安倍内閣は従軍慰安婦制度への旧日本軍の関与を認めて謝罪した1993年の河野洋平官房長官談話の作成過程について、大型連休明けの5月上旬にも検証に着手する。早ければ今国会中に結果をまとめる方針だ。ただ、談話をめぐっては、韓国が検証の動きに不信感を深めている一方、安倍晋三首相を支持する保守層には談話見直しを要求する声がある。検証の結果によっては、政権がジレンマに直面する場面もありそうだ。
検証は、菅義偉官房長官が主導する。検証作業に当たるメンバーについて、菅長官は記者会見で「民間、法曹界、ジャーナリスト、女性と折衝している」と説明。「静かな環境で行ってもらいたい」としており、メンバーの氏名は伏せ、会合開催の有無なども明かさず進める考えだ。
河野談話をめぐっては、作成に関わった石原信雄元官房副長官が2月の衆院予算委員会で、韓国政府との文言調整が行われた可能性や、元慰安婦とされる女性の証言の裏付け調査をしなかったことなどを明らかにした。これを受けて菅長官が談話検証を表明した。
慰安婦問題で韓国は、日本に「誠意ある対応」を要求し続けている。日本側には検証を通じ、談話作成当時の擦り合わせの実態に焦点を当て、「韓国も当時、談話の発表で慰安婦問題は決着したと納得していたことを示す」(政府関係者)狙いがにじむ。
もっとも、韓国は談話検証の方針が伝えられると激しく反発。米国も日韓関係の悪化に憂慮しており、首相は3月に行った国会答弁で談話そのものの見直しを否定、沈静化を図った。
しかし、首相自身、2012年の自民党総裁選で河野談話見直しを掲げるなど、談話を批判してきた経緯があり、談話の踏襲には首相と考えの近い保守層に異論がある。自民党の萩生田光一総裁特別補佐はテレビ番組で「新たな談話を発表すればいい」と発言。日本維新の会の中山成彬衆院議員は4月18日に首相官邸を訪れ、菅長官に談話見直しを求める署名を提出した。
検証に関して政府は、外交上の影響に加え、保守勢力への配慮も交えながら慎重に進めるとみられる。検証結果について菅長官は、「国会から要求があれば、提出する」としているが、検証作業を水面下で進める手法も含め、厳しい追及を受ける可能性がある。(2014/05/01-14:40)