挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
二度目の人生を異世界で 作者:まいん

活動編のようなもの

どうやら一人増えるらしい

 「じゃあ、要らない。条件無しでくれるものだけでいい」

 皇帝が口にした条件の中身すら聞かず、興味も無さそうに蓮弥は即答した。
 答えを返された皇帝がわずかに驚きに目を見開く。

 「まだ条件を口にしていないのだが?」

 「口にしなくていい。どんな条件だろうが答えは否だ」

 きっぱりと皇帝の言葉を跳ね除ける蓮弥。
 その否定の言葉が耳に入らなかったかのように、皇帝はそのまま続けた。

 「私の娘である、クロワールを娶って皇族になれば、と言うつもりだったのだが?」

 「お断りだ、ふざけんな」

 速攻で断る蓮弥であったが、ちらとクロワールの表情を見れば、何故だか目の幅の涙をだばだばと流して蓮弥の方を見つめている。
 何故に泣く!? と焦る蓮弥だったが、よくよく考えてみると、この娘と結婚しませんかと言う問いかけに対する自分の答えは、聞き様によっては、その娘の魅力やら何やらを全否定しているように聞こえなくもないかもしれない事に思い当たり、慌ててフォローに走る。

 「べ、別段、クロワールに魅力が無いとか、結婚するに値しない、とかそう言う事を言いたいわけではない……のだから、泣くなクロワール、なんだか俺が悪者みたいじゃないか」

 「ちょっとは……答えに困ってみるくらいのことはしてくれても……なんだか女性として全否定された気分です」

 ぐすぐすとしゃくりあげながら言うクロワールに、別に悪いことはしていないはずなのに妙な罪悪感を蓮弥は覚えてしまう。

 「だからそうは言ってない。胸が無くても女性としてのポイントは高い方だろう?」

 「トドメを刺しに来るレンヤさんて酷いです……」

 一応泣くのは止めたクロワールだったが、表情は晴れない。

 「女性としてのポイントが高いのであれば、断る理由を尋ねても?」

 そんな様子を楽しげに見守っていた皇帝が口を開く。
 蓮弥は小さく鼻を鳴らして、視線を皇帝の顔へと戻した。

 「まず、皇族になれとかありえないだろ? ついでにクロワールはいま70歳だと聞いた。俺がいくら長生きしてもあと100年は生きないだろうが、そこまで付き合ってもらっても、170歳っていうのはエルフじゃ未成年なんだろうが?」

 「皇族に関しては、現状私が最高権力者である以上はどうとでもなるが? 異論を口にする者がいても強権を発動することが可能である。それに精神はさておき、身体は大人である故に、年齢は問題にならぬ、と思うが?」

 しれっと言ってのけた皇帝の言葉に、クロワールが椅子ごと後ろへひっくり返った。
 かなり派手な音を立てて床に頭を激突させていたので、皇帝の背後に控えていた兵士達が慌てて助け起こしに走る。
 事態を見守っているシオンとローナがエルフの皇帝を見る目は、かなりの冷たさに至っており、蓮弥は膝の上のフラウをそっと床に下ろすと、椅子を引いて立ち上がる。

 「なぁクロワール」

 「いたたたた……って、はい?」

 唐突に名前を呼ばれて、クロワールが床にしたたかに打ちつけた頭をさすりつつ立ち上がりながら返事をする。
 そんなクロワールを見ながら、蓮弥は表情を変えずに腰に差している刀をぽんと叩いた。

 「お前、クーデター起こす気とかある?」

 「……はい!?」

 何かしらとてつもなく物騒な単語を耳にしたクロワールが思わず聞き返す。
 そのクロワールを助け起こそうとしていた兵士達の表情が流石に凍った。

 「ここでこの、皇帝陛下とやらを斬って、お前を皇帝の椅子に据え付けた方がいいような気がしてなぁ」

 「はっはっは。その言葉だけで大逆罪に値するが……公式の場でもない故、聞き流すとしよう」

 朗らかに笑ってみせる皇帝陛下であったが、シオンとローナはその頬に、うっすらと汗がにじみ出ているのを見逃さなかった。
 蓮弥の注意が皇帝の方へ向いているせいか、シオン達にはなんの影響もなかったが、どうやら蓮弥の声と表情は、かなり本気の成分が混じっているらしい。

