 0

神社・寺社の火災原因は放火であるか?

建物の用途別火災件数とその出火原因が消防白書には掲載されていないので何とも言えない。平成25年度消防白書付属資料II-6:主な出火原因を見ると放火および放火の疑いを合わせて、全出火原因の20%を占める(平成19年〜24年までほぼ一定)。これを単純に割り当てると、神社・寺社の火災の20件〜30件が放火による火災なのかもしれない。毎年平均月2件ぐらい?

放火の理由は、文化財の盗難のためであり、盗難された文化財は中国でオークションにかけられている?

放火の理由はわからない。文化財が盗難されているかどうかについては火災の損害額が1件あたり数百万円なので建物の修理費などから勘案すると価値のあるものは対して燃えていないと推測される。

また、件のエントリーでリンクされている産経新聞の記事重文が100点以上不明 一部は中国に流出? 文化庁緊急調査 国宝発見も把握せずは寺社・神社の火災と直接の関係がない(記事中に一言も寺社・神社の火災がでてこない)。文中にあるとおり、盗むなら放火して大げさにするよりも、こっそり盗むのではないだろうか。

関係者によると、昭和37年2月、奈良・東大寺の国宝「金銅八角燈籠」の羽目板の一部がバールのようなもので取り外され、何者かに持ち去られる事件があった。羽目板はその後、境内で見つかったが、文化庁では発見の経緯を把握しておらず、金銅八角燈籠を現在も盗難国宝の一つに数えていた。

また、重要文化財は個人所有が多いとのこと

一方、海外流出が懸念される所在不明の重文が100点以上もあることをめぐり、保護に努める文化庁や都道府県教育委員会の確認体制の不備も浮き彫りになった。

文化庁は平成22年2〜3月、売買されることの多い個人所有の重文約800点について、都道府県教委を通じて調査を行い、約半数の所在がはっきりしないことが分かったが、その結果を公表していなかった。

おわりに

列挙されている火災の見出しを参考に新聞を検索すればよいのだろうけどやる気がでなかった。消防白書のデータだけだとあんまり有効なカウンターにはなっていない。力尽きたのでここまで。

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