幕間その8らしい
その日、私はまた頭を抱えていた。
いつもの通り、平行に層を成す世界のあちこちを眺めていた時の事だ。
ちなみにこの平行世界、数えてみたら全部で六兆五千三百十二万四千七百十層あった。
よくぞこれだけ作ったものだと、我ながら感心する。
と言うか、これだけのバリエーションを考え付いた私の頭、偉い。
だれかとっても偉いで賞とかくれたりしないもんだろうか?
木っ端な世界は消えたり出来たりを繰り返していたりするので、多少の数字の上下は常に発生するのであるが、大体はこの数字で落ち着いている。
それはともかく。
今回、私の頭を痛めているのは、またあの星の出身者が異世界に渡ったと言うことだ。
まったくファンタジーな世界の偉い地位にいる人間の思考と言うのは理解し難い。
なんか困ったらすぐ別世界から人を呼ぼうとする。
自分の世界でなんとかできない事案なんだから、別世界の人間を呼んで解決しようとする姿勢は理解できなくもないのだが、なんでまたよりにもよってあの星の住民ばかり呼ばれるのか理解できない。
あの星の、特に何故だか知らないが極東の島国の人間は、呼んだらヤバいのばかりなのだ。
元の世界にいる時には、その他大勢の域を出ない、もしくはその他大勢の域にすら入れないようなレベルの生き物が、何故か異世界に渡った途端にイキイキとし始める。
元の世界では虫を殺すのも敬遠するような性格だったのが、嬉々として魔物やら同じ人間の頭を吹き飛ばすような行為が平気でできたりするのも特徴だ。
元々一円も稼げないような性格、もしくは才能の持ち主が、急に大金持ちになったりする傾向もある。
全く不可解な存在である。
今回見つけたのは、元々は大人しく保守的な性格の餓鬼……もとい少年だったのだが、見つけた時には何回か死ぬような目にあった挙句に、なんだか妙な方向に突っ走って限界を振り切ってしまったらしく、敵と見たら殺す、敵っぽいのも殺す、敵じゃなくても殺す、と言う危険物に成り果てた後だった。
それはまだいい。
その程度であれば、精神的に問題のある人その1と言う扱いで済む。
問題は、その振り切っちゃった後に開花した才能の方だ。
元の世界で持っていた知識に錬金術と言う異世界の技能が合わさり、最強に見え……ではなく、花開いてしまったその才能は「複合錬金術」と言う技能名になっていたのだが、これが大問題なのである。
早い話がこの技能、術者が知っている物質は、そのほとんどを練成できるという技能なのだ。
ついでに、あの星のあの島国のあれくらいの年頃の人間と言うのは、絶対お前のこれからの人生で使うことがないだろうと断言できる類の知識に、妙に詳しかったりする。
つまり何が起きているのかと言うと……
「あ、主様。また街が一つ吹っ飛びましたよ。」
「そりゃ80cm列車砲100門が一斉射撃すりゃーね」
「ドラゴンとかばたばた落っこちてますね」
「パトリオットミサイルは優秀だからね」
「数万の騎兵の一斉突撃って壮観ですよね」
「相手が100両の思考戦車じゃなきゃね。ちなみに弾頭は劣化ウラン弾だからね」
「フルプレートメイルって小火器くらいならなんとか防御できるんじゃないですか?」
「だからM2重機関銃使ってるんじゃないかな? あんなので掃射されたら人もゴミも区別が付かなくなるけどね」
「あ、今度はどこかの城が吹き飛びましたけど、あれって魔王城でしたっけ?」
「そうだね。打ち込まれたのはMGM-21A パーシングⅠだけどね」
「むちゃくちゃですねー。人と魔が共闘して勇者に立ち向かうシチュエーションって珍しくないですか?」
「珍しいのは分かったから、その口閉じろ……」
うんざりした口調で私が言えば、その世界を映し出していたウィンドウを、なぜかきらきらと輝く瞳で見つめていたギリエルが不満そうな表情で黙る。
黙らなければ何をされるか分からない、と言う現実を学習したらしい。
それにしてもこれは酷い、とウィンドウへ目を戻す。
そこでは榴弾の爆風で吹き飛ばされつつばらばらにされる騎士の姿が映し出されている。
別な所では、戦車の主砲の一撃をまともに受けて、馬も人も一緒に粉々にされているし、重機関銃の掃射を食らった人体など、蜂の巣と言う形容もできないような有様にされていた。
ファンタジーの世界に兵器を持ち込んだら駄目なのだ。