 「それならば、ちと話の向きを変えてだな。報酬は報酬として渡そう。領地は申し訳ないが、爵位の無い者に渡すわけには行かぬ故に、諦めてもらう以外ないが」

 「それで?」

 「その上で、皇帝たる私からの依頼として、娘のクロワールの面倒を見てもらうわけには行かぬだろうか? 無論、諸費用はこちらが負担する」

 「娶れ、って話とどこが違ってくるんだ?」

 胡散臭いものでも見るかのような蓮弥の視線であるが、皇帝は全く気にした様子が無い。

 「娶れ、とは言わぬ。娶るなとも言わぬが。手を付けたら責任は取ってもらおう」

 「それで?」

 「傍に置くだけで良い。と言う話であればどうであろうかな?」

 皇帝の言葉に、蓮弥はしばし考える。
 正直なことを言えば、即時に断りたい話ではあった。
 しかしながら、素直に断れない事情も蓮弥にはある。
 それは蓮弥自身がそれを望んでいる、と言うわけではなく話の流れと皇帝自身の雰囲気、表情からして、どうやらこの皇帝が、なにがなんでもクロワールを蓮弥に押し付けようとしていると言うことを察したからだ。
 つまりは、使える手段はおそらく全て使ってくるだろうという予測が成り立つ。
 譲歩、懐柔くらいならばまだ良いが、恐喝や実力行使を使われるとなると色々と面倒が増える。
 自分はまだいいとしても、周囲に与える影響が大きすぎるのだ。
 それはククリカの街に逃げ帰っても、状況が変わらない。
 エルフの皇帝ともなれば、転送門など使いたい放題だろう。
 ついでに国として動かれてしまうと、トライデン公国とて一介の冒険者と皇帝を天秤にかければ皇帝に重きを置くことは確定事項だと言ってもいい。
 そう考えると、ここで無碍に断ってみせるのはあまり上策であるとは言えないのかもしれないと蓮弥は考える。

 「レンヤさん、私からもお願いします。どうか、同行を許可してください」

 蓮弥が黙って考え出したのを見てか、クロワールが口を挟む。

 「俺の拠点は人族の大陸の人族の街にある。同行するってことは、クロワールを人族の大陸によこすってことでいいのか?」

 相手の方からやっぱりやめたと言う方向に話が向かないものかと思って振ってみた蓮弥であったが、この親子はあっさりとそれを了承してしまう。

 「それで構わない。クロワールも構わぬな?」

 「はい、父様」

 はっきりと頷いてみせるクロワールを見ながら、蓮弥はそっと息を吐く。
 蓮弥にとって、クロワールが自分についていきたいと言うのはなんとなく理解ができる。
 まず間違いなく、魔物との戦に加勢したことが理由だ。
 どこがクロワールのツボにはまったのかは蓮弥には分からなかったが、とにかくあの戦を経由して、なんとなく懐かれてしまったのだろうと言うことは分かる。
 蓮弥にとって分からないのは、皇帝の意図であった。
 最初に蓮弥は皇帝が自分をエルフの国に繋ぎとめて置こうとしているのだろうと思っていた。
 だからこそ、クロワールを嫁にやり、皇族に取り立てて領地もやろうと言う普通に考えたら有り得ないような待遇を提示してきたのだろうと。
 だが、それを断った上で次に提示してきたクロワールの同行と言う依頼の意図が蓮弥には見えない。
 蓮弥の首に縄をつけたいのであれば、クロワールでは力不足だった。
 少なくともクロワールでは蓮弥の行動に影響を与えることができない。
 それが人族の大陸に戻ってしまえば尚更のことである。
 これまでエルフの国でしか生活をしていないクロワールにとっては人族の大陸で生活することはかなりの困難を伴うはずであり、蓮弥に何かを仕掛けているような暇などなくなるだろうからだ。
 それは皇帝自身も分かっているはずなのだが、それを踏まえた上で、蓮弥に同行を願う理由が蓮弥にはさっぱり分からない。
 何も裏がないはずがないのだが、その裏が全く見えてこないのだ。
 何を考えているのか、と蓮弥は皇帝の顔を睨むが、当の皇帝本人はどこ吹く風と蓮弥の視線を受け流してしまって、表情一つ変えようとはしない。
 しばらくそうしていた蓮弥であったが、かなり時間を消費してからゆっくりと口を開く。

 「人族の大陸で生活するのだから、もちろん、共通語を学んでもらうぞ?」

 エルフは気位が高く、人族の言葉など使わないと聞いていた蓮弥は、最後のあがきとしてそれを持ち出してみた。
 ここで、そんな言葉は使えないと皇帝なりクロワールなりが口にすれば堂々とお断りすることができる。
 しかしながら、クロワールは蓮弥の言葉に即答した。

 「頑張って覚えます!」

 気位が高いという設定はどこへ言ったんだ、と内心蓮弥は頭を抱える。
 むしろ、人族の貴族連中よりもずっと素直なんじゃないかとすら思えてくる。

 「……生活費その他はもちろん、そっち持ちだよな?」

 「無論だ。娘を預けるのに費用の負担を依頼するような無恥な真似はしない。身の回りの品から金銭に至るまですべてこちらで用立てることを約束する。ただ、私の娘が生活する部屋は提供して欲しい」

 部屋が無いと断ろうか、と一瞬蓮弥は考えたが、すぐにその考えを止めた。
 もしそう言えば、クロワールは一人で宿を取ってでもついていきますと言いかねないと思ったからだ。
 そんなことになるくらいならば、身近な所に住んでもらっていた方が、何かと問題にならない気がする。

