May 1, 2014
タンザニア北部に位置するセレンゲティの草原では、ライオンの死はそれほど珍しいことではない。最強の捕食動物にとっても、草原での生活は厳しいものだ。
だが、ライオンが4頭、そしてマサイの戦士が1人死亡したとなるとただ事ではない。国境に接するセレンゲティ国立公園における保全活動が、いにしえより受け継がれてきた文化的風習と相容れない現状を物語っている出来事だ。4頭のライオンのうち死亡が実際に確認されたのは2頭だが、あとの2頭も行方が分かっておらず、死亡したものと見られている。
ニュースが舞い込んだのは先週、セレンゲティ・ライオン・プロジェクトの現地調査員ダニエル・ローゼングレン(Daniel Rosengren)氏からのメールによってだった。このプロジェクトは、ミネソタ大学のクレイグ・パッカー(Craig Packer・・・
だが、ライオンが4頭、そしてマサイの戦士が1人死亡したとなるとただ事ではない。国境に接するセレンゲティ国立公園における保全活動が、いにしえより受け継がれてきた文化的風習と相容れない現状を物語っている出来事だ。4頭のライオンのうち死亡が実際に確認されたのは2頭だが、あとの2頭も行方が分かっておらず、死亡したものと見られている。
ニュースが舞い込んだのは先週、セレンゲティ・ライオン・プロジェクトの現地調査員ダニエル・ローゼングレン(Daniel Rosengren)氏からのメールによってだった。このプロジェクトは、ミネソタ大学のクレイグ・パッカー(Craig Packer)氏が行っている長期にわたる調査研究である。4月6日、いつものようにライオンの群れを監視していたローゼングレン氏は、MH35と名づけられたメスライオンの首輪の発信器から死亡信号が発せられている(動きがない)ことに気付いた。
その後、メスライオンは槍で刺されて死亡しているのが見つかり、発信器もそのそばで発見された。付近にマサイ族の家畜は見当たらず、そのことや他の状況などから、ライオンは家畜を守るためや報復のために殺されたのではなく、儀式によるものだったのだろうとローゼングレン氏は推察している。
◆通過儀礼
モラニ(morani、またはモラン:moran)と呼ばれる若いマサイの戦士は、今でも勇気と能力のあかしとされる成人への通過儀礼として、ライオン狩りを行うことがある。しかし、国立公園の東側にあるンゴロンゴロ保護地区(NCA)のマサイの長老たちは、この儀式に反対しているともいわれている。
6日後、同じエリアでローゼングレン氏は、再び死亡信号を捕らえた。今度はブンビと呼ばれるライオンの群の中にいたVUMというメスライオンの首輪からだった。
指向性アンテナを使ってVUMの発信機を徒歩で追跡したところ、それは水場の中で見つかった。発見されないように水の中に投げ込まれたものと思われる。そこから死体の匂いをたどって風上に180メートルほど行った藪の中に、VUMの死体を発見した。やはり槍で刺されており、戦利品として後ろ足の爪が数本切り取られていた。
そこから6メートルほど離れた場所で、マサイ族のモラニの死体も発見された(死亡者の名前は明かにされていない)。頭蓋骨が槍で突かれており、追い詰められたメスライオンを取り囲んだ武装戦士たちの混乱の中で、誤って殺されてしまったものと思われる。マサイ族は伝統的に、戦士の遺体を埋葬することはしない。
ローゼングレン氏は、ブンビの群れのうちあと2頭が殺されたと見ているが、広大なセレンゲティで首輪のないライオンの死を確認するのは困難である。
◆この悲劇から学ぶべきことは?
これらの死はブンビの群れにとっては壊滅的であり、今後も管理政策に何らかの変更が加えられなければ、セレンゲティのライオン全体の個体数にも悪影響を及ぼすだろう。
その実現に向け、4月26日にミネソタ大学のパッカー氏と、同プロジェクトでライオンと人間との戦いに取り組むスウェーデン出身のインゲラ・ヤンソン(Ingela Jansson)氏が、NCAの管理者であるフレディー・マノンギ(Freddy Manongi)氏と話し合いの時を持ち、マサイ族への報奨制度について検討した。この制度は、ヤンソン氏の故郷スウェーデンで少数民族サーミ人と、その家畜のトナカイを襲うクズリやオオヤマネコとの戦いを解消する政策として取り入れられていた。
政府が金を支払う場合は通常、失われた家畜を補償するものだが、この制度では、ケース・バイ・ケースではあるものの、捕食動物が近寄ってきてもそれを殺さずに見逃した所有者たちの行動に対して報奨金を与えるというものだ。
「失われた家畜を補償するのではなく、保全行為に報いるという点で、とても理にかなった制度だ」と、パッカー氏は述べた。現地の状況に合わせていくつか修正を加え、NCAにもこれを適用することができれば、家畜の放牧地に現れたライオンを保護する努力を行ったマサイ族に、直接の経済的恩恵をもたらすことができる。
Photograph by Michael Nichols / National Geographic