そもそもが、そちらの住民には理解できない武器なので、防ぐとか避けると言った考えをまず持たないし、さらに防ごうにも防ぎきれない威力を誇るものがほとんどなのだから。
「この世界はもうだめだね。今日滅ぶか明日滅ぶかってレベルだわ」
「抹消処理ですか、もったいないですね」
ギリエルが酷く残念そうに言うが、どうしようもない。
私はその世界の様子を映し出していたウィンドウ上にメニューを呼び出すと、抹消の処理を行ってからウィンドを閉じる。
開いたままであればこれから起こる天変地異の数々の後に、世界が跡形も無く滅び行く様子をつぶさに観察できただろうが、見ていてあまり気持ちのいいものではない。
抹消が決まってしまえば、その世界に与える影響等はもう無視して構わなくなる。
私はその世界の管理者から、権限を全て取り上げると、管理者自身を格下げしてから別の世界へと飛ばす。
世界を一つ滅ぼすような失態を犯したのだから、しばらくは天使その1として下積みに励んでもらう。
それらの処理を淡々とこなした私が、処理が終わるのを見計らったようにギリエルが声をかけてくる。
「主様、ちょっとご報告なのですが」
「何? 一応言っておくけど、今すっごい不機嫌だからね、私」
潰れてしまった世界が一つ発生すれば、当然だがその代わりに一つの世界を作成しなくてはならない。
作成自体は雛形がいくつかあるので、それらの一つを選択して内包する要素をちょっといじくってやれば出来上がるのだが、仕事が増えると言う事実は覆しようがない。
不機嫌、と言う単語を聞いてギリエルは、報告するかしないかやや迷ったようだったが、報告がありますと切り出してしまった以上、今更知らぬ振りをして私から離れるという選択肢も取れなかったのか、重い口を開いた。
「あの、私が担当してます蓮弥さんが飛ばされてる世界のお話なのですが」
「ああ、あそこね」
「やっぱり陣取りゲームが再開されたみたいなんです。今回は魔族担当の管理者の主導で」
ある程度は予想していた事態だったので、私の反応は小さな舌打ちに留まった。
思ったよりも私の反応が小さかったのが意外なのか、ギリエルがきょとんとした表情でこちらを見ている。
「やる、とは思ってたからね。でもちょっと早すぎない? 不穏な動きを察知してから実行に移るまでの時間がさ」
「それにはどうやら理由があるようでして……」
どこか言いづらそうにしているギリエル。
結局最終的には報告することになるのだから、妙な溜めとかいらないのでさっさと吐いてくれるとありがたいんだけどなぁと思いつつ、ギリエルが口を開くのを私は待つ。
「あの世界のリソース不足を緩和する為に、蓮弥さんがリソースを背負ってあの世界に渡ったわけなんですけれども……」
「そうだね。あれは蓮弥に感謝しないといけないね」
蓮弥が首を縦に振ってくれなければ、またちまちまと何十億と言う魂から条件に適合する魂を選択する作業を行わなければならなくなる所だった。
その作業を軽減してくれた、と言う意味合いからも、それなりの感謝はしなくてはいけないと思っている。
「そのリソースのおかげで、ある程度世界が活性化したわけなんですが」
「うんうん、それで?」
「世界が活性化したおかげで……魔族に魔王が生まれたらしくて……」
「あ……」
あの世界における魔王とは、血筋で生まれてきたりするものではない。
それなりに力のある魔族が、ある日突然限界を突破して、魔王として目覚めるのである。
それを生まれた、と表現するのだが、世界がリソース不足で弱体化している間は、魔族達もその影響を受けてなのか、あまり強力な魔族が発生しない、もしくは発生してもそれなりのレベルで留まっていると言う状態が続いていたのだ。
それが、蓮弥がリソースを携えて世界を渡ったおかげで、あの世界は少しではあるが活性化の方向に向うことができた。
その活性化した分、魔王が生まれる余裕が生じてしまったと言うことらしい。
そうなるとあの管理人どものことだ。
有力なコマが出来たから、また遊ぼうぜーと近所の餓鬼……もとい、お子様よろしく陣取りゲームを再開することは想像に難くなかった。
「あのクソガキども……」
「主様っ!? お気を確かに!」
慌てたギリエルの声に、失いかけていた自分を取り戻す。
危ない危ない、もうちょっとで怒りのままにあの世界に対して力を行使するところだった。