 「フラウ、部屋を用意できるか?」

 「元々子供部屋だった場所があるの。そこを空ければ可能なの」

 「一人増えることによるフラウの負担は?」

 「問題ないの。ただ……」

 フラウはここで初めてじっとクロワールの目を見る。
 値踏みするようなその視線を、クロワールは気圧されることなく見返す。

 「屋敷ではフラウの言うことには従ってもらうの。それは構わない?」

 「構いません。どうぞ宜しくお願いします」

 クロワールがフラウに頭を下げる。
 それを見たフラウはどこか満足げにクロワールから視線を外すと、またお茶の入ったカップに注意を戻しつつ言った。

 「マスター、フラウは反対しないの」

 「私は反対です、レンヤ」

 それまでシオンにエルフ語を通訳することに徹していたローナが言葉を発した。

 「クロワールさんは、皇帝陛下直系の皇女殿下であらせられます。何かあった場合、トライデン公国とエルフの国の国際問題に発展しかねません」

 「なるほど、その懸念はもっともであるな」

 ローナの言葉に一つ頷いた皇帝は、蓮弥に向かって。

 「なれば、私の娘の身の安全については、これを保証せずとも良い、としよう。これは私自らが約束した条件として、文章に残す。それでどうであろうか? 無論、すぐ傍にあって生活する者として、貴殿がそれなりに気をかけてくれるものと期待した上での話しなのだが」

 「大盤振る舞いにも程があるな。つまり、クロワールが危険な目にあって、俺がそれに対処しきれずに彼女が死ぬようなことがあっても罪に問わないと言うのか?」

 「その通りである。クロワールも異存ないな?」

 「ありません、父様」

 「なぁ、なんか何もかもがおかしいんだが、何企んでるのか素直に白状してくれないかな皇帝陛下様よ?」

 常識的に考えて、絶対に有り得ない条件の提示に、蓮弥が皇帝を睨みながら尋ねる。
 これで裏なんてありませんと言われても誰が信じると言うのか。

 「企むとは人聞きの悪い」

 実に心外であると言うように、哀しそうな顔をした皇帝が言う。

 「貴殿が私の正直な所を聞きたいと言うのであれば、言わぬでもないが。企みと称されるようなことは何一つない」

 「聞きたいから言うてみ?」

 「なれば正直に話そう」

 こほん、と一つ咳払いをし、真面目な顔で皇帝は話し始める。

 「クロワールは私の直系、と言っても35番目の娘であるので、順位が低く、おそらく皇位継承の話の端の方にすら登場する機会はないであろう。つまり、重要な立ち位置に無いが故にその存在が重視されぬ」

 「……おい?」

 「父様……?」

 クロワールと蓮弥の双方からツッコミが入るが、皇帝は聞こえなかったかのように続ける。

 「それ故に、なんらかの事情で身罷った所で、影響は小さい」

 「「……」」

 蓮弥とクロワールはどちらも言葉がない。
 ただ、じっと半眼で、滔々と語る皇帝の顔を見ている。

 「さらに国内にあれば、無駄にコストがかかる。具体的には食べ物から衣類、住居に至るまで一応は皇帝の娘としてそれ相応のものを用意せねばならぬ」

 「無駄……ですか、父様……」

 「これが、貴殿についていけば、人族の大陸でこちらと同じ生活ができるわけがあるまいと言う建前から、大幅なコスト削減が見込まれる」

 「事実なんだろうが、酷いな、おい」

 「しかもこの一連の話は、皇帝が命じたことではなく、本人の自発的な願いから来ている故に、私としても何の罪悪感も無しに実行に移すことが可能だ」

 どうだ、といわんばかりに満足げな笑みを浮かべる皇帝。
 どこか空ろな表情になったクロワールは、蓮弥の方を向きながら呟くように言う。

 「レンヤさん、私……真面目にクーデターについて考えてみようかと思うんですが……」

 「そうか……実行する時は呼べな、手伝うから。取り合えず、うちに来い。なんだか哀れになってきた」

 「すみません、レンヤさん。ご厄介になります」

 ぺこりと頭を下げるクロワールの様子が、とても哀れに見えたのか、一度は反対したローナも口を噤み、シオンは完全に口を挟むタイミングを逃して沈黙してしまった。
 それくらいにしょんぼりとしてしまったクロワールであるが、その原因となった皇帝は、にこやかに笑う。

 「話はまとまったようであるな。重畳、重畳」

 奇しくも、皇帝本人を除く部屋に居合わせた全員が、本当にこの皇帝陛下の治世ってあと300年も続くんだろうか、と疑問に思うのであった。
このお話の作者は皆様の声援を燃料に、稼動しております。
ご意見ご感想は常にお待ちしております。

目指せ累計ランキング常駐!

一つお笑いを書けと言うご意見を頂いたのですが。
何も浮かびません……
そもそも私、某国営放送が深夜にやってる携帯端末からネタを送って芸人に読ませる某番組に何度か投稿してる人なのですが、今まで一度も読まれたことがない程度にしかお笑いを書けない人ですので……

まぁ、あの番組は審査委員長自体が(以下省略
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