<< 前の記事 | アーカイブス トップへ | 次の記事 >>
時論公論 「参議院選挙制度改革 実現への道」2014年04月26日 (土) 午前0:00~
太田 真嗣 解説委員
参議院の選挙制度をめぐって、1票の格差を是正するための改革の『たたき台』が、各政党に示され、改革案の取りまとめに向けた本格的な議論がスタートしました。今夜は、今後の議論の焦点と、求められる参議院の選挙制度改革の姿について考えます。
参議院の選挙制度は、過疎化や都市への人口集中が進んだ結果、都道府県を単位とする選挙区の1票の格差が5倍近くまで広がり、最高裁から「違憲状態」とされる危機的状況となっています。今回(25日)示された『たたき台』は、選挙制度改革を検討する協議会の座長を務める自民党の脇参議院幹事長がまとめました。
この案のポイントは、▼全体の定数や▼比例代表の数は変えず、▼人口が少ない県を他の県と合わせる『合区』を作ることです。
具体的には、まず、日本の人口から議員1人あたりの『標準人口』を割り出します。そして、県内の人口が標準の3分の2以下の県を、例えば、鳥取県と島根県というように隣り合った県とで一つの選挙区とし、見合った定数を配分します。それによって、現在47の選挙区は36に減り、格差は1点83倍にまで抑えられるとしています。
各政党は、今後、党内で協議した上で、改革案のいまの国会中の取りまとめを目指し、本格的な議論を行うことにしています。
これに対し、会合では、社民党も、独自の案を近く各党に示したいという考えを示しました。この案も全体の定数や比例代表は変えない点は同じですが、都道府県選挙区を全国11のブロックに再編することで、格差は1点43倍になるということです。
両案の違いは、▼合区案が、都道府県単位の選挙区も維持し、代表1人を選ぶ『小選挙区』も残すのに対し、▼ブロック案は、すべてをブロック単位の『大選挙区』にするという点です。
実は、このことは選挙の行方に大きく影響します。一般に、小選挙区制は、大政党に有利と言われています。一方、ブロックのような大選挙区は、小さい政党でも候補者を絞ることで議席を獲得できる可能性があります。各党の本格的な検討はこれからですが、これまで、基本的に、▼大政党が合区案を、▼中小政党がブロック案を主張してきたのには、そうした政党側の思惑もあります。
ただ、そうした思惑とは別に、両案とも問題点も指摘されています。
合区案に対する有力な反論は、選挙区の設定に、『政治の恣意的判断』が加わる可能性があることです。組み合わせは色々考えられますから、「多数派が、自分たちに有利かどうかで選挙区を決めるのでは…」という心配です。一方、ブロック案には、「選挙区が広すぎて候補者の顔が見えにくい」「ブロック制は、すでに衆議院で採用されており、違いが分かりにくい」という批判があります。
この様に、いずれの案にも一長一短があります。では、これをどう考えていけばいいのでしょうか。そもそも、1票の格差の問題は憲法に基づくものです。であるなら、まずは、「憲法は、参議院に何を求めているか」を見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
日本国憲法の公布文に署名した大村清一内務大臣は、昭和21年の帝国議会で、参議院の選挙制度について、「新憲法は、衆参両院に長所と短所を補わせ、国会の機能を発揮させようとするもので、参議院は、衆議院と異なる選出方法を採って、出来るだけ異質なものにすべきだ」としています。その上で、「職能代表制の長所を取り入れた全国区選出議員と、地域代表的性格を持つ地方選出議員とが相まって、参議院の特徴とすることに大きな効果がある」と強調しています。
実は、この時点で、地方区には、すでに2点62倍の格差が生じていましたが、当時の議事録を見ても、それに重点を置いた議論は目立ちません。それよりも、▼いかに衆議院との差別化を図るか、そして、多様な意見が国政に反映されるよう、▼参議院を『異なった視点から選ばれた混成メンバーの組織』とすることに、関係者が心を砕いていたことがうかがえます。
さらに、もうひとつ、ヒントとなるのが、それから60年近く経った、平成17年に参議院憲法調査会の小委員会がまとめた調査報告書です。報告書は、「二院制を堅持すべきだ」としつつも、▼衆参の機能や役割が似ていることが、その意義を薄れさせていると指摘しています。そして、参議院の選挙は、「政党の側面よりも、個人の側面を、より重視すべきという意見が多数を占めた」としています。
衆議院と違う道を目指していた参議院が、なぜ衆議院と似てしまったのか。それは、参議院の『政党化』が進んだからです。
昭和22年の第1回選挙は、無所属が当選者の44%を占めましたが、去年の選挙では、わずか1点7%です。さらに、政党の思惑から、参議院の力が、専ら政権を攻撃する武器に使われてきたことが、「二院制の弊害」と、厳しく批判されました。
そうした状況を変えるためにも、「参議院は、政党ではなく個人を重視する形に改める必要がある」と報告書は示しています。
一般に、解散があり、政党の力が強い『数の政治』の衆議院に対し、任期が保障されている参議院は、長期的な視点から『理の政治』を行うことが期待されると言われます。
このように考えますと、参議院に求められるのは、▼衆議院とは違うことを大前提として、▼異なる観点から議員を選ぶ仕組みを組み合わせ、▼参議院の政党支配を抑えるような選挙制度だと言えます。
しかし、その答えを見つけるのは簡単ではありません。
地方からは、「地域代表的な側面を残すのであれば、国民生活に定着している『都道府県』以上に合理的な線引きがあるのか」という声が出ています。単に、「人口が少ないから合区にする」あるいは、「ブロックで、大括りに地方の声を吸い上げる」というのでは、「それが、どういった民意を代表するのか」、「そこまでして地域代表は必要なのか」という疑問に答えられません。
さらに、『脱政党支配』も難しい課題です。協議会の冒頭、座長は、「会派の代表ではなく、一国会議員として、一番ふさわしい制度は何かを検討したい」と各党に呼び掛けましたが、これまで、数々の改革が空振りに終わってきたことを考えると、言葉通りにいくとは、とても思えません。内輪の議論ではなく、例えば、「第3者も含めた形で合意形成を図る」などといった方法を検討しなければ、二の舞を演じることになりかねません。
選挙を「違憲状態」とした先の最高裁判決で、竹内行夫裁判官は、補足意見として、「参議院については、人口比例原則のみでは、衆議院と同質化が進む恐れがある」と指摘しています。憲法が求める投票価値の平等を尊重するのは当然ですが、参議院が独自性を失しなえば、二院制を定めた憲法の趣旨に反することになり、それが、『参議院無用論』にもつながっていきます。
大事なのは、まず、参議院はどこによって立つべきなのか、その価値を国民に示すことではないでしょうか。もちろん、改革の先送りは許されませんが、必要であれば、何度でも原点に立ち返って議論する。それこそが、「再考の府」とされる参議院の原点ではないでしょうか。
(太田真嗣 解説委員)