もちろん、あのクソガキ……じゃなくて管理者5体をチリすら残さずに消滅させるところだったのだけれども、そんなことをしてしまえばあの世界が滅ぶ。
そりゃもう簡単に滅ぶ。
そんなことをしてしまったら、わざわざ人間に頭を下げて異世界に飛んでもらった意味がなくなる。
もっとも蓮弥の身柄については私は全く心配していない。
おそらく、私がやる気になったら、目の前でぷるぷる震えているこのギリエルは、全速力でもってあの世界から蓮弥の身柄をサルベージすることだろう。
それくらいの能力も権限も渡してある。
後はこちらに来た蓮弥に平謝りして、別な世界で残りの人生を送ってもらう手はずを整えなくてはならない。
問題は、蓮弥が持っているあの刀だが。
破壊不能属性付の10等級を誇る刀、と言葉だけで言えばそれまでなのだが、実際アレは神代の武器と称される代物になっている。
ちなみにだが、あの世界における品質の等級と言うものは粗悪品である1等級から、この世ならざる物品である10等級までの10段階に分かれている。
ギリエルが蓮弥の墓からこっそり持ってきたあの刀は、神匠と呼ばれるレベルの職人がなんとか作れると言うレベルの7等級であったが、破壊不能属性がついた時点で10等級に格上げされていた。
これは、破壊不能属性を持った物品があの世界に存在しないからであり、この属性がついた物品はあの世界では例外なく10等級に区分されるからだ。
つまり、本来は人の手にあるべきものではなく、我々のような存在が振るう為に作られた武器なのだ。
何が言いたいかと言えば、あの刀は世界の管理者やギリエルのような存在のみならず、この私にすらダメージを与えうる武器だ、と言うことである。
早い話が、異世界に渡って欲しいと言う話をした時に力一杯頭を蹴り飛ばされた私が、ごっめーんあの世界滅ぼしちゃったから、別の世界でがんばって生きてね、等と言おうものなら、あの刀で滅多切りにされることはほぼ間違いないと言うことだ。
その場合、存在を維持し続けられるかと言う疑問に明確な答えが出ない。
何度か蓮弥の戦闘シーンは覗き見しているが、あれは徹底的に斬ることに特化した技術の賜物である、としか言えない。
「それと、追加情報なんですが」
「何? まだ何かあるの?」
「人族とエルフ族の管理者が、蓮弥さんの取り込みにかかるんじゃないかと」
「まぁ……その気持ちは分からなくもない」
あれだけの戦闘技術を保持する個体を、放っておく手は普通無い。
しかも人族もエルフ族も、蓮弥に多少なりとも縁ができつつある。
魔族の管理者が魔王と言うコマを手に入れたのであれば、是非に欲しいコマになるのは自然な流れと言えた。
無論、魔王の発生と言う情報は人もエルフもまだ入手はしていないだろうが、魔物の動きが活発化していることくらいは、既に情報として掴んでいるはずだし。
ここまで考えてきた私は、ふと一つの事実に思い当たる。
思い当たってしまったその事実は、私の仕事を大幅に増やすような事で、思わず頭を抱えたくなる気持ちをぐっとおさえて、こちらを心配そうに見ているギリエルに尋ねてみた。
「その流れで行くと……私は一つ不安要素があるんだけど」
「主様の不安は的中するかと思われます。……人族側に勇者召喚の動きがあります」
私の懸念を先読みするようなギリエルの言葉に、私は声が震えるのを抑えることができなかった。
「こ、こ、こここここ……」
「こけこっけ?」
首をかしげて、おそらく本人的には可愛らしくなのか、ボケた言葉を口から吐き出すギリエルを蹴りつけて、私は絶叫した。
「違うわ、馬鹿! これ以上私の仕事を増やすなぁーっ!」
叫んだ所で誰に届くわけもない。
そんなことは百も承知の上で、それでもなお私は叫ばざるを得なかった。
古来から、究極の他力本願とも言える勇者召喚。
あのどうしようもない管理人が管理する世界に、さらにどうしようもない要素が加わるとしたら、間違いなく私の仕事は増える。
「もう嫌だーっ! 誰か代わってーっ!」
「代われる存在なんているわけがないじゃないですか」
酷く冷静な声で言うギリエルの顔面に、私は容赦なく拳をぶち込んでやるのだった。
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