昭和の頃より現在の方が労働時間が多い?
2014/04/08 22:46:00

[info]メカAG
TwitterでやたらこのグラフがRTされている。

  http://twitter.com/INOUE_MASAHITO/status/386337203682426880
  | 日本人って何考えてるんだろう。一日に10時間以上働く男性が、30年で倍以上になって、今や半数に届く勢い。

グラフを見ると、1日10時間以上働く人の割合が描かれていて、1976年は17.1%なのが2006年には42.7%に上昇している。フルタイムで働く男性のデータだという。出典は早稲田大学、黒田祥子准教授とある。

   *   *   *

上記のデータそのものではないけど、下記がほぼ同内容のものだろう。

  日本人の働き方と労働時間に関する現状 黒田祥子 (早稲田大学) 内閣府規制改革会議 雇用ワーキンググループ資料~2013年10月31日~
  http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/koyo/131031/item2.pdf

p.9に「労働時間の推移(フルタイム雇用者)」の表があり、「(3)フルタイム男性雇用者の労働時間数別割合」が載っている。

      0時間 0~8時間 8~10時間 10時間以上
  1976年 5.2   28.7   49.0   17.1
  1981年 3.6   28.9   47.6   19.9
  1986年 4.7   22.2   42.1   31.0
  1991年 5.8   20.0   41.6   32.6
  1996年 6.5   17.7   40.4   35.4
  2001年 7.2   17.6   38.0   37.2
  2006年 6.3   13.9   37.1   42.7
  2011年 6.8   13.4   36.1   43.7

数値も同じなので、冒頭のグラフはこのデータであろう。

   *   *   *

確かに上記のデータだけ見れば、1976年は8~10時間働く労働者が一番多かったのが、2006年では10時間以上働く労働者が一番多くなっている。だがちょっとまってほしい。同じページに「(1)週当たり労働時間」が載っている。男性の部分を抜粋する

       時間
  1976年 48.23
  1981年 51.13
  1986年 52.40
  1991年 51.54
  1996年 51.33
  2001年 50.99
  2006年 52.78
  2011年 53.13

週当たりの労働時間には、それほどはっきりした増加傾向はみられない。また「(2)平日1日当たり労働時間」は、若干の増加傾向が見られる。

       時間
  1976年 8.01
  1981年 8.33
  1986年 8.69
  1991年 8.70
  1996年 8.79
  2001年 8.79
  2006年 9.12
  2011年 9.21

週当たりの労働時間は増加していないのに、1日当たりの労働時間が増加しているのは、ようするに週休2日制のためだろう。むかしは土曜日出勤だったのが、休むようになり、代わりに1日の労働時間が増えた。週休2日制が導入され始めたのがちょうど1980年代。

   *   *   *

なんかtwitterでは冒頭のグラフだけ見て、「むかしのサラリーマンよりも現代のサラリーマンの方が働いている」とか言ってる人たちがいるけれど、そういう単純な問題ではないだろう。

休日が21日増えているので年間の労働時間は減っている。p.4に「1970年以降の労働時間の推移」のグラフがあるが、1970年は約2250時間だったのが、2010年には約1750時間になっている。年間で見れば2割労働時間は減っているわけだ。

   *   *   *

追記2014-04-16

  machineryの日々 分かっている人の罠
  http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-610.html

なにやら文句をつけている。いやはや、困ったものだ。

  | 黒田先生の論文で指摘されているのは、非正規労働者の増加によって総労働時間では減少しているのにも関わらず、就業形態などで調整すると、フルタイム男性雇用者(その大半はいわゆる正社員やフルタイムパートと思われます)の中では、10時間以上働く割合が倍増している状況があるということです。

たとえば元の論文のp.8には平日の1日の労働時間の分布のグラフが載っている。1976年は8時間をピークにだいたい8~10時間あたりに分布している。2006年のデータでは8~12時間あたりに分布している。1日の労働時間が多い労働者が増加しているのはこれを見ても明らかだし、俺の本文でもそう述べている。その理由について黒田祥子はp.11で

  | しかし、週休二日制の普及により、週の中での時間配分はこの数十年で大きく変化⇒平日に労働時間がしわ寄せ。

と分析しているから、俺もそれを踏襲しているまでのこと。それを俺があたかも黒田祥子の主張を曲解しているかのような事を言われるのは心外ですな。

2006年の1日の労働の8~12時間のうちわけについて、正規労働者と非正規労働者で傾向が異なるというならそのデータを示した上で別途論じればいいこと。しかしそうであっても(正規、非正規を区別せず)トータルで労働者の1日の労働時間が増えているという主張と何も矛盾しないと思うが。

週休1日で1日の労働時間は8時間なのと、週休2日だが1日の労働時間が増えるのと、どちらが幸せかは一概にいえないだろう。また正規労働者の方が労働時間が長い傾向があるとしても賃金や安定性において正規労働者の方が有利なのだから、それが不幸せと決まったものでもないだろう。いつの時代も高い相対的に給料をもらっている人間は相対的に労働時間も長い傾向があるだろう。

「とにかく労働者はかわいそう」でなければならないというような、感情論なんじゃ?この人のこのエントリの前半部分についても、どうも感情ですべてを片付けようとしているように見受けられる。「ロジック(理屈)はともかく目の前の惨状を見ろ!」というタイプらしい。しかし正しく状況を分析し、適切な対策を取るには冷徹な思考(ロジック)が必要。感情に任せて行動しても事態を悪化させるだけだ。

「ロジカルに考えようとして陰謀論にハマる」というのは、まあ確かにそういうこともないではないが、それでも陰謀論から脱出し健全な思考に立ち戻る武器もまた論理(ロジック)なわけで、ようは道具の使い方の問題。それを有益な道具(ロジック)をまるごと「陰謀論の原因だ」と放棄してしまうのでは、話にならない。感情論の方が陰謀論にハマる確率ははるかに高いだろう。

   *   *   *

追記2014-04-22

  machineryの日々 分かっている人の罠
  http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-610.html

なんかさらに追記されてるのだが、この人はいろんなものをごっちゃにするんだよね…。俺はこのエントリでこれまでの労働時間の変化について事実を論じてるわけだ(少なくとも俺としてはそのつもりだ)。それに対してこの人は、現行の労働基準法がどうとか、戦前からの経緯を語り、「今後どうあるべきか?」を主張している。

「労働環境がどうあるべきか」はこのエントリとは無関係に勝手に語ればいいこと。自分が描く「あるべき姿」に不都合だからといって、事実(を分析したこのエントリ)に対して八つ当たりするのは、感情的な行動だろうと言ってる。

俺はなにもこのエントリで「労働環境は現状のままでいい」なんて言ってないわけだし。どうあるべきかは別な話ということ。

そして、

  | 「その長時間労働を課せられた(男性)正社員や一部の非正規労働者が心身を病んで、メンタル不調とか過労死につながり、それが社会問題としてようやく認識されつつある中で

と主張したいなら、「なるほど、このデータを見るとたしかにそうだね」といえるようなデータを示して主張すべきだろう。労働時間の増加と過労死の増加の相関とか。示すのは俺に対してではなく、社会全体に対して。そういう主張の仕方を「論理的」という。説得すべきは俺ではなく社会全体なのだから。

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